報道発表資料
環境省は、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)に定められたPCB類、HCB、DDT等の化学物質について、環境中の存在状況の監視及び国内実施計画を策定するための基礎資料とすることを目的として、平成14年度からPOPsモニタリング調査を開始した。今般、平成14年度調査結果を取りまとめたので公表する。
- 背景
残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants、以下「POPs」という)による地球規模の汚染を防止するため、平成13年(2001年)5月22日に、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約*(以下、「POPs条約」という。)が採択され、我が国は平成14年8月30日に同条約に加入した。この条約においては、POPsについて、人及び環境における存在状況などを明らかにするための国内及び国際的な環境モニタ リングの実施(第11条)及びモニタリングデータを活用して条約の対策面での有効性の評価(第16条)が定められている。POPsの環境中の存在状況の監視及び国内実施計画を策定するための基礎資料とすることを目的として、平成14年度よりPOPs汚染実態解析調査(以下、「POPsモニタリング調査」という。)を開始した。
* 本条約は42ヶ国が締結(平成15年12月末の現在)しており、平成16年中の発効(50ヶ国の締結により発効)が見込まれている。
- 調査概要
(1) 対象物質 POPs条約は、PCB類、DDT類、ダイオキシン類等の12物質を対象にしているが、別途、ダイオキシン類対策特別措置法に基づく常時監視を実施しているダイオキシン類(ダイオキシン、フラン)及び調査に着手した時期に高感度分析法が確立していなかったトキサフェン*、マイレックス*を除く、PCB類、ヘキサクロロベンゼン(以下「HCB」という)、DDT、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン及びヘプタクロルの8物質を対象とした。 * 平成15年度POPsモニタリング調査からはトキサフェン及びマイレックスを含めた10物質を対象として実施している。 (2) 対象媒体 一般環境中(排出源と予想される地点以外の都市、郊外、島嶼、山地、河川等)の水質(全国主要河川、主要湖水、港湾等を中心に38地点)、底質(全国主要河川、主要湖水、港湾等を中心に62地点)、大気(100km四方に区分して全国をカバーする35地点)、生物(スズキ、ウサギアイナメ、ミナミクロダイ、ウグイ、ムラサキガイ、イガイ、ムクドリ、ムラサキインコガイ、ウミネコのいずれかを対象として合計22地点)において実施した。(図1-1~1-4) (3) 分析手法 各媒体の試料から、対象物質を抽出、精製後、GC/高分解能MSにより分析を実施した。なお、異性体がある物質は可能な限り異性体別に分析を実施した。この分析手法により、従来に比較して1000倍程度高感度な分析が可能となった。 (4) その他 調査の実施にあたり、専門家によるPOPsモニタリング検討会(座長:田辺信介 愛媛大学教授)を設置して、調査手法及び結果等の検討を行った。
- 調査結果及び評価の概要
媒体別の各物質の検出数、検出範囲(検出された最低値~最高値)については表1のとおりであり、その結果の評価の概要については以下のとおりである
(1) GC/高分解能 MSを主体とする新しい分析手法の適用により、全地点の8割を超える地点、試料においてPOPsが検出、定量された。POPs条約に対する取り組みの一環として、日本およびその周辺における現在の環境濃度レベルを把握することができ、条約に求められる有効性評価のための基準となる基礎データが得られたと考えられる。 (2) 生物試料中濃度の推移を見ると、化学物質環境汚染実態調査*において測定値の得られていた試料については新手法への切り替えに伴う特段のデータの断絶の傾向は認められなかった。全体的に横ばい或いはさらなる低下傾向とみなすことができ、特に上昇傾向と判断される化合物は見あたらなかった。 * 化学物質環境汚染実態調査(以下、「黒本調査」という。)において、HCB、DDT、クロルデン等を対象として、昭和53年度より生物モニタリング、昭和61年度より底質モニタリングをGC/ECDあるいはGC/MSを用いた分析法により実施してきた。 (3) 水質、底質濃度の地域分布を見ると、東京湾、大阪湾など大都市圏沿岸の準閉鎖系海域で相対的に高めの傾向を示すものが比較的多く見られた。また、地方別の農薬出荷量とPOPsの残留状況の傾向が類似すると思われるケース(ヘプタクロル)が認められた。そのほか、特定の地域で相対的に高いピークを与える化合物も複数あった。 (4) PCB類、HCBを除き、これまで十分な情報のなかった全国の大気中POPs濃度レベルに関する情報が、初めてまとまった形で得られた。PCB類、HCBの平成14年度と平成13年度のデータについて比較すると、全般的には類似する点が多い。特にHCBについては突出して高い濃 度が認められた地点で3日間の連続捕集の間に大きな濃度変動が認められた。 (5) 平成14年度の調査結果においては、PCB類、ディルドリン等これまで検出されていた物質に加えて、アルドリン等のこれまで不検出であった物質も低濃度で検出されるなど、基本的にこれまでの黒本調査*結果の長期的傾向と矛盾はなかった。これらのことから、我が国周辺のPOPs濃度レベルは、全体的には横ばい或いは低減傾向とみなすことができ、特段の増加傾向は認められないと判断された。しかしながら、いくつかの場所で局所的な汚染源の存在を疑わせるデータが得られており、継続的な監視が必要である。また、周囲に国内の大きな汚染源を考えにくい分布パターンを示した物質(DDT等)もあり、今後は東アジア地域、地球レベルの長距離移動も視野にいれた監視、解析が求められる。
- その他
本調査結果は、黒本調査結果と合わせて平成14年度のモニタリング調査結果としてとりまとめられ、中央環境審議会化学物質評価専門委員会(2月2日開催)において審議予定。
添付資料
- 図1-1 平成14年度 POPsモニタリング調査地点(水質)[PDFファイル 251KB] [PDF 250 KB]
- 図1-2 平成14年度 POPsモニタリング調査地点(底質)[PDFファイル 254KB] [PDF 254 KB]
- 図1-3 平成14年度 POPsモニタリング調査地点(生物)[PDFファイル 250KB] [PDF 249 KB]
- 図1-4 平成14年度 POPsモニタリング調査地点(大気)[PDFファイル 251KB] [PDF 250 KB]
- 表1 平成14年度POPsモニタリング調査結果[PDFファイル 19KB] [PDF 18 KB]
- 参考 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の概要[PDFファイル 16KB] [PDF 15 KB]
- 連絡先
- 環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
課長 :安達 一彦
専門官 :中嶋 徳弥(6361)
調査係長:榎本 康敬(6355)