報道発表資料

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1998年09月04日

PRTRパイロット事業評価報告書及び関連資料の公表について

PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)は、"環境汚染のおそれのある化学物質の環境中への排出量又は廃棄物としての移動量を登録し公表する仕組み"で、潜在的に有害な化学物質の環境リスク管理を進めるための新たで画期的な手法である。
 環境庁では、我が国へのPRTRの導入を目指して、平成8年10月に「PRTR技術検討会」(座長:近藤次郎・東京大学名誉教授)を設置し、その検討結果に従って、平成9年6月より神奈川県及び愛知県の一部の地域でPRTRパイロット事業を進めてきた。その集計結果については、本年5月に中間報告として取りまとめて公表し、国民意見を広く募集するとともに、全国セミナーを開催して国民との意見交換を図ってきた。
 今般、寄せられた国民意見及び昨年度実施したパイロット事業参加事業者に対するアンケート結果などを踏まえ、同検討会で行われてきた各検討課題に対するするアンケート結果などを踏まえ、同検討会で行われてきた各検討課題に対するものである。
 環境庁では、このパイロット事業の成果について、本年9月9~11日に東京で開催されるOECD主催のPRTR国際会議に報告するとともに、中央環境審議会に報告し、PRTRの法制度化について、今後の化学物質による環境リスク対策の一環として審議を進めていただく予定である。なお、平成10年度においても、パイロット事業を継続して行う予定である。

1 背景

(1) PRTRの意義と国際的な動向
 環境汚染物質排出・移動登録(PRTR:Pollutant Release and Transfer Register)は、"環境汚染のおそれのある化学物質の環境中への排出量又は廃棄物としての移動量を登録し公表する仕組み"で、行政、事業者、国民、NGOといった様々なセクターの参加のもとに、潜在的に有害な化学物質の環境リスク管理を進めるための新たで画期的な手法であり、それが果たす役割は極めて多面的である。1992年にアジェンダ21第19章で位置づけられたのち、1996年2月にOECD理事会において加盟各国に対しその導入に取り組むよう勧告が出された。米国、カナダ、オランダ、英国等で、既に環境保全のための制度の一つとして導入されている。
(2) 我が国における取組の経緯
 このような国際的な動きを踏まえつつ、我が国においてもPRTR導入に向けた検討を進めるべく、環境庁は、平成8年(1996年)10月にPRTR技術検討会(座長:近藤次郎・東京大学名誉教授)を設置し、PRTRの実施の枠組や技術的事項を検討したうえ、平成9年6月より神奈川県及び愛知県の一部においてパイロット事業を実施してきた。
 対象事業所及びそれ以外の発生源からの化学物質の排出・移動量の集計結果は本年5月1日に中間報告として公表し、その内容等について6月末日までの2か月間、広く国民意見を聞くとともに、全国7ヶ所でセミナーを開催し、中間報告の説明を行うとともに、アンケート調査により参加者の意向を把握した。一方、昨年度実施したパイロット事業参加事業者に対するアンケート及びヒアリング結果についてとりまとめた。
 これらを踏まえ、産業界及び一般国民・NGOの立場の委員が加わったPRTR技術検討会では、本年6月からパイロット事業の評価を開始、このたびその結果を「評価報告書」としてとりまとめ、事業者に対するアンケート・ヒアリング結果、国民意見の概要等とともに公表する運びとなった。

2 事業者アンケート・ヒアリング結果の概要(報告書資料2及び資料3)

(1) 実施方法
 PRTRの実施に当たっての課題を整理するため、パイロット調査対象事業者に対し事業所報告の調査票等を送付する際に併せてアンケート用紙を送付し、排出・移動量の報告と同時に回収する形でアンケート調査を実施した。また、並行して地方公共団体環境部局による事業者ヒアリングも行われた。
(2) 調査結果
 アンケート調査は、パイロット事業の調査票の報告があった943事業所のうち68%に当たる645事業所から回答があった。調査の内容は、作業及び費用の負担、環境庁が示したマニュアル等の内容、支援方策、情報提供、PRTRの意義などについてであり、以下のような点が明らかになった。
 ・作業に最も時間を要したのは、取り扱っているものに対象化学物質が含まれているかどうかの調査であり、2年目以降は負担が軽減されると判断されること。
 ・費用負担は分析の実施の有無でかなり変わること。
 ・マニュアル等の内容はわかりやすいという回答が多かったが、なお改善の余地があること。
 ・化学物質の成分情報の提供体制の充実が求められたこと。
 ・個別事業所デ-タの公表については、積極的な回答と、慎重な回答が同程度であったこと。一方、排出量デ-タが企業秘密であると考えている事業者は少ないこと。
 ・PRTRは化学物質の排出量削減に役立つという認識が高いこと。

3 国民意見及び全国セミナーアンケート結果の概要(報告書資料4及び資料5)

(1) 意見の提出状況等
 国民から提出された意見は、ファックス、E-mail等で直接環境庁に寄せられたものが合計45件(企業と一般国民がほぼ半々)、全国セミナーのアンケートを通して寄せられたものが524件、合計で600件近くに達した。なお、全国セミナーへの参加者は全体で1,923名、うち企業67%、行政16%、一般国民17%であり、アンケートはその63%に当たる1,220名から回答があった。
(2) 国民意見の概要
 国民意見の内容は多岐にわたるが、具体的な対象物質の選定に関する意見、個別事業所データの公表に関する意見、制度化に関する意見が多く出された。個別事業所デ-タの表については、これを望む意見が多く出される一方で慎重意見も出された。また、早期の制度化を求める意見が多かった。
(3) 全国セミナーアンケート結果の概要
 セミナー参加者に対するアンケートでは、セミナーの内容に関する意見に加え、PRTRの今後のあり方について尋ねたところ、セクターを問わず、PRTRは化学物質の排出量の削減に役立ち、制度化が必要とする意見が多く、また、個別事業所の排出・移動量の情報公開についても「必要」とする意見が多かった。

4 パイロット事業評価報告書の概要

 PRTR技術検討会では、アンケート・ヒアリング結果、国民意見、諸外国での実施状況などをレビューしつつ、PRTRパイロット事業評価検討ワーキンググループ(座長:浦野紘平・横浜国立大学教授)による予備的検討を踏まえて、主に技術的事項についてパイロット事業の評価・検討が行われ、評価報告書がとりまとめられた。主なポイントは以下のとおりである。

  • PRTRは基本的には潜在的に有害な化学物質による環境リスクの低減と管理を図るための道具である。
  • 「PRTRの一連のプロセスを検証しつつ、技術的事項等に関する諸課題を整理するとともに、PRTRに対する国民、事業者、行政機関の理解を深める」というパイロット事業の目的は概ね達成された。
  • 技術的事項については概ね妥当な方法で実施されたが、今後留意すべき点もある。
    (例)
    • 対象物質の選定の考え方を明確化し、追加・削除を柔軟に行うこと。
    • 有害性の高い物質については報告を求める混合物の含有率(現行1%以上)を引き下げる方向で検討すること。
    • 一部の業種の対象事業所の従業員規模による裾切りを引き下げる方向で検討すること。
    • 排出量算定マニュアルをより使いやすく、精度の高いものにすること。
    • 非点源排出源からの排出・移動量の算定は極めて重要であり、早急に精度向上を図ること。
    • 事業者負担の把握に努めるとともに、成分情報提供の体制を整備すること。
    • リスクコミュニケーションの推進を図ること。
  • 個別事業所デ-タの公表問題など、制度に関連する問題については、国民意見や本検討会での議論を踏まえ、中央環境審議会での審議に委ねられるべき。

5 今後の対応

 環境庁では、このパイロット事業の成果について、本年9月9~11日に東京で開催されるOECD主催のPRTR国際会議に報告するとともに、中央環境審議会に報告し、PRTRの法制度化について、今後の化学物質による環境リスク対策の一環として審議を進めていただく予定である。
 なお、平成10年度においても、昨年度実施地域に北九州市を加えた地域でパイロット事業を継続的に実施し、PRTRの円滑な実施に向けてさらに基盤整備を行っていくこととしている。

(参考)

PRTR技術検討会名簿(平成10年6月以降)

  浅野 直人 福岡大学法学部長
  飯塚 康雄 (社)日本電機工業会
((株)東芝半導体事業部半導体環境保全担当参事)
  稲垣 隆司 愛知県環境部自然環境保全室主幹
  岩井 哲郎 (社)日本自動車工業会(トヨタ自動車(株)環境部担当部長)
  浦野 紘平 横浜国立大学工学部教授
  大島 輝夫 化学品安全管理研究所所長
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事
【座長】 近藤 次郎 東京大学名誉教授
  近藤 雅臣 大阪大学名誉教授
  高木 克正 石油連盟(日本石油(株)環境保安部長)
  田中  勝 国立公衆衛生院廃棄物工学部長
  中杉 修身 国立環境研究所化学環境部長
  永田 勝也 早稲田大学理工学部教授
  中西 準子 横浜国立大学環境科学研究センター教授
  中野 邦夫 日本生活協同組合連合会環境事業推進室室長
  原科 幸彦 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授
  菱田 一雄 菱田環境計画事務所所長
  福永 忠恒 (社)日本化学工業協会(住友化学工業(株)環境・安全部長)
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金日本委員会自然保護室室長
  村山 武彦 福島大学行政社会学部助教授
  森谷 恒和 神奈川県環境部技監
  山本 順昭 川崎市環境局公害部化学物質担当主幹
  和田  攻 埼玉医科大学教授
連絡先
環境庁企画調整局環境保健部環境安全課
課長  :吉 田 徳 久(6350)
 補佐  :早 水 輝 好(6353)
 専門官 :太 田 志津子(6358)