報道発表資料

この記事を印刷
2003年06月13日
  • 保健対策

複数媒体汚染化学物質調査研究の結果について

近年、大気や水、土壌等の複数の媒体からの曝露により、単一の媒体からの曝露よりも人の健康や生態系により大きな影響(複数媒体影響)を与えるおそれのある化学物質や複数の化学物質による総合的な影響(複合影響)についての関心が高まっています。  このため、環境省では、こうした化学物質の複数媒体影響や複合影響の実態を解明するため、複数媒体影響については、平成5年度より動物実験による複数媒体暴露(吸入暴露(大気)と経口暴露(水質)を合わせた暴露)についての調査研究を進めるとともに、複合影響については、平成8年度より変異原性試験を用いて全国的な環境中の変異原性に関する実態調査(複合リスク基礎調査)を実施しています。  今般、これらの成果について、平成14年度までの結果がまとまりましたので公表します。

1. 結果の概要

(1) 複数媒体影響に関する調査研究(別添1参照
   これまで4物質*1についてラットを用いた動物実験による複数媒体暴露(吸入暴露(大気)と経口暴露(水質)を合わせた暴露)による影響調査を行いました。
 その結果、クロロホルムについては、単一媒体暴露と比較して、複数媒体暴露による腫瘍(腎細胞癌、甲状腺濾胞状腺腫等)の発生数の顕著な増加が確認されました。
 (クロロホルムのこのような複数媒体影響については、本調査研究の研究者により、米国毒科学会(2002年5月)等で発表済みです。)
 その後の複数媒体影響のメカニズム調査においても、複数媒体曝露によるクロロホルムの腎臓の組織濃度は、吸入曝露と経口曝露を単に加算した場合の約2倍となっており、単一の暴露経路による場合と比べて、複数の暴露経路による場合には、より大きな影響を示す化学物質の存在する可能性が示唆されました。
  *1  平成5年度~平成9年度...クロロホルム、1,4-ジオキサンの2物質
   平成10年度~平成14年度...酢酸ビニル、1,2-ジクロロエタンの2物質
(2) 複合リスク基礎調査(別添2参照
   全国5地区(北海道、関東、中部、近畿、九州)において、大気、河川水、土壌(各媒体ごとに約540検体)を採取し、サルモネラ菌を用いてその変異原性*2を調査しました。また、強い変異原性を示した地点については、主要な変異原性物質の分離・同定を行いました。
その結果、
  [1]  実態調査を実施したすべての大気において、また多くの河川水と土壌において、何らかの変異原性が認められました。
[2]  強い変異原性を示した河川水からは、主要な変異原性物質として、アゾ染料由来であると予想されるフェニルベンゾトリアゾール誘導体(PBTA-1~PBTA-8)及びPCB様物質を分離・同定しました。
[3]  強い変異原性を示した土壌からは、主要な変異原性物質として、非意図的生成物であるニトロアレーン*3を検出しました。
  
  *2  変異原性 :  変異原性とは細胞の持つ遺伝子のDNAに作用してその塩基配列に損傷を引き起こす性質をいう。細胞のがん化の初期過程においてはDNA損傷が惹起されている可能性が高いことから、がん原性試験の結果と変異原性試験の結果との相関が高いことが明らかとなっている。
 平成14年度厚生労働省委託研究報告書「変異原性とがん原性の相関等に関する調査研究」においても、変異原性試験(サルモネラ試験)陽性化学物質の70%が少なくともラット又はマウスに発がん性を示すとする結果が報告されている。
  
  *3  ニトロアレーン :  ジニトロピレン及び3-ニトロベンゾアントロンなどを含む総称。
 ディーゼル排ガスや焼却施設より発生するとされている。
 今回、分離・同定した物質のIARC(国際がん研究機関)の発がん性に係る分類は、下記のとおり。
  1,6-ジニトロピレン、1,8-ジニトロピレン...2B(発がん性がある可能性がある)
  1,3-ジニトロピレン...3(発がん性について分類できない)
  3-ニトロベンゾアントロン...将来的に分類する予定
        

2. 今後の対応

(1) 複数媒体影響に関する調査研究では、単一の暴露経路によるものと複数の暴露経路によるものでは影響の程度が異なる化学物質がある可能性が示唆されました。このため、水系、大気系のいずれの環境中においても検出されるような化学物質については、引き続き、複数媒体影響に関する調査を実施するとともに、発生メカニズムに関する研究を推進することにより、リスク評価を行うために必要なスクリーニング方法の開発に取り組むなど、複数媒体影響を踏まえたリスク評価手法の開発に着手します。
なお、複数媒体影響のある可能性が明らかになったクロロホルムについては、初期環境リスク初期評価の再評価を行う物質の候補物質として、平成15年度における再評価を検討します。
  
(2) 複合リスク基礎調査では、これまでの調査地点以外においても調査を行うなど引き続き継続的に環境中の変異原性に関する実態調査を進めるとともに、強い変異原性が認められた地点については、その原因となる化学物質の同定に努め、今回同定された化学物質については、環境リスク初期評価を行う候補物質として検討します。

3. その他

 本調査研究に関する報告書については、環境省のホームページに近日中に掲載する予定です。

 https://www.env.go.jp/chemi/risk/fukusubaitai/index.html

添付資料

連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
課長    安達一彦(内6350)
 専門官   鷲見 学 (内6352)
 係長    堀 裕行 (内6354)
 担当    田辺康宏(内6354)
 
 環境リスク評価室
 室長    三宅 智 (内6340)
 室長補佐 武井貞治(内6343)
 専門官   石川典子(内6345)

Adobe Readerのダウンロード

PDF形式のファイルをご覧いただくためには、Adobe Readerが必要です。Adobe Reader(無償)をダウンロードしてご利用ください。