報道発表資料

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1997年03月11日

「砂漠化防止対策ハンドブック」について

環境庁の委託により社団法人海外環境協力センターに設置されていた「砂漠化対策総合検討会」は、砂漠化の現状や防止対策に係る国内外の取組状況、対策技術等を網羅的に整理した、「砂漠化防止対策ハンドブック」を取りまとめた。
 砂漠化は世界人口の約6分の1が影響を受けている国際社会が共同して取り組むべき課題であるにもかかわらず、我が国ではいまだに関心が低い。我が国には砂漠化への内外の取組を一覧できるような情報源がこれまでなかったが、本ハンドブックはこのような状況を変え砂漠化対策への各方面の関心を高め、取組を深める役割を果たすものと期待される。
 環境庁では、都道府県・政令市、産業団体、環境NGO、大学、図書館等に配布し、活用を促すこととしている。

1.経緯

 「砂漠化対策総合検討会」(座長:松本 聡 東京大学農学部教授)は、環境庁の委託を受けて社団法人海外環境協力センターに設置されたもので、平成5年度以来、砂漠化防止対策の在り方等について検討を行ってきた。
 この度、砂漠化の現状や防止対策に係る国内外の取組状況、対策技術、対策手法等を網羅的に整理した「砂漠化防止対策ハンドブック」を取りまとめた。

2.ハンドブックの概要
(1)砂漠化の現状
 砂漠化の定義は砂漠化防止条約の第1条にて「乾燥、半乾燥及び乾燥半湿潤地域におけるさまざまな要因(気候変動及び人間の活動を含む。)に起因する土地の劣化」と定められている。砂漠化の現状は気候的原因と人為的原因が絡みあって複雑なものとなっており、その影響を受けている土地の面積は約36億ヘクタール、人口では全世界の約6分の1に及ぶ。その影響としては食糧生産基盤の悪化、動植物の生息地の悪化などが考えられるほか、砂漠化が気候を改変し、この気候変化がさらに砂漠化を進行させる等の影響も考えられる。

(2)砂漠化防止対策をめぐる国際的動向
 砂漠化防止対策の国際的取組は1968年~73年のアフリカ・サヘル地域の干ばつを背景とした、砂漠化防止会議の開催、砂漠化防止行動計画の採択などから始まる。92年の地球サミットで条約の策定について合意し、93年から5回の条約交渉会議を経て、94年6月に砂漠化防止条約を採択した。同年10月にパリで署名式典が開催され、我が国を含めて87カ国(EU含む)が署名を行った。96年9月には締約国数が50カ国に達し、同年12月26日に条約が発効した。砂漠化防止条約の意義としては住民と地域社会の参加を重視するボトムアップアプローチの採用の促進などの取組の原則を明示したこと、資金提供を含む先進国からの支援措置を明確化したことなどがある。

(3)砂漠化防止対策取組状況
 国レベルでは、被影響国、先進国双方で取組が行われているが、被影響国ではサヘル地域のマリ国、ニジェール国、アジア地域の中国、中央アジア、西アジア・中近東、南米地域のブラジルなどの取組がある。先進国のではスイス、英国、米国、ドイツ、フィンランド、フランス、ポルトガル、オーストリア、カナダのほかOECDのサヘルクラブの取組がある。
 また、砂漠化防止条約では、実際の砂漠化防止活動の実行には草の根レベルでの地域住民自身の参加が重要であるとしているが、この役割を果たすべく、RIOD(砂漠化防止に関わるNGOの国際ネットワーク)が設立された。その他の国際NGOでは、セネガルにおけるENDA(第三世界環境開発センター)の活動等がある。
 国際機関の取組としてはUNEPが早くから砂漠化対策に取り組み、91年には後に地球サミットで採用されアジェンダ21のバックグランド資料となった砂漠化の状況等の取りまとめを発表している。その他では、UNSO(国連開発計画砂漠化・干ばつ対策事務所)、IFAD(国際農業開発基金)などが取組を行っている。地域レベルの機関ではアフリカ地域のCILSS(サヘル地域干ばつ対策政府間常設委員会)、IGADD(干ばつ・開発政府間機構)アジア太平洋地域のDESCONAP(アジア・太平洋地域砂漠化/土地荒廃研究・トレーニングセンター地域ネットワーク)などが活動を行っている。

(4)我が国の取組状況
 我が国の取組としては、政府では環境庁、農林水産省などによって砂漠化防止対策の効果的あり方の検討、砂漠化のメカニズムの解明、乾燥地における持続可能な農業技術の研究等が行われてきた。学会・協会では日本砂漠学会、日本緑化工学会、日本地理学会が取組を行っている。環境NGOでは、サヘルの会、緑のサヘル、西アフリカ農村自立協力会がアフリカ・サヘル地域のマリ国やチャド国などで砂漠化防止のプロジェクトを行っている。

(5)砂漠化防止対策技術
 農地保全のための対策として、降雨依存農業におけるウォーターハーベスティング、灌漑農業における塩類土壌を防ぐ技術及び土壌浸食防止技術などがあり、その他に植生回復のための対策技術、植林による対策技術がある。また、砂漠化防止対策を行うにあたっては、その実態把握と原因解明を十分行うことが重要である。そのためのモニタリング技術としては人工衛星によるリモートセンシングや地上調査がある。砂漠化の強度を評価する方法として、砂漠化の被害状況による方法、植生の遷移、砂漠化の進展度の分類などがある。その他砂漠化の危険度の評価も行われている。ニジェール国マグー村での調査の経験によると、同地の農業地域の持続的な開発を達成するための対策技術としては天水農業改善、灌漑(かんがい)農業技術、飼料生産技術、土壌保全技術がある。

(6)砂漠化防止対策のあり方
 ローカルレベルの重要な対策としては自然資源の適正な利用、管理手法の確立、伝統的な土地利用システムや技術の発展、継承、強化、新たな適正技術の導入がある。ナショナルレベルでは女性の参加、自然資源の利用に関する法制度的側面、地域社会に対する環境・啓蒙活動、対策実施のための促進策、政策決定における地域コミュニティー参加等が重要である。リージョナルレベルの対策では組織、制度改革、住民参加、総合プログラム、土地管理などのノウハウについての経験交流やリージョナルレベルのコンセンサスの形成、政策決定への住民参加、国際貿易・市場問題への対応などに関するリージョナルレベルのフォーラムの開催などが期待されている。グローバルレベルでの対策のあり方としては、それぞれのレベルでの問題点、ニーズに応じた情報や技術等を伝達していく仕組みを作り上げることなどがある。

(7)今後の砂漠化防止対策の課題
 我が国は経済力の大きさと経済依存関係の緊密さの下で砂漠化問題と深く関わっているということを自覚し、被影響国における行動計画の策定や実施の支援、地域コミュニティー参加型アプローチの開発などの調査研究の促進と体制の整備、条約の下に設置される科学技術委員会の支援などを行っていく必要がある。また国内的には砂漠化問題の現状、対策の必要性について積極的に普及啓発、教育活動を行い、砂漠化防止対策に関する意識を高めるとともに、NGOを含む民間レベルの取組に対する支援、強化方策を検討する必要がある。

3.ハンドブックの配布
 都道府県・政令市、関係団体、産業団体、環境NGO、大学、図書館等に配布するほか、エコライフフェア等で希望者に配布する。

連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
課   長:小林   光(6740)
課長補佐:島田 幸司(6763)
担   当:菅原 雅彦(6738)