報道発表資料

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2002年09月11日
  • 自然環境

「平成13年度ジュゴンと藻場の広域的調査」の実施結果について

環境省は、沖縄周辺海域に生息するジュゴンの全般的な保護方策を検討するため、平成13年度に、「ジュゴンと藻場の広域的調査」を実施しました。
 その結果、沖縄本島周辺及びその属島域の浅場に、海草(うみくさ)の生育する藻場が約2,057ヘクタール存在することがわかりました。なお、航空機による目視調査では、ジュゴンの個体を発見することはできませんでした。
 本調査については、平成14年度も継続して実施する予定です。
  1. 調査の目的等
     
     本調査は、沖縄周辺海域に生息するジュゴンの全般的な保護方策の検討に必要な情報やデータを確保することを目的に、平成13年度から概ね3カ年の予定で実施しているものである。
     平成13年度は調査初年度であるので、調査の実施に先立ち調査手法の検討を十分に行った上で、沖縄本島周辺のジュゴンの生息状況等に関する広域的な情報を得ること等を目的とし、海草藻場の分布状況、ジュゴンの分布、ジュゴンの食性及びジュゴンの遺伝学的調査の4つの項目について調査を行った。
     
     
  2. 調査手法の検討等
     
    平成13年11月、「ジュゴンと藻場の広域的調査手法検討会」を設置し、専門家による検討を行い調査項目及び調査手法の方針を決定した。
    検討会の委員は以下のとおり。
      相生 啓子   青山学院女子短期大学講師 (海草)
    井田   齋 北里大学水産学部教授   (沿岸生態系)
    内田 詮三 国営沖縄記念公園水族館館長(海棲哺乳類)
    粕谷 俊雄 帝京科学大学理工学部教授 (海棲哺乳類)
    香村 眞徳 (財)沖縄県環境科学センター専務理事 (藻類)
    山田   格 国立科学博物館第一研究室長(海棲哺乳類)
    平成14年2月、「ジュゴンと藻場の広域的調査」に着手し、決定した方針に従い調査を行った。
     
     
  3. 調査の結果
     
     沖縄本島周辺海域を対象区域として、(1)~(4)の調査を実施し、以下の結果を得た。
     なお、沖縄本島周辺における海草藻場の分布、ジュゴンの個体分布、ジュゴンの胃内容物及びDNAの分析手法などを総合的に調査したのは、今回が初めてである。
     
    (1) 海草藻場調査
     
    [1] 浅場の海草藻場の分布調査(別添「沖縄本島浅場藻場分布図」参考)
      沖縄本島の沿岸部の概ね46パーセントについて、新たにカラー航空写真を撮影するとともに、既存カラー航空写真も収集し、総計861枚の写真を用いて沖縄本島周辺及びその属島の浅場(概ね水深15m以浅)の海底の藻場の判読を行った。
      カラー航空写真の判読及び現地踏査により、沖縄本島周辺及びその属島域の浅場の藻場の分布図を作成し、海草、アオサ、小型藻類等の面積を算出した。
      その結果、沖縄本島周辺及びその属島域の浅場に、過去に他の研究者により調査された4個体及び今回調査した1個体の胃内容物から確認されたことのあるリュウキュウスガモなどの海草の生育する藻場が約 2,057 ヘクタール存在することを確認した(なお、構成種や密度に関する調査については平成14年度に実施する予定である。)。
      これ以外に、アナアオサ、ボタンアオサなどのアオサ場約197ヘクタール、カゴメノリ、オキナワモズクなどの小型藻類の生育場約2,288ヘクタールを確認した。
     
    [2] 深場の海草藻場の調査(別添写真「深場藻場のコドラート調査状況」及び「各調査測線・区間における海草の出現頻度」参考)
      これまで、深場に生育する海草については知見が少なかったので、沖縄本島西岸域の2海域(屋我地島北岸及び名護湾)及び東岸域の3海域(平良湾、金武湾及び中城湾)の5海域において、合計11測線、総延長24,800メートル(1区間200メートルで合計124区間:4~10メートル幅)について、等水深線(15~23m程度)と概ね並行に潜水・目視確認を行い、海草の出現頻度に関する線的調査を行った。
      その結果、深場の11測線のうち、屋我地島沖に設置した1測線を除くいずれにおいても、出現頻度に差があるものの、ジュゴンの食草であるウミヒルモ、ヒメウミヒルモ(またはトゲウミヒルモ)及びマツバウミジグサの3種が生育していることが確認された。
      また、平良湾や中城湾の深場で良好な海草の分布を線的に確認した。これらの地点では、深場の藻場が面的に存在する可能性がある。
     
    (2) ジュゴンの分布調査
     
    [1] 航空機による飛行調査(別添図「航空機によるジュゴンの分布調査の範囲」参考)
      ジュゴンの分布及び生息数を把握するために、航空機を使用した空中からの目視観察を、平成14年3月に3回実施した。
      調査範囲は、沖縄本島の北西海域のうち、本部(もとぶ)半島北東及び伊江島(いえじま)南の水深90メートル以浅の海域とした。これは、本島海岸線の約13パーセントをカバーしている。
      その結果、今回の調査では、ジュゴンは発見できなかった。
     
    [2] 地元住民や関係団体等からの情報収集
      関係団体等からヒアリングを行うとともに、ホームページを通じた一般への呼びかけを実施し、ジュゴンの目撃情報を収集した。
      その結果、金武湾など沖縄東海岸での過去の目撃情報を数件得た。
     
    (3) ジュゴンの食性調査
     
    冷凍保存個体の胃内容物の分析(別添写真「今回胃内容物の調査に使用した個体」、 「胃及び十二指腸の内容物」及び「分割した胃内容物」参考)
      ジュゴンの冷凍保存個体2個体の胃内容物の分析を実施した。
      そのうち、沖縄県中頭郡与那城町平安座島の刺網に混獲された1個体から、ベニアマモ、ウミヒルモ、ボウバアマモ及びウミジグサ類などの海草主体の内容物を確認した。
    この結果、ジュゴンがこれら4種の海草を摂食していることが明らかとなった。
    残りの1個体からは胃内容物が検出されなかった。
     
    (4) ジュゴンの遺伝学的調査
     
    [1] 標本所在情報の収集・整理
    神社や博物館にあるジュゴンの骨などの標本は、遺伝学的な特性を知るためのサンプルとして活用できる可能性があることから、平成13年度は、その所在を文献調査や聞き取りによって調査し、ジュゴンの標本の所在目録を作成した。
     
    [2] DNA調査手法の検討
    学術標本や多様な状態におかれた遺跡埋蔵骨格などを試料として、ジュゴンのDNA抽出を行うための手法を試験・検討した。
    骨標本からDNAを抽出し分析した結果、密度の高い部位を試料とすれば、分析が成功する可能性が高いことが判明した。
    また、保存状態が異なっても、歯の標本からは比較的一定のDNA抽出が可能になることがわかった。
     
     
  4. 平成14年度以降の調査予定について
     
     平成14年度は、検討会を設置し平成13年度の調査結果について専門家による分析を行うとともに、調査の手法等を検討する予定。
     その上で、平成13年度に作成した浅場藻場の分布図を活用し、浅場の藻場の構成種、被度の分析やジュゴンの食跡調査及び深場の藻場の面的な調査を行うとともに、航空機によるジュゴンの分布状況の調査や目撃情報の収集、食性調査、遺伝学的調査を継続していく予定。
     
     

<添付資料>

(1)浅場藻場関係資料
 ・ 沖縄本島浅場藻場分布図
(2)深場藻場関係資料
コドラート調査状況写真
各調査測線・区間における海草の出現頻度
(3)ジュゴン分布調査関係資料
航空機によるジュゴンの分布調査の範囲
(4)ジュゴンの食性調査関係資料
調査個体
胃及び十二指腸の内容物
分類した胃内容物

添付資料

連絡先
環境省自然環境局野生生物課
課   長 黒田 大三郎 (内線6460)
 課長補佐 河本 晃利   (内線6462)
 専 門 官  清野 達男   (内線6464)

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