報道発表資料

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1997年03月06日

「地下水の水質の汚濁に係る環境基準の設定について」の中央環境審議会の答申について

3月6日に開催される中央環境審議会水質部会(部会長:村岡浩爾・大阪大学工学部 教授)において、昨年5月27日に諮問された「地下水の水質の汚濁に係る環境基準の設定について」に対するとりまとめが行われ、同日、答申が行われる予定である。
 環境庁では、本答申を踏まえ、地下水の環境基準について速やかに告示を行うよう手続きを進める予定である。
 (答申の要点)
{1} 地下水の水質の汚濁に係る環境基準(以下、地下水質環境基準という。)は、すべての地下水に適用すること。
{2} 地下水質環境基準は、人の健康保護のための基準として公共用水域の環境基準健康項目と同じ23項目について設定すること。

[答申(案)の概要]

 地下水は、水環境を構成する重要な資源であり、その良好な状態を将来の世代へ引き継ぐべきである。また、地下水は公共用水域に比較して状況把握が困難であり汚染の自然浄化も期待できない。このような状況を踏まえ、地下水の水質の総合的保全を図るために環境基準を設定し各種対策を講じることは重要である。

(1)設定の基本的考え方
 地下水質環境基準は、まず人の健康を保護する観点から設定すべきである。なお、地下水は清浄であるべきものとして認識されていることから、環境基準が基準値まで汚染を許容することではないという考え方に留意すべきである。

(2)対象項目及び基準値
 地下水は公共用水域と一つの水循環系を構成している等の観点から、現段階では、公共用水域における環境基準健康項目と同様の23項目について、同じ基準値を設定すべきである。

(3)適用の在り方
 人の健康を保護する観点から広く見て、公共用水域と同様、用途等を問わず、自然汚染も含めすべての地下水に適用すべきである。

(4)達成期間の考え方
 人の健康に係るものであることから、「直ちに達成され維持されるように努める」と考えるべきである。ただし、自然汚染については、対策の困難性等を考慮して具体的達成期間を設けないことが適当である。

(5)測定及び評価の考え方
 環境基準の測定は、現行の調査区分(概況調査、汚染井戸周辺地区調査、定期モニタリング調査)に従って行うとともに、評価は、調査区分ごとの目的を勘案しつつ基準値の超過率で行うことが適当である。なお、地下水質環境基準点の設定についても早期に検討することが望ましい。

(6)見直しの考え方
 地下水の特性や公共用水域との関連性に留意し、科学的判断の向上等を見極めて、適宜改訂することが必要である。

(7)達成の方策
 現行の水質汚濁防止法に基づく措置等を適切に運用するとともに、汚染が発見された場合は地下水の用途等を考慮しつつ迅速な調査や対策を行うことが肝要である。

(8)今後の検討課題

{1}  硝酸性窒素等の要監視項目や未規制物質、病原微生物について、公共用水域と合わせ実態の把握や対策手法の検討を進める必要がある。
{2}  地下水流動等に関する科学的知見の充実を図る必要がある。
{3}  水循環の視点から、地下水涵養域における対策の在り方を今後検討する必要がある。
{4}  物質の地下水環境中における変化等について調査検討を進める必要がある。
{5}  地下水汚染の調査・対策技術について一層の開発を進める必要がある。
{6}  公共用水域と合わせ、生態系への影響に関する検討を進める必要がある。
{7}  汚濁状況の推移等を踏まえ、環境基準達成の方策についてさらなる措置の検討を行う必要がある。
{8}  地下水に関する国民の認識を高めるための啓発に努めるべきである。

(参考1:環境基準項目及び基準値)
項目 基準値
カ ド ミ ウ ム
全 シ ア ン

六 価 ク ロ ム
砒   素
総  水  銀
ア ル キ ル 水 銀
P  C  B
ジクロロメタン
四 塩 化 炭 素
1,2- ジクロロエタン
1,1- ジクロロエチレン
シス-1,2- ジクロロエチレン
1,1,1-トリクロロエタン
1,1,2-トリクロロエタン
トリクロロエチレン
テトラクロロエチレン
1,3- ジクロロプロペン
チ ウ ラ ム
シ マ ジ ン
チオベンカルブ
ベ ン ゼ ン
セ  レ  ン
0.01mg/l 以下
検出されないこと。
0.01mg/l 以下
0.05mg/l 以下
0.01mg/l 以下
0.0005mg /l 以下
検出されないこと。
検出されないこと。
0.02mg/l 以下
0.002mg /l 以下
0.004mg /l 以下
0.02mg/l 以下
0.04mg/l 以下
1mg/l 以下
0.006mg /l 以下
0.03mg/l 以下
0.01mg/l 以下
0.002mg /l 以下
0.006mg /l 以下
0.003mg /l 以下
0.02mg/l 以下
0.01mg/l 以下
0.01mg/l 以下

(参考2:諮問文)

諮問第32号
環水管第189号
平成8年5月27日

                             
 中央環境審議会 会長
     近藤 次郎 殿

環境庁長官  岩垂 寿喜男

 

地下水の水質の汚濁に係る環境基準の設定について(諮問)

 
 
 環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定に基づき、水質の汚濁に係る環境上の条件について、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として地下水の水質の汚濁に係る環境基準を定める必要があるので、同法第41条第2項第3号の規定に基づき、次のとおり諮問する。「地下水の水質の汚濁に係る環境基準を設定するに当たって、貴審議会の意見を求める。」

[諮問理由]

 地下水は我が国の水使用量の約7分の1、生活用水など都市用水の約3分の1を占めるなど、身近にある貴重な水資源としても広く活用されているほか、災害時の水源としても重要性を有するなど、河川、湖沼等の公共用水域と同様に重要な水資源となっている。
 このような地下水の水質の汚濁の防止に関しては、これまで、水質汚濁防止法に基づく有害物質の地下浸透規制が実施され、汚濁の未然防止が図られているところであり、また、汚染された地下水の水質の浄化を図るため水質汚濁防止法の一部を改正する法律案を第136回国会に提出しているところである。
 しかしながら、地下水については、トリクロロエチレン等の有害物質による水質の汚濁が全国にわたって発生し、人の健康に係る被害の発生のおそれがあることにかんがみれば、これらの施策に加え、地下水の水質の汚濁の防止に関する行政上の目標を設定し、関連する各般の施策を総合的に推進することが必要である。
 今回の諮問は、こうした観点から、地下水の水質の汚濁に係る環境基準の設定について意見を求めるものである。


(参考3:審議経過)

  1.第11回水質部会(平成8年5月27日)
     議題  ・諮問の趣旨、背景
         ・地下水環境基準専門委員会の設置

  2.第1回専門委員会(平成8年7月2日)
     議題  ・諮問の趣旨、背景
         ・地下水汚染対策の経緯と汚染の現状
         ・地下水環境基準の検討事項

  3.第2回専門委員会(平成8年8月30日)
     議題  ・地下水汚染の傾向等
         ・地下水環境基準設定に関する論点
         ・病原性大腸菌O-157による水質汚染

  4.第3回専門委員会(平成8年11月15日)
     議題  ・地下水環境基準設定に当たっての基本的考え方

  5.第12回水質部会(平成8年12月26日)
     議題  ・専門委員会での審議状況中間報告

  6.第4回専門委員会(平成9年2月10日)
     議題  ・専門委員会報告とりまとめ

  7.第13回水質部会(平成9年3月6日)
     議題  ・答申とりまとめ


(参考4:中央環境審議会水質部会及び地下水環境基準専門委員会名簿)

(1)水質部会名簿

 部会長  村 岡  浩 爾  大阪大学工学部教授
 委 員  浅 野  直 人  福岡大学法学部教授
  〃   加 藤  郁 子  全国地域婦人団体連絡協議会理事
  〃   加 藤  壱 将  全日本水道労働組合中央執行委員長
  〃   岸    ユ キ  女優
  〃   木 原  啓 吉  江戸川大学教授
  〃   小早川  光 郎  東京大学大学院法学政治学研究科教授
  〃   桜 井  治 彦  慶應義塾大学医学部教授
  〃   佐 竹  五 六  (社)配合飼料供給安定機構理事長
  〃   猿 田  勝 美  神奈川大学外国語学部教授
  〃   清 水    誠  東京大学名誉教授
  〃   新 宮  康 男  住友金属工業株式会社 取締役会長
  〃   須 藤  隆 一  東北大学工学部教授
  〃    隅 山  克 己  全国漁業協同組合連合会専務理事
  〃   高 橋  さち子  魚類生態研究家
  〃   高 橋    裕  芝浦工業大学工学部教授
特別委員  恩 田  怡 彦  日本製紙連合会副会長
  〃   清 瀧  昌三郎  金属鉱業事業団理事長
  〃   七 野    護  (社)日本食品衛生協会専務理事
  〃   中 島  哲 生  (社)農業土木事業協会専務理事
  〃   林    裕 造  国立衛生試験所総合評価室客員研究員
  〃   樋 口  敬 一  (社)日本化学工業協会技術環境部会副部会長
  〃   福 井  経 一  (財)河川環境管理財団技術参与
  〃   藤 野  慎 吾  (社)日本港湾協会理事長
  〃   松 尾  友 矩  東京大学大学院工学系研究科教授
専門委員  田 中  克 彦  神奈川県環境部水質保全課長
  〃   東    軍 三  熊本市環境保全局環境保全部
                地下水保全課長
  〃   出 島    茂  前・全国クリ-ニング環境衛生同業組合連合会
                クリ-ニング総合研究所副所長
  〃   三 上    徹  前・(社)日本電子機械工業会環境問題
                特別委員会幹事

(2)地下水環境基準専門委員会名簿

 委員長  猿 田  勝 美  神奈川大学外国語学部教授
 委 員  浅 野   直 人  福岡大学法学部教授
  〃   小早川  光 郎  東京大学大学院法学政治学研究科教授
  〃   須 藤  隆 一  東北大学工学部教授
  〃   高 橋    裕   芝浦工業大学工学部教授
特別委員  中 島  哲 生  (社)農業土木事業協会専務理事
  〃    林   裕 造  国立衛生試験所総合評価室客員教授
  〃   福 井  経 一  (財)河川環境管理財団技術参与
専門委員  中 杉  修 身  国立環境研究所化学環境部長
  〃   平 田  健 正  和歌山大学システム工学部教授
  〃   真 柄  泰 基  国立公衆衛生院水道工学部長
  〃   宮 崎   章   工業技術院資源環境技術総合研究所
                水圏環境保全部長
連絡先
環境庁水質保全局水質管理課
課長:南川秀樹(6630)
 補佐:森岡泰裕(6632)
 係長:中島宣雅(6632)