報道発表資料

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2001年12月14日
  • 総合政策

利根川水系戸倉ダム建設事業に係る環境大臣意見の提出について

環境省は、利根川水系戸倉ダム建設事業に係る環境影響評価書について、環境影響評価法第22条第2項の規定に基づき、平成13年12月14日付けで、国土交通大臣に対し、クマタカ等の猛禽類の保護、自然環境や水質についての環境監視の充実等に関する環境大臣意見を提出した。
 なお、環境影響評価法に基づき、ダム、堰等の河川事業の環境影響評価書が作成され、それに対し環境大臣が意見を提出するのはこれが初めて。
[事業概要]
 
 事業の目的  洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水の供給を目的とする多目的ダム
 事業実施区域の位置  群馬県利根郡片品村内
  (関係地域……片品村)
 事 業 者  水資源開発公団
 ダム堤体の形式  重力式コンクリートダム
 事業規模  総貯水量:約9,200万m3 有効貯水量:約8,700万m3
 集水面積:約72km2 湛水面積:200ha
 ダム堤高:158m ダム堤頂長:530m
 
 
 
[環境大臣意見の内容]
 
 戸倉ダムの事業実施区域は、尾瀬地域の登山口の一つである大清水の間近にあり、また、その一部が日光国立公園内に位置するとともに、希少猛禽類を頂点とした豊かな生態系が保たれている重要な地域内にあることから、事業の実施に当たっては、自然環境に与える影響を可能な限り回避、低減できるよう、環境保全に最大限配慮する必要がある。
 また、このような区域において自然改変を伴う本事業については、広く国民の理解を得るためには、環境影響評価及び環境保全措置に係る内容をわかりやすく記述することはもとより、本事業の目的及び内容についての記述についても可能な限り理解しやすい内容とすることが必要である。
 このような視点から審査を行った結果、以下に述べる1.から3.の措置を行う旨を評価書に記載することが必要である。また、1.(1)に述べる計画の再検討及びクマタカの保護対策については、それらの方針を評価書に記載するとともに、その具体的な内容を公表することが必要である。
 
 
1. 自然環境
 
(1)  事業の実施に伴う環境影響からクマタカを保護するためには、繁殖をはじめ生息に支障を及ぼすおそれのある行為等を避けるよう特に配慮する必要があるが、本事業に係る評価書では、クマタカへの影響が指摘されており、当該地域におけるクマタカの繁殖等生息に対する影響が強く懸念される。
 このため、事業者は事業によるクマタカの繁殖等生息への影響を回避・低減する観点から、原石山、土捨場、付替国道等の変更を含め計画を再検討するとともに、クマタカの生息環境の改善を図る観点から、必要に応じて採餌環境等の改善整備を適切に講じるなど、クマタカの保護に万全を期すこと。
 また、上記の検討に当たっては、専門家の意見を聴取し、その意見をクマタカの保護対策に確実に反映するとともに、事業により繁殖等生息に支障が生じるおそれがあると見込まれる区域内における工事等の実施については、この専門家による再検討結果を踏まえた保護対策に従い、実施するものとすること。
 さらに、工事中、供用後において周辺地域も含めた生息状況について事後調査を行い、事業実施によるクマタカの繁殖等生息への影響が確認された場合は、工事の休止も含め、適切な措置を講じること。
 
(2)  クマタカ以外の猛禽類についても、事業実施区域及びその周辺において営巣している可能性も考えられるとされていることから、工事中、供用後において周辺地域も含めた生息状況について環境監視を行い、評価書の予測結果と異なる影響が確認された場合は、専門家の意見を聴取した上で、適切な措置を講じること。
 
(3)  ヤマネ、モモンガ、樹洞性コウモリ類等の樹洞性動物について、環境保全措置として主要な生息環境となる落葉広葉樹林の復元・維持及び周辺植生との連続性を考慮した植生の回復が検討されているが、その効果が現れるまでは長期間を要することから、短期的な生息場所の確保等の保全策についても専門家の意見を聴取した上でさらに検討すること。
 また、これら動物の生息状況について、引き続き生息状況に関する環境監視を行い、その結果を踏まえ、詳細な工事実施計画を検討する際に、これら動物の生息への影響を最小限とするよう配慮すること。
 
(4)  本事業による改変箇所に生育する植物種について、移植、播種が検討されているが、これらの効果については不確実性が高いことから、詳細な工事実施計画を検討する際に、改変を最小限にするよう専門家の意見を聞いて更に検討し、影響を最小限とすること。
 その上で、移植、播種が必要と判断された場合には、最適な手法及び移植先について更に検討し、増殖、生育状況について確認しながら慎重に実施すること。
 
(5)  貯水域の出現により、陸域及び河川域の生態系において、それまでの動物の移動経路等の分断が生じ、生息域の連続性への影響が懸念されることから、典型性として選定された生態系を構成する生物相について、引き続き生息状況の環境監視を行い、その結果を踏まえ、必要に応じ適切な措置を講じること。
 
(6)  評価書においては、動物の重要な種及び生態系への環境影響の低減において効果のある環境保全措置として、改変箇所跡地をはじめとする複数の箇所において植生の回復を図ることとしているが、動物の重要な種や生態系を構成する生物相について、引き続き生息状況の環境監視を行うことにより、環境保全措置の効果を検証すること。また、期待する効果が得られていない場合にあっては、環境保全措置の追加を検討する等、適切な措置を講じること。
 
(7)  本事業の工事中において、事後調査、環境監視等に伴い、新たに重要な動植物が確認された場合は、専門家の意見を聴取した上で、これらの種の生息、生育環境に対する影響が最小限となるよう、適切な措置を講じること。
 
(8)  本事業の実施にあたり、支障になる木については、伐採量を必要最小限とし、極力樹林地の保全に配慮するとともに、移植等により可能な限り事業実施区域内の緑化木として活用すること。また、改変されることになる区域の表土についても保全を図り、植生復元に活用すること。
 
 
2. 人と自然とのふれあい
 
 事業実施区域は、その一部が日光国立公園内に位置し、特に重要な利用拠点のひとつである尾瀬地域に近接していることから、事業の実施が国立公園の利用に支障のないよう、特に配慮すること。また、国立公園の利用への支障の懸念が生じた場合には、関係機関と調整を図り、適切な措置を講じること。
 
 
3. 水環境
 
(1)  評価書に記載されている水質予測モデルについては、現時点で得られている科学的知見において概ね妥当なものと思料するが、モデルによる予測計算結果については、なお予測の不確実性を排除し得ないものであることから、貯水池及び下流河川地点の水質について、評価書に記載されている事後調査に加え、供用後の環境監視を実施し、必要に応じて適切な対策を講じること。
 
(2)  ダム完成後の水温変動に対する環境保全措置として実施することとしている選択取水において、水温に加えて濁りを考慮した運用を検討する際には、複数の運用条件での予測及びそれらの比較等により、環境影響の一層の低減を図ること。
 
(3)  工事中における土地の改変に伴う濁水の処理対策については、排水先の下流河川の生物の生息状況、改変により裸地となる地質の状況等を勘案した上で、環境に与える負荷を回避・低減する観点から、更なる水質汚濁の防止を図ること。
 
 
4. 大気環境
 
   本事業の工事用車両の運行に伴う騒音については、環境基準に照らした環境影響評価を行い、その結果を評価書に記載すること。

添付資料

連絡先
環境省総合環境政策局環境影響評価課環境影響審査室
室  長 森谷  賢(内6231)
 審査官 奥村和正(内6239)

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