報道発表資料

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2001年08月22日
  • 保健対策

平成12年度PRTRパイロット事業報告書について

環境省では、平成11年7月に公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質管理促進法、PRTR法)に基づくPRTR制度の円滑な導入に向けて、平成12年度PRTRパイロット事業を、経済産業省と共同で実施しました。
 PRTRパイロット事業については平成9年度から継続して実施してきたところですが、平成12年度事業は[1]法律に基づくPRTR制度にできる限り近い形で行うことにより、届出方法、集計作業、各種支援施策等の課題を明らかにするとともに、[2]事業者等に対するPRTR制度の普及啓発を行うため、これまでより調査対象地域を大幅に拡大し、30都道府県市の各地域において実施しました。
 その結果を、今般「平成12年度PRTRパイロット事業報告書」として取りまとめました。
  1. 背景
     
    (1) PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)について
       PRTRは、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、その環境中への排出量及び廃棄物に含まれて事業所の外に移動する量を事業者が自ら把握し、行政庁に報告し、行政庁は事業者からの報告や統計資料等を用いた推計に基づき、排出量・移動量を集計・公表する仕組みです。
     PRTRには、以下のような多面的な意義が期待されています。
      [1] 環境保全上の基礎データ
      [2] 行政による化学物質対策の優先度決定の際の判断材料
      [3] 事業者による化学物質の自主的な管理の改善の促進
      [4] 国民への情報提供を通じての、化学物質の排出状況・管理状況に係る理解の増進
      [5] 化学物質に係る環境保全対策の効果・進捗状況の把握
     
    (2) 経緯
       PRTRは、既に、米国、オランダ等の欧米諸国において制度化されており、1996年(平成8年)2月には、OECD(経済協力開発機構)が加盟国に制度化を勧告しました。
     この勧告を受け、我が国では平成11年7月「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質管理促進法、PRTR法)が制定されました。
     PRTRが法制度化されたことから、環境省では、同制度の円滑な施行に向けて、排出量算出のためのマニュアルの整備や各種支援施策等の準備に資するとともにPRTR制度の試行を通じて制度の普及啓発を行うため、平成9年度から毎年実施してきたPRTRパイロット事業を、更に対象地域を拡大し、法に基づくPRTR制度に可能な限り実施内容を合わせ、平成12年度PRTRパイロット事業を経済産業省と共同で実施しました。
     
     
  2. 平成12年度PRTRパイロット事業の概要
     

     平成12年度パイロット事業の概要は以下のとおりです。
     
     ○ 対 象 地 域 30都道府県市(北海道、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、長野県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、兵庫県、広島県、山口県、徳島県、香川県、熊本県、札幌市、仙台市、川崎市、京都市、神戸市、北九州市)の全域又は一部の地域
    対象化学物質 PRTR法の第一種指定化学物質354物質
    対 象 事 業 所 PRTR法の対象事業所の要件を満たす事業所。ただし、従業員数については、常用雇用者数21人以上の事業所、16,149事業所。(法律では、事業者単位で21人以上)(参考:平成9年度は1,818事業所。平成10年度は2,040事業所。平成11年度は8,425事業所。)
    報 告 内 容 平成11年度1年間の対象化学物質の大気・水・土壌への排出量、廃棄物に含まれての移動量等。
    スケジュール 平成12年6~7月に調査票を送付、同年8~9月に回答を回収。
     
     パイロット事業では、事業者に排出・移動量の自主的な報告をお願いしたほか、実施の際の問題点などを把握するためのアンケートやヒアリング調査を行いました。また、農薬の散布、自動車のような移動発生源、家庭からの排出などについては、パイロット事業対象地域における「非点源」からの排出量として推計を行いました。
     
     
  3. 集計結果の概要
     
    (1) デ-タの報告状況
       全体で16,149事業所に対して調査票を発送し、7,499事業所(約46%)の事業所から回答が寄せられ、そのうち2,327事業所の事業所から「対象化学物質を取り扱っている」として、排出量・移動量の報告がありました。回答率は、平成11年度(約60%)と比較して低下しました。これは、過去にパイロット事業を行っていない地域が広く対象になり、小規模事業所を中心に周知徹底が必ずしも十分でなかったためと考えられます。  

    事業所からの報告状況

    (2) 報告又は推計された化学物質
       354の対象化学物質のうち、290物質について事業所(点源)から排出・移動の報告がありました。その他の発生源(非点源)について推計した化学物質と合わせて322物質(対象化学物質の約91%)について集計を行いました。
     
    (3) パイロット事業対象地域における排出量上位10物質の排出量とその発生源
     
    (4) 業種別の排出状況
       対象業種のうち製造業22業種、非製造業20業種から排出量・移動量の報告がありました。
     業種別にみると、排出量の多いトルエン、キシレン、ジクロロメタンはおおむねどの業種からも排出されていました。点源からの排出量全体の合計で見ると、化学系、金属系及び機械系製造業で全体の7割以上を占めています。
     
    (5) 非点源からの推計
       農薬散布、自動車などの移動発生源からの排出ガス、パイロット事業の対象外の業種からの排出、家庭・オフィスからの塗料、接着剤、防虫剤などの排出について、可能な範囲で推計を行いました。
     
    (6) 地域別の排出状況
       地域別の集計を見ると、点源からの報告物質数や排出量の多い物質については、地域により異なった傾向が見受けられました。しかし、トルエン、キシレン、p-ジクロロベンゼンについてはほとんどの地域で排出量が多いという結果が得られました。
     
    (7) 平成10年度及び平成11年度調査との比較
       平成10年度及び平成11年度調査と平成12年度調査とは対象地域、対象物質、報告要件等が異なることなどから単純に集計数値を比べることができません。そのため、これら3年間の調査において継続的に調査対象事業者となり、いずれも報告がなされた事業所(全276事業所)のみを抽出し、ほぼ同一の条件となるように対象化学物質を選定して比較をしました。平成12年度に点源からの排出量が多かった15物質について、3年間の排出量の推移は以下のとおりです。 

    「継続回答事業所」の環境排出量が多い物質の排出量の推移

     
     
  4. 事業者アンケート・ヒアリング結果の概要
     
    (1) 実施方法
       PRTRの実施に当たっての課題を整理するため、パイロット調査対象事業所に対し事業所報告の調査票等を送付する際に併せてアンケート用紙を送付し、排出量・移動量の報告と同時に回収する形でアンケート調査を実施しました。また、並行して調査実施自治体環境部局による事業者ヒアリングも行なわれました。
     
    (2) 調査結果
      1) アンケート調査
         アンケート調査は、パイロット事業の調査票の報告があった7,499事業所のうち約 73%に当たる5,448事業所から以下のような回答が寄せられました。
        対象事業所に該当するかどうかの判定
           業種、常用雇用者数、取扱量等の要件のうち、対象化学物質の取扱量が該当するかどうかの判断、特に製品中の対象物質の含有率の確認が困難であったとする回答が多かった。
        排出量等の算出作業
           算出マニュアルについては、業界団体のマニュアルを使用した事業所も見られたが、多くの事業所が国で作成した「PRTR排出量等算出マニュアル」を使用していると回答した。その一方で、その内容において昨年度同様「分かりにくい」、「分からない」といった指摘を受けた部分があった。
        作業の負担感
           平成11年度のパイロット事業よりも対象物質数が増加したことから「重くなった」と回答した割合が昨年度より増加した。その一方で継続実施により前年度のデータが利用できた、PRTRの全体像が把握できていた等のことから負担が「軽くなった」と回答した事業所もあった。
        支援方策
           支援方策として「算出マニュアルの充実」「化学物質管理マニュアルの整備」「化学物質の有害性等のデータベースの整備」等に対する支援を求める回答が多くあった。
        PRTR法の理解状況
          何らかの形で、PRTR法又はPRTR制度の義務化について聞いたことがあるとする事業所は6割を超えている。PRTR法の認知度は、「良く理解している」と回答がなされたのが約2割、一方、「何も知らなかった」と回答がなされたのが約2割であり、昨年度と同様の傾向であった。 

    PRTR法の理解状況

      
       2) ヒアリング調査
      ヒアリング調査は、報告がなされた事業所、報告がなされなかった事業所を含めて調査対象となった事業所から適宜抽出(627事業所)して調査実施自治体環境部局により実施しました。この調査でもアンケート調査同様に「算出マニュアルの充実」「MSDS制度の遵守」等の積極的な要望が多く寄せられる一方で、事業所あるいは事業者、更には業界団体によってPRTR法への対応にかなり温度差があることが明らかになりました。
     
     
  5. PRTR実施に当たっての課題
     今回のパイロット事業の実施を通じ多くの課題が明らかになりました。特に、アンケート調査、ヒアリング調査で明らかになった課題を改善していく必要があります。具体的な課題としては、以下のような点があげられます。
     ○ 国においては、PRTR法に基づく届出が円滑に実施されるよう、より一層のPRTR法の周知、特に小規模事業者への周知が必要である。また、事業者の実際の算定作業に資する支援が必要であり、より分かりやすい算出マニュアルへの改訂や、業界団体と協力しての業種別マニュアルの整備が望まれている。
     ○ 各自治体においては、PRTR法による届出が漏れなくなされるよう対象事業者の把握に努めるとともに、事業者に対する支援措置として説明会の開催や技術的な相談窓口の設置が望まれる。また、届出データの精度向上のための異常値チェック方法を確立することが必要である。
     ○ 事業者においては、PRTR法の目的や意義を十分理解し、排出量・移動量の把握のための体制整備を進めた上で届出を行う必要がある。
     
     
  6. 今後の予定
     平成13年度も平成12年度と同様、23府県・6政令指定都市においてパイロット事業を進めています。
     なお、PRTR制度の円滑な導入を目的としたパイロット事業は平成13年度で終了し、平成14年4月からは法に基づく届出が開始されます。
    (参考) 平成13年度パイロット事業実施自治体]
      青森県、栃木県、群馬県、埼玉県、福井県、山梨県、静岡県、滋賀県、大阪府、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県、千葉市、横浜市、名古屋市、大阪市、広島市、福岡市
     
[環境省連絡先]
_  環境省環境保健部環境安全課 〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2
  Tel: 03(5521)8260  Fax: 03(3580)3596  e-mail: ehs@env.go.jp
  ホームページ: https://www.env.go.jp/chemi/prtr/risk0.html
 
[自治体連絡先]
   各自治体PRTR法担当窓口まで

添付資料

連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
課  長:安 達 一 彦(6350)
 専門官:長 坂 雄 一(6360)
 担  当:坪 井 久 宣(6358)