報道発表資料

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2001年08月08日
  • 地球環境

「地球温暖化防止のための税の論点」の公表について

環境省では、京都議定書による温室効果ガスの6%削減目標を達成するための手法の一つとして、環境税(以下「温暖化対策税」という。化石燃料中の炭素含有量に応じた税等を指す。)の導入について検討を行っているところ。
 昨年度は、「地球温暖化防止のための税の在り方検討会(座長:飯野靖四 慶應義塾大学経済学部教授)」を設置し、昨年11月の第1回会合以来、4回の会合を開催した。この度、この検討結果をまとめた報告書である「地球温暖化防止のための税の論点」を公表する。
 本報告書は、[1]温暖化対策税の導入に当たって検討すべき8つの論点の整理とその検討状況の解説(いわゆる「Q&A」)、[2]諸外国における温暖化対策税の導入状況の紹介、[3]市民に対するアンケート結果 から構成されている。
 本報告書を広く普及することにより、温暖化対策税に関する環境保全効果や経済影響に係る疑問や不安を緩和し、国民・事業者等の理解と協力を得たいと考えている。
 また、今回の作業を通じて、温暖化対策税に係る論点は相当整理されてきており、今後は、本格的に温暖化対策税の具体的な仕組みの検討を進めるべきと考えている。
報告書の概要
1. 論 点

 本報告書では、温暖化対策税を導入するに際しての論点を8つ抽出し、我が国の状況や諸外国の先進事例を交え、そのポイントを整理した。
 
[1]温暖化対策税の趣旨
   :温暖化対策税は、民生・運輸部門も含めた排出部門を広く対象範囲とし、その削減努力を促すように設計することが可能であり、また、排出量に応じた形で税負担が行われるという意味での公平性を確保できる。また、市場原理が機能することにより、二酸化炭素(CO2)排出削減コストが最小化されるなどのメリットがある。
 
[2]温暖化対策税の環境保全効果
   :国内での温暖化対策税導入による環境保全効果の数量モデル試算や、欧州諸国での税導入の事後評価結果を見ても、温暖化対策税の導入によってCO2の排出削減に一定の効果があるとの結果が得られている。さらに、税と国際排出量取引、CO2排出削減技術・設備導入のための補助金などの組み合わせにより、低率(炭素トン当たり3千円程度、ガソリンに換算すると約2円/リットル程度)でも環境面での大きな効果(2010年に1990年比2%削減)が期待される可能性があり、これにより社会全体を温暖化防止の取組みへと促すことができる。言い換えると、社会全体で同じコストを支払うとした場合、規制などの手段より、より大きな排出削減が期待できる。
 
[3]経済への影響
   :数量モデルを用いた試算によると、炭素トン当たり1万3千円~3万5千円程度の炭素税を導入した場合の2010年時点でのGDPの損失は、税を導入しないケースと比べて0.06~0.72%にとどまると推計されている。さらに、CO2排出削減技術・設備導入のための補助金、国際排出量取引など他の政策手法の組み合わせにより、経済への影響をさらに軽減できると見込まれる。
 
[4]物価への影響
   :温暖化対策税を導入することによるエネルギー価格への影響は、税率を低く抑える等税の設計しだいで比較的小さく抑えることが可能である。なお、諸外国では、低所得者への配慮を行っている例も見られる。
 
[5]国際競争力への影響
   :温暖化対策税の導入により、エネルギー多消費型産業において、国際競争力への何らかの影響は見込まれる。しかし、税収の還元方法の工夫などにより、環境保全効果が高く、かつ経済的に大きなマイナスの効果をもたらさない税の設計が可能である。なお、諸外国では、そのような観点から産業部門への税の減免等の配慮を行っている例が見られる。
 
[6]炭素リーケージ
   :これまで行われたシミュレーション分析によると、炭素リーケージ(自国で排出を制約することにより途上国での排出増加を引き起こすこと)の程度は低く、自国の削減努力を無意味にするほどのものではないと推計されている。
 
[7]既存エネルギー関連諸税との関係
   :我が国には化石燃料に課税するエネルギー関連諸税が既に存在しており、温暖化対策税の導入を考える上でそれらとの関係の整理が重要である。既存エネルギー関連諸税の役割、税収の使途の意義等を踏まえた上で、既存エネルギー関連諸税のグリーン化の可能性も含めて温暖化対策税の課税対象や税率を検討する必要がある。
 
[8]税収の使途
   :税収の使途は、CO2排出削減技術・設備導入のための補助金、一般財源化など、さまざまな用途が考えられ、それぞれの得失を綿密に検討する必要がある。


 
2. 諸外国における温暖化対策税の概要

 地球温暖化対策のためのエネルギー課税は、1990年1月1日にフィンランドにおいて世界で初めて導入された炭素税に始まる。その後、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダなどを中心に導入が続いた。
 1990年代後半に入り、気候変動枠組条約京都議定書において先進各国に対する温室効果ガス削減目標が決定されたこと等を受け、EU主要国であるドイツ、イタリア、イギリスにおいて、CO2排出抑制を目的とする税が導入された。スイスにおいても、2005年を目途に導入される予定である。
 
[1]温暖化対策税導入の手法
   :温暖化対策税導入の手法としては、既存の税制とは別に新たに温暖化対策税を導入する方法(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、イギリス、スイス、オランダ[エネルギー規制税]、ドイツ[電力税])、既存の税制に税率を上乗せする方法(ドイツ[石油税])、既存のエネルギー税の課税標準に温暖化対策の視点を組み込むケース(イタリア)がある。
 
[2]納税義務者
   :最終消費者へ燃料等を供給する者が納税義務者である場合が多い(フィンランド、オランダ、ドイツ等)。そして、納税者が価格転嫁して実質的には最終消費者が費用負担する方法をとっている例もある(ドイツ)。
 
[3]対象範囲と産業部門に対する免除・軽減措置
   :比較的低い税率で広い範囲に適用されるもの(フィンランド、オランダ[一般燃料税])と、ターゲットを絞って適用されるもの(オランダ[エネルギー規制税]、イギリス等)とがある。産業部門(特にエネルギー多消費型産業)に対する免除・軽減措置は、いずれの国においても何らかの措置が用意されており、デンマーク、イギリス、スイスでは、CO2の排出削減に係る目標を決める協定を政府と取り交わすことにより税が減免されるメカニズムが導入されている。
 
[4]課税標準
   :課税標準は、課税対象の「炭素含有量」に比例する税率を設定する炭素税の場合(フィンランド等)、「炭素+エネルギー要素」に依存する場合(オランダ)、「エネルギー要素」に依存する場合(イギリス)がある。ノルウェー及びドイツについては、必ずしも炭素含有量等に依存する税率が設定されているわけではない
 
[5]税収の使途
   :一般財源に組み込まれるものが多いが、ドイツ、イタリア、イギリス等では一部が環境目的の用途に充てられている。デンマーク(産業部門)、オランダ[エネルギー規制税]、スイスについては、税収は課税対象部門に還元させることとしている。また、他の税や社会保険料等を減じて、税収中立としている例が多い。


 
3. 国内アンケート調査結果

 本アンケート調査は、国民一人ひとりの生活行動に起因する地球温暖化問題の解決に向けた経済的手法のあり方を検討することを目的として、特に温暖化対策税の導入に関する国民の意見並びに温暖化対策税のアナウンスメント効果を把握するために行ったものである。調査は、平成13年1月~2月の間に、無作為に抽出した全国2,000名の世帯主を対象として実施した。回収数は755名である。
 
[1] 温暖化対策税導入に対する考え方
   :導入賛成派(「賛成」+「どちらかというと賛成」)55.5%に対し、導入反対派(「反対」+「どちらかというと反対」)は38.5%。反対の理由は「税収の使途が不明」、「家計の負担が重くなる」など。
 
[2] 税収の使途
   :温暖化対策税の望ましい税収の使途は、導入賛成派の66.6%が「環境保全対策予算として活用」することを希望。導入反対派のうち43.3%が「他の税(所得税、消費税、燃料にかかる税等)を減税し、その補填財源として活用」するならば税導入に賛成。
 
[3] 妥当とする税率
   :温暖化対策税の妥当とする税率は、導入賛成派の39.4%が「炭素1kg当たり約10円の課税」と回答(約10円~約100円の範囲で58.2%に達する。)。
 導入反対派のうち27.5%は「どのような税率でも反対」であるが、26.5%は税率が「炭素1kg当たり約3円の課税」ならば税導入に賛成。
 
[4] 温暖化対策税が導入された場合の対処(アナウンスメント効果)
   :各エネルギーについて料金が2%以上上昇した場合、大半が購入・使用量を減らすように対処。2%よりも10%の上昇率の方で、また、税額がレシートなどに明記されない場合よりも明記される場合の方で、より多くの者が購入・使用量削減に取り組む傾向が見られる。
 

くわしくはこちら(地球環境局報告書)

添付資料

連絡先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
課 長 :竹内 恒夫 (6770)
補 佐 :熊倉 基之 (6781)