報道発表資料

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2001年03月05日
  • 地球環境

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会第6回会合の結果について

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会第6回会合が、2月28日(水)から3月3日(土)までガーナ・アクラにおいて開催された。
 会合においては、IPCC第3次評価報告書・第3作業部会報告書の政策決定者向け要約(Summary
for Policymakers)の審議・採択及び第3作業部会報告書本体の受諾が行われた。
 
 今回採択された報告書は、気候変化の緩和対策について、その科学的、技術的、環境的、経済的、社会的側面についての評価等をとりまとめたものである。報告書では、気候変化の緩和対策について、技術的対策のみならず、京都議定書に基づく対策を講じた場合の社会的経済的な影響等を含め、経済学を始めとしてその他の社会科学を幅広く含めた総合的な評価を行っている。
 
 今後、本年4月にケニア・ナイロビ市で開催予定のIPCC第17回総会で、3つの作業グループの評価報告書の承認がなされ、最終的に9月のIPCC第18回総会(ロンドン)において、3つの報告書を取りまとめた統合報告書が審議・採択される予定となっている。
 環境省としては、今後とも地球温暖化問題に関わる国際的な検討に積極的に参画・貢献することとしている。

I.IPCC第3作業部会第6回会合の概要
 

開催月日 平成13年2月28日(水)から3月3日(土)まで4日間
開催場所 アクラ(ガーナ)
出 席 者 ワトソンIPCC議長、メッツ本会合共同議長、デビッドソン本会合共同議長、各国代表など、総計約150人が出席。我が国からは、谷口IPCC副議長、重枝経済産業省大臣官房参事官、小野環境省研究調査室室長補佐などが出席した。

 
 
II.会議の内容
 

1. IPCC第3次評価報告書第3作業部会報告書について
   IPCC第3次評価報告書は、地球温暖化問題全般に関する世界の最新の科学的知見をとりまとめたものであり、気候変動予測を扱う第1作業部会報告書、温暖化の影響・適応を扱う第2作業部会報告書、温暖化への対策・政治経済的側面の評価を扱う第3作業部会報告書及び統合報告書の4部構成となる。
 本報告書の執筆作業は各国政府や専門家の協力の下で進められ、このうちの第3作業部会報告書については、これまでに報告書本体と政策決定者向け要約(SPM:Summary for Policymakers)の2部構成よりなる最終報告書案が作成された。今回の会合では、SPMの審議・採択が行われ、併せて報告書本体が受諾された。
 
2. 主な内容
 
(1) 気候変化の緩和への挑戦
気候変化の緩和は、開発、公平性、持続可能性に関連するような幅広い社会・経済政策とトレンドに影響を受け、また影響を与えている。気候変化の緩和は、より幅広い社会的な目的と相まった場合、持続可能な発展の促進に役立つ可能性がある。
21世紀中において石油、石炭、天然ガスの枯渇によって炭素排出量が制限されることはない。ただし、既存の石油及び天然ガスの埋蔵量は限定されているため、21世紀中にエネルギー構成の変化が起きる可能性がある。
 
(2) 温室効果ガスの排出を制限または削減し、吸収を増大させる方策
技術面では大きな進展がみられており、これらを積み上げると全世界の排出レベルを2010~2020年において2000年の水準以下にできる潜在的可能性がある。例えば、風力発電や効率的なハイブリッドエンジン車の市場参入、燃料電池技術の進歩、CO2の地下貯蔵実証試験等が実施されている。ただし、これらの削減を実施するためには、実施のためのコスト、支援策、研究・開発の促進が必要である。また、これら結論は、種々の仮定と相当程度の不確実性を含んでいる。
 
排出削減のためのオプションとしては、天然ガス、コージェネレーション、バイオマス燃料発電、ゴミ発電、原子力発電などが挙げられている。
森林、農耕地その他の陸上生態系システムは、大きな緩和ポテンシャルを有している。これは必ずしも永続的なものではないが、炭素ストックの保全及びCO2の吸収により、他の対策をさらに開発し、実施する時間的猶予が得られる。生物的な緩和オプションの可能性は、2050年までにおおむね100GtC(累積)規模と推定され、この期間での化石燃料による排出量予測値の10~20%に相当する。このオプションは、適切に実施されれば、大気中のCO2削減に加え、生物多様性の保全、持続可能な土地管理、地方における雇用等の社会的・経済的・環境的な便益を併せ持つ可能性がある。一方、実施方法が不適切な場合、生物多様性の喪失、共同体の崩壊、地下水汚染等を引き起こす可能性もある。
大部分のモデルによると、既知の技術的オプションにより、例えば、おおむね100年後には大気中のCO2濃度を450、550ppmあるいはそれ以下で安定化できる可能性がある。ただし、その実施には関連する社会経済的及び制度的な変革が必要となる。
 
(3) 緩和行動のコストと補足的便益
ノーリグレット(後悔しない)方策(すなわち、気候変化の緩和を除く、エネルギーコストの削減等の利益が社会的なコストと等しいか上回るような方策)をどの程度活用できるかによって、温室効果ガス排出を、正味の社会的コストをかけずに制限することが可能である。
京都議定書実施の推計コストは、研究により、また地域により異なっており、京都メカニズムの活用等に関する仮定の置き方に大きく依存する。国際的エネルギー・経済モデルを用いた研究によると、次のようなGDPへの影響が示唆されている。
 
[附属書II諸国(先進国)]
 世界的な研究の大半において、排出量取引が行われない場合、2010年におけるGDPの損失をそれぞれの附属書 II地域で約0.2~2%と予測している。排出量取引が自由に行われる場合、2010年における損失は、GDPの0.1~1.1%と予測されている。これらの研究には、広範囲な仮定条件が含まれており、また、個別の国・地域においては、予測値の幅がさらに大きくなる可能性がある。
 全地球規模のモデル研究によると、京都議定書の削減目標を達成するための国内での限界削減コストは、排出量取引なしの場合では約20~600米ドル/tC、附属書B諸国間の排出量取引ありの場合、約15~150米ドル/tCと報告されている。
[経済移行国]
 大部分の国において、GDPへの影響は、無視できる程度から数%の増加までの幅がある。一部の国においては、エネルギー効率が劇的に向上し、また不況が継続するという仮定のもとで、割当量が推定排出量を上回る可能性がある。
長期的な費用対効果の研究によると、安定化の濃度レベルが750ppmから550ppmまでの間はコストの上昇は緩やかであるが、550ppmから450ppmの間で大幅なコストの上昇が起きる。ただし、上記の研究においては、炭素吸収、CO2以外の温室効果ガス等の影響は考慮されていない。
 
(4) 気候変化の緩和方策
温室効果ガスの緩和方策を成功裡に実施するには、多くの技術的、経済的、政治的、文化的、社会的、行動上、制度上の障害を克服する必要がある。
気候変化に対する各国の総合的政策手法に含まれる可能性のあるものには、排出・炭素・エネルギー税、取引可能または取引不可能な排出枠、助成の供与または廃止、デポジット制度、技術または実施基準、エネルギーミックス、製品の禁止、自主協定、政府の投融資、研究開発援助等がある。
気候政策をそれ以外の目的の国内政策と統合し、長期的な社会的・技術的変化の達成に向けた、幅広い移行戦略として再構築することによって、気候変化緩和の効果を増すことができる。
国際的な協調活動は、緩和コストの低減を助け、競争力に関する懸念、国際的な貿易ルールへの抵触の可能性、カーボンリーケージに対応する上で重要である。これには、京都議定書に基づく排出量取引(ET)、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)に加え、協調的な排出・炭素・エネルギー税、技術・製品基準、産業界との自主協定、資金や技術の直接的な移転等が含まれる。
本報告書は、排出緩和、技術開発、科学的な不確実性の低減などの行動を早期に実施することにより、温室効果ガスの大気濃度安定化へ向けてより柔軟な取組が可能となるという第2次評価報告書の結論を再確認している。
国際的な枠組みにおける環境上の有効性、気候政策の費用効率性、合意の公平性の3つは相互に密接に関連しており、枠組みの構築に当たっては、効率性と公平性の両方を向上させるように設計することが重要である。国際的な枠組みに関する共同体制の構築に関する文献によると、適切な努力分担とインセンティブの付与を通じて、気候変化に関する枠組みへの参加をより魅力あるものにするかという点を含め、これらの目的を達成するためのいくつかの戦略が提示されている。
 
(5) 知識のギャップ
前回の評価に比べ、気候変化緩和の科学・技術・環境・経済・社会的側面において進歩がみられた。将来予測を強化し、不確実性を減少させるため、途上国も含め、さらなる研究が必要とされている。現在の知見と政策決定者のニーズのギャップを縮めるために優先的に取り組むべき課題は次のとおりである。
 
  • 技術的・社会的な改革オプションの地域別、国別、部門別ポテンシャルのさらなる探求
  • すべての国における気候変化の緩和に関係する経済的、社会的、制度的な問題
  • 特に結果の比較可能性に留意した、緩和施策の潜在的可能性とそのコストの分析手法
  • 気候緩和オプションの、開発、持続可能性、公平性の観点からの評価

 
III.今後の予定

 
 今後、IPCC第17回総会(4月4日~6日、ケニア・ナイロビ)において、第1~第3作業部会の3つの評価報告書が最終的に承認される予定となっている。
 さらに、統合報告書については、今後、執筆作業が進められ、IPCC第18回総会(9月24日~29日、英国・ロンドン)において審議・採択される予定となっている。

連絡先
環境省地球環境局総務課研究調査室
室 長: 木村祐二(内線6730)
 補 佐: 小野  洋(内線6731)
 担 当: 倉谷英和(内線6734)