報道発表資料

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1999年11月25日

平成11年度土壌中ダイオキシン類の吸収率調査結果に関する中間報告

環境庁では、土壌中のダイオキシン類の直接摂取による人の健康影響を評価するに当たって最も重要な要素の一つである、土壌中ダイオキシン類を経口摂取した場合の吸収率(生物学的利用率)に関する動物(ラット)試験を実施していたが、このたび中間報告を取りまとめた。
 我が国の代表的な2種類の土壌(関東地域、関西地域)を用いた試験の結果、土壌中のダイオキシン類の吸収率は4~6%であった。           
 なお、中央環境審議会答申案として提案されている土壌中ダイオキシン類の環境基準値 1,000 pg-TEQ/g(=1ng-TEQ/g)の策定に当たっては諸外国のデータをもとに最も妥当性の高い推定値として25%を用いている。
1.調査内容

 (1) 目的

 土壌中ダイオキシン類を経口摂取した場合の吸収率(生物学的利用率)については、国内での実証データがないことから、現在、中央環境審議会答申案として提案されている土壌中ダイオキシン類の環境基準値 1,000 pg-TEQ/g(= 1 ng-TEQ/g)の策定に当たっては、諸外国の文献値をもとに吸収率を推定し、土壌中ダイオキシン類の人への影響を評価している。

 土壌中ダイオキシン類の吸収率は、諸外国の動物試験においても、用いられる土壌の種類によって10~40%と大きく異なること、また、曝露リスクの評価に大きな影響を及ぼすことから、我が国の土壌を用いた調査を実施し、土壌中のダイオキシン類の吸収率を明らかにすることを目的とする。

 (2) 試験方法

 国内の代表的な2種類の土壌(関東地域、関西地域)に、放射性同位元素で標識した2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-パラ-ジオキシン(14C-TCDD)を添加し、25 ℃ 暗所下で24 ~ 72 時間静置した後、ラットに6μg/kg(体重)経口投与した。

 投与後、一定時間後にラット体内の放射能を測定し、土壌中ダイオキシン類の吸収率を求めた。

 また、海外データとの整合性を比較するための対照試験として、14C-TCDD をコーンオイルに溶解し投与し、同様に吸収率を求めた。

2.試験結果

 (1) 土壌種、土壌量別のダイオキシン類の吸収率( 24 h )

 

土壌種

茨城土壌(有機物含有率 5.4%)

大阪土壌(有機物含有率 0.76%)

投与土壌量

200 mg  800 mg 5000 mg  200 mg  800 mg  5000 mg 

吸収率

6%  4% 6%  6% 5%   4% 
 *:土壌を水に懸濁して投与した。また、投与土壌量はラットの体重1kg当たりの量。

  投与後24時間目の体内濃度から、いずれの土壌も、土壌投与量に関係なく、土壌中  2,3,7,8-TCDDの吸収率は4~6%であった。

 (2) 欧米の試験結果との比較

 

投与24時間後の
吸収率

投与7日後の
残存率

コーンオイル溶液
投与による吸収率

今回の試験 

4~6 %

2 %   

53 %  

 Poiger らの試験

16~24 % 

36.7 %*1 

 Lucier らの試験

   -   

(6~15%)*2 

(60 %)*2 

 Shu らの試験  

40~60 % 

*1 50%エタノール溶液として投与
*2 投与6日後の肝臓中濃度から推定
 

 今回我が国の土壌を用いて実施した試験では、海外の文献値に比べて低い吸収率となった。これは、日本と欧米の土壌の性状の違いによるものと考えられる。

 なお、対照群として実施した 14C-TCDD をコーンオイルに溶解して経口投与した試験では、吸収率は 53% であり、海外の同様の試験結果とほぼ同等であった。

3.考察

 現在提案されている中央環境審議会答申案である土壌中ダイオキシン類の環境基準1,000 pg-TEQ/g(= 1 ng-TEQ/g)の策定に当たっては、海外の文献値をもとに最も妥当性の高い推定値として吸収率を25%としている。今回の我が国の土壌を用いた実測試験の結果は4~6%であり、これは推定値の約1/6~1/4に当たることから、環境基準案は安全サイドに立った設定であると考えられる。

 今後、14C-TCDD を土壌に添加後、一定期間経過後に被験動物に投与し、吸収率の変化を更に調査することとしている。

連絡先
環境庁水質保全局土壌農薬課
課 長 :西尾 健  (内線6650)
 補 佐 :福盛田共義(内線6652)
 係 長 :都築 伸幸 (内線6654)