報道発表資料

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2001年01月22日
  • 地球環境

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会第8回会合の結果について

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会第8回会合が、1月17日(水)から1月20日(土)まで中華人民共和国・上海市において開催された。
 会合においては、IPCC第3次評価報告書第1作業部会報告書の政策決定者向け要約(Summary for Policymakers)の審議・採択及び第1作業部会報告書本体の受諾が行われた。

 今回採択された報告書は、気候系についての理解の現状と、将来の気候予測についてまとめたものである。報告書では、過去50年間に観測された温暖化の大部分が人間活動に起因しているという、新たな、かつより確実な証拠が得られたこと、21世紀中に全球平均表面気温が、1.4~5.8℃(第2次評価報告書では1.0~3.5℃)上昇すると予測されること等が指摘されている。

 今後、第2、第3作業部会報告書についてもそれぞれ審議・採択が行われ、最終的には本年4月にケニア・ナイロビ市で開催予定のIPCC第17回総会で、これら3つの報告書の最終的な承認がなされる予定である。環境省としては、今後とも地球温暖化問題に関わる国際的な検討に積極的に参画・貢献することとしている。

I.IPCC第1作業部会第8回会合の概要

開催月日 平成13年1月17日(水)から1月20日(土)まで4日間

開催場所 上海(中華人民共和国)

出席者 ワトソンIPCC議長、ディン本会合共同議長、ホートン本会合共同議長、各国代表など、総計約200人が出席。我が国からは、近藤気象庁気象研究所気候研究部長をはじめ、谷口IPCC副議長などが出席した。

II.会議の内容

1.IPCC第3次評価報告書第1作業部会報告書について

 IPCC第3次評価報告書は、地球温暖化問題全般に関する世界の最新の科学的知見をとりまとめたものであり、気候変動予測を扱う第1作業部会報告書、温暖化の影響・適応を扱う第2作業部会報告書、温暖化への対策・政治経済的側面を扱う第3作業部会報告書及び統合報告書の4部構成となる。
 本報告書の執筆作業は各国政府や専門家の協力の下で進められ、このうちの第1作業部会報告書については、これまでに報告書本体と政策決定者用要旨(SPM:SummaryforPolicymakers)の2部構成よりなる最終報告書案が作成された。今回の会合では、SPMの審議・採択が行われ、併せて報告書本体が受諾された。
 本報告書は、気候系についての理解の現状と、将来の気候予測についてまとめており、今後の地球温暖化防止に関する政策の検討に当たっての多くの有益な情報を含むものとなっている。
 その主な内容は以下のとおりである。

(1)これまでに観測されてきた気候の変化
[1] 気温
全球表面気温は、第2次評価報告書における評価より約0.15℃大きく、1861年以降、0.6±0.2℃上昇した。これは主に1995年から2000年までが相対的に高温であったためである。
新たな分析によると、20世紀における温暖化の程度は、北半球では過去1000年のいかなる世紀と比べても最も著しい可能性が高い。
1950年から1993年の間、陸上における夜間の日最低気温は、平均して約0.2℃/10年の割合で上昇した。この上昇率は、日中の日最高気温の上昇率(約0.1℃/10年)の約2倍に相当する。
[2] 積雪面積・海氷
衛星観測データによると、1960年代以降、積雪面積は約10%減少してきており、地表観測によると、20世紀中に北半球中~高緯度の湖・河川の年間氷結期間は、約2週間短くなった。
北半球の春・夏季の海氷面積は1950年代以降、約10~15%減少した。また、ここ数十年間に、晩夏から初秋における北極の海氷の厚さが、約40%減少した可能性が高い。
[3] 海面水位
20世紀中の全球平均海面の上昇は0.1~0.2mであった。
[4] その他
20世紀において、北半球中~高緯度のほとんどの大陸における降水量は、10年間に0.5~1%の割合で増加した可能性が高い。また、熱帯の陸域における降雨量は、10年間に0.2~0.3%の割合で増加したことが確実である。一方、大部分の北半球亜熱帯の陸域における降雨量は、10年間に0.3%の割合で減少した可能性が高い。
20世紀の後半、北半球中~高緯度では、極端な降水現象の頻度が2~4%増加してきている可能性が高い。
エルニーニョ現象は、過去100年間に比べ1970年代中頃以降、より頻繁かつ長期的かつ強力になってきている。

(2)温室効果ガス・エアロゾル
[1] 温室効果ガス
二酸化炭素
1750年以降、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は31%増加した。現在の増加率は、少なくとも過去2万年では前例のない高い値である。
過去20年間における大気中CO2濃度増加の4分の3以上は化石燃料の燃焼によるものであり、残りの大部分は森林減少等の土地利用変化によるものである。
過去20年にわたる大気中CO2濃度の上昇率は年間約0.4%であった。
メタン
大気中のメタン(CH4)濃度は、1750年以降150%上昇し、現在も増加し続けている。濃度の年間増加率は、1980年代と比べ1990年代には減速し、かつその変動が大きくなってきている。
CH4排出の半分以上が、化石燃料の使用、畜牛、米作、埋立等の人為起源によるものである。
亜酸化窒素
大気中の亜酸化窒素(N2O)濃度は1750年以降、46ppb(17%)増加し、現在も増加し続けている。N2O排出の約3分の1が、農地土壌、畜牛、化学工業等の人為起源によるものである。
ハロカーボンガス
オゾン層を破壊し、温室効果ガスでもある多くのハロカーボンガスの大気中濃度は、1995年以降、モントリオール議定書の規制のもとでの排出削減の効果により、微増又は減少している。一方で、これらの代替物質や一部の化合物(例えば、パーフルオロカーボン(PFCs)や六フッ化硫黄(SF6))もまた温室効果ガスであり、それらの濃度は現在増加している。
放射強制力
1750年から2000年の間の温室効果ガス全体の増加による放射強制力は2.43Wm―2と見積もられる。それぞれの寄与は、CO2(1.46Wm―2)、CH4(0.48Wm―2)、ハロカーボンガス(0.34Wm―2)、N2O(0.15Wm―2)である。
[2] エアロゾル
第2次評価報告書以後、硫酸塩等個々のエアロゾルの直接的な役割についての理解が進んだが、依然として、人為起源のエアロゾル全体の直接的な効果やその経時的な生成過程の定量化については、上記に掲げた温室効果ガスに比べて信頼度はかなり低い。
エアロゾルは、雲に対する影響を通じて、間接的な負の放射強制力も有することがより明らかになってきている。
[3] 自然要因
2つの主要な自然要因(太陽変動と火山性エアロゾル)による放射強制力の変化は、過去20年、そしておそらく40年間は、全体として負であったと見積もられる。

(3)気候予測モデル
気候予測モデルの将来予測能力は進歩し続けており、自然起源及び人為起源の要因を考慮したシミュレーションにおいては、20世紀を通じて観測されている表面気温の広域的な変化を再現することができた。
気候予測のモデリングにおける最大の不確実性は、依然として雲の影響、及び雲と放射・エアロゾルの相互作用に起因している。

(4)地球温暖化に対する人為的影響の新たでより強い証拠
過去1000年間の気候データによると、過去100年間の温暖化傾向は異常であり、これが完全に自然起源の現象である可能性は極めて低い。
研究により、過去35~50年の気候データにおける人為的影響の証拠が見いだされている。さらに、温暖化に対する人為的寄与に関するモデル予測結果は、多くの場合において観測事実と一致している。
自然起源の要因のみに着目したモデルでは、20世紀後半の温暖化傾向を説明できない。
人為起源の硫酸塩エアロゾル及び自然要因についての不確実性にもかかわらず、過去50年間において、人為起源の温室効果ガスに起因する温暖化を見い出すことが可能である。
これら大部分の調査によると、温室効果ガス濃度の上昇による温暖化の増加率及び程度の推計値は、過去50年間にわたって、観測された温暖化と匹敵する、又はより大きい結果となっている。
新たな証拠に照らし、また依然として残る不確実性を考慮すると、過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効果ガス濃度の増加に起因している可能性が高い。

(5)将来予測
[1] 大気成分
温室効果ガス
化石燃料の燃焼によるCO2の排出は、21世紀の大気中CO2濃度のトレンドに対し明らかに支配的な影響を及ぼしている。シミュレーション結果によると、CO2濃度は、21世紀の終わりまでに540~970ppm(1790年における280ppmに対し、90~250%の増加)になると予測される。
土地利用変化による炭素の吸収は大気のCO2濃度に影響を及ぼし得る。仮に土地利用変化によって過去に放出された炭素全部が陸域生態系に蓄積されていたとすると、CO2濃度は40~70ppm減少する。
エアロゾル
人為的なエアロゾルについては、化石燃料の使用量及び大気汚染物質削減政策の内容によって、増加・減少両方の可能性がある。なお、自然起源のエアロゾルに関しては、気候変化に伴い増加すると予測されている。
放射強制力
温室効果ガスによる放射強制力の全球平均は、21世紀を通じて増加し続けると予測される。
[2] 気温
1990年から2100年までの全球平均表面気温の上昇は1.4~5.8℃であり、第2次評価報告書の1.0~3.5℃よりも大きいと予測される。この予測値の上方修正と予測範囲の拡大は、主として今回採用されたシナリオで、冷却効果を持つ二酸化硫黄の予測排出量が減少したためである。予測された温暖化の割合は、20世紀中に観測された気温変化よりも著しく大きい。
近年の全球モデルシミュレーションによると、ほとんどすべての陸地は、特に北半球高緯度の寒候期において、全球平均よりも急速に温暖化することがほぼ確実である。北アメリカ北部や北~中央アジアでこの傾向が最も顕著で、全球平均変化より40%以上急速に温暖化する。一方、夏季の南~東南アジアや冬季の南アメリカ南部では全球平均変化よりも温暖化の速度が小さい。
[3] 降水量
全球平均の水蒸気と降水量は増加すると予測される。近年の全球モデルシミュレーションによれば、冬季の北半球中~高緯度及び南極で降水量が増加する。
[4] 異常気象現象
異常気象現象については、21世紀中に、最高気温及び最低気温の上昇、大部分の地域における降水強度の増加、大部分の中緯度内陸部における夏期の渇水、一部の地域における熱帯低気圧の最大風力及び降水強度の増加等が起きる可能性が高い。
[5] エルニーニョ
現時点の予測においては、今後100年間においてエルニーニョの程度は、ほとんど変化しない、又は若干強くなると予測される。それにもかかわらず、温暖化は、多くの地域においてエルニーニョ現象に伴って発生する干ばつと豪雨の激化をもたらす可能性が強い。
[6] モンスーン
温暖化は、アジアにおける夏期のモンスーン降雨の変動の激化をもたらす可能性が高い。
[7] 氷河と氷床
北半球の積雪と海氷範囲がさらに減少すると予測される。また、氷河や氷原は、21世紀にわたって幅広く後退を続けると予測される。
南極大陸西部の氷床の安定性が懸念されている。この点に関する理解は未だ不十分であるものの、21世紀中に、目立った海面上昇を引き起こすような氷床の消失が起きる可能性はきわめて小さいことが広く合意されている。
[8] 海面上昇
主として海水の熱膨張及び氷河や氷原の消失により、1990年から2100年の間に、全球平均海面上昇は0.09~0.88mと予測される。今回の評価において第2次評価報告書より大きな気温の変化が予測されたにもかかわらず、海面上昇は第2次評価報告書の0.13~0.94mよりも若干小さい値となっている。この原因は、主として氷河及び氷床からの寄与がより少ない改良されたモデルを使用したためである。
[9] 温暖化の長期的継続
CO2等の残留性が高い温室効果ガスの排出は、大気成分、放射強制力及び気候に長期的な影響を与える。例えばCO2排出から数世紀後においても、排出に伴う濃度上昇の約4分の1が大気中に残存する。
CO2濃度が安定した後も、全球平均表面気温の上昇と、海水の熱膨張による海面水位の上昇は、数百年間継続すると予測される。
氷床は、気候が安定した後数千年にわたって、温暖化に反応し続け、海面上昇に寄与する。気候モデルによると、グリーンランドにおける温暖化は全球平均の1~3倍であり、5.5℃の局所的な温暖化が1000年間継続した場合、グリーンランドの氷床溶解による海面上昇への寄与は約3mに及ぶ可能性が高い。
現在の氷力学モデルによると、今後1000年間に南極西部の氷床の溶解は、最大3m海面上昇に寄与する可能性がある。ただし、この結果はモデルに用いられた仮定条件に大きく左右される。

(6)今後必要な取組
[1] 観測及び気候データの復元
世界の多くの地域における観測ネットワークの拡充
気候研究に関する観測基盤の拡大
過去の気候データ復元作業の強化
温室効果ガス及びエアロゾル観測の地域的分布の拡大
[2] モデリング及び機構解明研究
放射強制力の変化をもたらすメカニズム及び要因に関する理解の向上
大気圏、生物圏、地殻・土壌圏及び海洋における物理的・生物地球化学的な未解明の重要なプロセスに関する理解の向上
気候予測の不確実性を定量化する手法の向上
気候変動、地域的気候変化及び異常現象に焦点を置いた全球及び地域気候モデルの統合的な階層構造の向上
物理的気候モデルと生物地球化学システムモデルとのより効率的なリンク

2.今後の予定

 今後、第2作業部会第6回会合(2月13日~16日、スイス・ジュネーブ)、第3作業部会第6回会合(2月28日~3月3日、ガーナ・アクラ)においてそれぞれ、第2、第3作業部会報告書SPMの審議・採択及び報告書本体の受諾が行われた後、IPCC第17回総会(4月4日~6日、ケニア・ナイロビ)において、これら3つの報告書が最終的に承認される予定となっている。
 さらに、統合報告書については、今後、執筆作業が進められ、IPCC第18回総会(9月24日~29日、英国・ロンドン)において審議・採択される予定となっている。

連絡先
環境省地球環境局総務課
研究調査室(03-3581-3351)
室長:木村 祐二(内線6743)
補佐:小野 洋(内線6746)
担当:永田 眞一(内線6747)