報道発表資料

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1998年06月12日

平成9年度ナホトカ号油流出事故による海域・海浜生物等への影響に関する調査の結果

ナホトカ号油流出事故による海域・海浜生物等への影響について、潮間帯生物、植生等を対象として平成9年度に実施した調査の報告書がまとまった。  調査結果の概要は次のとおり。

(1)海中公園地区では、生物への影響は見られなかった。
(2)国立・国定公園内等の岩礁性潮間帯では、調査した生物の活性の低下は特に見られなかった。
(3)植生については、重油の影響が認められるところがあった。
(4)全体の影響を把握するためには、生物の生活史全体を考慮した継続調査が特に必要である。

 なお、環境庁としてはこの報告書を踏まえ、平成10年度においても継続して 査を実施することとしている。
 調査報告書については、環境庁図書館並びに新潟県、石川県、福井県、京都府 兵庫県及び鳥取県の各自然保護担当課において閲覧することができる。

1.調査体制

 調査は、財団法人国立公園協会が環境庁からの委託等により実施。
 調査内容や今後のモニタリングの手法等について検討するため、海域生態系等の専門家から成る下記の検討委員会を同協会に設置。

北見 健彦 元新潟大学理学部附属臨海実験所
清末 忠人 鳥取女子短大非常勤講師
坂井 恵一 のと海洋ふれあいセンター普及課長
中原 紘之 京都大学農学部教授
藤原 秀一 (財)海中公園センター研究員
古池 博 石川県地域植物研究会会長
本庄 四郎 竹野スノーケルセンター海洋生物研究会
三谷 文夫 元福井県立大学生物資源学部教授
矢島 孝昭(座長) 金沢大学理学部教授
 
(五十音順)
2.調査の方法及び結果

(1)海中公園地区

  1) 調査対象地区
 新潟県、福井県、石川県、京都府、兵庫県の5府県にかけて合計5箇所の海中公園地 区で調査を実施した。
  2) 調査項目及び内容
     概況調査――┬――海岸線概況調査(目視観察、写真・ビデオ撮影)
           | 
           └――指標生物種調査(指標種(ヨメガカサガイ)の活性、方形枠によ
                      る種別個体数計数) 

     水中状況調査―――潜水調査(目視観察、写真・ビデオ撮影)       

     調査時期  平成9年6月~7月
  3) 調査結果
{1}

概況及び潜水調査

  • 海岸線の岩盤や転石の間に重油の残存は認められなかった。
  • 海底の岩盤や転石の間、海藻類等に重油の残存は認められなかった。
  • ヨメガカサガイ等のカサガイ類に活性度の低下は見られなかった。
{2} 評価 ・調査を実施した海中公園地区内では重油の残存は認められず、生物への影響は特に認められなかった。

(2)国立・国定公園等の主要な海岸

  1) 調査対象地区
  佐渡弥彦米山、能登半島、越前加賀海岸及び若狭湾の4国定公園並びに山陰海岸国立公園
  2)

調査項目及び内容

  概況調査  ――┬―潮間帯生物調査(指標種(ヨメガカサガイ)の活性等)
          | 
          ├―砂浜生物調査(指標種(スナガニ)巣穴計測等)
          | 
          └―植生調査(方形枠による調査) 
            
  特定植物群落等―――土壌サンプルを採取し、油分を分析 
  土壌サンプリング

  調査時期   平成9年6月、9月、平成10年2月
  3)

調査結果

(1) 潮間帯生物調査
(ア)

概況:

  • 調査は新潟県、石川県、福井県、京都府、兵庫県、鳥取県の6府県にかけて合計9地点で実施した。
  • 岩礁・転石海岸では、重油は波当たりの弱い場所の岩盤等に付着し、残存していた。
  • 調査地点全体で観察された種類数は、海藻で87種類、動物で52種類であった。
  • 活性の指標であるヨメガカサガイは、平成9年6月及び9月の調査では、調査した6地点のうち5地点において観察され、平成10年2月の調査では全地点で観察された。 また、剥離するかどうかによってヨメガカサガイの活性度を調べたところ、剥離した個体は見られず、活性度は100%であった。9月の調査では稚貝も認められた。
  • ホンダワラ類の主枝長を測定した結果、木ノ浦、安島の2地点において通常と異なり6月の主枝長より9月の主枝長が長い傾向が見られた。
(イ)

評価:

  • ヨメガカサガイ等の生息が確認され、活性度の低下も見られなかった。
  • ホンダワラ類の主枝長の季節変化に通常と異なるものが見られたが、その原因の一つ として、重油漂着時に主枝に油が付着し、その部分が枯死し流出した影響が残っていた と考えられる。通常、卵細胞は主枝先端部に形成されるため、主枝の枯死流出により卵 細胞の供給が阻害された可能性がある。この結果が与える群落等への影響については不明であるが、今後注目していく必要がある
(2) 砂浜生物調査
(ア)

概況:

  • 調査は石川県から鳥取県までの5府県にかけて合計6地点で実施した。
  • 砂浜域の残存重油は6月の時点では認められなかったが、9月、2月調査では一部砂浜で油塊が観察された。
  • 方形枠内の砂浜生物を採集したところ、6月及び9月調査での出現種類数は6種類、2月調査での種類数は3種類であった。総個体数は6月が612個体と最も多く、2月 が54個体で最も少なかったが、これは通常の季節変動であると考えられた。
(イ)

評価:

  • 貝類や節足動物、スナガニ等の砂浜生物への影響は特に見られなかった。
(3)

植生調査

(ア)

概況:

  • 調査は新潟県から鳥取県までの6府県にかけて合計13地点で実施した。
  • 重油は波当たりの弱い場所の岩盤等に付着し、残存していた。砂浜海岸では、各調査 地点で砂浜の表面や砂中に小さい油塊がみられた。9月の調査では、高潮線以下の岩石 に付着していた重油は著しい分解の過程にあり、変色がみられた。
  • ヨシ、ドロイ、シオクグ等の塩生植物の一部では、重油の影響を直接に受け、6月に 葉の変色、しおれが見られるものがあった。また、9月には植物体に枯れが見られる傾 向があった。
  • 油の除去作業に伴う重機の踏み跡、焼却跡は回復しつつあるが、元には戻っていなかった。

(イ)

評価:

  • 植物体の枯死や葉の部分的変色が、重油汚染を受けた植物体に起こっており、またその近傍の油汚染の度合いと並行しているものが認められた。したがって、一部の地域で は重油汚染による植物及び植生への影響が生じていると推定された。
  • 残存した重油が植生に対して今後どのような影響を与えるかを判断するためには、植生の季節相や対象種の生活史と重ね合わせた上で今後も継続的な調査が必要と考えられる。
(4)

土壌分析

  • 調査を行った13地点のうち8地点で油分が検出された。目視調査で残存重油が多い 調査地点では、油分含有量も多い傾向が見られた。特に、石川県のシャク崎では海岸全 体に重油が残存しており、油分含有量も6月で120,000mg/kgと高い値を示した。
  • 油分含有量は岩礁・転石海岸では、減少の傾向が見られた。
(5)

中・長期的モニタリング方針の検討

  • 生物への中・長期的な影響を正確に把握するためには、単年度では判定が困難であることから、平成10年度以降に更に中長期的なモニタリング調査を実施することが必要である。
  • 今後の調査に当たっては、現在なお重油の残存が見られる地域を調査箇所に選定し、また、海藻の成熟時期、植物の芽吹き、開花時期などに着目して継続調査を行うことが考えられる。

 (参考:関係府県自然保護担当課)
新潟県環境生活部環境企画課 025-285-5511(代表)
石川県環境安全部自然保護課 076-261-1111(代表)
福井県県民生活部自然保護課 0776-21-1111(代表)
京都府土木建築部公園緑地課 075-414-5272(直通)
企画環境部環境企画課 075-414-4706(直通)
兵庫県生活文化部環境局環境政策課 078-341-7711(代表)
鳥取県生活環境部景観自然課 0857-26-7111(代表)
連絡先
環境庁自然保護局計画課
課  長 :小林  光 (6430)
 担  当 :奥田、中島 (6434)

環境庁自然保護局国立公園課
課  長 :小野寺 浩 (6440)
 担  当 :牛場、則久 (6443)