報道発表資料

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1997年12月22日

「航空防除農薬環境影響評価検討会報告書」について

環境庁では「航空防除農薬環境影響評価検討会(座長:櫻井治彦 労働省産業医学総合研究所所長)」を設置し、航空防除農薬による周辺部の健康影響評価について検討を行ってきたが、今般、報告がとりまとめられた。
 報告では、まず、航空防除農薬による健康影響は亜急性の影響として評価すべきであるとした上で、使用量が多く、評価のための知見の集積が比較的十分な10農薬について、人の健康を保護する観点から気中濃度の評価を行う際の目安となる「気中濃度評価値」を設定した。
 設定された「気中濃度評価値」とこれまでに得られた航空散布後の各農薬の気中濃度の調査結果とを比較検討した結果、いずれの農薬についても散布後の平均気中濃度は「気中濃度評価値」を下回っており、現時点で特段問題となるような状況にはないと考えられた。
 ただし、一部の農薬で気中濃度の実測データの数が限られていること等から、環境庁としては、本報告を踏まえ、航空防除農薬による健康影響について、今後も引き続き知見の集積に努めることとしている。
1.経緯

 これまで、大気経由の農薬曝露が人の健康に与える影響については、必ずしも十分に評価されてこなかった。一方、航空防除後に大気中から農薬が検出される事例が報告され、航空防除農薬による健康影響に対して、散布地周辺住民の関心が高まっている。
 このため、環境庁では、昭和63年度より平成5年度まで「農薬環境動態・影響調査研究事業(大気中への拡散等に関する調査)」として、航空防除農薬による健康影響評価に関する情報を収集し、平成3年にはその一部をとりまとめて公表した。さらに平成6年度からは、航空防除農薬の気中濃度のモニタリング調査を実施してきたところである。
 これらの調査等を通じて得られた知見を踏まえ、航空防除農薬による散布地周辺住民の健康影響について現時点における評価を行うことを目的として、「航空防除農薬環境影響評価検討会」を平成8年9月以降9回にわたり開催し、今般、報告をとりまとめた(参考:検討会委員等)。

2.報告の概要
(1)航空防除農薬による健康影響評価の基本的考え方
 限定した地域で夏場を中心に年1~5回程度の頻度で実施され、曝露期間が短期間にとどまるという航空防除の実態を考慮すれば、航空防除農薬による健康影響は基本的に亜急性の影響として評価すべきである。また、一般環境中における航空防除農薬への曝露経路が、主として呼吸器を経由するものであることを考慮すれば、吸入による影響として評価できる。吸入曝露による毒性情報は限られているが、経口毒性試験の結果から一定の評価を行うことが可能と考えられる。
(2) 気中濃度評価値の設定
 航空防除農薬のうち、使用量が多く、かつ、評価のための知見の集積が比較的十分と考えられる10農薬について、亜急性経口毒性試験の最大無作用量(ヒトでの試験と動物での試験とがある場合には、ヒトでの試験における最大無作用量を優先)をもとに、航空防除農薬の気中濃度評価値を設定した(別紙)。
 気中濃度評価値は、人の健康を保護する観点から航空防除農薬による健康影響を評価する際の目安として、毒性試験成績等をもとに適切な安全幅を見込んで設定したものである。航空防除の際の平均気中濃度が気中濃度評価値以下であれば、人の健康に好ましくない影響が起きることはないと考えられる。気中濃度評価値は、安全と危険との明らかな境界を示すものではなく、航空防除農薬の気中濃度が短時間わずかにこの値を超えることがあっても、直ちに人の健康に影響があるというものではない。
(3) 個別農薬の気中濃度の評価
 気中濃度評価値を設定した10農薬について、これまでの測定で得られた気中濃度の評価を行った。
 これまでの調査の結果、大気中の農薬はおおむね5日以内に検出されなくなることから、各農薬の散布後5日間の散布区域内及び散布区域外それぞれの平均気中濃度を求め、それと気中濃度評価値とを比較することにより評価した。なお、これまでに収集された気中濃度の実測値(散布中の散布区域内は、通常人が活動していない地域であり、本来、作業環境として評価すべきものであることから除外した)と気中濃度評価値との比較も併せて行った。
 その結果、いずれの農薬についても散布後5日間の平均気中濃度は気中濃度評価値を下回っており、現在までに得られている知見に照らして、特段問題となるような状況にはないと考えられた。
 なお、ダイアジノン、フェニトロチオン(MEP)及びフェノブカルブ(BPMC)で、散布区域内において散布直後に気中濃度評価値を超える濃度が検出された事例が各1件見られた。しかし、いずれも気中濃度評価値を短時間(2.5~4時間)わずかに超過しただけであり、この間の各農薬の吸入量を1日呼吸量で除して得られる濃度は気中濃度評価値に比較して十分低いレベルにとどまっていることから、特に問題となるようなものではないと考えられた。
3.環境庁における今後の取組

 各農薬の気中濃度は、おおむね気中濃度評価値を下回っており、特段問題となるようなものはなかったが、今回評価を行った農薬のうち一部の農薬で、気中濃度の実測データの数が限られていることや、航空防除農薬の人の健康への影響について、現時点でなお評価が困難な要因が残されていること等、今後の調査・研究が必要な事項があることが明らかになったことから、環境庁としては、今後も引き続き必要な調査・研究を進め、より実態を反映した気中濃度評価値の設定に努める必要があると考えている。


 別 紙

気中濃度評価値一覧表
農   薬   名  気中濃度評価値 
(μg/m3*)
 ダイアジノン

 ピリダフェンチオン

 フェニトロチオン(MEP) 

 マラチオン

 フェノブカルブ(BPMC)

 トリシクラゾール

 フサライド

 ブプロフェジン

 フルトラニル

 メプロニル
1  

2  

10  

20  

30  

30  

200  

7  

100  

70  
 * 1μg(マイクログラム)は、100万分の1g
連絡先
環境庁水質保全局土壌農薬課
課  長 :西尾 健  (6650)
 補  佐 :有田 洋一(6651)
 専門官  :林 憲一  (6656)