報道発表資料

この記事を印刷
1997年12月20日

大久野島土壌等汚染処理対策(中間報告)について

1.環境庁においては、瀬戸内海国立公園大久野島(環境庁所管地)における砒素によって汚染された土壌等を、安全かつ適正に処理するため、平成8年度に大久野島土壌等汚染対策検討会を設置し、検討を行ってきたが、このほど同検討会から中間報告がなされた。

2.中間報告の主な内容は次の通り
 
(1)人の健康への影響に関する専門的検討によると、土壌由来によって人が体内に砒素を取り込む可能性のある量は、日常生活において食品や飲料水経由で体内に摂取される量と比較すると、微量でほぼ無視しうる量であった。また、高い汚染が認められる地点については、飛散防止や立入禁止の措置が講じられており、通常の野外レクリェーション等の利用については何ら問題もなく安全に利用できる。

(2)環境基準を大幅に超える北部砲台跡地等については、その汚染の状況から放置することなく、可及的速やかに処理対策を講じる必要がある。その場合の処理手法としては、技術的に確立されていることのほか経済性、工期などから土壌洗浄法等による処理が適当と考えられる。

3.環境庁では、検討会の中間報告を受け、部砲台跡地等の地点について、緊急に汚染土壌の処理対策を行うこととしており、そのための経費が平成9年度補正予算に計上される見込みである。
1.中間報告

  (別紙1のとおり)

2.環境庁の対応

 環境庁では、検討会の中間報告を受けて、北部砲台跡地等の地点について、土壌汚染による環境影響を防止するため、緊急に汚染土壌の処理対策を行うこととしており、そのための経費が平成9年度補正予算に計上される見込みである。

3.参考(調査結果)

  土壌調査(平成8年7月公表以後の調査)(別紙2のとおり)

(単位;mg/l)
調 査 区 分 地点数 試料数 超過数 超 過 範 囲 基 準 値
護岸付近 東・南側 20 200 27  0.011~0.15  0.01
西  側 14 140 56  0.011~22
元 理 材 置 場 25 25 25  0.019~3.1
(注) この他に既に土壌汚染が判明している北部砲台跡地等の汚染範囲を確認するための調査も実施
(別紙1)
平成9年12月
大久野島土壌等汚染対策検討会
大久野島土壌等処理対策について(中間報告)

 大久野島においては、昭和4年、陸軍により、毒ガス製造が開始され、第2次世界大戦を契機に生産が急増されたが、終戦と同時に、連合軍の手により、海洋投棄、薬品処理、焼却などにより毒物の処理が行われた。  その後、昭和35年、瀬戸内海国立公園の集団施設地区に指定され、昭和37年から国民休暇村としての整備が行われ、以来、海水浴や野外スポーツの場として多くの利用者に親しまれてきた。
 しかるに、広島市内の大久野島由来の毒ガス原料漏出問題を契機として、平成7年、環境庁が実施した環境調査によって、島内の土壌、水質から環境基準を超える砒素が検出された。汚染原因としては、戦後連合軍が行った毒ガス関連施設の焼却処理等により分解された砒素が残留していることが主に考えられる。
 大久野島土壌等汚染対策検討会(以下「検討会」という。)は、平成8年度、砒素によって汚染された土壌等を安全かつ適正に処理するため、科学的、技術的な検討を行うために設置されたものである。検討会では、調査結果をもとに、解析、検討を行いつつ、一方では、必要な詳細調査等を並行して実施し、その調査結果を検討にフィードバックするということを繰り返しながら専門的検討を重ねてきたところである。これまでの調査、検討の積み重ねによって島内の砒素汚染の状況がおおむね把握できたと考えられる状況となっている。
 検討会では、大久野島の特性等を踏まえ、汚染の状況に応じた処理対策について検討を進めており、検討は、なおその途上にあるが、高い濃度の汚染が認められ、対策を急ぐ必要がある一部の地点については、全体的な検討の終了を待たず、速やかに対策を講ずべきとの考え方にたって、取り急ぎ中間報告を行うこととしたものである。

1.砒素汚染の現状
(1)土壌

 これまでの数次にわたる調査結果によると、砒素について土壌に係る環境基準を超えて汚染が認められるのは、北部海岸周辺、北部砲台跡地、西側テニスコート周辺、運動場西護岸側、国民休暇村前広場、元理材置場、南側キャンプ場付近、東・南の護岸付近及び東側周遊道路沿いの一部であり、島内の平坦地に汚染が点在している。特に、北部砲台跡地と運動場西護岸側、元理材置場については、環境基準を大幅に上回る汚染(0.3mg/L以上)が認められる。
 北部砲台跡地においては、その西側部分のほぼ全域と東側部分の一部の表層土壌に砒素による高い濃度の汚染が認められる。汚染の深さは、中庭を除く部分については、最大でも1mの浅い範囲に留まっている。中庭部分については、基礎コンクリートの上を覆っている土壌について、表層、中層、下層の順に検出値が高くなっており、いずれも土壌環境基準を大幅に上回っている。
 護岸の整備計画に伴って調査された運動場西護岸側については、地下4~5mの深い層で、スポット的に高濃度の汚染が認められる。なお、この護岸付近の海水からは、砒素は検出されていない。
 元理材置場については、毒ガス製造関連器材が放置されていたことによるとみられる高濃度の局部的な汚染が認められるが、なお詳細については、未調査である。
 北部砲台跡地と元理材置場については、応急対策として、立入禁止(フェンスの設置)及び汚染土壌の飛散防止措置(シートの敷設)が講じられている。また、運動場西護岸側については、汚染は深い層にあり、当面、公園利用者の安全上の懸念はない。

(2)水質(井戸、表流水)

 これまで島内11カ所の井戸水及び8カ所の表流水・湧き水について調査が行われた。調査結果によれば、4カ所の井戸において水質環境基準、地下水環境基準を上回る砒素が検出されている。そのうち北部砲台跡地内井戸及び島南側井戸は、大幅に環境基準を超える値を示している。周辺土壌に顕著な汚染が見受けられないにもかかわらず、高濃度の汚染が確認された島南側井戸については、内部の詳細調査により、投棄されたとみられる腐食した赤筒が見つかっており、それが高い濃度の汚染の原因と考えられる。
 基準を超えた井戸は、全て使用されていない放棄されたものであり、安全上の問題はない。

(3)大気

 汚染土壌の大気質への影響をみるため、大気エアロゾル中の砒素について調査したところ、粒径から土壌の巻き上げに起因するとみられる砒素はほとんどないという結果が得られた。

(4)島周辺の状況

 周辺海域の海水、底質及び魚介類については、広島県の実施した調査も含め、いずれも砒素汚染は認められない。

2.評価、課題

 一連の調査結果を踏まえた人の健康への影響に関する専門的検討によると、大久野島の調査地点において土壌由来によって人が体内に砒素を取り込む可能性のある量は、日常生活において食品や飲料水経由で体内に摂取される量と比較すると、微量でほぼ無視しうる量であった。また、大幅に環境基準を超える汚染が認められる場所については、土壌の飛散防止や立入禁止の措置がとられており、通常の野外レクリエーション利用等については何ら問題もなく安全に利用できるといえる。
 しかしながら、環境基準に照らしてみると、北部砲台跡地等については大幅に環境基準を超えているほか、程度の差はあるものの、基準を超える地点が、島内の平坦部に点在している。うち北部砲台跡地及び運動場西護岸側については、その汚染の状況から、不測の事態を招かぬよう、これを放置することなく、可及的速やかに処理対策を講じる必要があると考えられる。また、元理材置場については、具体的な処理方策を検討するため、早急に詳細な調査を行う必要があるほか、その他の点在する汚染についても、「重金属等に係る土壌汚 染調査・対策指針」(環境庁水質保全局長通知)及び「処理対策基本方針」(別紙)に基づき、対象地の状況、汚染の程度、態様等に応じて適切な対策を講ずるべきであり、そのための所要の調査を実施するほか、処理すべき範囲、処理方法等について引き続き検討を行う必要がある。

3.当面の措置
(1)処理手法

 土壌汚染対策手法としては、別表のような様々な方法が考えられるが、北部砲台跡地及び運動場西護岸側については、できるだけ速やかに処理する必要があることから、工期が短く、経済的かつ実用レベルの処理方法によらなければならない。また、国立公園内における工事であり、大規模な地形改変はできるだけ避ける必要がある。そのような観点から、処理手法を検討すると、
 {1}大量の土壌処理が可能
 {2}工事中に発生する汚水も併せて処理できる
 {3}技術的に確立されている
などの特長を有している、土壌洗浄法等がこの場合の処理手法として、最も適当と考えられる。
 なお、実証試験の結果によっては他の手法との併用も考える必要がある。

(2)留意事項

 汚染土壌の処理対策を実施するに当たっては、次の点に留意する必要がある。
 {1}周辺環境に影響を及ぼさないよう飛散防止対策等の措置を講ずること。
 {2}国立公園利用者の安全を確保するため、工事場所等への立入禁止措置等を徹底すること。
 {3}搬出運搬に当たっては、土壌等が飛散流出しないよう適切な対策を講じること。

 (別 紙)
処理対策基本方針

 大久野島は瀬戸内海国立公園の中央部に位置し、国立公園計画では、集団施設地区として位置付けられ、宿泊施設や自然とのふれあいのための様々な施設が整備されて、年間約17万人が訪れている。
 昭和4年から陸軍造兵廠忠海兵器製造所により毒ガス製造が行われ、それが今日の砒素による土壌汚染の原因になっているという、土壌汚染事例としては、極めて特異なものとなっている。
 また、明治34年に設置された芸予要塞重砲隊時代の砲台跡および兵舎跡が比較的良好な状態で保存され、さらに、戦前の毒ガス製造の歴史を刻んだ建造物、遺構が数多く残され、平和学習の教材として活用されており、自然とのふれあいと併せてこの島の主要な利用目的となっている。  このため、大久野島における土壌等処理対策は、こうした島の歴史や現状を踏まえ、今後とも来島者が安全に利用することができるよう、次の基本方針に基づき実施するものとする。

 処理対策基本方針

 大久野島の土壌等汚染対策については、「重金属等に係る土壌汚染調査・対策指針」(環境庁水質保全局長通知)を参考にしつつ、一般の土壌汚染事例と次の点で異なるという特殊性に鑑み、大久野島土壌等汚染対策検討会において、対象地の状況、汚染の程度や広がり、影響の態様等に応じて環境保全上適当な手法を検討のうえ、適切に実施する。

1. 戦前の毒ガス製造という特殊な目的のために各種の化学物質が使用・製造され、それが本島の土壌汚染に繋がったものであること。
2. 島内には、短期常住者がわずかに居住しているのみで、大部分は、子供や家族連れを中心とした日帰り、又は一泊程度の極めて短時間の滞在であること。
3. 島内の土地は、国立公園としての利用に供されている他は、特に土地利用は行われておらず、農用地としての機能はないこと。
4. 全域が国立公園に指定されており、大規模な地形改変は極力避けるべきであること。
5. 島内に残る明治時代の砲台跡や毒ガス製造施設の遺構については、この島の歴史を語るものとして、教育の観点からもできるだけ保存すべきであること。
連絡先
環境庁自然保護局企画調整課山陽四国地区国立公園・野生生物事務所
所   長 : 大橋 敏行
       TEL 086-223-1577

環境庁自然保護局国立公園課
課   長 : 下   均 (6440)
 課長補佐 : 池田 和広 (6441)