報道発表資料

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1997年12月19日

「地球環境研究等の今後のあり方について  (最終報告)」について

環境庁企画調整局に設置された「地球環境研究等の今後のあり方小委員会」は、今般、地球環境に関する調査研究、観測・監視及び技術開発(以下、「地球環境研究等」という。)について、その目標、基本理念、我が国として特に重点的に実施すべき研究課題、その実施に向けて環境庁として今後取り組むべき推進方策を、「地球環境研究等の今後のあり方について(最終報告書)」として取りまとめたので公表する。
 報告書では、地球環境研究等の一層の推進及び重点化が必要であり、具体的には、目的志向型・トップダウン型のプロジェクト研究を実施すべきであること等を指摘。また、アジア太平洋地域を対象とした共同研究の推進、研究成果の評価の充実強化、研究成果の公開と活用の一層の推進の必要性についても指摘。
 この報告書を受け、環境庁では、地球環境問題の早期解決に資することを目的として、今後本報告書に沿って施策を実施していくことにより、地球環境研究等の一層の推進を図る所存。
1.経 緯

 環境庁は、我が国全体の視点から今後実施すべき地球環境保全に関する環境研究・環境技術を取りまとめた「地球環境研究等の今後のあり方について(中間報告)」を平成8年9月に公表した。その後、毎年度の「地球環境研究計画」策定に関する助言機関として環境庁企画調整局に設置されている「地球環境研究等企画委員会(委員長:近藤次郎中央環境審議会会長)」の下に「地球環境研究等の今後のあり方小委員会(座長:富永健東大名誉教授)」を設置し、平成8年11月以降、我が国として特に重点的に実施すべき研究課題、その実施に向けて環境庁として今後取り組むべき推進方策について検討が重ねられた。
 今般、中間報告にその後検討された内容が追加され、全体が「地球環境研究等の今後のあり方(最終報告)」として取りまとめられたので、これを公表するものである。

2.報告書の構成

 本報告書は、 {1} 我が国において今後実施すべき地球環境保全に関する環境研究・環境技術について {2} {1}の中で、特に重点を置いて今後実施すべき研究課題について {3} 環境庁において今後実施すべき地球環境研究の推進方策 の大きく3部より構成されており、以下の5章からなっている。

  第1章 はじめに
  第2章 今後実施すべき地球環境保全に関する環境研究・環境技術について
    (1) 地球環境研究等の目標及び基本理念
    (2) 地球環境研究等の考え方
  第3章 今後実施すべき地球環境保全に関する研究課題・技術開発課題
  第4章 今後特に重点的に実施すべき地球環境保全に関する環境研究・環境技術について
    (1) 判断基準
    (2) 今後重点的に実施すべき地球環境保全に関する研究課題・技術開発課題
  第5章 環境庁における地球環境研究等の推進方策について
3.報告書の概要
(1)地球環境研究等の目標及び基本理念
 {1} 目標

 21世紀の持続的発展が可能な社会・経済システムを支える、総合的な研究体系の構築を目指しつつ、長期にわたる環境問題解決に向けた政策に、時宜を得た有益な知見を提供すること。

{2} 基本理念

 環境基本計画において掲げられた環境政策の長期的目標を念頭に置き、地球環境におる循環・共生と人間活動の関係、持続的発展が可能な社会の構築、国際貢献及び推進基盤の確立を基本理念とする。

(2)今後特に重点的に取り組むべき課題
 今後我が国において実施すべき地球環境保全に関する研究課題・技術開発課題の中でも重点的に取り組むべき課題は、
 {1}  逼迫した地球環境問題の抜本的な解決に向けた
明確な方向性を有し、地球環境保全のための具体的な対策・施策の実施に資することを目
的とするとともに、
 {2}  その成果がどのように具体的な対策・施策に結びついているかの全体像を踏まえ、その全体像における位置づけが明確であることが必要。
 その上で、以下の事項のいずれか又は複数に該当することが必要。
 {1}  地球環境問題の解決に向けた取組への推進力を有すること。
 {2}  成果を多様な社会に適用し、対策・施策の円滑な推進を支援すること。
 {3}  アジア太平洋地域の関係国と共同して実施し、同地域の地球環境問題への取組のための互いの能力向上を図るとともに、同地域の具体的な地球環境問題の解決を積極的に支援すること。
(3)環境庁における地球環境研究等の推進方策について
環境庁が今後地球環境研究等を推進するに際しての基本的な事項は以下のとおり。
 
 {1} 地球環境研究等の一層の推進及び研究の重点化
 近年、人間活動の増大による環境への負荷の増加に伴い地球環境問題が顕在化しており、その早期の解決に向けて地球環境研究等を一層推進することが必要。限られた研究資金と研究者を有効に活用し、環境庁として真に必要な研究を一層重点的に実施していくことが求められている。
 
 {2} トップダウン型研究の実施
 政策の方向性に沿った研究、政策に対して新たな提言を与える研究等の政策に直結する研究を重点的に推し進めていくことが必要。そのためには、従来からのボトムアップ式の公募型研究から目的志向型のトップダウン型研究への転換を図ることが重要。
 
 {3} 環境庁の地球環境分野におけるリーダーシップの発揮
 環境庁は、今後とも地球環境分野において更なるリーダーシップを発揮することが求められている。地球環境保全に関する研究分野において、環境庁が中心となり、関係各省庁との連携による共同研究等を積極的に推進していく必要がある。
 
 {4} 計画的なモニタリングの実施
 長期間の継続を必要とする地球環境保全に関するモニタリングについては、環境庁(国立環境研究所を含む)においてその本来業務として計画的に実施すべきである。
 
 {5} アジア太平洋地域との研究協力
 国際的視野に立って研究を行うことが求められており、諸外国の研究者が相互に連携協力して研究を実施していくことが必要。我が国としては、アジア太平洋地域において、政府間の研究ネットワークの一層の強化、研究交流及び人材交流の活性化、研究資金面からの援助等について検討していくことが必要。
 
 {6} 産官学一体となった研究の推進
 今後の地球環境研究等の一層の拡充を図るためには、国立試験研究機関、大学のみならず民間の研究機関、NGO等の産官学が研究交流、人材交流、データの共同利用等を通じて一体となり研究を推進することが必要。
 
 {7} 研究成果の活用及び国民へのフィードバック
 今後の地球環境研究等が地球環境保全に向けてより大きな役割を果たすためには、研究成果による科学的知見の提供、政策への提言等のみならず研究成果の活用を通した国民への啓発、意識改革等を促すことが重要。
 
これらを踏まえた環境庁において具体的に取り組むべき方策は以下のとおり。
 
 {1} 新たなトップダウン型プロジェクト研究区分の新設
 これまでの成果や研究体制をさらに有効に活用するため、また、地球温暖化防止対策等、喫緊の課題を解決するための施策の基盤となる科学的知見を有効に提供できるようにするため、環境政策に直結する又は政策の実施に有益な知見を提供する研究課題を対象とする目的志向型・トップダウン型のプロジェクト研究の実施が必要。
 
 {2} アジア太平洋地域を対象とした共同研究の充実強化

 アジア太平洋地域を対象とした共同研究を一層重点的に進める必要があり、以下のような途上国の研究者と連携しやすい仕組みの導入を検討すべきである。

1) 環境庁が事務局を務めるアジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)の枠組みを通じた共同研究、共同観測の強化
2) 東アジア酸性雨モニタリングネットワークによる酸性雨予測手法、生態影響の解明等の調査研究の推進
3) 海外の若手研究者の国内研究機関への招聘による共同研究の実施、能力開発、研究連携の強化
4) アジア太平洋地域を対象とした研究の活性化のための資金面での研究支援、地球環境研究ODAの検討
5) 実践的な研究を行う「地球環境戦略研究機関」との連携
 
{3}
 
研究成果の評価等の充実強化
 評価ガイドラインの作成、適切な評価者の選任、評価結果の公表等により、研究成果の
評価を充実強化することが必要。
 
 {4} 研究成果の公開とその活用
 研究報告書のインターネット等を通じた公開、過去の研究成果のデータベース化による
有効利用、海外に向けた発信を実施していくことが必要。
 {5} 地球環境研究総合推進費の制度の充実強化

 本年度で8年度目を迎えた推進費の制度を一層充実強化するため、以下のような方策を実施することが必要。

1) オゾン層破壊、地球温暖化、酸性雨、生物多様性等の現行の推進費の研究分野にとらわれない分野横断的な研究の実施。
2) 研究課題の一部として実施されるサブテーマの採択方法等、課題採択方式の見直し。
3) 研究課題採択の際の選択の余地を広げ、有用な研究の発掘と同時に有用性の乏しい研究、実施に当たって大きな困難が伴うと思われる研究の除外を容易にするためのフィージビリティスタディの活用。
4) 限られた研究予算の中で有効に研究を実施するため、サブテーマ間、各分野の課題間、場合によっては分野を越えた関連課題間において、十分な相互の情報交換、連絡調整を行う。
5) 熱帯林を対象とした研究等、長期にわたって継続することが必要な研究においても、原則的に毎年度進捗状況の評価を行うとともに、3年毎にその成果の評価を行ったうえで、継続の必要性が認められれば継続することができるような制度とす
6) 研究内容がより複雑化及び拡大化していく中で、研究内容の一元化及び効率化を図るため、エコフロンティアフェローシップ制度の国内研究者への拡大等人員面からの支援を行う。
7) 地球環境研究等を行う研究者層の底辺の拡大及び一層のレベルアップのため、推進費の課題の一部を民間及び地方公共団体の研究機関が担当する等により、地球環境研究等に積極的に関われるよう配慮するべき。
 
{6}
 
地球環境研究等を牽引するリーダーの育成方策

 地球環境研究等の一層の充実及びさらなる飛躍のために、国際的にも通用するような地球環境研究等を牽引するリーダーを育成することは、長期的に環境庁として取り組むべき課題。育成方策としては以下が考えられる。

1) 国立環境研究所が、主として社会のニーズに応じた研究を実施するための研究機関であること、行政と大学や民間の研究所との橋渡し的役割を担っていること、また内外の地球環境研究等をリードし、研究マネージメント等の機能も果たすことが今後切望されることから、国立環境研究所において、積極的にリーダーとなる研究者の育成を行う。
2) 推進費の課題代表者等として、大学、地方公共団体、民間等の研究者を積極的に登用する。
連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課研究調査室
室 長 :名執 芳博 (内線6743)
 補 佐 :宇仁菅伸介(内線6746)
 担 当 :太田 裕之 (内線6746)