報道発表資料

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1997年05月12日

ツシマヤマネコ緊急疫学調査の結果について

昨年12月に捕獲したツシマヤマネコ1頭がFIP及びFIVに感染していたことから、環境庁では、この個体が捕獲された上対馬町中部地区を中心に、ツシマヤマネコへの感染源と疑われるノラネコ等にFIP、FIVをはじめとした各種ウイルス感染症がどの程度広がっているか調査を実施した。その結果、感染症の種類によって感染率の高低はあるが、今回検査したノラネコ等の中には、FIV等のウイルス感染症に罹患しているものがあることが判明した。
 環境庁では、今年度においては、専門家の意見を聞きつつ、長崎県及び地元各町にも協力を求め、疫学調査の範囲を広げるとともに、ノラネコの増加防止等、ツシマヤマネコへの感染を防ぐ対策を検討する。

1.目的

 昨年12月5日に人工繁殖を目的に捕獲されたツシマヤマネコの個体(雄)がFIP(猫伝染性腹膜炎)及びFIV(猫免疫不全ウイルス感染症)に罹患していることが判明した。これらの感染症は、ツシマヤマネコのように個体数、生息域の限られた種にとっては大きな脅威となることから、環境庁では、対馬島内のノラネコ等にこれらの感染症がどの程度広がっているか把握することを目的に、緊急に疫学調査を実施した。

2.調査内容(委託先:(財)自然環境研究センター)

 平成9年2月から3月にかけて、FIP及びFIVに感染していた個体が捕獲された上対馬町中部地区を中心に、ノラネコ、飼いネコから血液を採取し、FIP、FIVだけでなく、イエネコに見られる各種ウイルス感染症の抗体検査等を実施した。本調査の実施に当たっては、長崎県及び地元対馬各町等に御協力をいただいた。


3.調査結果の概要

 ノラネコ40頭、飼いネコ10頭の計50頭について検査を実施した。その結果、今回検査した対象の中には、感染率に高低はあるものの、イエネコに見られる主要なウイルス感染症が確認された。

検査結果
  陽性個体数
F I V(猫免疫不全ウイルス)
FCoV(猫コロナウイルス:FIPを含む)
FeLV(猫白血病ウイルス)
FPLV(猫汎白血球減少症ウイルス)
F H V(猫ウィルス性鼻気管炎ウイルス)
F C V(猫カリシウイルス)
11
6
1
18
36
44
22
12
2
36
72
88



 また、ライオン、ピューマ等、種々のネコ科野生動物において、それぞれの種に固有なFIV近縁ウイルスが存在することが知られている。このため、昨年12月に捕獲されたツシマヤマネコから分離されたウイルスについて調べたところ、今回採取されたノラネコ等のウイルスと同じタイプのウイルスであることが確認され、このツシマヤマネコは、FIVに感染しているノラネコ等から感染したことが示唆された。

4.今後の取組

 平成9年度においては、専門家の意見を聞きつつ、長崎県及び地元対馬各町に協力を求め、疫学調査の範囲を広げ、対馬島内におけるウイルス感染症の広がり状況を把握するとともに、ノラネコの増加防止等、ツシマヤマネコへの感染を防ぐ対策について検討し、可能なものから実施していく。
 この他、保護増殖事業として、従来から実施してきているラジオトラッキングによるツシマヤマネコの行動調査、人工繁殖に向けた個体の捕獲等を実施していく。


(参考)

FIV(猫免疫不全ウイルス感染症):
 レトロウイルスによる感染症。伝播力は弱く、喧嘩による口傷などによらなければ感染しない。数ヶ月から数年以上の潜伏期を経て、体重減少、慢性下痢、慢性口内炎、呼吸器病、皮膚病等が頻発し、身体各部の種々の病気で死亡する。ワクチンはない。

FIP(猫伝染性腹膜炎):
 コロナウイルスによる感染症。ウイルスは糞便中にもみられ、経口・経鼻感染する。病名にあるような腹水を伴うような腹膜炎の他、腎臓・肝臓等の肉芽腫性病変、髄膜炎等を反映した多様な症状が認められる。発症した際の死亡率は高い。ワクチンはない。
    
FeLV(猫白血病ウイルス感染症)
レトロウイルスによる感染症。感染したネコの唾液中に多量に排泄され、容易に経口・経鼻感染する。一過性の感染で終結することもあるが、持続感染になると、貧血、白血球減少症、腫瘍性変化等がみられ、死亡率は高い。ワクチン有。

FPLV(猫汎白血球減少症)
 パルボウイルスによる感染症。ワクチンの普及により減少しているが、予防接種を怠ると増加する。糞便や吐物内に排泄されたウイルスに経口感染する。パルボウイルスは抵抗性が強く、体外では数カ月以上感染性を保持する。汎白血球減少症や血便を伴う下痢、流産等がみられ、予後は不良。特に子猫の高致死性感染症。

FHV(猫ウィルス性鼻気管炎)
 ヘルペスウイルスによる呼吸器感染症。カリシウイルス感染症とともに、ネコの主要な呼吸器感染症。ウイルスは呼吸器分泌物中に排泄され、それに接触感染する。発熱、元気・食欲低下、鼻炎、結膜炎等がみられ、細菌の二次感染がなければ急性経過で終了する。回復後キャリアーとなりやすい。ワクチン有。

FCV(猫カリシウイルス感染症)
 カリシウイルスによるネコの代表的な呼吸器感染症。ウィルスは咽喉頭粘膜に数ヶ月間持続感染し、唾液中にウイルスを排泄し続け、容易に接触感染する。発熱、元気・食欲低下、鼻炎、肺炎等が起こる。通常は急性経過で治癒するが重篤な肺炎で死亡するものもある。FHV等との混合感染も多い。ワクチン有。

連絡先
環境庁自然保護局野生生物課
課長:小林 光  (6460)
 担当:安田、長田(6465)