報道発表資料

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2014年10月28日
  • 自然環境

モニタリングサイト1000高山帯調査とりまとめ報告書の公表について(お知らせ)

 環境省生物多様性センターでは、モニタリングサイト1000事業の一環として実施している高山帯調査について、調査が始まった平成21年度から24年度までの調査成果のとりまとめを行いました。
 高山帯では、気温、地温・地表面温度、植生、ハイマツの年枝伸長、開花フェノロジー、チョウ類、地表徘徊性甲虫、マルハナバチ類の調査を行っています。
 これまでのとりまとめ結果から、ハイマツの1年間で伸びる枝の長さと気温との関係が認められ、近年における夏期の気温上昇の可能性が示唆されました。また、特定外来生物のセイヨウオオマルハナバチの高山帯への侵入が初めて確認されたことから、在来種への影響が危惧されました。
 高山帯は温暖化により高山帯特有の動植物種の減少や消失などの著しい影響を受けると考えられており、今回の結果はこれを懸念させるものとなりました。
 生態系の変化を明確に捉えるために長期間の継続的なモニタリングが必要であり、今後も引き続き行ってまいります。

1.モニタリングサイト1000高山帯調査

 モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域モニタリング推進事業)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000箇所のモニタリングサイトにおいて、平成15年度から長期継続的に実施しています。高山生態系を対象とした高山帯調査は平成20年度に調査手法や調査サイトの検討が行われ、平成21年度の試行調査を経て開始されました。現在、大雪山、北アルプス(立山)、北アルプス(蝶ヶ岳~常念岳)、白山、南アルプス(北岳)、富士山の6箇所を調査サイトとして、1時間毎の気温、地温・地表面温度調査や植生調査、ハイマツの年枝伸長、高山植物の開花時期を記録する開花フェノロジー調査、チョウ類、地表徘徊性甲虫、マルハナバチ類の種とその数について調査を行っています。それぞれの調査サイトで実施している調査については表1を参照してください。

表1 各サイトでの実施調査項目一覧

2.とりまとめの方法

 モニタリングサイト1000では、5年を節目として、生態系毎にそれまでの調査成果をとりまとめており、平成24年度は第2期の10年目にあたります。高山帯調査は平成21年度に白山と南アルプスで試行調査を行い、順次各サイトでの本調査を始めたため、最長でも4年、最も遅く始まったサイトではまだ2年分の調査結果しか得られていませんが、モニタリングサイト1000全体の第2期のとりまとめにあわせて、初めてのとりまとめを実施しました。とりまとめ報告書では調査サイトごとの結果の整理を行い、得られた成果や特徴をまとめたほか、現地調査で直面している課題や高山帯でみられる動植物の生態等の高山帯にまつわるトピックスをご紹介しています。総括では、調査項目ごとの考察に加え、生物多様性国家戦略の中の「わが国の生物多様性の4つの危機」との関連を考察し、事業全体のレビューとして高山帯調査の課題や展望についてまとめました。

3.とりまとめの結果

(1)調査サイトの特徴

高山帯調査の調査サイトは、森林限界以上の標高帯にあり、低温や積雪、強風といった厳しい自然環境にあるのが特徴です。高山帯には、こうした環境に適応したハイマツなどの低木林や、いわゆるお花畑と呼ばれる雪田草原、風衝草原など特徴的な植生が広がり、高山植物や高山蝶、ライチョウなど氷河期からの生き残りを含む固有種が多く存在しています。
 高山帯は、こうした生物の生育・生息地が人為的な影響を比較的受けずに残された我が国の生物多様性にとって非常に重要な生態系です。高山帯では、登山者の増加による植生の踏みつけや高山植物の盗掘、ゴミの投棄や排泄物の増加などが、これまで大きな問題となってきました。近年は、低地性植物の増加や、自然分布域外からの動植物の持ち込みや侵入といった国内外来種も問題となっています。

(2)とりまとめ結果の概要

気温、地温・地表面温度

高山帯の基本的な環境条件を把握するため、1時間ごとに気温と地表面温度と地下10cmの地温を測定しました。(表2)。地表面温度の測定結果からは、各サイトでのおよその雪解日と冠雪日がわかりました(表3)。地温の測定結果からは、各サイトでのおよその土壌の凍結終日と凍結始日がわかりました(表4)。

表2 年平均気温、最暖月と最寒月の月平均気温

表3 地表面温度から推定した積雪日

表4 地下10cmの地温から推定した土壌の凍結日

植生

高山帯の植生の構成種の変化を把握するため、雪渓の周辺など環境変化の影響を受けやすい場所を選び、1m×10mの永久方形枠を設定し、その中の出現種を調査しました。その結果、雪田環境は風衝地に比べて総出現種数、植被率ともに高く、植物が多い環境であることが示されました(表5)。雪田では積雪により冬季の乾燥から保護されていることなどが影響していると考えられます。

表5 植生調査結果の概要

※黄色の塗り潰しは雪田環境

ハイマツの年枝伸長

長期的な環境変化の指標として、一年に一節ずつ伸び、夏の気温の影響を受けやすいハイマツの年枝を過去20年程度までさかのぼって計測し、1年間の枝の伸びる長さ(年枝伸長量)の経年変化を調査しました。その結果、大雪山、北アルプス(立山)、白山では、年変動がみられるものの、経年的には0.72~1.1mm/年ずつ増加していました。各年の年枝伸長量と前年の7~9月の気温との間に正の相関関係があることが示され、過去20年間で夏の気温が上昇している可能性があります。

速断はできませんが、気温の上昇によって高山帯のみに生育する動植物が減少・消失するおそれが懸念される結果となりました。

特に相関の高かったのは大雪山サイト黒岳石室の結果でした(図1)。

図1 大雪山サイト黒岳石室のハイマツの年枝伸長量

開花フェノロジー

植物の開花や渡り鳥の去来など気温や日照などの季節の変化に反応して現れる現象を生物季節(フェノロジー)といいます。高山植物の咲き始めから満開、開花終了までの開花ステージ(開花フェノロジー)を、植生調査地点の近くで、インターバルカメラによる撮影と目視により記録しました。記録の結果から、同じ種で見てみると、雪田環境の方が風衝地に比べて開花が始まるのが遅い傾向にあることがわかりました。このことは雪田環境の積雪期間が影響していると考えられます。(図2)。

図2 開花フェノロジー調査の結果(大雪山サイト黒岳の目視による調査の例)

(共通種を赤枠囲み)

チョウ類調査

ライントランセクト調査または定点調査により、高山蝶と低標高性の蝶の出現種数と個体数を調査しました。これまで確認されたチョウ類は、大雪山28種(うち高山蝶5種)、以下同様に北アルプス(蝶ヶ岳~常念岳)15種(4種)、白山20種(2種)、南アルプス(北岳)15種(2種)でした。白山サイトでは種ごとの出現数を把握しており、高山蝶であるクモマベニヒカゲとベニヒカゲが安定的に出現していることが確認されました(表6)。

表6 チョウ類の出現種と個体数(白山)

地表徘徊性甲虫調査

ピットフォールトラップにより高山帯の土壌生態系の指標である地表徘徊性甲虫の捕獲調査を白山サイトで行いました。その結果、甲虫類22種が確認され、そのうちの16種はオサムシ科、4種はハネカクシ科でした(表7)。

表7 地表徘徊性甲虫の出現種(白山)

マルハナバチ調査

ライントランセクト調査により高山植物の花粉媒介昆虫であるマルハナバチ類について、訪花した種数と個体数を調査しました。その結果、2012年に大雪山の赤岳で特定外来生物であるセイヨウオオマルハナバチが初めて確認され(表8)、高山帯へのセイヨウオオマルハナバチの侵入による在来種への影響が危惧されました。

表8 マルハナバチ類の出現種(大雪山)

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
平成26年10月28日(火)
環境省自然環境局生物多様性センター
直通:0555-72-6033
センター長  :中山 隆治
生態系監視科長:佐藤 直人
     主査:雪本 晋資

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