報道発表資料

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1997年01月20日

福岡市動物園に収容したツシマヤマネコの検疫結果について

昨年12月に、飼育繁殖用に捕獲し、福岡市動物園に収容していたツシマヤマネコ1頭が健康検査の結果、FIP及びFIVに感染していることが判明した。この個体については、他の個体への感染の可能性もあるため、福岡市動物園からの移動を検討している。また、対馬島内にどの程度感染症が侵入しているか緊急に疫学調査を実施するほか、ノラネコの増加防止等について長崎県及び地元各町に協力を求める。                

1.収容個体について

 昨年12月5日に人工繁殖を目的に捕獲され、12月6日に福岡市動物園に収容されたツシマヤマネコの個体について、福岡市動物園において検疫を進めてきたが、FIP(猫伝染性腹膜炎)* 及びFIV(猫免疫不全ウィルス感染症)**に罹患していることが判明した。
 これらの感染症はともにネコ族特有のものであり、人を含む他の動物には感染しない。
感染経路は特定はできないが、イエネコにかなり普通に見られる疾患であり、対馬においてはノラネコから感染した可能性が高い。収容個体には現在のところ明確な症状は認められないが、発症した場合、特効的な治療法はわかっていない。従ってこの個体は人工繁殖に供するには適切ではなく、特にFIPは他のネコ族の飼育個体への2次感染も懸念されることから、他の飼育施設において一時的に隔離飼育を行うことを検討している。現在、長崎県上県町(対馬島内)に建設中の対馬野生生物保護センターでは、来年度検疫施設を整備する予定としており、この施設が完成した際には、同センターにおいて隔離飼育をすることとしている。

 FIP(猫伝染性腹膜炎)* :
 コロナウィルスによる感染症。ウィルスは糞便中にもみられ、経口・経鼻感染する。病名にあるような腹水を伴うような腹膜炎の他、腎臓・肝臓等の肉芽腫性病変、髄膜炎等を反映した多様な症状が認められる。発症した際の死亡率は高い。ワクチンはない。

 FIV(猫免疫不全ウィルス感染症)**:
 レトロウィルスによる感染症。伝播力は弱く、喧嘩による口傷などによらなければ感染しない。数ヶ月から数年以上の潜伏期を経て、体重減少、慢性下痢、慢性口内炎、呼吸器病、皮膚病等が頻発し、身体各部の種々の病気で死亡する。ワクチンはない。

2.今後の対応

 (1) 対馬島内における緊急疫学調査の実施
 ネコ族特有の感染症はこの他にも多数存在し、ツシマヤマネコのように個体数、生息域の限られた種にとっては大きな脅威となる。従って種の保存のためには、感染症の広がりの現状を把握し、それに応じた対策を講じることが急務である。このため、ツシマヤマネコ生息域内にどのような感染症がどの程度侵入しているか本年度内に緊急に調査を行う。
具体的には、長崎県、地元対馬各町の協力を得て、生息域内の適当な地点においてツシマヤマネコ、ノラネコから血液を採取し、各種感染症の抗体検査等を行う。

 (2) ノラネコの増加防止に関する協力依頼
 ツシマヤマネコへの感染源を断つため、捨てネコをしないなど、ノラネコの増加防止について、長崎県、地元各町に協力を求めていく。

(参考)ウィルス感染が認められたツシマヤマネコ飼育個体について

1.捕獲日時:平成8年12月5日 
2.捕獲場所:長崎県上県郡上対馬町
         翌12月6日に福岡市動物園へ移送、収容
3.性  別:雄
4.年  齢:推定3才

 福岡市動物園では、この個体の他に、平成8年7月6日に、長崎県上県郡上県町で水田脇の農作物被害防止用の漁網にからみついているところを保護収容された雄1頭(昨年生まれ)を飼育している。この個体は、感染症等はなく、健康であることが確認されている。

連絡先
環境庁自然保護局野生生物課
課長:小林 光  (6460)
 担当:安田、長田(6465)