報道発表資料
1.背景・経緯
・2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、TEEB(生態系と生物多様性の経済学)の最終報告書が公表されるなど、生物多様性や生態系サービスの価値を経済的に評価することの重要性が注目されている。
・様々な主体が生物多様性及び生態系サービスの価値を認識し、その保全や利用に際して適切な意思決定が行われることを促進するため、環境省においても経済価値評価の検討を進めている。
・平成25年度には、我が国の生態系の中でも特に近年の損失が大きい生態系である湿地について、経済的な価値の評価を実施した。
2.評価の対象
本評価では様々な湿地タイプのうち湿原及び干潟を対象とし、全国の湿原及び干潟が有する生態系サービスの経済価値評価を行った。
表:評価の対象とした湿地の面積
湿地タイプ |
面積 |
湿原 |
110,325ha |
干潟 |
49,165ha |
※湿原及び干潟の定義、面積は環境省自然環境保全基礎調査による。
3.評価方法
・湿原及び干潟が有する生態系サービスを整理し、既存の調査研究事例等を用いて経済価値評価が可能な生態系サービスのみを評価した。
・これまでに全国レベルで定量的な評価が行われている生態系サービスについては、適切な代替財(ダム、水質浄化施設にかかる費用等)を用いて貨幣換算を行った。
・定量的な評価が一部地域でしか行われていない場合には、その値を全国に適用して評価額を計算した。
・評価額は湿原及び干潟が年間に生み出す生態系サービス(フロー)の価値として算出した。
・経済価値の評価が困難な生態系サービスについては、生態系サービスの内容と経済評価にあたっての課題を整理した。
4.評価結果
・湿原及び干潟が有する生態系サービスのうち、今回、経済価値の評価を行ったものは以下のとおり。
■湿原の生態系サービスの経済価値評価結果
生態系サービス |
評価額(/年) |
原単位(/ha/年) |
|
調整サービス |
気候調整 (二酸化炭素の吸収) |
約31億円 |
〔高層湿原〕 約1.4万円 〔中間湿原〕 約2.2万円 〔低層湿原〕 約3.1万円 |
気候調整 (炭素蓄積) |
約986億円― 約1,418億円 |
〔高層湿原〕 約250万円 〔中間湿原〕 約154万円― 約177万円 〔低層湿原〕 約58万円― 約105万円 |
|
水量調整 |
約645億円 |
約59万円 |
|
水質浄化 (窒素の吸収) |
約3,779億円 |
約343万円 |
|
生息・生育地 サービス |
生息・生育環境の提供 |
約1,800億円 |
約163万円 |
文化的サービス |
自然景観の保全 |
約1,044億円 |
約95万円 |
レクリエーションや 環境教育 |
約106億円― 約994億円 |
約9.6万円― 約90万円 |
■干潟の生態系サービスの経済価値試算結果
生態系サービス |
評価額(/年) |
原単位(/ha/年) |
|
供給サービス |
食料 |
約907億円 |
約185万円 |
調整サービス |
水質浄化 |
約2,963億円 |
約603万円 |
生息・生育地 サービス |
生息・生育環境の提供 |
約2,188億円 |
約445万円 |
文化的サービス |
レクリエーションや 環境教育 |
約45億円 |
約9.1万円 |
5.評価結果に関する留意事項
・上記の評価は、湿原及び干潟が有する価値のごく一部を既存の調査研究事例から整理したものであり、湿原及び干潟の価値の全てを評価したものではない。このため、今後の調査研究の進展による改善が望まれる。
・経済価値評価には様々な手法があり、用いる手法により評価結果も異なることから、生態系間、生態系サービス間で単純な比較はできないことに留意が必要。
・仮に今回計算した国内の湿地の生態系サービスの経済価値を単純に合計すると、湿原は年間約8,391億円~9,711億円、干潟は年間約6,103億円となるが、また1つの生態系サービスを他の生態系サービスから切り離して単独で評価できない場合もあり、合計額を用いる場合には重複して計算している可能性にも留意する必要がある。
・また、生態系及び生態系サービス毎に異なる評価手法を用いて評価しているため、湿原と干潟に係る経済評価の結果を単純に比較することはできない。
6.専門家による検討
本評価の実施にあたっては、湿地及び環境経済学の専門家による湿地の経済価値評価検討会を平成25年度に3回開催した。そのほか12名の専門家へのヒアリングを行い、評価の参考とした。
■湿地の経済価値評価検討会 委員(50音順、敬称略)
金谷 弦 独立行政法人国立環境研究所地域環境研究センター 研究員
栗山 浩一 京都大学農学研究科 教授
中村 太士 北海道大学 大学院農学研究院教授(座長)
山形 与志樹 独立行政法人国立環境研究所地球環境研究センター 主席研究員
吉田 謙太郎 長崎大学環境科学部 教授
参考)生物多様性及び生態系サービスの経済価値評価に関する手法等については、関連Webページを参照。
添付資料
- 連絡先
- 環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性施策推進室
代 表:03-3581-3351
直 通:03-5521-9108
室 長:堀上 勝 (内線:6660)
室長補佐:笹渕 紘平(内線:6665)