報道発表資料
1.目的
平成9年12月に策定された京都議定書において、二酸化炭素の削減のために、森林による吸収量を勘案することとなり、森林がどれくらい二酸化炭素の吸収能力を持って
いるかを定量的に評価することが緊急の課題となっている。
地球全体での炭素循環を考えた時、東アジア北方に広く分布するカラマツ林(落葉針葉樹林)のもつ吸収能力が、非常に重要であることが最近明らかとなってきており、
その量的な把握が世界的に求められている。また、わが国をはじめとする東アジアにおける「森林による二酸化炭素の吸収と放出の観測(フラックス観測)」の手法を確立
することが重要な課題となっている。
そこで、国立環境研究所と北海道森林管理局は、今年度から共同で、苫小牧国有林のカラマツ林内において、森林による二酸化炭素フラックスを観測することとした。その
中で、森林施業によって二酸化炭素の吸収能力がどう変化するか、あるいは、土壌や林床植物がその中でどんな役割を果たしているかなどについても観測研究することと
している。そして、こうした観測研究を通じてフラックス観測技術を確立し、わが国をはじめ東アジアの国々に対して積極的に技術的貢献をしていこうとするものである。
2.実施体制
両機関の共同事業体制を基盤として、北海道大学(演習林、農学部)、北海道庁(環境科学研究センター)などの協力を得て観測事業を実施するとともに、森林総合研究所 北海道支所(林野庁)、資源環境技術総合研究所(通商産業省)、農業環境技術研究所(農林水産省)などの他省庁の試験研究機関と連携しながら観測研究を行う。
3.観測地とその概要
『苫小牧国有林(胆振東部森林管理署苫小牧事務所管内)196林班~198林班』この場所は、以下の特徴をもち、観測にきわめて適した条件を備えている。
[1] 地形が平坦で起伏がほとんどないため、空気の乱れが少なく、フラックス観測に適している。 [2] 支笏湖の東麓に広がる森林の中にあって、約100haに及ぶ広大なカラマツ林が分布し、人為的な影響を受けにくい環境である。 [3] 国有林として北海道森林管理局によって管理されてきた造林地であり、樹齢40年前後の高さの整った森林であるとともに、育林についての履歴が明らかである。
4.観測内容
(1)森林による二酸化炭素の吸収と放出に関する観測
- 森林と大気の間のガス交換現象(フラックス観測)…二酸化炭素、メタン、大気汚染ガスなどを連続的に自動観測する。
- 森林植物の調査…植物種の構成と量、葉面積、根系分布などを調査する。…光合成、蒸散、クロロフィル量などを測定する。
- 土壌の調査…有機物の量、土壌による呼吸の量、ガス放出量などを調査する。
(2)森林施業に伴う二酸化炭素吸収能力の変化に関する観測
- 数年後に間伐を実施し、その前後で能力がどう変化するかについて観測する。
(3)観測のための設備
- ガス交換現象観測区(197林班)・・高さ別測定のためのアルミ製観測塔(40m高)観測機器を収納する観測室(コンテナラボ)
- 森林・土壌調査区(198林班)・・樹木調査のためのアルミ製観測塔(25m高)調査作業用の居室(コンテナラボ)
5.期間
平成11年度 観測施設の整備、実施体制づくり 平成12年度 試験観測 平成13~20年度 定常観測、成果の取りまとめ
6.観測の特色
(1) 東アジア北方に広範に分布するカラマツ林は、地球規模の炭素循環において重要な吸収源とされており、カラマツ林での観測研究は世界的にも極めて重要な知見と なると同時に、地球温暖化対策を進めることに大きく貢献すると期待される。 (2) 森林施業と連携を図ることによって、間伐による二酸化炭素の吸収能力がどのように変化するかが把握でき、森林施業と炭素循環機能との関係を明らかに するデータを得ることが期待される。 (3) 様々な機関が共同し、総合的な観測研究を行うことで幅広い知見が集約でき、森林のもつ二酸化炭素の吸収能力に関する観測技術の確立に向けて、重要な役割を 担うことが期待される。
- 連絡先
- 環境庁国立環境研究所地球環境研究センター
総括研究管理官:井上 元(0298-50-2402)
(担当)研究管理官:藤沼康実(0298-50-2517)
課長補佐 :高田雅之(0298-50-2348)