報道発表資料

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1998年01月22日

アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)科学企画グループ会合の結果について

アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)科学企画グループ会合が平成10年1月19日から21日までの3日間、オーストラリア・キャンベラで開催された。
 今回の会合では、平成9年度の研究支援活動の内容報告が行われるとともに、平成10年度の研究支援に応募のあった中から計12プロジェクトに対し、APNとして優先的に支援するとの案がとりまとめられた。今回はAPN設立後初めて公募により支援プロジェクトの募集が行われ、アジア太平洋地域の研究者から計24プロジェクトの応募があり、科学企画グループによる評価及び審議の結果、合計12プロジェクトが選定されたものである。選定された主なプロジェクトの内容は、地域気候モデル構築計画、アジア太平洋温暖化対策統合評価モデル(AIM)トレーニングワークショップ等である。
 今後は平成10年3月11日から13日に中国・北京においてAPN政府間会合が開催され、科学企画グループ会合の検討結果を踏まえて、APNの平成10年度の活動方針が決定される予定。
1.趣旨
 地球環境研究の推進には、世界的な協力が必要であり、学術レベルでは「地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)」等の国際共同プロジェクトが実施されている。これらを支援する政府レベルの取組として、各国政府は、「南北アメリカ」、「欧州・アフリカ」、「アジア太平洋」の3大地域ごとに、政府間の地球変動研究の支援組織を形成している。この「アジア太平洋」地域の組織として「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)」が構築されている。我が国は、APNの事務局を引き受けており、本格運営段階に入ったAPNの活動を関係各国及び国際機関と協力して支援してきた。
 このたび、平成10年度以降の科学的活動の具体的な進め方、新たに支援すべき活動内容等について討議することを目的として、各国の科学者をメンバーとする第3回APN科学企画グループ会合が開催されたものである。

2.主催
APN事務局(環境庁地球環境部研究調査室)

3.開催日程
科学企画グループ会合:平成10年1月19日(月)~21日(水)(3日間)

4.開催場所
オーストラリア・キャンベラオーストラリア国立植物園内クロスビー・モリソンビル

5.参加国
オーストラリア、中国、インドネシア、日本、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、フィリピン、ロシア、スリランカ、タイ(計13か国)
 この他、国際学術団体から「地球変動に関する分析、研究、トレーニングのためのシステム」(START)及びそのアジア地域各委員会が出席。またオブザーバーとして、「地球圏・生物圏国際共同研究計画」(IGBP)、「世界気候研究計画」(WCRP)が出席。
 我が国からは、事務局長を務める森秀行・研究調査室長の他、科学者の代表として、樋口敬一・名古屋市科学館館長及び西岡秀三・国立環境研究所統括研究官が出席。

6.本会議の主な結果は以下のとおり。
 共同議長として、日本の樋口敬一・名古屋市科学館館長及びインドネシアのアプリラニ・ソエジェアルト(Aprilani Soegialto)教授を選出し、共同議長の進行により議事が進められた。主な結果は以下のとおり。

(1)平成9年度の主な活動内容報告
a.地球環境変化の人間社会的側面研究に関連した活動
{1}第2回人間社会的側面研究オープン会合(平成9年6月、オーストリア・ウィーン)への参加支援及び第3回会合の我が国への誘致
 地球環境変化の人間社会的側面研究について、今後進めるべき内容を決定するための会合が平成9年6月にウィーンで開催された。この分野の研究はAPNでも優先分野とされ、APNとして地域の6名の研究者の参加を支援したこと、会合の最終日に、APN事務局長が次回会合を日本で開催したい旨を表明したこと(なお、その後、他国から開催についての提案がなかったことから、次回会合の日本での開催が確定している。)等が報告された。
 また、次回会合の企画、プログラムの検討等を行う運営委員会が本年3月にスペイン・バルセロナで開催され、日本からは西岡統括研究官が出席する予定である。
{2}アジア太平洋温暖化対策統合評価モデル(AIM)トレーニングワークショップ(平成9年8月、中国・北京)
 温暖化の影響、対策等の統合評価モデルの一つで、環境庁国立環境研究所及び名古屋大学が開発したAIMを使って、アジア太平洋地域の研究者の能力向上の一環として、中国の研究者を対象としたトレーニングワークショップが平成9年8月に北京で開催された。
 ワークショップには中国国内の21の研究機関、大学から37名の受講生が研修を受け、温暖化関連研究及びモデリングの最新情報に関する講義、パソコンを利用しての実地指導等が行われた。本会合においても、数名の出席者から、統合評価モデルの重要性を指摘する意見が出された。
 なお、同様のワークショップが、平成10年3月にインドでも開催される予定である。
{3}アジアモンスーンと米作社会国際ワークショップ(平成9年8月、つくば)
 アジアモンスーンの変化が米作社会に与える影響はアジア特有のものであり、アジア域内における研究を企画するため、域内の研究者の参加を得て国際ワークショップが開催された。その結果、今後、気候変動が米作に与える影響に関する研究、それがさらに地域の経済社会、持続可能な生産に及ぼす影響に関する研究等を、優先的に進める必要性があることとされた事が報告された。

b.地域気候モデルワークショップ(平成9年10月、中国・北京)
 現在よりも詳細な気候変動予測を行うため、全球気候モデルではなく、地域を限定し高精度化した地域気候モデルの開発が世界的に進められている。温帯東アジア地域においても、地域を対象としたモデルの開発が進められている。今年度開催されたワークショップにおいては、モデル開発で先行する米国大気研究センター(NCAR)等の専門家を招き、本地域の研究者との間で、モデル開発研究に必要な情報の提供や意見交換等が行われた。ワークショップにおいては、今後の計画として、アジア、欧米等の研究機関、研究者とのネットワークの強化が必要なこと、トレーニングコースを実施していくこと等について合意したことが報告された。

c.アジアモンスーン支援観測(GAME(アジアモンスーン・エネルギー水循環観測研究計画)支援)
 世界気候研究計画(WCRP)の一つである全球エネルギー水循環研究計画(Global Energy and Water Experiment (GEWEX))のもとで、アジア地域においてGAMEが進められている。この研究は、アジアモンスーン地域の降雨と水資源の長期予測を可能とするために、その機構の解明を目的としてアジア諸国が共同して実施しているもので、APNではこの一部を支援している。
 平成9年度においては、シベリア、モンゴル、中国、タイ等に地表面からの熱や水のフラックスを長期観測するための簡易計測機器の設置が行われた。

(2)平成10年度の活動方針
 APNは、平成8年度から本格的な研究支援活動を行っているが、平成10年度から、支援する研究プロジェクトをアジア太平洋地域の研究者から広く公募することにより、採択する方法を取り入れた。
 その結果、アジア太平洋地域の研究者・研究機関から24のプロジェクトの応募があり、科学企画グループにおいて評価・審議した結果、12のプロジェクトに対し、APNとして優先的に支援することが合意され、次回の政府間会合に提案することとされた。合意された支援プロジェクト案のうち主なものは以下のとおりである。

a.地球環境変化の人間社会的側面研究に関連した活動
{1}第3回人間社会的側面研究オープン会合の組織委員会
平成11年に日本で開催される第3回人間社会的側面研究オープン会合の企画・プログラムの検討等を行う運営委員会の開催を平成9年度に引き続き支援する。
{2}アジア太平洋地域温暖化対策統合評価モデル(AIM)トレーニングワークショップ
AIMをアジアの途上国においても政策決定等に活用できるよう、中国、インド及びその周辺国の研究者を対象としたトレーニングワークショップを開催することに対し、APNとして支援する。

b.地域気候モデル構築
 平成9年度に引き続き支援するもので、これまでの成果は地域の研究能力の向上に大きく貢献しているとして各メンバーから高い評価を受けた。平成10年度においては、フェローシップの派遣、トレーニングコースの実施、データベースシステムの整備等が行われる。

c.海洋・沿岸地域研究国際ワークショップ
 地球環境変化が海洋生態系、漁業資源、沿岸地域に与える影響に関する研究を進めるための国際ワークショップをSTARTと共同して支援する。

d.アジア太平洋地域におけるエアロゾル研究国際ワークショップ
 温室効果ガスやエアロゾルの計測、土地利用変化がこれらの排出に関する研究を進めるための国際ワークショップをSTARTと共同して支援する。

上記以外にも、東アジアの土地利用変化に関する研究、アジア太平洋地域の湿地の脆弱性に関する研究、環境負荷の少ない産業への転換に関する研究国際ワークショップに対し、優先的に支援することが合意された。

(3)APNの今後の方向について
 APNの今後の方向について議論を行い、出席者から広範な意見が出された。合意された意見の主なものは以下のとおり。
現在までにAPNで行ってきた活動は関係者から高く評価されているため、参加各国政府からの資金的支援を増加する必要がある。この問題については、次回の政府間会合でも検討すべきであることが提案された。
APNの主要な役割は、地域の研究活動のネットワーク強化と、それを通じた能力向上であり、今後ともそのための支援を拡大していくべきである。
APNの活動に関する普及をホームページ、ニュースレターの発行等を通じて、さらに積極的に行うべきであること、特に政策決定者には、よりわかりやすくかつ有用な形でレポートを作成する必要がある。

(4)その他
 上記(1)~(3)については議長サマリーとしてまとめられ、本年3月に北京で開催される第3回APN政府間会合に提出され、正式に決定される予定である。
 なお、次回科学企画グループ会合は、インドネシアで開催することが了承された。
連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課研究調査室
室 長 :森 秀行    (内線6743)
 主 査 :太田 裕之  (内線6746)
 主 査 :川真田 正宏(内線6747)