報道発表資料

この記事を印刷
2000年05月09日

第16回「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」総会の結果について

第16回「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」総会が、5月1日(月)から5月8日(月)までカナダ・モントリオール市において開催された。
総会においては、IPCC吸収源特別報告書が受諾されたほか、IPCC技術移転特別報告書及び排出シナリオ特別報告書の受諾、第3次評価報告書の作成についての進捗報告等が行われた。

  今回承認された吸収源特別報告書は、京都議定書を実施可能なものとする上での科学的基礎を与えることを目的として、議定書上に規定されている用語の定義に関するオプションとその影響評価などが、科学的観点から検討されたものであり、今後は本報告書を踏まえて、SBSTA等において吸収源の取り扱いに関する政府間交渉が進められ、最終的には本年11月にオランダ・ハーグ市で開催予定のCOP6でその決定がなされる予定である。

  環境庁としては、今後とも京都議定書の実施に関する国際的な検討に積極的に参画・貢献することとしている。
  
(注)SBSTA: 国連気候変動枠組条約の下の科学上及び技術上の助言に関する補助機関
    COP6: 国連気候変動枠組条約第6回締約国会議

I. 第16回IPCC総会

開催月日 :
 
 平成12年5月1日(月)から5月8日(月)まで8日間
 
開催場所 :
 
 モントリオール(カナダ)
 
出 席 者 :  ワトソンIPCC議長、オバシWMO事務局長、ザミット・クタヤールUNFCCC事務局長、各国代表など、総計約200人が出席。我が国からは、柳本環境総括政務次官、浜中環境庁地球環境部長をはじめ、谷口IPCC副議長、平石インベントリータスクフォース共同議長などが出席した。

II. 会議の概要

1. IPCC吸収源特別報告書の承認

  吸収源については、政府間での交渉に先立って、まず科学的な議論を積み上げる必要があるとの認識に基づき、IPCC第14回総会において、2000年5月末までに吸収源に関する特別報告書を作成することが決定された。
  本報告書の執筆作業は各国政府や専門家の協力の下で進められ、今般、報告書本体と政策決定者用要旨(SPM:Summary for Policymakers)の2部構成よりなる最終報告書案が完成し、今回の総会では、このうちのSPMの検討・承認が行われ、併せて報告書本体が受諾された。
  本報告書は、今後の地球温暖化防止の観点からの森林等の二酸化炭素吸収源に係る政策の検討に当たっての多くの有益な情報を含むものとなっている。
  その主な内容は以下のとおりである。

(1) 炭素循環
  過去の吸収源による二酸化炭素の吸収量の推計は極めて不確実ではあるが、過去20年間においては、陸上生態系は二酸化炭素の吸収に貢献してきたと推計される。具体的には、1980年代は年間2億トン(炭素換算:以下同じ)程度、1989年からの10年間で年間7億トン程度の純吸収(森林等による吸収量から、森林減少等の土地利用変化による排出量を差し引いたもの)があったものと見込まれる。
 
(2) 定義をめぐる問題
[1] 森林、新規植林、再植林及び森林減少(ARD)
  京都議定書第3条第3項に規定されているARD活動の定義は、土地利用の変化に基づく方法と、土地被覆の変化に基づく方法とがあり、これらの定義の違いにより、伐採とその後の植林に伴う炭素蓄積量の変化の勘定方法が大きく異なることなどを指摘している。
[2] 追加的活動
  京都議定書第3条第4項に規定されている追加的活動の定義は、大枠で規定する方法(森林管理、耕地管理等)、細かく規定する方法(耕法の改良、施肥等)とに区分でき、定義の仕方によって、排出量と吸収量のモニタリングとその結果の報告に係る正確性、実施可能性、コスト等が大きく異なる。
[3] 炭素吸収量の勘定
  正確かつ検証可能な炭素蓄積量の変化を把握するには、炭素吸収量の勘定方法の適切な設計が重要であるが、その勘定方法としては大きく分けて2つ考えられる。一つは、土地に基づく方法(Land-based accounting)であり、吸収源活動が行われた土地を特定し、活動が行われた期間または約束期間の前後で、その土地の炭素蓄積量を測定し、その差をとる方法である。もう一つは、各吸収源活動が1単位行われた場合の吸収量を推定し、一方で行われた活動量を推定して、両者と掛け合わせる方法(Activity-based accounting)である。
 
(3) ARD活動といくつかの追加的活動に伴う炭素蓄積量の変化の推計
[1] 森林、新規植林、再植林及び森林減少(ARD)
  勘定される吸収量は、吸収源活動の定義や勘定の方法で大きく異なり、IPCCの定義によるシナリオと国連食糧農業機関(FAO)による3つのシナリオが提示された。IPCCの定義による試算では、森林減少による炭素排出量が新規植林と再植林による吸収量を上回り、負の吸収量を示す試算となる一方、FAOの定義によれば、年間数十から数百万トンの吸収量が見込まれるケースも想定されている。
[2] 追加的活動
  第3条第4項の追加的活動による吸収量の規模は、京都議定書の実施に向けた今後の決定の内容によって定まる。また、その試算のための現在利用可能な科学的・技術的情報は限られている。吸収量のポテンシャルを大まかに把握するため、吸収源活動を推進するための大胆な政策が採られるとの仮定をおいて、森林管理、耕作地管理といった大枠で規定する活動の種類毎に吸収量を見積もっている。その結果、例えば、附属書I国の追加的活動に伴う吸収量は、2010年の時点で、森林管理で年間100百万トン、耕作地管理で75百万トンなどと試算されている。なお、実際に活動が行われることとなる土地の割合は、第3条第4項に基づく勘定方法の内容や、土地所有者の行動などに大きく依存しているため、過大評価になるおそれがあることが付記されている。
  なお、今後は本報告書でとりまとめられた科学的知見を踏まえて、2000年6月のSBSTA第12回会合、同年7月のSBSTAワークショップ及び同年9月のSBSTA第13回会合において京都議定書における吸収源の取り扱いについて政策的議論がなされる予定で、これを受け、2000年11月のCOP6において吸収源の取り扱いに関する決定案が採択される予定である。
 

2. IPCC技術移転特別報告書及び排出シナリオ特別報告書の承認

  IPCCでは、京都議定書の以前から、技術移転特別報告書及び排出シナリオ特別報告書の作成に着手しており、2000年3月のIPCC第3作業部会において承認されたことを受けて、今回の総会で承認された。
  このうち、排出シナリオ特別報告書は従来の排出シナリオを改訂したものであり、この特別報告書の新たなシナリオに基づいて第3次評価報告書の第1作業部会報告書が作成されることとなる。また、技術移転特別報告書はCOP6においても参照されることとなっている。

3. 第3次評価報告書の作成についての進捗報告

  第3次評価報告書は、温暖化影響の地域レベルでの評価、温暖化に対する適応と緩和策の評価、技術開発と技術移転、途上国の参加問題を重点にしている。
  今回の総会では、現在までの作業の進捗状況についての報告がなされた。
  現在はそれぞれの部会において政府レビューが行われているところであり、今後、第1作業部会報告書は2001年1月のIPCC第1作業部会、第2作業部会報告書は2001年2月のIPCC第2作業部会、第3作業部会報告書は2001年2~3月のIPCC第3作業部会においてそれぞれ承認の予定である。また、統合報告書は2001年10月頃に承認の予定となっている。

4. IPCCインベントリー「グッド・プラクティス・ガイダンス」の承認等

  本報告書は1998年6月に開催されたSBSTA第8回会合の要請に応え作成されたものであり、各国の温室効果ガス排出・吸収インベントリーの作成を支援する目的で作成されたものである。本報告書は、我が国の財政支援で(財)地球環境戦略研究機関(IGES)に設置されたインベントリー・タスクフォース技術支援ユニット(TSU)の最初の成果物である。本報告書は事前に専門家による詳細な検討を経たものであり、今次IPCC総会で承認された。
  なお、インベントリー・タスクフォースはその重要性に鑑み、2002年まで現在の組織のまま活動を続け、2002年に改めて組織のあり方を検討することが決定された。

5. 次回会合

  次回のIPCC総会は、来年4月にケニアのナイロビで開催されることとなった。

連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課研究調査室
室  長 :木村祐二 (内線6743)
 補  佐 :水野  理 (内線6746)
 担  当 :永田眞一 (内線6747)