報道発表資料

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2012年02月27日
  • 保健対策

公害健康被害補償不服審査会による原処分取り消し裁決における指摘事項への対応について(お知らせ)

概要版

 公害健康被害補償不服審査会(以下「不服審査会」という)において、石綿健康被害救済制度に関する審査請求の1件について原処分の取り消しの裁決がなされ、平成23年10月13日に公表されました。原処分取り消しの理由は「中皮腫との病理組織学的な鑑別が、未だ適切に尽くされていない」、(弁明書において)「架空の検査結果を含むなど不適切な行為が処分庁側に認められた」ということでした。

 まず、「中皮腫との病理組織学的な鑑別が、未だ適切に尽くされていない」との指摘は、特定の検査項目が未実施であったことを踏まえたものですが、この指摘に沿って、今後、検査項目を追加実施し、その結果も踏まえて再審査を行うこととしています。

 次に、(弁明書において)「架空の検査結果を含むなど不適切な行為が処分庁側に認められた」との指摘は、弁明書作成者の誤記載によるものであり、医学的判定自体は適切に行われたと考えます。
 この弁明書における誤記載は重大であり、二度と繰り返してはならないことから、その原因究明のための調査を実施することとし、併せて類似の誤記載が過去の不服審査請求事例の弁明書にみられないか確認作業を進めました。今般、それぞれについて、以下の通り結果をとりまとめましたのでご報告いたします。

 原因究明のための調査として、弁明書作成に関わった当時の環境省職員に対して文書による回答を求めた結果、1,弁明書の原案作成段階で単純な誤記載が生じたこと、及び2,弁明書決裁段階における誤記載の有無等の確認作業が不十分であったことの2点が原因と考えられました。
 併行して実施した、類似の誤記載が過去の不服審査請求事例の弁明書にみられないかの確認作業については、不服審査請求事案116件中、確認すべき事案83件に関し、複数の職員によって二重に確認作業を実施しましたが、類似の誤記載はありませんでした。

 今後、弁明書への誤記載の再発防止策として、弁明書を作成する担当技官を2名へ増員し、二重確認を行うこととしました。さらに、こうした環境省における確認作業の後、環境再生保全機構においても実施された検査項目の記載等、事実関係の再確認を行う体制としました。

 今回、以上に報告しましたような環境省の不手際によって、審査請求人はもとより、不服審査会等の関係の皆様に大変なご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
 今後とも石綿による健康被害を受けた皆様の迅速な救済がなされるよう、制度の適切な運用に努めるとともに、信用の回復を目指して参ります。

詳細版

1.当該事案について
1-1
石綿救済法に基づく申請者・行政不服審査法に基づく審査請求人
1-2
中央環境審議会石綿健康被害判定部会石綿健康被害判定小委員会等による判断
1-3
不認定通知発出後の経過
2.裁決書について
2-1
概要(不服審査会発表資料より抜粋)
2-2
不服審査会の指摘事項
3.事実確認及び原因究明のための調査について
3-1
日時及び方法
3-2
結果
3-3
原因
3-4
弁明書作成当時の作業状況
4.過去の弁明書の誤記載確認について
5.今後の対応(再発防止策)について
6.まとめ

1.当該事案について

1-1 石綿救済法に基づく申請者・行政不服審査法に基づく審査請求人(以下「審査請求人」)
 石綿救済法に基づく認定申請をしていた本人(56歳女性)が申請中に死亡したため、その遺族(配偶者・61歳男性)が法第5条に基づく決定を求め、小委員会等が中皮腫と認定できないという決定をしたところ、行政不服審査法による審査請求を申し立てたものです。
1-2 中央環境審議会石綿健康被害判定部会石綿健康被害判定小委員会等(以下「小委員会等」)による判断
 審査請求人は、平成20年3月14日に行われた石綿健康被害救済制度の申請について、審査請求人の配偶者が中皮腫に罹患していたと主張しています。
 本事案は、小委員会等において計5回(平成20年5月~平成21年1月)審議されましたが、結果としては、免疫染色において、ア)中皮腫において陽性となるべき抗体(calretinin等)が陰性であった、イ)悪性黒色腫に特異的な抗体(melan-A)が陽性であった、こと等から中皮腫とは認められず、悪性黒色腫等の悪性疾患である可能性が高いと判断されました。
※calretininは上皮型中皮腫において陽性となることが多い抗体、melan-Aは悪性黒色腫において陽性となることが多い抗体
1-3 不認定通知発出後の経過
 この判断に基づき、平成21年2月に処分庁である環境再生保全機構が審査請求人に対して、本事案は中皮腫として認定できない旨通知しましたところ、同年4月に審査請求人から行政不服法に基づく審査請求が申請されました。不服審査会での審議を経て、平成23年10月13日に原処分取消裁決がなされました。

2.裁決書について

2-1 概要(不服審査会発表資料より抜粋)
 裁決書では、「放射線画像診断の結果、胸膜プラーク及び肺線維化は認められず、石綿ばく露による疾患であることを示唆する所見は得られなかった。一方、病理組織学検討の結果、メラノサイトへの分化傾向を伴う悪性腫瘍の可能性が相当にあるが、中皮腫との病理組織学的鑑別が、未だ適切に尽くされていないと判断した。さらに、架空の検査結果を含むなど不適切な行為が処分庁側に認められたことによって、原処分の破棄は免れない。よって、これを取り消す。」と述べられています。
2-2 不服審査会の指摘事項
 裁決書では、(弁明書において)「架空の検査結果を含むなど不適切な行為が処分庁側に認められた」とする理由として以下の2点を指摘しています。
実施されていないWT-1の検査結果を3回目の弁明書において、陰性として記載したこと。
4回提出した弁明書において、calretininに関する記載が異なっていること。
(1回目:記載なし → 2回目:陰性 → 3回目:陽性 → 4回目:陰性)
※WT-1は上皮型中皮腫においては陽性となることが多い抗体

3.事実確認および原因究明のための調査について

3-1 日時及び方法
 裁決書の指摘を踏まえて、環境省が行った調査の日時及び方法については以下の通りです。
日時:
平成23年10月17日~19日
方法:
当該弁明書に関わった環境省石綿健康被害対策室担当者(4名)に対して、共通の質問を作成し、文書で回答を求めました。その後も必要に応じて、電話等による確認を実施いたしました。
3-2 結果
 「実施されていないWT-1の検査結果を3回目の弁明書において、陰性として記載していた」、「4回提出した弁明書において、calretininに関する記載が異なっていた」といった誤記載の事実を認めました。
3-3 原因
実施されていないWT-1の検査結果を3回目の弁明書において、陰性として記載したこと。
 今回、誤記載の対象となったWT-1は一般的に上皮型中皮腫の診断において実施されることが多い中皮マーカー(検査)ですが、弁明書作成者が、小委員会等の議事録中にある「中皮マーカーも染まらない」等の委員の発言を参照して、一連の中皮マーカーである"WT-1、D2-40、cytokeratin5/6はいずれも"(検査をした結果)染まらなかったものと思い込んだこと。
 また、弁明書作成者は中皮マーカーについて「KARU」と入力すると、「calretinin、WT-1、D2-40、cytokeratin5/6」と一括変換入力されるよう辞書登録しており、これらを一連のものとして認識する傾向にあったこと。
 さらに、弁明書作成者がWT-1による免疫染色が行われていないことの確認を怠ったこと。
4回提出した弁明書において、calretininに関する記載が異なっていること。
 calretininの染色結果については、小委員会等の判断としては陰性でしたが、弁明書作成者が小委員会等の議事録中にある「calretininがごくわずか一部の細胞で陽性になっているだけ」「一応核が染まっているところもあります」等の委員の発言を参照して、3回目の弁明書に「calretininが陽性」と誤って記載したこと。
3-4 弁明書作成当時の作業状況
 医学的判定に係る弁明書の作成は1名の技官が担当し、4名の室員が確認の上、最終的に室長決裁を取っていましたが、専門的な内容については担当の技官に一任されていました。

4.過去の弁明書の誤記載確認について

 類似の誤記載が過去の不服審査請求事例の弁明書にみられないかの確認につきましては、不服審査請求事案116件(平成24年1月現在)中、確認すべき事案は83件ありました。
 複数の職員による二重の確認を行ったところ、類似の誤記載はありませんでした。
(※残り33件については(1)請求期限切れ等により却下処理とされた、(2)環境大臣による医学的判定の対象とならない、(3)弁明書作成作業中である等の理由により、見直し作業の対象としていません。)

5.今後の対応(再発防止策)について

 弁明書作成については、これまで担当の医系技官1名にて作成の上、主に室長が確認をしていたところ、今般の不服審査会の裁決を受けて、担当の医系技官を2名へ増員して作成・確認することで、確認の体制を充実させることとしました。また、医学的判定以外の部分については、医系技官以外の判定業務担当者の確認をもって決裁を行うこととしました。
 こうした石綿室内での取り組みに加えて、環境再生保全機構においても実施された検査項目の記載等、事実関係の再確認を行う体制としました。

6.まとめ

 今回、環境省の不手際(弁明書における誤記載)によって、審査請求人はもとより、不服審査会等の関係の皆様に大変なご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。なお、平成23年10月23日に環境省石綿健康被害対策室長及び環境再生保全機構申請課長が審査請求人ご本人に面会し、謝罪するとともに、再審議についても、ご了解をいただきました。
 このようなことが二度と起きないように細心の注意を払いつつ、今後とも石綿による健康被害を受けた皆様の迅速な救済のため、制度の適切な運用に努めるとともに、信用の回復を目指して参ります。

連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部企画課石綿健康被害対策室
(代表   :03-3581-3351)
(直通   :03-5521-6558)
室長   :桑島 昭文 (内:6381)
室長補佐:渡辺 顕一郎(内:6389)