報道発表資料
環境庁は、平成10~11年度に実施した海洋環境モニタリング調査の結果を中間的に取りまとめた。このモニタリングでは、水質、底質に加え、海生生物中に蓄積された汚染物質の濃度や生物群集の状況なども調査対象としたものであり、この調査から海生生物中における汚染物質の蓄積について地域的特性が示された。 今後ともモニタリング調査を継続し、データを蓄積することで経年的推移を把握するとともに、汚染の地域的分布や経年的変化の要因を解明するための総合的な解析を行う予定である。 |
【陸域起源の汚染を対象とした調査】 |
本モニタリングで得られた水質・底質の調査結果は、ほぼ同様の測線で調査を実施してきた「日本近海海洋汚染実態調査(昭和50~平成6年度,環境庁)」と同レベルであり、過去から現在にかけての汚染状況に大きな変化は認められなかった。 水質・底質調査の測点を内湾域と沖合域に分けて、検出範囲、中央値及び平均値を比較すると、ほとんどの測定物質等で内湾域の値が相対的に大きかった。特に底質に含まれる全水銀、PCB、TBT及びダイオキシン類の値は東京湾内の測点で相対的に大きかった。 本モニタリングで得られた海生生物の軟体部・筋肉部・肝臓部のダイオキシン類には地域的相違が見られたが、その状況は、物質、生物種により異なっており、今後も引き続きデータを蓄積するとともに、汚染物質の移動・蓄積メカニズムなどについて総合的な解析を進める必要がある。 |
【廃棄物等の海洋投入処分による汚染を対象とした調査】 |
今回調査した投入処分B海域の伊豆房総沖合に位置する投入ポイント及び日本海西方沖合に位置する投入ポイントでは、廃棄物の海洋投入処分による海洋環境への影響はほとんど検出されなかった。 また、投入処分C海域の日本海西方沖合に位置する投入ポイントでは海洋投入処分による明瞭な影響は認められなかった。伊豆房総沖合に位置する投入ポイントでは哺乳類のし尿中に含まれる物質が検出されたが、投入処分による影響かどうかの判断はできなかったことから、今後とも注視していく必要がある。 |
1. | 趣旨・目的 | |
国連海洋法条約が平成8年7月に我が国で発効したことを受け、排他的経済水域までの海域の環境保
全を管轄することになり、平成10年度より海洋環境モニタリング調査に着手したところである。 本モニタリングは、昭和50年 度から平成6年度まで実施されてきた日本近海海洋汚染実態調査で得られた水質、底質に関する成果を基礎としつつ、調査内容を拡 充したものである。具体的には、水質調査、底質調査に加え、生物を対象とした生体濃度調査、生物群集・生態系調査を追加した 「海洋環境モニタリング調査指針(平成9年度環境庁)」を踏まえて、本モニタリング調査を実施した。 なお、本モニタリング が対象としている海域(排他的経済水域内)は非常に広大であり、すべての海域を単年度で調査することは困難なことから、本モ ニタリングでは日本周辺の海域を3~5年で一巡することを前提とした調査計画を立てている。これらの調査を積み重ねることによ り、経年的な変化を捉えることともに、周辺海域を一巡するごとに、日本周辺海域の海洋環境の実態について総合的な評価を行う こととしている。 今回は、平成10、11年度の2ヶ年の結果について中間報告する。今後、平成12年度以降の結果を含めた総合的 な解析を行う予定である。 | ||
【陸域起源の汚染を対象とした調査】 | ||
陸域起源の汚染に関しては、沿岸域、特に負荷の大きな内湾からその沖合にかけての汚染物質の
分布、濃度勾配を把握することを目的として実施している。 上記目的を達成するために、海水を対象とした水質調査、堆積物 を対象とした底質調査、生物を対象とした生体濃度調査と生物群集・生態系調査、海洋表層の浮遊性プラスチック類等を対象とし たプラスチック類等調査を行った。 | ||
〔参考〕 生体濃度調査:化学物質は海水中や堆積物中よりも生物体内で高濃度に蓄積されるた め、海水や堆積物からは検出できない程度の僅かな量であっても生物体を試料とすることで検出できる場合がある。すなわち、生 体濃度調査は微量化学物質について海洋環境の現状を把握するために有効な手段と考えられる。本モニタリングにおける生体濃度 調査は経年的な変化の把握に主眼を置き、現時点ではデータの蓄積を第一の目的としている。 | ||
【廃棄物等の海洋投入処分による汚染を対象とした調査】 | ||
海洋投入による汚染に関しては、現在、相当量の処分が実施されているB・C海域において、海水
、堆積物、海洋生物の汚染状況を把握することを目的として実施した。 上記目的を達成するために、海水を対象とした水質調 査、堆積物を対象とした底質調査、生物を対象とした生体濃度調査と生物群集・生態系調査を行った。 | ||
〔参考〕 海洋投入処分B海域には非水溶性無機性汚泥などが投入処分されている。海洋投入処分
C海域にはし尿、有機性汚泥などが投入処分されている。 | ||
2. | 調査の概要 | |
調査は我が国周辺の200海里内の海域において、平成10、11年の秋季に実施した(
図1)。
水質調査、底質調査、生体濃度調査は 表1 に示す物質等を対象とした。生態系・生物群集調査はメイオベントス・マクロベントスを、プラスチック類等調査は表層浮遊物を 対象とした。 生体濃度調査は、「陸域起源の汚染を対象とした調査」では沿岸表層種としてムラサキイガイ、沿岸底層種とし て底生性サメ類、沖合表層種としてイカ類、沖合中底層種としてタラ類を対象とした。ムラサキイガイは軟体部、その他は筋肉部 と肝臓部を分析部位とした。「廃棄物等の海洋投入処分による汚染を対象とした調査」では表層種としてマイクロネクトン、底層 種としてメガベントスを対象とした。 | ||
〔参考〕マイクロネクトン:ハダカイワシ類、遊泳性小型甲殻類等を含む、小型遊泳性生物のこと
。 メイオベントス、マクロベントス、メガベントス:ベントスとは水底に生活する生物の総称。大きさでメイオベントス<マ クロベントス<メガベントスと分類される。 | ||
3. | 調査結果の概要 | |
【陸域起源の汚染を対象とした調査】 | ||
(1) | 水質・底質調査 | |
水質・底質調査の測点を内湾域と沖合域に分けて、検出範囲、中央値および平均値を比較すると、
ほとんどの測定物質等で内湾域の値が相対的に大きかった(
表2、
表3)。
特に底質調査の全水銀、PCB、TBTおよびダイオキシン類の値は東京湾内の測点で相対的に大きかった(
表4)。
今回得られた結果のうち、海水中のカドミウム、鉛、全水銀、PCB、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素については海域における人 の健康の保護に関する環境基準値、堆積物中の全水銀、PCBについては底質の暫定除去基準が設定されているが、これらの基準と本 モニタリング結果を比較すると、すべての項目で基準値以下となっていた。 | ||
(2) | 生体濃度調査 | |
生体濃度調査結果をみると、底生性サメ類中のPCB(肝臓部)、ダイオキシン類(肝臓部・筋肉部)
については、東京湾で他海域より高いこと、イカ類中(肝臓部)のPCB、ダイオキシン類、ブチルスズ化合物については、東シナ海
域で他海域より高いこと、タラ類中のPCB(肝臓部)、ダイオキシン類(肝臓部・筋肉部)については、日本海域で親潮域より高い
ことが示されている(
図2)。このような地域特性の要因を明らかにするため
には、汚染物質の移動・蓄積メカニズムの解明が不可欠であり、今後も引き続きデータを蓄積するとともに、総合的な解析を進め
る必要がある。 なお、今回得られた生物体内の濃度は概ね既往の調査研究値の範囲内であった( 表5)。 本モニタリングで得られた軟体部・筋肉部のダイオキシン類は単純平均値0.38pgTEQ/g(検出範囲:0.045~1.2pgTEQ/g)であり、 魚介類の可食部のダイオキシン類濃度について調べた他調査に比べ、低いレベルにあった。 | ||
注:生体濃度調査における肝臓部のダイオキシン類については、既往値がないため比較していない。 | ||
〔参考〕 | ||
・ | 環境庁の「平成10年度ダイオキシン類緊急全国一斉調査 結果」の水生生物では単純平均値2.1pgTEQ/g | |
・ | 厚生省の「平成10年度食品中のダイオキシン汚染実態調査結果」の魚介類のう ち、国内産の魚類・貝類のみの結果を引用し求めた単純平均値1.97pgTEQ/g | |
・ | 水産庁の「平成10年度ダイオキシン類調査結果」の魚類(国内産)では単純平 均値0.757pgTEQ/g | |
・ | pg(ピコグラム):ピコは単位の一つで、一兆分の一(10-12)を示す。 | |
・ | TEQ(毒性等量):ダイオキシン類には多くの異性体があり、それぞれ毒性の強
さが異なる。異性体の中でも毒性の強い2,3,7,8-TCDDの毒性を1として各異性体の毒性を換算し、これらを総和した値。
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(3) | プラスチック類等調査 | |
プラスチック類等は本調査海域では、富山湾沖などで比較的高密度で存在していることが分かった(
図3)。 | ||
【廃棄物等の海洋投入処分による汚染を対象とした調査】 | ||
(4) | B海域 | |
今回調査した投入処分B海域の伊豆房総沖合に位置する投入ポイント(X-1)、日本海西方沖合に位置
する投入ポイント(X-3)では廃棄物の海洋投入処分による海洋環境への影響はほとんど検出されなかった(
表6(1))。 | ||
(5) | C海域 | |
今回調査した投入処分C海域の日本海西方沖合に位置する投入ポイント(Y-6)では、海洋投入処分に
よる明瞭な影響は認められなかった。伊豆房総沖合に位置する投入ポイント(Y-1)の底質から哺乳類のし尿中に含まれる物質(コ
プロスタノール)が検出されたが(表6(2))、投入処分による影響かどうかの判断はできなかったことから、今後とも注視して
いく必要がある。 | ||
〔参考〕 廃棄物の排出海域図 | ||
添付資料
- 連絡先
- 環境庁水質保全局企画課海洋環境・廃棄物対策室
室 長 :伊藤 哲夫 (6620)
補 佐 :島田 幸司 (6622)
担 当 :溝口,井上 (6622)