報道発表資料

この記事を印刷
1997年11月28日

アジア太平洋地域の開発途上国の地球温暖化対策への取組状況及び地域協力の現状と今後の方向に関する調査結果について

環境庁は、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と国連大学高等研究所(UNU/IAS)と共同して、本年7月に{1}中国、インド、インドネシア等アジア太平洋地域の開発途上国を中心とする23カ国に対して調査票を送付して温暖化対策に関する取組の現状を把握するとともに、{2}GEFやアジア開発銀行等の多国間援助機関、及び他の先進諸国の援助機関による途上国の温暖化対策への援助の実施状況に関する調査を行い、その結果「アジア太平洋地域諸国における気候変動枠組条約の実施状況報告書」及び「アジア太平洋地域における気候変動に関する地域協力と活動の概要報告書」をとりまとめた。
 調査結果の概要は以下のとおり
 ・ 大部分の途上国は既に温暖化対策のための行政組織を整備し、IPCCガイドラインによる温室効果ガス(GHG)の排出量の推計、温暖化による影響調査などを進めている。
 ・ しかし、気候変動枠組条約に基づく通報については、これまでに提出した国はなく、今後の課題となっている。
 ・ 各援助機関には、途上国の通報の実現に向けた協力を強化するとともに、基礎的調査から一歩踏み出し、途上国の具体的対策の実施に向け、温暖化防止行動計画の策定やその実施に対する援助が期待されている。
 ・ アジア太平洋地域全体として、先進国と途上国の間あるいは途上国相互で温暖化対策に関する知識や経験の交流を円滑に行うための「アジア太平洋地域情報交流ネットワーク」の整備や、研修等を通じた途上国政府担当者などの対処能力の向上が必要である。
 環境庁としては、これらの報告書及びその要約を本年12月に京都で開催される気候変動枠組条約第3回締約国会議に提出する。アジア太平洋地域諸国における熱心な取組状況及び活発な地域協力について具体的に紹介することにより、議定書交渉の促進を図るとともに、途上国における一層の取組の強化に向けた基礎資料として活用されることが期待される。

1.経 緯

(1) 環境庁は、1990年に名古屋で第1回地球温暖化アジア太平洋地域セミ ナーを開催して以来、本年は富士吉田で7回目のセミナーを開催するなど、アジア太平洋地域の開発途上国の温暖化対策の促進に向けたイニシャティブを発揮してきた。また、フィジーを始めとする途上国の温暖化対応戦略の策定を支援してきた。
(2) 開発途上国との連携は、地球温暖化防止京都会議(COP3)の成功と、 それを踏まえた地球温暖化対策の推進に不可欠であり、今般、上記国際機関と共同してアジア太平洋地域の温暖化対策の現状と今後の方向を明らかにするための調査を実施し、以下の報告書をとりまとめた。
 ・ アジア太平洋地域諸国における気候変動枠組条約の実施状況報告書
 ・ アジア太平洋地域における気候変動に関する地域協力と活動の概要

2.調査の概要

(1)

各国の温暖化対策への取組状況

  1. 調査対象
    バングラデシュ、インド、イラン、モルジブ、ネパール、パキスタン、スリランカ、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、韓国、モンゴル、ロシア、ウズベキスタン、フィジー、パプアニューギニア、キリバツ、ツバルの23カ国。
  2. 調査項目
      a. 各国の連絡担当者
      b. 温暖化対策のための組織体制の整備状況
      c. 温室効果ガス排出目録の整備状況
      d. 温暖化対策の政策手段を含む国家計画の整備状況
      e. 国別通報の状況
      f. 共同実施活動(AIJ)への取組状況
      g. 制度・行政的枠組及び適正技術に関する情報へのアクセスを含む地域協力を促進する上での課題や対処方法
  3. 調査結果
      a. 各国は、いずれも気候変動枠組条約に基づく通報に関し、国を代表して連絡を行う担当者を指名済。また、AIJについても、同様の担当者を多くの国が既に指名。
      b. 多くの国で、政策調整を行うための環境、外交、エネルギー、農業などの政策分野を所管する省庁間の連絡体制を整備済。
      c. GHGの排出目録については、インドネシア、バングラデシュなど10カ国で整備済。中国、タイ、マレーシアなど9カ国で整備中、イラン、パプアニューギニアなど4カ国が整備に未着手。対象ガスについては、二酸化炭素はすべての国が対象としており、メタンについてはシンガポール1カ国、亜酸化窒素についてはスリランカ、中国等4カ国を除き対象としている。前駆物質については、バングラデシュ、パキスタン、インドネシア等9カ国で対象とされている。なお、排出量の計算手法については、IPCCの改正ガイドラインは大部分の国で入手はしているものの、これに基づいて算定を行った国はモンゴル等3カ国のみである。
      d. 国家計画については、国別アジェンダ21など持続可能な開発を実現するための計画を策定している国が、中国、マレーシア等6カ国である。インドネシアやタイ等8カ国では、こうした計画を策定中である。また、温暖化対策に焦点を当てた計画を策定している国は、インドネシアのみである。
      e. 国別通報については、通報済の国はない。中国、スリランカ、マレーシア等8カ国で準備中、その他の国は未着手である。
      f. 政策手段については、排出削減を含む影響緩和策、脆弱性評価と適応策、調査研究とモニタリング、意識向上と教育について調査を行った。影響緩和策については、約半数の国で計画は策定されているものの、具体的な行動はとられていない。脆弱性評価については、過半の国で何らかの調査研究が行われている。
      g. 対処能力向上の必要性は同様に過半の国で認識されているが具体的行動に着手した国はない。意識啓発については、約半数の国で計画が策定され、8カ国で学校教育やマスメディアを通じた取組が行われている。
      h. AIJについては、中国、インドネシア、タイ等7カ国で、AIJへの取組を進めるための国内の枠組が整備されている。
      i. アジア太平洋地域における情報交流の必要性については、中国が、セミナー、技術研修ワークショップ、インターネットを利用した情報交流を提案するなど、大部分の国が積極的な取組を支持している。
(2)

多国間、二国間協力の状況
   多国間、二国間協力を通じた途上国の取組の支援状況は、以下のとおり。

  1. 多国間協力の状況
      a. 国連開発計画(UNDP)とGEFは、気候変動枠組条約に基づく各国の通報の準備を支援するイネイブリング・アクティビティ (Enabling Activity)と称する支援事業を行っている。本地域では、スリランカ、マレーシア等6カ国が参加している。
      b. UNDP、GEF、気候変動枠組条約事務局及び国連研修研究機関(UNITAR)は、途上国の開発目標に温暖化対策を統合しUNFCCCの実施能力を向上させるための研修プログラム(CC:TRAIN)を実施している。ベトナム、南太平洋島しょ国等が参加している。
      c. アジア開発銀行は、1993年からアジア最低コストGHG削減戦略(ALGAS)プロジェクトを中国、インド、インドネシア、ベトナム、北朝鮮等12カ国を対象に実施している。このプロジェクトでは、GHGの算定、対策技術の検討、削減戦略の策定等を行っている。
      d. ESCAPは、1993年以降、対処能力向上のためのアジア太平洋地域ネットワークの整備に向けた取組を行っており、専門家会合を開催してその具体的内容の検討を行っている。
  2. 二国間協力の状況
      a. 我が国は、1991年以降インドネシア、西サモア、フィジー等を対象として、国家対応戦略の研究や脆弱性評価に関する協力を行っている。また、グリーンイニシャティブを通じて途上国協力の一層の強化を行うこととしている。
      b. 米国は、1993年以降米国国別研究プログラム(USCSP)を通じて、アジア太平洋地域のバングラデシュ、インドネシア、中国等15カ国を含め全世界で50カ国以上を対象に、GHG排出量目録、脆弱性評価等に協力している。1995年に新たに国家行動計画支援(SNAP)を開始し、国別の研究成果を行動計画に結び付けることを目的に、域内ではインドネシア、中国、フィリピン等8カ国への協力を行っている。
      c. ドイツは、パキスタン、インドネシア、中国等域内の5カ国を対象として、排出シナリオの構築、GHG排出抑制のための技術的政治的オプションの分析等への協力を行っている。
      d. オランダは、バングラデシュとベトナムの沿岸域を対象とした脆弱性評価、モンゴル、カザフスタン、ブータンを対象とした温暖化対策政策策定支援を行っている。
(3)

温暖化対策に関するアジア太平洋地域協力の今後の方向
 本調査を通じ、今後、温暖化対策に関する地域協力を促進するに当たって、検討すべき課題として、以下の事項があげられた。

  1. 情報ネットワーク
     情報交換や政策対話の促進、気候に優しい技術の普及、意識の向上、教育を強化するとともに、AIJに関する国際的なクリアリングハウス機能の提供等を目的とする地域ネットワークの構築が必要。

  2. 政策統合
     気候変動に関係する政策を、エネルギー、農業、工業、輸送の各関連分野に統合するための適当なメカニズムの構築が必要。

  3. 対処能力向上
     気候変動枠組条約の義務を果たすとともに、温暖化防止のための政策を形成し、実行する能力を構築するための気候変動に関するトレーニングプログラムが必要。

  4. 地域フォーラム
     特に政策決定者を対象として、情報と経験を地域内で交換するために、気候変動に関するアジア太平洋地域セミナーのような地域フォーラムを定期的に開催することが必要。

  5. 二国間・多国間協力
     開発途上国の努力を支援するために財政・技術援助を含む、気候変動に関するプロジェクトに対する二国間・多国間協力を強化する必要。

  6. 調査・研究
     特に地域、準地域、国それぞれのレベルにおける影響に焦点を当てた気候変動に関する調査・研究が、特にIPCCとAPNを通じて促進されるべき。

  7. 公衆意識とメディア
     気候変動に関する国民の意識を促進するための様々な活動に対する支援が強化されるべき。

  8. 民間セクター
     気候にやさしい技術の移転、ISO14000シリーズのような環境管理システムの導入を含む民間セクターによる自主的な計画の策定・実行が奨励されるべき。

3.我が国の今後の取組みの方向

(1)

我が国としては、COP3の議長国として気候変動に関する国際的な連携を一層強化するためにも、ESCAPやアジア開発銀行(ADB)等の域内機関、気候変動枠組条約事務局やGEF等の世界的な機関との連携を図りつつ、アジア太平洋地域の気候変動に関する地域協力の推進に向け引き続きイニシャティブを発揮していく必要がある。具体的には以下の事項が特に重要と思料される。

 {1} 地球温暖化アジア太平洋地域セミナーの継続的開催
 {2} 気候変動に関する地域情報ネットワークの構築に向けた調査の実施
 {3} リージョナル、ナショナルトレーニング・プログラムの作成や実施の支援等によるキャパシティ・ビルディングの推進
 {4} アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)等を通じた域内諸国による調査研究の推進
 {5} マスメディアやNGOを対象とするリージョナル・ワークショップの開催や意識啓発に必要な各種資料の作成、環境教育の推進等
(2)

環境庁としては、これらの報告書及びその要約を本年12月に京都で開催される気候変動枠組条約第3回締約国会議に提出する。アジア太平洋地域諸国における熱心な取組状況及び活発な地域協力について具体的に紹介することにより、議定書交渉の促進を図るとともに、途上国における一層の取組の強化に向けた基礎資料として活用されることが期待される。

連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
課   長 :小林  光 (内6740)
温暖化国際対策推進室
 室   長 :鈴木 克徳(内6741)
 課長補佐 :田中 聡志(内6758)
 担   当 :岩佐 健史(内6763)