報道発表資料

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1998年04月28日

京都議定書・国際制度検討会の中間報告書について

環境庁では、平成10年1月、企画調整局長の下に、京都議定書・国際制度検討会を設置し、京都議定書で新たに定められた排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズムについて、制度の仕組み、国内制度との関係等の制度的検討を行うこととした。
 同検討会は、このたび中間報告をとりまとめ公表した。今回の中間報告書では、これらの国際制度の基本的な考え方として、まず政府が参加する制度の在り方を検討し、その上で民間主体の関与の在り方についても検討を加えている。
 環境庁としては、有識者の検討結果として、この報告書を、6月の条約補助機関会合、11月の条約締約国会合等今後の国際交渉に向けた我が国の検討作業に活用し、また、国際交渉へも情報として提供することとしている。

1.報告書の要点

国際制度検討の意義と指針
三つの国際制度は、温室効果ガス排出削減に取り組む先進諸国の目標達成に対し柔軟性を与える、市場メカニズムを重視する制度に他ならない。とはいえ、排出量取引と共同実施は、国内での削減努力に優先させてはならないことを、京都議定書は明確に謳っていることを忘れてはなるまい。
制度が満たさなければならない公準として、{1}効率性、{2}公平、{3}透明性、{4}市場メカニズムの尊重が挙げられる。

排出量取引
議定書の締約国会合として機能する条約の締約国会議(COP/MOP)又はその補助機関(以下「管理主体」という。)が、排出量取引制度の管理を行うこととする。管理主体は、附属書B国に対して、京都議定書の定める削減目標に従って排出枠を割り当て、移転された排出枠の追跡(トラッキング)、取引の検証を行う必要がある。各国政府は、割り当てられた排出枠を国内外の様々な主体に対して有償又は無償で譲渡することができることとする。各国政府は、期間内の国内総排出量が、排出枠の総量を上回らないよう担保する義務を負う。
管理主体によるトラッキングが可能となるよう、各国政府は、国内の取引主体の取引に関する情報を、取引のたびごとに、漏れなく速やかに報告しなければならないこととすべきである。また、管理主体は、これらの情報を何らかの形で公開すべきである。
コミットメント期間終了後、参加国は、COP/MOPへの報告と、COP/MOPの審査により、履行の是非につき承認を得なければならないこととすべきである。
コミットメント期間内の総排出量が排出割当量の残高を上回ることは原則として認められないが、何らかの不可抗力的理由によるものだと判断するならば、「特例繰越措置」を申請し、COP/MOPが許可することができるようにすべきと考える。

共同実施
附属書I国AとBは、A国内で実施される二酸化炭素排出削減等のプロジェクトを共同して行い、その成果実績又は成果予測に応じて、両国が合意の上で、A国からB国に排出枠(クレジット)を移転することができる。
A国からB国へのクレジットの移転は、B国の提供した資金と技術への対価とみなすことができる。
実施国の排出枠の増加が、投資国の排出枠の減少に等しい限り、クレジットの配分の仕方と削減量の見積もりは、両国の合意に委ねられ、管理主体による審査・認定を必要とはしない。
共同実施は、事業の実施を通じた附属書I国間の「排出枠の移転」と解するのが適切である。
技術的な課題であるベースライン(共同実施なかりせばの仮定のものでの温室効果ガス排出量の特定化)の特定化を、両国に一任することにすれば、共同実施の円滑化が促されるであろう。ただし、(排出枠の適正なトラッキングのために)両国が管理機構に合意されたベースライン及び移転された排出枠を届け出る義務を免れるわけでは無論ない。

民間企業の取引市場への参加
政府は排出削減の限界費用を知る立場になく、政府のみが排出量取引する場合、排出枠の購入に必要な財源の手当についての合意形成が難しく、また、貿易や商品取引のノウハウが政府には必ずしも備わっていないため、少なくとも経済効率性という観点からは、民間企業が排出量取引に参加することが望ましい。
民間企業の参加として、{1}共同実施又は排出量取引により入手した排出枠を販売する方法と、{2}民間企業に排出枠を個別に割り当て、その過不足分に応じて取引市場に参加する方法が考えられる。
国内で排出枠を割り当てる場合の割当の方法や対象、排出枠の取引の方法には、種々のオプションが考えられるが、各国がそれぞれの国内事情を斟酌した上で、自国にとって最も望ましいと考えられる国内制度を模索すればよいのであって、国内制度の国際的な一元化は必要としない。いかなる国内制度で臨むべきなのかは、今後の議論に委ねざるを得ない。

クリーン開発メカニズム
CDMには、途上国にとって、持続可能な開発を達成し、条約の究極の目的にかなう新たな発展経路をたどるために必要な資金と技術を先進国から移入するための手段として、先進国にとっては、数値目標を達成することを支援することを目的としている。また、先進国の民間資金を活用し、途上国における費用対効果の優れた排出削減対策を実現するメカニズムとして、重要な役割を担うとともに、気候変動枠組条約の締約国として、途上国が実際に温暖化対策等を進めることを支援する手段としても位置付けられる。
プロジェクト活動は、事業を伴うものを基本とし、植林や再植林をCDMのプロジェクト活動とすべきである。
制度の信頼性を確保するためにはベースラインが適切に設定されなければならない。
認証された削減量は、プロジェクト活動の実施主体と投資主体間の合意又は契約に従い配分されることとすべきである。
附属書I国の民間セクターがCDMに積極的に参加しうるか否かがCDMの成否の鍵となろう。民間企業に早期の参加を促すためには、インセンティブを仕掛けるような国内制度づくりが先行しなければならない。

2.京都議定書・国際制度検討会委員(平成10年4月1日現在、敬称略)

秋田 次郎東北大学経済学部助教授
今井 晴雄京都大学経済研究所教授
岩淵 勲スカイアルミニウム株式会社常務取締役
浦田 秀次郎早稲田大学社会科学部教授
大塚 直学習院大学法学部教授
荻野 和彦滋賀県立大学環境科学部教授
加藤 久和名古屋大学法学部教授
川島 康子国立環境研究所社会環境システム部研究員
黒坂 三和子世界資源研究所上席研究員
小林 紀之住友林業株式会社グリーン環境室長
西條 辰義大阪大学社会経済研究所教授
(座長)佐和 隆光京都大学経済研究所長
時田 優東京証券取引所調査部調査企画室長
新澤 秀則神戸商科大学教授
松尾 直樹(財)地球環境戦略研究機関上席研究員
最上 敏樹国際基督教大学教授
諸戸 孝明伊藤忠商事株式会社顧問
和気 洋子慶應義塾大学商学部教授

3.検討会の開催経緯

1月23日第1回検討会開催(検討会設置の趣旨、今後の検討の進め方等)
2月5日第2回検討会開催(委員からの発表等)
2月27日第3回検討会開催
(委員からの発表、吸収源の取扱い、小委員会の進め方等)
3月10日第1回小委員会開催
3月19日第2回小委員会開催
3月31日第3回小委員会開催
4月9日第4回検討会開催(中間報告書案の検討等)
4月20日第5回検討会開催(中間報告書案のとりまとめ)

添付資料

連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
課    長 :小林 光  (内線6740)

環境庁企画調整局地球環境部温暖化国際対策推進室
室    長 :梶原 成元(内線6741)
 課長補佐 :田中 聡志(内線6758)
 担    当 :岩佐 健史(内線6763)

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