報道発表資料
本調査は今回が4回目であり、平成7年5月に完成した浄化施設運用後の初めての調査となる。
生息環境としての水質面では、浄化施設運用に伴い、それ以前に比べて懸濁物質(SS)量が減少し、透明度の全濠平均では、0.6m(平成4年度)から1.2m(平成10年度)に改善され、浄化施設の有効性が実証された。
魚類調査の結果では、3回目と同様4目5科14種類が確認された。捕獲数では外来種のブルーギルが全体の約半数を占める一方、外来種のいない上流の濠では、在来種のモツゴやレッドリストに掲載されているジュズカケハゼが多数確認された。
本濠は大都市の中にある重要な生物生息空間であることから、今後も水質及び魚類の定量的な調査を継続する一方、在来種の再生産が促進されるよう水深構造の複雑化及び水生植物の移植などを検討することとしている。
1.調査目的
本調査は、昭和50年に始まり生息魚類の変化を把握するとともに、水質浄化対策等の基礎資料を得ることを目的としている。今回は4回目(2回目は昭和59年、3回目は平成5年)の調査に当たり、魚類調査と同時に、魚類の生息環境調査として動植物プランクトンの調査、底生動物の調査及び水質等の調査も実施した。
2.調査水域
-皇居外苑濠詳細図-(別添) 環境庁所管の12濠(桜田濠、凱旋濠、蛤濠、半蔵濠、千鳥ヶ淵、牛ヶ淵、清水濠、大手濠、桔梗濠、和田倉濠、馬場先濠、日比谷濠)及びこれに接続している宮内庁所管の二重橋濠の合計13濠(38.6ha)を対象とした。
3.調査時期
前3回の調査(秋季実施)との整合を図るため、平成10年9月24日から30日までのうちの5日間とした。
4.調査方法
- (1)魚類の捕獲調査
- 船上より投網にて行い、一部浅場については手網を使用した。
- (2)魚体測定
- 捕獲した魚類の全長、標準体長を測定した。
- (3)魚類の消化管内容物調査
- 雑食性、肉食性及び草(水草)食性の魚類について、消化管内容物を調査した。
- (4)生息環境調査
- 各濠の水質調査及び動植物プランクトン・底生動物調査(採集・目視)を実施した。
5.調査結果の概要
- (1)魚類等の捕獲状況
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-皇居外苑出現魚種の分類・濠別状況・変化-(別添)
今回の調査で捕獲された魚類は、4目5科14種と甲殻類(2種類)及び爬虫類(スッポン)などが確認された。 前3回の調査の中で確認され今回確認されなかったのは、タモロコ、キンブナ及びカムルチ-の3種(いずれも第1回調査でのみ確認)である。-
全捕獲個体数8,899個体のうち、第1位はブルーギルで8濠4,186個体(47%)、第2位はモツゴで12濠2,931個体(33%)、第3位はジュズカケハゼで6濠1,234個体(14%)、第4位はヨシノボリで7濠181個体(2%)、以下ワカサギ、オオクチバスと続き、その他はごく少数であり、ナマズは1個体のみの捕獲であった。
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ハゼ科魚類の分布については、外来種(ブル-ギル・オオクチバス)の出現する濠と出現しない濠(桜田濠・二重橋濠・蛤濠・半蔵濠・千鳥ヶ淵)とでは大きな違いがあり、出現する濠では、ハゼ科魚類が確認されないか、少数の未成魚が確認されたのみであり、スジエビの分布についてもハゼ科と同様の状況であった。
また、モツゴの小型魚についても、外来種の出現する濠ではほとんど採取されなかった。
関連して、外来種の消化管内容物調査からは、オオクチバスの小型個体では動物プランクトン又は昆虫を専食する割合がかなり高いが、大型個体では魚類やエビ類を捕食していることが確認された。
ブル-ギルは、主にプランクトンとユスリカ(幼虫・蛹)を捕食しており、今回の消化管内容物調査では魚類(魚卵を含む)の捕食は認められなかった。 -
ギンブナ及びゲンゴロウブナは、各々上流から下流までの7濠で確認され、コイは清水濠以外の12濠で確認されたが、3種とも捕獲されたのが中・大型個体のみであり、現状では自然繁殖が不安定であると判断される。
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ソウギョ及びハクレンは、水草除去のため昭和32年、41年及び56年に公的に放流されたものであるが、ソウギョは半蔵濠・千鳥ヶ淵・牛ヶ淵・凱旋濠の4濠で確認され、ハクレンは千鳥ヶ淵だけで確認された。 ただし、この2種については流下卵で孵化するため、止水域である皇居外苑濠では再生産が行われない。
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ヌマチチブは、3濠(蛤濠・牛ヶ淵・日比谷濠)で16個体が確認されたが、このうち13個体は牛ヶ淵で確認され、うち10個体は石垣添いの浅場で手網捕獲により確認された。 生息理由は、石が滑落して形成されたと思われる浅くて凹凸のある環境により、オオクチバス等による補食を免れたものと推定される。
ウキゴリ(淡水型)は、外来種のいない上流側の5濠と牛ヶ淵(1個体)で確認された。 ヌマチチブ、ウキゴリとも、本来海域との回遊を行う種であるが、純淡水域に陸封されて再生産を行う個体群があり、今回確認された2種もこれに該当するものである。
両種とも陸封個体群として希少な存在であり、皇居外苑濠は貴重な生息場所であるといえる。
同様に、ジュズカケハゼ(レッドリストに「絶滅のおそれのある地域個体群」として掲載)は、都内では多摩川水系の標高200m付近に分布が限定されており、止水域では不忍池で2個体確認されているのみで希少な個体群といえる。
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- (2)魚類等の生息環境(濠の状況)
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- 各濠の透明度は調査期間中0.4~1.2mの範囲で、高い透明度を示したのは二重橋濠(1.2m)と桜田濠(1.0m)で、最も低かったのは大手濠(0.4m)と清水濠(0.4m)であった。
[透明度変化状況の概観](定期濠水水質調査結果より)[透明度変化状況の概観](定期濠水水質調査結果より)
平成4年度全濠全季平均 : 0.61m 桜田濠全季平均 : 0.89m
平成9年度全濠全季平均 : 0.71m 桜田濠全季平均 : 1.45m
平成10年度全濠全季平均 : 1.18m 桜田濠全季平均 : >1.57m(平均水深) -
すべての濠で水中懸濁物質(SS)量と懸濁態有機炭素量、クロロフィルa量の相関が高く、濠の浮遊成分は植物プランクトンをはじめとした生物体が優占していると推測される。
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植物プランクトンは、各濠とも多くの種類が確認されたが、すべての濠の最優占種(細胞数で示した場合)は、藍藻のアオコ(Microcystis aeruginosa)であった。
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桜田濠と二重橋濠では、水深30cm程度の岸沿いでエビモ(Potamogeton crispus L.)の小規模な群落が観察されたが、外苑濠における水生植物の発達は極めて貧弱である。
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エクマンバ-ジ採泥器による底生動物の採集では、ユスリカ科2種とイトミミズ科2種が採集されたのみで、生息密度もかなり低い。
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水生昆虫類では、ユスリカ類がオオクチバス等の生息する濠に出現する頻度が高い傾向にあるが、これらを捕食するハゼ類やエビ類がオオクチバス等により減少した結果であると推定される。
- 各濠の透明度は調査期間中0.4~1.2mの範囲で、高い透明度を示したのは二重橋濠(1.2m)と桜田濠(1.0m)で、最も低かったのは大手濠(0.4m)と清水濠(0.4m)であった。
- (3)外来魚類の動向 ブル-ギル・オオクチバスは、下流側の8濠(牛ヶ淵・清水濠・大手濠・桔梗濠・和田倉濠・馬場先濠・凱旋濠・日比谷濠)から確認され、捕獲個体の体長分布を考慮すると、生息濠の拡大と両種の再生産が行われていることが確認された。
特に、ブルーギルは今回捕獲された魚類のうち個体数が最も多い4,186個体で、捕獲個体総数の約半数であった。 -
皇居外苑濠の外来種出現状況
種 名1回目2回目3回目4回目ブルーギル 0濠2濠7濠8濠オオクチバス(ブラックバス) 3濠3濠4濠8濠昭和50年 昭和59年 平成5年 平成10年
6.今後の課題
- ゲンゴロウブナ・ギンブナ・コイの3種類は、現状では自然繁殖が不安定であるため、それらの再生産が促進されるよう、管理上支障とならない濠に、エビモなどの水生植物などの移植を検討する。
- 本濠で注目される希少な個体群としては、止水域で生息するハゼ科のジュズカケハゼや陸封個体群としてのヌマチチブが確認された。 それらの生息場所は石垣沿いの浅場であることから、濠の水深構造を複雑化するなどによって、凹凸のある浅場など彼らの生息場所の確保を検討する。
- 本調査は、夏の終わりの一時期についての調査結果であることから、植物プランクトンの発生状況や魚の成長、繁殖状態などの変化についての解析には限界がある。
このようなことから、生物生産やプランクトンの出現動態及び魚の成長、繁殖状態に合わせた調査方法による調査や水質に関する定量的な調査を今後とも継続的に実施しつつ、濠の環境保全策を検討していく。
添付資料
- 連絡先
- 環境庁自然保護局皇居外苑管理事務所
所 長 :城所 一男
庭 園 科 長 :松井 裕
環境保全専門官 :大塚 貞司
TEL 3213-0095