報道発表資料

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1999年08月12日

平成10年度PRTRパイロット事業報告書について

PRTR(環境汚染物質排出移動登録)は、人の健康や生態系に有害なおそれがある化学物質について、その環境中への排出量及び廃棄物に含まれて事業所の外に移動する量を事業者が自ら把握し、行政に報告すること等により、行政も把握し、それを集計して、公表する仕組みである。
 環境庁では、PRTRの実施に当たっての課題の検討等に資するため、平成9年度に引き続き、平成10年度PRTRパイロット事業を神奈川県及び愛知県の一部並びに北九州市(新規)において実施し、その結果を「平成10年度パイロット事業報告書」としてこのほど取りまとめた。
 平成10年度事業においては、平成9年度にも報告した事業者において、経験を積んだことによる報告作成事務の負担の軽減傾向が明らかになるなど、一定の成果が得られた。
 環境庁としては、7月13日付けで公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に基づくPRTR制度の実施に向けて、さらに地域を拡大してパイロット事業を実施しつつ、全国的なPRTRの実施に向けての課題の検討や準備を進めていく考えである。
 なお、報告書は環境庁環境保健部環境安全課及びパイロット事業を実施した地方公共団体で配布するほか、環境庁のホームページに全文を掲載する予定である。
1 背 景
(1)

PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)について

 PRTRは、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質について、その環境中への排出量や廃棄物に含まれて事業所の外に移動する量を把握して、その全ぼうを明らかにする仕組みであり、行政庁が事業者の報告や推計に基づき、とりまとめるものである。  PRTRには、以下のような多面的な意義が期待されている。

  1. 環境保全上の基礎データ
  2. 行政による化学物質対策の優先度決定の際の判断材料
  3. 事業者による化学物質の自主的な管理の改善の促進
  4. 国民への情報提供を通じての、化学物質の排出状況・管理状況に係る理解の増進
  5. 化学物質に係る環境保全対策の効果・進捗状況の把握

(2)

経 緯

 PRTRは、既に、米国、オランダ等の欧米諸国において制度化されている。1996年(平成8年)2月には、OECD(経済協力開発機構)が加盟国に制度化を勧告した。
 この勧告を受け、環境庁では、平成9年度より、神奈川県及び愛知県の一部の地域において、PRTRパイロット事業を実施し、平成10年9月には、募集した国民意見等も踏まえて、事業の評価結果を報告書として取りまとめ、引き続き平成10年度PRTRパイロット事業に着手した。
 一方、環境庁は、平成9年度パイロット事業の成果や中央環境審議会の中間答申等を受け、通商産業省と共同で、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案」をとりまとめ国会に提出した。同法案は国会審議の結果一部修正され、7月13に公布された。環境庁では、平成13年度からのPRTR制度の実施に向けての基盤整備や普及・啓発等の準備を進めているところである。

2 平成10年度PRTRパイロット事業の概要

 平成10年度PRTRパイロット事業は、平成9年度に実施したパイロット事業の結果を踏まえ、PRTRの実施に当たっての課題の検討等に資するため、実施したものである。  事業の概要は以下のとおりである。

 ○対象地域

神奈川県川崎市及び湘南地域、愛知県西三河地域並びに福岡県北九州市(北九州市は平成10年度に新たに追加された。)
 ○対象物質 人や生態系に対する有害性を有することが判明しており、暴露可能性が高いと考えられる176物質。(平成9年度の対象化学物質178物質のうち登録失効農薬の2物質を除いた。)
 ○対象事業所 製造業及びサービス業等の一部の業種の、一定量以上の対象物質を取り扱う一定規模以上の事業所、2,040事業所。(平成9年度は1,800事業所。業種を減らして、小規模事業所を追加。)
 ○報告内容   平成9年度の大気・水・土壌への排出、廃棄物としての移動等。
 ○スケジュール   平成10年10~11月に調査票送付、平成10年12月~平成11年1月を目途に回答。

 パイロット事業では、事業者に排出・移動量の自主的な報告をお願いしたほか、実施の際の問題点などを把握するためのアンケートやヒアリング調査を行った。また、環境庁では、農薬の散布、自動車のような移動発生源、家庭からの排出などについて、「非点源」からの排出量として推計を行った。

3 集計結果の概要
(1) デ-タの報告状況
 全体で2,040事業所に対して調査票を発送し、約54%の事業所から回答が寄せられ、そのうち約53%の事業所から「対象化学物質を取り扱っている」として、排出・移動量の報告があった。回答率は、平成9年度(約52%)と比較して若干上昇した。
(2) 報告又は推計された化学物質
 176物質のうち、事業所(点源)から排出・移動について報告があった化学物質数は平成9年度の96から平成10年度は101と増加した。その他の発生源(非点源)について推計した化学物質と合わせて138物質(対象化学物質の約78%)について集計を行った。
(3)

排出量が多かった化学物質の例(平成9年度と比べて順序に変化あり)

  • トルエン(溶剤、工業原料等)
  • キシレン類(溶剤、工業原料等)
  • ジクロロメタン(溶剤、金属洗浄剤等)
  • p-ジクロロベンゼン(防虫剤等)
  • ベンゼン(工業原料、ガソリンの成分等)
  • 1,3-ブタジエン(工業原料等)
  • ホルムアルデヒド(工業原料、接着剤、防腐剤等)

(4) 環境媒体別の排出状況
 点源からの排出量を環境媒体別にみると、平成9年度と同様に、大気への排出が物質数、報告件数ともに多く、総排出量でみても97%が大気への排出であった。次いで公共用水域への排出であり、土壌への排出は極めて少なかった。また、併せて廃棄物の処分やリサイクルのために事業所の外に移動する量も把握した。
(5) 業種別の排出状況
 製造業22業種、非製造業10業種から排出・移動量の報告があった。
 業種別にみると、排出量の多いトルエン、キシレン類、ジクロロメタンは概ねどの業種からも排出されていた。これらの物質について平成9年度と比較すると平成10年度は化学系製造業からのトルエン及びジクロロメタンの排出割合が大きくなった。
(6) 非点源からの排出状況
 農薬散布、自動車などの移動発生源からの排出ガス、パイロット事業の対象外の業種からの排出、家庭・オフィスからの塗料、接着剤、防虫剤などの排出について、環境庁において可能な範囲で推計を行った。平成10年度は新たに対象規模未満の事業所からの排出の推計も試みたが、さらに手法の検討が必要である。
(7) 地域別の排出状況
 川崎市、神奈川県湘南地域、愛知県西三河地域及び北九州市の地域ごとに集計するとともに、さらに、川崎市については臨海部、内陸部、丘陵部の3地域、北九州市については東部、西部の2地域に分けて集計した。
 地域別に見ると、点源の報告物質数や排出量の多い物質について、地域差が見られたが、トルエン、キシレン類はどの地域でも排出量が多かった。
(8) 平成9年度との比較
 平成9年度と平成10年度とは、対象地域が異なることなどから一概に集計数値を比べることはできないため、両年とも報告がなされた事業所のみを抽出し比較したところ、点源からの排出量が多かった20物質のうち、13物質については総排出量が前年度より減少した。
4 事業者アンケート・ヒアリング結果の概要
(1) 実施方法
 PRTRの実施に当たっての課題を整理するため、パイロット調査対象事業者に対し事業所報告の調査票等を送付する際に併せてアンケート用紙を送付し、排出・移動量の報告と同時に回収する形でアンケート調査を実施した。また、並行して地方公共団体環境部局による事業者ヒアリングも行われた。
(2)

調査結果
 アンケート調査は、パイロット事業の調査票の報告があった1,110事業所のうち66%に当たる728事業所から回答があった。調査の内容は、作業及び費用の負担、排出量等の把握の困難なもの、環境庁が示したマニュアル等の内容、支援対策、情報提供、事業所における化学物質の管理などについてであり、以下のような点が明らかになった。

  • 最も時間を要した作業は、取り扱っている物に対象化学物質が含まれているかどうかの調査であるとの回答の割合が最も多かったが、その割合は昨年度よりも減少した。
  • 平成9年度と比較して、全体の半数近くが負担が軽くなったと回答しており、負担が重くなったという回答はわずかであった。
  • Q&Aを添付したことでマニュアル等の内容がわかりやすいという回答は9年度より増加したが、なお改善の余地がある。
  • PRTRは化学物質の管理の改善を通じた排出量削減に役立つという認識が高い。

 また、ヒアリング調査では、使いやすいマニュアルの整備など、行政側のサポート体制の整備等に対する要望等が明らかになった。

5.今後の課題

 今回のパイロット事業で、PRTRの普及、排出量算定マニュアルの充実、非点源排出源からの排出量の推計のためのデータ収集などの課題が明らかになった。

6.今後の予定

 平成11年度はさらに地域を拡大して13都道県市(*)においてパイロット事業を実施しつつ、法に基づくPRTR制度の実施に向けて、課題の検討や準備を進めていくこととしている。

北海道、宮城県、東京都、神奈川県、新潟県、岐阜県、愛知県、兵庫県、広島県、山口県、仙台市、川崎市、北九州市

[環境庁連絡先]

環境庁環境保健部環境安全課
〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2

tel

03(5521)8261
Fax 03(3580)3596   
e-mail ehs@eanet.go.jp
ホームページ   http://www.eic.or.jp/eanet/

[自治体連絡先]

神奈川県環境農政部大気水質課、川崎市環境局公害部化学物質担当、愛知県環境部自然環境保全室、北九州市環境局環境保全部環境管理課

連絡先
環境庁企画調整局環境保健部環境安全課
課 長 :上 田 博 三(6350)
 補 佐 :早 水 輝 好(6353)
 担 当 :新 田   晃(6358)