報道発表資料
平成28年度の調査の結果、辺戸岬及び男鹿半島における大気中水銀濃度及び降水中水銀濃度は、指針値等を十分下回り、これまでの調査結果と大きな乖離はありませんでした。
また、辺戸岬における水銀以外の金属濃度の測定結果も併せてお知らせします。
1.背景
国連環境計画(UNEP)は、平成13年の管理理事会の決議により地球規模での水銀による環境汚染に関連する国際的な活動を開始し、平成25年10月には熊本市・水俣市で開催された水銀に関する水俣条約外交会議において、水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)が採択されました。水俣条約は今年5月18日にその発効要件を満たす50番目の国が締結し、その90日後の8月16日に発効しました。
我が国は、昨年2月に水俣条約を締結しており、条約の的確かつ円滑な実施を確保し、水銀による環境の汚染を防止するため、平成27年6月に公布された「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」が、水俣条約が発効した8月16日から施行(一部を除く)されています。
環境省では、国際的な水銀対策の立案に資することを目的として、平成19年度から、国内の発生源による影響を直接受けない地点(バックグラウンド地点)である沖縄県辺戸岬において、水銀の大気中濃度(バックグラウンド濃度)等に関するモニタリング調査を試行してきました。平成22年度調査からは、測定データの蓄積によりデータの信頼性が確保されたと判断されたことから、毎年調査結果を公表しています。また、平成26年8月からは、秋田県の男鹿半島においてもモニタリング調査を開始しています。
今般、平成28年度の調査結果をとりまとめましたので、公表いたします。(詳細は別添参照)。
2.調査概要
(1)水銀の形態別測定及び粒子状物質中の水銀以外の金属の測定について
大気中の水銀には多くの種類(形態)が存在し、その大部分を占める元素状水銀(金属水銀)のほか、酸化態水銀、粒子状物質における水銀(粒子状水銀)等の形態があります。こうした様々な形態の水銀は、大気中において異なる挙動を示すことが知られています。
本調査では、国際的な水銀の排出状況及び濃度レベルの推移、それらが我が国の環境に及ぼす影響の把握等に資することを目的に、国内のバックグラウンド地点である辺戸岬において、大気中にガス状で存在する金属水銀及び酸化態水銀、並びに粒子状水銀の濃度と、降水中の水銀濃度について測定(全ての形態の合計について測定)を行いました。さらに、大気中水銀濃度や降水中水銀濃度の変化傾向を確認するための指標として、大気中粒子状物質中の水銀以外の金属類等の測定も併せて行いました。(表1参照)
また、北日本における水銀バックグラウンド濃度を測定するため、平成26年8月から、秋田県の男鹿半島においても形態別水銀と降水中水銀濃度の測定を開始しました。
(2)測定地点
・沖縄県:辺戸岬
国立研究開発法人 国立環境研究所 辺戸岬 大気・エアロゾル観測ステーション
(沖縄県国頭郡国頭村大字宜名真)
・秋田県:男鹿半島
秋田県船川測定局隣接地
(秋田県男鹿市船川港船川字泉台)
(3)測定方法、調査項目及び測定頻度
大気成分については、形態別水銀連続測定装置を用いて測定を行いました。また、降水成分については、降水捕集装置により試料を採取し、米国環境保護庁(EPA)が定める方法に準じて濃度分析を行いました。(いずれも詳細は別添参照)
表1 調査項目及び測定頻度
区分 |
調査項目 |
測定頻度 |
測定地点 (調査日数または欠測した週の数) |
|
大気成分 |
ガス状 |
金属水銀 |
連続測定(16回/日) |
辺戸岬(360日)・男鹿半島(365日) |
酸化態水銀 |
連続測定(8回/日) |
辺戸岬(356日)・男鹿半島(365日) |
||
粒子状水銀 |
辺戸岬(356日)・男鹿半島(365日) |
|||
粒子状物質中のその他金属(有害17成分、指標6成分) |
週1回測定 (7日間連続サンプリング) |
辺戸岬(欠測1週) |
||
降水成分 |
降水中の水銀濃度 |
週1回測定 (7日間連続サンプリング) |
辺戸岬(欠測0週) ・男鹿半島(欠測0週) |
※ 本調査における「金属水銀」とは、大気中にガス状で存在する水銀元素(Hg0)のことを指します。また、「酸化態水銀」は、大気中にガス状で存在する酸化された水銀(Hg2+)を、「粒子状水銀」は、大気中の粒子状物質に含まれる又は吸着している水銀を、それぞれ表しています。
※ 大気汚染防止法に基づいて行われている有害大気汚染物質モニタリング調査における水銀濃度のモニタリングと本調査では測定方法が異なります(別添参照)。
3.調査結果の概要
(1)大気中水銀濃度
大気中の形態別水銀の合計の年平均値は辺戸岬において1.7 ngHg/m3(1時間ごとの測定値の範囲は1.2~3.5 ngHg/m3。以下この項において同様。)、男鹿半島において1.6 ngHg/m3(0.7~20.3 ngHg/m3)であり、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(以下「指針値」という。40 ngHg/m3(年平均))を十分下回る値でした。
なお、大気中の水銀は、そのほとんどが金属水銀で占められており、酸化態水銀及び粒子状水銀が占める割合は、平均で1%未満でした(別添表3及び別添表6参照)。
辺戸岬における形態別水銀の合計の濃度及び形態別の水銀濃度の年平均値は、概ね横ばいで推移していますが、過年度の調査結果と比較して、昨年度に引き続きやや低い値となりました(詳細は表2及び別添表4参照)。
なお、平成21年度までは試行期間であり、測定日数が限られる等の点に留意する必要があります。
表2 辺戸岬における大気中水銀濃度の年度別測定結果(年平均値)
(単位:ngHg/m3)
測定項目 |
平成 19年度 |
平成 20年度 |
平成 21年度 |
平成 22年度 |
平成 23年度 |
平成 24年度 |
平成 25年度 |
平成 26年度 |
平成 27年度 |
平成 28年度 |
金属水銀 |
1.5 |
1.8 |
2.2 |
1.9 |
2.1 |
2.0 |
1.7 |
1.7 |
1.6 |
1.7 |
酸化態水銀 |
- |
- |
0.001 |
0.002 |
0.002 |
0.001 |
0.002 |
0.002 |
0.001 |
0.002 |
粒子状水銀 |
- |
- |
0.002 |
0.002 |
0.002 |
0.002 |
0.004 |
0.004 |
0.002 |
0.003 |
合計 |
- |
- |
2.2 |
1.9 |
2.1 |
2.0 |
1.7 |
1.7 |
1.7 |
1.7 |
※ 平成19年度については、測定を開始した10月16日以降のデータを用いて平均値を算出しています。酸化態水銀と粒子状水銀は、平成21年10月以降に安定した測定が実施できるようになったことから、同月以降合計濃度を算出しており、そのデータを年度別平均値の算出に用いています。
男鹿半島における形態別水銀の合計の濃度及び形態別の水銀濃度の年平均値は、昨年度、一昨年度と概ね同等の値となりました(詳細は表3及び別添表7参照)。
表3 男鹿半島における大気中水銀濃度の測定結果(年平均値)
(単位:ngHg/m3)
測定項目 |
平成 26年度 |
平成 27年度 |
平成 28年度 |
金属水銀 |
1.6 |
1.6 |
1.6 |
酸化態水銀 |
0.002 |
0.003 |
0.002 |
粒子状水銀 |
0.009 |
0.009 |
0.011 |
合計 |
1.6 |
1.6 |
1.6 |
※ 平成26年度については、測定を開始した8月8日以降のデータを用いて平均値を算出しています。
(2)降水中水銀濃度
降水中水銀濃度の従来の分析手順は、有識者で構成される「有害金属モニタリング調査検討会」において、分析手順によって測定値に影響が生じる可能性が指摘されたことから、新旧の手法の比較検討を行い、平成28年度から最新の知見に基づき、より真値に近い値が得られていると考えられる新しい手順に変更しました。具体的には、降水試料を貯留する採取容器の壁面への吸着を考慮し、採取後の分析操作の段階で一塩化臭素を添加する方法から、採取容器に一塩化臭素を直接添加し、採取の段階で反応させる方法に変更しています。
平成28年2月から平成29年2月までの降水サンプルを用いて一年間の比較試験を行った結果、新しい手順による測定値は、従来の手順による測定値に比べ1.3~1.4倍程度高い値となっていることが確認されております。(詳細は別添(参考3)参照)
平成28年度の辺戸岬における降水中の水銀濃度の年平均値は6.6 ngHg/L(1週間ごとの測定値の範囲は2.7~19.4 ngHg/L。以下この項において同様。)でした。
なお、降水中の水銀については指針値等が設定されていませんが、参考として、水銀に関する水道水の水質基準値である500 ngHg/Lと比較すると、測定値は十分低い値でした(詳細は表4及び別添表9(2)参照)。
表4 辺戸岬における降水中水銀濃度の年度別測定結果(年平均値)
(単位:ngHg/L)
測定項目 |
平成28年度 |
水銀濃度 |
6.6 |
(参考 従来の手順による辺戸岬における降水中水銀濃度の年度別測定結果)
(単位:ngHg/L)
測定項目 |
平成 20年度 |
平成 21年度 |
平成 22年度 |
平成 23年度 |
平成 24年度 |
平成 25年度 |
平成 26年度 |
平成 27年度 |
平成 28年度 |
水銀濃度 |
3.4 |
3.1 |
2.4 |
3.0 |
1.9 |
2.2 |
1.4 |
2.0 |
4.3 |
男鹿半島における降水中の水銀濃度の年平均値は6.3 ngHg/L(1.6~17.7 ngHg/L)でした。
参考として、水銀に関する水道水の水質基準値(500 ngHg/L)と比較すると、測定値は十分低い値でした(詳細は表5及び別添表11(2)参照)。
表5 男鹿半島における降水中水銀濃度の測定結果(年平均値)
(単位:ngHg/L)
測定項目 |
平成28年度 |
水銀濃度 |
6.3 |
(参考 従来の手順による男鹿半島における降水中水銀濃度の年度別測定結果)
(単位:ngHg/L)
測定項目 |
平成26年度 |
平成27年度 |
平成28年度 |
水銀濃度 |
2.5 |
2.9 |
4.7 |
※ 平成26年度については、測定を開始した8月25日以降のデータを用いて平均値を算出しています。
(3)大気中粒子状物質における水銀以外の金属元素の濃度
本モニタリング調査では、水銀の発生源・挙動等を解析するための指標として、平成19年度より、大気中の粒子状物質に含まれる、または粒子状物質に吸着したニッケル、ヒ素、鉛、カドミウム等の金属元素(有害17成分、指標6成分)の濃度を、辺戸岬において測定しています。
ここでは、大気汚染防止法において有害大気汚染物質として規定されているもののうち、健康リスクの低減を図るための指針となる数値が設定されているニッケル、ヒ素及びマンガン、大気汚染防止法においてばい煙の排出規制対象となっている鉛とカドミウム、欧州のRoHS指令において規制対象となっている物質であるクロムの結果を表6に示しました。
辺戸岬におけるニッケル、ヒ素及びマンガンの平成28年度の年平均値はそれぞれ0.73 ngNi/m3(1週ごとの測定値の範囲は0.18~1.9 ngNi/m3。以下この項において同様。)、0.75 ngAs/m3(0.054~2.5 ngAs/m3)、3.0 ngMn/m3(0.21~10 ngMn/m3)であり、いずれも環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針値(年平均値 ニッケル25 ngNi/m3、ヒ素6 ngAs/m3、マンガン140 ngMn/m3)を十分下回る値でした。
また、鉛、カドミウム及びクロムの平成28年度の年平均値はそれぞれ3.2 ngPb/m3(0.088~10 ngPb/m3)、0.13 ngCd/m3(0.0098~0.39 ngCd/m3)、0.67 ngCr/m3(nd*~2.4 ngCr/m3)でした。(詳細は別添表15参照)
* 「nd」は定量下限値以下であることを示しています。
表6 辺戸岬における粒子状物質中の金属類の濃度の年度別測定結果(年平均値)
(単位:ng/m3)
測定項目 |
指針値 |
平成 19年度 |
平成 20年度 |
平成 21年度 |
平成 22年度 |
平成 23年度 |
平成 24年度 |
平成 25年度 |
平成 26年度 |
平成 27年度 |
平成 28年度 |
ニッケル(Ni) |
25 |
0.76 |
0.59 |
0.87 |
0.95 |
0.99 |
1.1 |
1.8 |
1.5 |
1.2 |
0.73 |
ヒ素(As) |
6 |
1.4 |
0.68 |
0.85 |
0.83 |
0.76 |
0.99 |
0.98 |
1.1 |
0.77 |
0.75 |
マンガン(Mn) |
140 |
6.0 |
3.4 |
6.7 |
5.5 |
4.6 |
7.4 |
4.9 |
6.6 |
3.8 |
3.0 |
鉛(Pb) |
- |
12 |
4.6 |
5.2 |
5.7 |
5.0 |
7.3 |
6.9 |
6.5 |
3.5 |
3.2 |
カドミウム(Cd) |
- |
0.25 |
0.13 |
0.17 |
0.16 |
0.12 |
0.17 |
0.19 |
0.20 |
0.13 |
0.13 |
クロム(Cr) |
- |
0.83 |
0.52 |
1.1 |
1.1 |
0.87 |
1.3 |
1.2 |
1.4 |
0.70 |
0.67 |
※ 鉛、カドミウム、クロムについては、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値は設定されておりません。
4.今後の対応
本モニタリング調査のデータは、アジア太平洋地域における大気中の水銀の状況についての基礎資料として国際的に重要であり、将来的には水銀に関する水俣条約の有効性評価にも資することから、今後も継続的にモニタリング調査を実施し、広く国内外へのデータの提供や結果報告を行う予定です。
添付資料
- 連絡先
- 環境省大臣官房環境保健部環境保健企画管理課水銀対策推進室
直通 03-5521-8260
代表 03-3581-3351
室長 西前晶子(内線 6353)
室長補佐 斉藤貢 (内線 6368)
室長補佐 中村雄介(内線 6359)
環境省大臣官房環境保健部環境安全課
直通 03-5521-8261
代表 03-3581-3351
課長 瀧口博明(内線 6350)
専門官 藤井哲朗(内線 6361)
係長 松本純一(内線 6355)
関連情報
過去の報道発表資料
- 平成28年9月23日
- 平成27年度 大気中水銀バックグラウンド濃度等のモニタリング調査結果について