報道発表資料

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1997年09月25日

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「気候変動の地域影響に関する特別報告書」について

モルジブ共和国において開催されている「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第13回全体会合において承認予定の「気候変動の地域影響に関する特別報告書」の最終案が取りまとめられたので、その概要を速報する。

 同案においては、温暖化によりアフリカ、熱帯アジア、中南米等において水資源の不足が一層深刻化したり、マラリアやデング熱等の伝染病が拡大すること等が指摘されており、さらに、地域により気候変動に対する脆弱性に差があること、早期に予見的なシステムを確立することが、その後の適応対策の実施を経済的、技術的に有利にすること、多くの地域において適応のための技術、情報、資金が必要であることが述べられている。

 環境庁としては、本特別報告書により、途上国への温暖化の影響を緩和するための取組を促進するためには、我が国をはじめとする先進国が率先して二酸化炭素の排出削減に取り組む姿勢を明確に打ち出し、先進国と途上国の国際協力のもとで温暖化対策を実施すべきことが一層明確に認識され、地球温暖化京都会議での議論に有益な知見を提唱するものとして評価している。

 特別報告書の構成、政策決定者向け要約から示唆される事項及び各地域毎の注目すべき影響は以下のとおりである。

1. 特別報告書案の位置づけ等

 報告書は、「気候変動に関する国際連合枠組条約」の要請に基づき、IPCCが第2次評価報告書をベースとして1年以上をかけて取りまとめてきたものである。
 この最終案は、同じくモルジブ共和国において9月23~24日にかけ開催されたIPCC第2作業部会で検討され承認されたもので、最終的な編集作業が加えられた後、明日以降28日までに第13回全体会合に提出され、承認される予定である。承認された特別報告書は、本年12月に京都で開催される「地球温暖化防止京都会議」に科学的知見を集めた技術資料として提出される。 報告書は、政策決定者向け要約及び報告書各章(10地域)で構成され、多くの場合大気中の二酸化炭素濃度が2倍に増加したときについて、気候変動に対する各地域毎の脆弱性と影響について記述してある。地域は、アフリカ、南極・北極、南洋州、ヨーロッパ、中南米、乾燥西アジア、北米、小島嶼国、温帯アジア、熱帯アジアの10の地域に分けてとりまとめられている。
 執筆者は、各国政府の推薦に基づきIPCC第2作業部会が人選を行い、日本からは吉野正敏・愛知大学文学部教授が日本を含む温帯アジアの章の執筆責任者として、三村信男・茨城大学教授及び原沢英夫・国立環境研究所環境計画研究室長が執筆担当者としてそれぞれ選ばれて執筆に参画し、温帯アジア地域への気候変動の影響に関する章のとりまとめに大きく貢献した。


2. 政策決定者向け要約から示唆される事項
このレポートにおける地域の評価に関する一つの重要な結論は、今日の気候やその変動性に対してさえ、多くのシステムや政策は十分に対応できていないということである。洪水、暴風雨、渇水に関連するコストの増加は、現在の脆弱性を示している。また、多くのセクターを、今日おかれている状況からの回復力をよりつけるようにする適応対策のオプションがあり、それはさらに、将来の気候変動への適応対策にもなることを示唆している。
多くの地域において、適応のための適切な技術、情報、資金へのアクセスが必要がある。さらにこの地域影響の評価は、適応のためには予見と計画性が必要であること、予見的なシステムを確立することが、その後の適応対策の実施を経済的、技術的に有利にすることを示唆している。
このような気候変動による地域影響の評価をより的確にするためには、関連分野における研究のさらなる推進が必要である。


3. 各地域毎の注目すべき影響
アフリカでは、現在でも多くの国が水資源の不足に悩まされているが、人口増加と気候変動により水資源の管理が一層難しくなる。また、マラリア、黄熱病、デング熱等の疾病が増加する。一方で、経済的に適応対策の実施が困難な国が多い。
アフリカ諸国の主要産業である農業では、天水による耕作が行われているため気温・降水量変化に大変脆弱であり、農業生産の減少による食糧危機の危険性が高い。
キリバス、ツバル、モルジブ、バハマ等では、海岸から1~2kmにわたって海面水位と同程度の標高が広がっており、そこに多くの重要なインフラ施設や居住地が存在することから、脆弱性が大きい。マーシャル諸島とキリバスではそれぞれ島面積の8%、12.5%が失われる。しかし、これらの小島嶼国において適応対策を実施するには、資金や人材が不足している。
我が国を含む温帯アジアでは、多くの河川で流量が減少し、山岳氷河の体積は2050年までに25%減少し2100年には氷河からの流出量が現在の2/3に減少する。温暖化はさらに水不足を助長する。
中国における作物生産量は、米-78%~+15%、小麦-21%~+55%、トウモロコシ-19%~+5%と、予測モデルにより大きな差が出ている。日本では1mの海面上昇により砂浜の90%が消失する。
なお、森林生態系、水資源への影響等の正確な予測のためには水循環に関する予測研究が現状では十分ではなく、また、アジアモンスーン、エルニューニョ南方振動への気候変動の影響の解明等が今後の課題とされている。
熱帯アジアでは、1mの海面上昇により沿岸部のデルタや低地に住んでいる数百万人もの移住が必要である。また、マラリアの患者が12~27%、デング熱の患者が31~47%いずれも増加することが予測されている。
中南米では、農業生産物の多くが生態系に生産基盤をおいており、生態系に悪影響を与える気候変動は地域に深刻な打撃を与える。特に水資源の確保と食糧供給に影響が大きい。
欧州では、北部及び北西部で洪水の増加、南部で渇水が増加し、水供給に大きく影響する。現在平均水面下にある沿岸域オランダ、ドイツ、ウクライナ海岸地域、地中海デルタ地域、バルト海沿岸地域では、海面上昇による影響が増大する。
北極域では、永久凍土が融解し窪地、沼地などが新たに生じ、風景が一変する。また、北極海の海氷が減少する。海氷の減少は、北極海航路に有利だが、永久凍土の融解は建設に不利となる。生態系の生産性は高くなるが、種の構成が変化する。氷上に生息する北極クマ等には不利となるが、ラッコ等の生息域は拡大する。
連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課研究調査室
室 長: 名執 芳博 (内線6743)
 補 佐: 宇仁菅伸介 (内線6746)
 担 当: 川真田正宏 (内線6747)