報道発表資料
平成26年度の調査結果から、① 環境省が重要な植物群落と考えている「特定植物群落」では震災の影響を受けた15群落のうち3群落は自律的な再生が進んでいた一方で、11群落では復興事業等の人為的な影響が認められました。② 海岸調査では震災後の変化として砂浜は約250ha、砂丘植生は約100ha減少、海岸林は防潮堤の新設や改良によって約500ha減少など、大きな減少が見られています。③ 重点地区調査では動植物種数の増加が認められ、自然環境の回復が示唆されています。④ 藻場・アマモ場分布調査ではコンブ等岩礁性の藻場の残存率が8割と良く残っているのに対し、底泥ごと津波に持ち去られたアマモ場では残存率2~5割程度と低くなっていました。震災の自然環境への影響はその対象によって様々ですが、震災から4年が経ち、回復傾向が見られる一方で復興事業等による影響も明らかになっています。
これらの調査結果の内容が記載された報告書及び植生図、植生改変図等のGISデータをウェブサイトに公開しました。
平成27年度はこれまでの調査結果を元に自然環境の回復状況も含めた影響評価を行う予定です。
1.背景と目的
2011(平成23)年3月11日の東日本大震災は、東北地方太平洋沿岸地域を中心とする多くの人々の生命や財産に大きな影響を与え、その地域の自然環境にもきわめて大きな影響を与えました。これらの地域における自然環境は、地震発生から4年以上経過した現在においても変化を続けています。
東日本大震災復興対策本部は東日本大震災からの復興の基本方針(平成23年7月29日付け)において、「津波の影響を受けた自然環境の現況調査と、経年変化状況のモニタリングを行う」こととしており、環境省生物多様性センターでは、今回の地震等が地域の自然環境に与えた影響とその後の変化状況の継続的なモニタリング調査を実施しています。
平成26年度は、植生の変化や特定植物群落の状況、岩手県・宮城県・福島県北部の沿岸部における藻場・アマモ場の分布状況、干潟、アマモ場、藻場、海鳥繁殖地の生態系モニタリングなどを実施し、この度、以下の調査成果をウェブサイトに公開しました。(しおかぜ自然環境ログ http://www.shiokaze.biodic.go.jp/)。
2.調査結果の概要
平成26年度の調査成果のうち、代表的なものを以下に示します。
①特定植物群落の状況
特定植物群落(自然環境保全上重要な植物群落として環境省が選定)について、過年度までに調査をした津波浸水域を含む市町村に存在する特定植物群落(126件)のうち、津波浸水域に分布する26 群落について現地調査を実施しました。この結果、津波等による影響が認められたのは15 群落で、件数、規模(面積)で宮城県の群落が突出していました(表1)。このうち、追波川の河辺植生、蒲生の塩生植物群落、井土浦の塩生植物群落の3群落については、砂浜回復に伴う自律的な再生が進んでいることを確認しましたが、15群落のうち11 群落では工事等の人為的な影響が認められています。
表1.地震等による影響が認められた群落(15件)の概要
②海岸調査
平成24年度に続いて青森県から千葉県までの太平洋沿岸の砂浜・泥浜(延長約680km、397 海岸区分)で海岸汀線、海岸後背地の土地被覆状況を最新の画像で調査しました。この結果、平成24年に比べて一旦後退した汀線の多くが回復傾向にありましたが、一部の海岸では汀線の回復が遅れていました。
海岸の土地の被服状況の変化としては、震災後平成23年から26年の変化は、砂浜は約250ha、砂丘植生は約100ha減少していました。海岸林は防潮堤の新設・改良によって約500ha減少し、海岸構造物とその他に変化していました(主に仙台湾沿岸)。
③重点地区調査
過年度調査地区の中から特に重要と考えられた6 地区を選定し、ベルトトランセクト調査、環境区分ごとの動植物相調査等を実施しました。動植物相の調査は夏、秋の2季節に行っていますが、昨年度と比較できる秋季についてみると、いずれの地区も出現種数の増加が認められ、環境の回復を示唆していました(図1)。
図1 平成25年調査結果との出現種数の比較(秋のみ)
④藻場・アマモ場分布調査
藻場・アマモ場を対象に、最新の空中写真をもとに図形処理、判読等により分布素図を作成し、有識者のヒアリングで修正・確定して分布図としました。
第5回自然環境保全基礎調査(平成9~13年度)でも分布図が作成されており、分布範囲の数について比較しました。コンブやワカメなどの岩礁性藻場については、どの市町村も概ね8~9割程度残存しているのに対し(図2-1)、アマモ場については海底の砂泥ごと持ち去られる可能性が考えられ、残存率が2~5割程度と低くなっている市町村が多くありました(図2-2)。
図2-1 第5回自然環境保全基礎調査結果と今回確認された藻場の残存数
図2-2 第5回自然環境保全基礎調査結果と今回確認されたアマモ場の残存数
⑤植生の変化
青森県から千葉県までの津波浸水域(577.9km2)における植生の変化の傾向を把握するために、平成24~26年度の植生改変図から土地利用に関連する変化、自然植生に関連する変化、樹林地に関連する変化について集計しました。
浸水域の多くは住宅地や耕作地であったことからも、人為的な土地利用の割合が多いですが、「荒地化」が減少し、「耕作開始」や「構造物建設」が大きく増えています。これは荒地化した箇所を造成し、耕作地や構造物を整備する一連の復興・復旧事業が大規模に進んでいることを示しています(図3-1)。
「自然植生が残存」、「自然植生から他の自然植生へ変化」は年々減少傾向が認められています。一方、「無植生地から自然植生への変化」は年々増加しており、新たな立地に自然植生が繁茂していることがうかがえます(図3-2)。
樹林地については、「残存」や「倒伏」が年々減少している一方で、「新たな植林」が増加していました。被災した海岸林から新たな海岸林を整備していることが推察されます(図3-3)。
図3-1 土地利用に関連する凡例の経年的な変化
図3-2 自然植生に関連する凡例の経年的な変化
図3-3 樹林地に関連する凡例の経年的な変化
⑥生態系のモニタリング
青森県から千葉県までの太平洋沿岸地域において、津波等震災の影響を特に受けたと思われる生態系に着目し、干潟(16箇所)、アマモ場(4箇所)、藻場(4箇所)、海鳥の繁殖地(4箇所)についてモニタリングを行いました。
干潟:震災以前に確認されていた種が依然として確認できないサイトがあるものの、全体的には、震災直後に比べると年々干潟環境は安定してきています(図4)。また、各サイトの干潟では、出現種の回復は進んでいますが、個体数密度は低い状態が続いているサイトが多く、回復にはまだ時間がかかると考えられます。
アマモ場:震災前の第7 回自然環境保全基礎調査(平成14~18年度調査)と比べると、1つのサイトを除いて調査サイトのアマモ類は全体的に減少したままで、アマモ類の密度が低い状態が継続しています(図5)。一方で、アマモ類の回復傾向がみられるサイトもありました。
藻場:震災後、減少傾向の場所もありましたが、全体的にみると、概ね藻場群落は回復している状況でした。
海鳥繁殖地:地震及び津波による海鳥類への直接的な影響については不明でした。ただし、各サイトにおいて、土壌流出、植生の変化等が観察されています。この土壌流出や植生の変化等は、今後、海鳥類の繁殖を妨げる可能性もあるため、注意が必要です。
図4 干潟におけるベントス出現種数推移の一例(鳥の海サイト)
図5 万石浦黒島西岸ライン調査(ライン長100m)におけるアマモの分布状況(岸からの距離とアマモの被度)。2006年は第7回基礎調査の結果、2012年~2014年は生態系監視調査の結果
3.今後の予定
平成27年度は集中復興期間の最終年度になります。平成26年度までの調査成果をとりまとめて、東日本大震災やその後の復興事業によって、自然環境がどのように改変され、あるいは消失してきたか、あるいは震災後4年間の回復状況の評価などを行う予定です。
4.参考
○しおかぜ自然環境ログ
http://www.shiokaze.biodic.go.jp/
掲載データ一覧
✓平成26年度東北地方太平洋沿岸地域植生・湿地変化状況等調査(PDF)
✓平成26年度東北地方太平洋沿岸地域生態系監視調査報告書(PDF)
✓GISデータ(shape、kml形式)
・震災後植生図2014
平成25年度に作成した震災後植生図をさらに更新した最新の植生図です。
・植生改変図2014
震災後植生図2013と震災後植生図2014を比較して改変状況を表した図です。
・植生調査現地調査地点
平成25年度に実施した現地調査の位置と現地写真です。
・特定植物群落の調査
自然環境保全上重要な植物群落として選定された津波浸水域を含む市町村にある特定植物群落126箇所のうち、震災や復興事業の影響の可能性がある26箇所について調査した結果です。
・海岸調査
汀線、砂浜及び植生の変化、ならびに海岸線種類の変化状況について、平成24年度の調査に続いて平成26年度の状況を把握したものです。
・重点地区調査
震災の影響が大きかったと思われる6地区において実施した、生態系を横断的に把握するためのベルトトランセクト調査、環境区分毎の動植物調査等の結果です。
・藻場・アマモ場分布調査
岩手県・宮城県・福島県北部の沿岸部における藻場・アマモ場の分布状況について、航空写真等を用いてGIS・リモートセンシング技術による画像解析手法と熟練者による目視判読を組み合わせにより調査した結果です。
○特定植物群落
「自然環境保全基礎調査」の一環として、(1)原生林またはそれに近い自然林、(2)稀な植物群落又は個体群など、8項目の基準によって学術上重要な群落、保護を要する群落等をリストアップする調査です。第2回基礎調査(1978)で全国3,834の群落が選定・調査されました。第3回基礎調査(1984~1986)及び第5回基礎調査(1997~1998)では、既選定群落の追跡調査を行ったほか、選定要件に合致する群落をリストに追加するための調査も行われました。第5回基礎調査までに合計5,295群落が選定され、群落構造などが調査されています。
- 連絡先
- 環境省自然環境局生物多様性センター
電話:0555-72-6033(直通)
センター長 :中山 隆治
専門調査官 :阿部 愼太郎