報道発表資料
調査成果のとりまとめから、海鳥類の繁殖状況の指標となる巣数等の動向を分析した結果、環境省レッドリスト掲載種を含むウミツバメ類の巣穴数について、増減の比較が可能な7サイト中5サイトで巣穴数が減少しており、特に日出島(岩手県)と小屋島(福岡県)の減少が著しいことが明らかとなりました。
また、海鳥の営巣地における繁殖阻害となりうる要因として、大型ネズミ類や飼いネコが野生化したノネコによる捕食、レジャーなどの人為攪乱などが確認されました。海鳥営巣地においては、捕食者となる動物の管理やレジャー利用の適正化など適正な管理が求められます。
生態系の変化を明確に捉えるために長期間の継続的なモニタリングが必要であり、今後も引き続き行っていきます。
1.モニタリングサイト1000海鳥調査
モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域調査)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000箇所のモニタリングサイトを設置し、平成15年から長期継続的に実施しています。
海鳥調査は、平成16年から島嶼(とうしょ)生態系の指標として、全国30サイト、77の島嶼に生息する固有種、希少種、南限・北限種並びに指標種等の25種の海鳥について調査するもので、それぞれの島嶼においてこの10年間に1~4回の調査を実施しています。調査内容としては生息種の調査、繁殖個体数の把握、繁殖密度及びその生息地周辺の環境評価等を行っています。
2.とりまとめの方法
モニタリングサイト1000は、5年に1度を節目として、生態系毎にそれまでの調査成果をとりまとめることとしています。海鳥調査では、平成25年度までの10年分の結果について、全国の各モニタリングサイト及び各種における海鳥繁殖地の巣数や成長数、繁殖阻害となりうる要因についてとりまとめました。
3.とりまとめの結果
(1)海鳥類の状況
第1期(平成16年度~平成20年度)から第2期(平成21年度から平成25年度)にかけての繁殖数の増減を整理した結果、巣(穴)数が減少した島の数が増加した島の数を上回った種は、オオミズナギドリ、クロコシジロウミツバメ(環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類)、コシジロウミツバメ、ウミウ、オオセグロカモメ、エリグロアジサシ(同絶滅危惧Ⅱ類)、カンムリウミスズメ(同絶滅危惧Ⅱ類)の7種が確認されました。
このうち、ウミツバメ類(クロコシジロウミツバメ、ヒメクロウミツバメ(同絶滅危惧Ⅱ類)、コシジロウミツバメ、オーストンウミツバメ)では、推定巣穴数の比較が可能な7サイトに注目すると(図1)、沓島及び祗苗島を除く5サイトで、第1期から第2期にかけて推定巣穴数が減少し、特に、日出島のクロコシジロウミツバメ(コシジロウミツバメも含む、55.8%減)と小屋島のヒメクロウミツバメ(89.3%減)の推定巣穴数が、顕著に減少していたことがわかりました。
図1 各サイトにおけるウミツバメ類の調査結果
(2)海鳥類の繁殖阻害となりうる要因
海鳥の営巣地である各島における繁殖阻害となりうる要因について整理したところ、大型ネズミ類(ドブネズミまたはクマネズミ)、ノネコ、レジャーなどによる人為的影響、オジロワシの増加などが確認されました。
大型ネズミ類については、影響が見られなかったサイトが多かったのですが、特に巣穴営巣性であるウミツバメの巣穴内の雛や卵などが捕食されることにより大きな繁殖阻害を引き起こしたと考えられる以下の事例が確認されています。福岡県に位置する離島の小屋島では、1987年と2009年にドブネズミが侵入し、カンムリウミスズメとヒメクロウミツバメの繁殖数が壊滅的に減少したと考えられており、2011年に殺鼠剤によるネズミ駆除が行われた後も2013年度の調査では繁殖数が回復していないことがわかりました。このような例があることから、現時点で大型ネズミ類やその影響が確認されていない営巣地においても注意が必要です。
ノネコは、天売島、蕪島、御蔵島、沖ノ島、女島で確認され、御蔵島や天売島では、野生化した飼いネコがオオミズナギドリやウミネコの営巣地に侵入し、成鳥や雛の捕食された死体が確認され、両島ともに巣穴数は減少しました。対策として、自治体における飼いネコに対するマイクロチップの埋め込みや去勢・不妊手術を義務付ける条例の制定を行う他、ネコの島外への持ち出しなどの対策が行われています。
海鳥類の撮影目的や、釣り、海水浴、カヤックなどの海洋レジャーで、繁殖地に接近や上陸、長時間滞在する事例が30サイト中15サイトで確認されました。繁殖期に繁殖地に過度に接近することによって繁殖を阻害することとなるので適正な利用が望まれます。
添付資料
- 連絡先
- 環境省自然環境局生物多様性センター
センター長:中山隆治
保全科長 :木村元