報道発表資料

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2015年03月16日
  • 自然環境

モニタリングサイト1000森林・草原調査第2期とりまとめ報告書の公表について(お知らせ)

 環境省生物多様性センターでは、モニタリングサイト1000事業の一環として実施している森林・草原調査の第2期(2008-2012年度)が終了したことから、これまでの10年間の結果をとりまとめ、その成果を分かりやすく解説した「第2期とりまとめ報告書(概要版)」を作成しました。
 とりまとめ成果から、温暖化などの気候変動の影響として、九州南部に生息している南方系鳥類のサンショウクイが九州北部や四国まで北上していることがわかったほか、平均気温の上昇にともない落葉広葉樹の落葉時期が遅れる傾向が見られることがわかりました。また、全国の森林でシカが増加していることによる影響ついては、樹皮はぎなどの食害により樹木の枯死の増化が明らかになりました。外来種による影響では、特定外来生物に指定されているガビチョウとソウシチョウの分布が拡大し、ウグイスなどの在来の鳥類に影響を与える恐れがあることがわかりました。

1.モニタリングサイト1000森林・草原調査

 モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域モニタリング推進事業)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000箇所のモニタリングサイトにおいて、平成15年度から長期継続的に実施しています。

 森林・草原調査では、生物多様性国家戦略に示された4つの危機(第1の危機:開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少。第2の危機:薪炭林や農用林等の里山林、採草地等の二次草原を人が利用しなくなり、働きかけが縮小撤退したことによる影響。第3の危機:外来種など人間が持ち込んだ生物による生態系の攪乱。第4の危機:地球温暖化など、地球環境の変化による影響。)による生態系への影響を把握する指標生物群として、樹木(落葉落枝・落下種子を含む)、地表徘徊性甲虫(主に地表を這い回る甲虫)、鳥類を対象に調査を実施しています(図1)。調査は、20箇所のコアサイト(毎年すべての調査項目を実施)、28箇所の準コアサイト(5年に1度、樹木の毎木調査と鳥類調査を実施)、419箇所(森林345,草原74箇所)の一般サイト(5年に1度、鳥類調査と植生の概要調査を実施)で実施しています。

2.とりまとめ成果の概要

 10年間の調査結果を解析し、生態系に影響を与えている要因ごとに生態系の変化をまとめました。

 気候変動による影響としては、近年の台風の増加が樹木の死亡率増加などで森林に強い影響をもたらしていることがわかりました。このほか、落葉広葉樹が減少し、替わって常緑広葉樹が増加していることや落葉時期の変化、落ち葉の堆積量の減少、南方系の鳥が北に分布を拡大していることなどが明らかになりました。

 人が森林・草原を利用しなくなった影響としては、山林の管理不足などから、全国の森林でシカが増加しているため、林床に生える低木やササ類、草本やシダ類が食害により減少し、藪に生息する鳥類や地表徘徊性甲虫も減少していたほか、シカによる樹皮はぎの被害を受けやすいホソバタブなど樹種が減少していることがわかりました。また、大規模な森林病虫害が発生し、森林の樹木量が減少していることがわかりました。

 外来種などによる影響としては、特定外来生物に指定されている鳥類であるガビチョウとソウシチョウの分布拡大が確認されました。また、本州から北海道に侵入した国内外来種のカラマツハラアカハバチが北海道のカラマツ人工林で大発生し、その影響で地表徘徊性甲虫も増加していたことがわかりました。

3.とりまとめ成果の紹介

とりまとめの結果からわかったことについて要因別にそのいくつかを紹介します。

(1)気候変動の影響

●南方系の鳥が分布を拡大している可能性があります

 日本に生息するサンショウクイには、夏に本州以南に飛来し冬は東南アジアで越冬する亜種サンショウクイと、九州南部から南西諸島に留鳥として生息する亜種リュウキュウサンショウクイがいます。リュウキュウサンショウクイが確認されたサイト数は、第1期(2005~2007)の6サイトから第2期(2008~2012)には29サイトへ増加し、分布も九州南部から福岡県や高知県に拡大していました(図1)。

図:リュウキュウサンショウクイが確認されたサイト

図1 リュウキュウサンショウクイが確認されたサイト

●温暖化によって落葉の季節性が変化しました

 日本各地の森林の落葉時期の月平均気温と落葉量が最も多い日にち(推定日)(以下、落葉ピーク日)の関係を調べ、温暖化による落葉時期の変化を予測しました。その結果、落葉広葉樹林などでは秋に落葉量が最も多く、9月の月平均気温が1℃上昇すると落葉ピーク日は約4日遅くなると予測されました(図2左)。

 一方、春の開葉とともに葉を付け替える常緑広葉樹林では春に落葉量が最も多く、3月の月平均気温が1℃上昇すると落葉ピーク日は約6日早くなると予測されました(図2右)。

図:落葉ピーク推定日と落葉時期の月平均気温との関係

図2 落葉ピーク推定日と落葉時期の月平均気温との関係

(2)人が森林・草原を利用しなくなった影響

●シカによる樹皮はぎ被害が生じ、樹木の動態に影響が出ていました

 中山間地域の過疎化による山林の管理不足や狩猟者数の減少により、全国的にシカが増え、その分布を拡大し、樹皮はぎや、稚樹の採食による成長阻害などの影響が様々な樹木に生じています。毎木調査の結果から多数サイトで被害確認され、特に、大山沢(埼玉県)では23%、秩父(埼玉県)のウダイカンバ林では10%の樹木が樹皮はぎを受け、枯死に至った事例も確認されました(図3)。

 東日本の落葉広葉樹林では、マユミ、オヒョウ、ミズキ、リョウブ、ナツツバキなど、西日本の常緑広葉樹林では、タブノキ、モチノキ、ホソバタブなどで樹皮はぎが多いことが分かりました。西日本では、市ノ又(高知県)と綾(宮崎県)で樹皮はぎが多く、特にホソバタブは両サイトで枯死により幹数が大きく減少しました。

 シカの分布は今後も拡大することが懸念され、これまでシカが生息していなかった森林でも被害が生じる可能性があり、今後も注視していく必要があります。

図:全国のシカの分布の変化とモニタリングサイト1000森林・草原サイトでの被害割合

図3 全国のシカの分布の変化とモニタリングサイト1000森林・草原サイトでの被害割合

(3)外来種などによる影響

●外来鳥類が分布を拡大し続けています

 鳥類調査からガビチョウとソウシチョウの分布拡大が明らかになってきました。ガビチョウとソウシチョウは中国南部から東南アジアに生息し、日本へは鳴き声観賞用のペットとして輸入され、1980年代から野外に定着しはじめました。これら2種の分布の変化を見ると、ガビチョウは南東北、関東西部、九州北部から徐々に分布を拡げていました(図4)。ソウシチョウが増えると、同じような環境に棲むウグイスの繁殖成功率が低くなることも知られています。今後、これらの鳥たちがどのように分布を拡げ、在来の鳥や生物にどのような影響を与えるか、注視していきます。

図:ガビチョウとソウシチョウの分布拡大の状況

図4 ガビチョウとソウシチョウの分布拡大の状況

<参考:モニタリングサイト1000森林・草原調査のサイト配置状況>

図:サイトの配置状況

図5 サイトの配置状況

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
直通:0555-72-6033
センター長  :中山 隆治
生態系監視科長:佐藤 直人
     主査:雪本 晋資

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