報道発表資料
平成17年度~平成19年度の3か年で「イリオモテヤマネコ生息状況等総合調査(第4次)」を実施しました。
今回調査の結果等から、環境省としては、イリオモテヤマネコの生息個体数をおよそ100個体と推定しています。生息個体数は、平成4~5年度の第3次調査時から減少傾向にあるものと推定され、その要因としては、交通事故による個体数減少や好適な生息環境の減少などが考えられます。
環境省としては、イリオモテヤマネコの生息状況等のモニタリング、傷病個体の救護、交通事故防止対策等の保護増殖事業を一層推進するとともに、本調査の結果等について広く普及啓発を行い、イリオモテヤマネコの現状や保護の必要性について理解を求めていきます。
1.イリオモテヤマネコ生息状況等総合調査について
昭和48年以降、10年おきをメドに生態解明と生息状況把握のための総合調査を実施。
- 第1次 昭和48~51年度 (1974~1976年)
- 第2次 昭和57~59年度 (1982~1984年)
- 第3次 平成4~5年度 (1992~1993年)
- 第4次 平成17~19年度 (2005~2007年)
2.第4次調査の結果について
- 実施期間
- 平成17年度~平成19年度の3か年
- 実施者
- 環境省(琉球大学への委託調査)
(1)結果の概要
A.生息個体数の推定
- 電波発信機を用いたラジオトラッキング調査や自動撮影装置による定点調査等の結果を基に、以下の【推定方法】によってイリオモテヤマネコの推定生息個体数を算出すると100~109個体となった。
- 第3次調査時のデータから、今回と同じ方法で推定生息個体数を算出すると108~118個体となる。
- イリオモテヤマネコが高密度に生息する西表島の低地部で、行動圏をもって定住しているメスの減少傾向が確認され、西表島の生息個体数全体としても減少傾向にあると推定される。
- その要因としては、交通事故等による個体数の減少、生息適地の縮小が考えられる。
【推定方法】
[1]-1(面積:3区分)
西表島をイリオモテヤマネコの生息地としての好適性の観点から、以下のとおり、山地部、低地部及び不適地に3区分する。
- 山地部:
- 標高200m以上の地域。イリオモテヤマネコの生息密度は低い。
- 低地部:
- 標高200m以下の地域。イリオモテヤマネコの好適な生息地。
- 不適地:
- 住宅地や農地などイリオモテヤマネコが生息できない地域。
<3区分> 各区分の面積は下表のとおり。
区分 | 属性 | 面積(km2) | ||
---|---|---|---|---|
第3次調査 | 第4次調査 | 増減 | ||
山地部 | 標高200m以上 | 104.29 | 104.29 | - |
低地部 | 標高200m以下 | 177.26 | 173.61 | -3.65 |
不適地 | 住宅地、農地など | 7.69 | 11.34 | +3.65 |
西表島 合計 | 289.24 | 289.24 | - |
[1]-2 (面積:4区分)
また、低地部には、急傾斜地であるなどの理由によってイリオモテヤマネコの生息密度が周辺ほど高くないと考えられる地域(非好適地)が存在するため、[1]-1の3区分する方法だけでなく、低地部を好適地と非好適地に分けて西表島を4区分する方法も採用。
<4区分> 各区分の面積は下表のとおり。
区分 | 属性 | 面積(km2) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
第3次調査 | 第4次調査 | 増減 | ||||
山地部 | 標高200m以上 | 104.29 | 104.29 | - | ||
低地部 | 好適地 | 標高200m以下 | 非好適地以外 | 142.74 | 139.09 | -3.65 |
非好適地 | 崎山半島部など | 34.52 | 34.52 | |||
不適地 | 住宅地、農地など | 7.69 | 11.34 | +3.65 | ||
西表島 合計 | 289.24 | 289.24 | - |
[2](低地部好適地の生息個体数密度)
最も高密度に生息していると考えられる地域(低地部の好適地)において追跡調査等を実施し、生息個体数密度は0.56個体/km2と推定された(第3次調査では0.60個体/km2)。
[3]-1(各区分の生息個体数密度:3区分)
[2]の結果と第3次調査において実施した痕跡調査等の結果から、各区分の生息個体数密度を推定。
区分 | 好適地を1とした場合 の相対的密度 | 個体数密度(個体/km2) | ||
---|---|---|---|---|
第3次調査 | 第4次調査 | 増減 | ||
山地部 | 1/5 | 0.12 | 0.12※ | - |
低地部 | 1 | 0.60 | 0.56 | -0.04 |
不適地 | 0 | - | - | - |
[3]-2(各区分の生息個体数密度:4区分)
区分 | 好適地を1とした場合 の相対的密度 | 個体数密度(個体/km2) | |||
---|---|---|---|---|---|
第3次調査 | 第4次調査 | 増減 | |||
山地部 | 1/5 | 0.12 | 0.12※ | - | |
低地部 | 好適地 | 1 | 0.60 | 0.56 | -0.04 |
非好適地 | 1/2 | 0.30 | 0.30※ | ||
不適地 | 0 | - | - | - |
※山地部と非好適地は第3次調査時から、環境の改変がほとんどないため、個体数密度は第3次調査時と変わっていないものと仮定した。
[4] [1]の各区分の面積に[3]の各区分の個体数密度を乗じて、推定生息個体数を算出。
・低地部の生息個体数密度を一定とした場合([1]-1 × [3]-1)
109個体(第3次調査では118個体)。
・低地部の一部を非好適地として区分した場合。([1]-2 × [3]-2)
100個体(第3次調査では108個体)。
B.ウイルス検査
・平成16年~19年に捕獲した16個体についてウイルス検査を実施。ネコ免疫不全ウイルス感染症やネコ白血病等のウイルス感染症に罹患している個体は確認されなかった。
C.交通事故対策調査
・昭和53年から平成19年の間(29年間)に45件の交通事故が発生(うち44個体死亡)。個体数の減少に大きな影響を与えていることが考えられる。
・一方、西表島内の県道にはアンダーパス(通称ネコボックス)が86カ所設置されており、自動撮影装置によるモニタリングの結果、イリオモテヤマネコの他、オオクイナ、シロハラクイナ等イリオモテヤマネコの餌となる鳥類の利用も確認されており、交通事故対策に効果を上げていることが示唆された。
(2)今後の課題
- 高密度生息地である西表島低地部の生息環境を悪化させないこと、安定した生息地として残されてきた自然林地帯を今後とも維持していくことが必要。
- 交通死亡事故が継続的に発生しおり、個体群に大きな影響を与えていることが懸念される。このため、普及啓発活動や路上での注意喚起、アンダーパスの利用状況のフォローアップ等を強化継続していくことが必要。
- 近年の観光入り込み者数の増加や観光形態の多様化に伴う環境の攪乱が懸念されることから、これらの実態やイリオモテヤマネコへの影響について把握していくことが必要。
- ネコ免疫不全ウイルス感染症(FIV)等の感染症や悪影響を及ぼす可能性のある外来種の侵入について、予防的な対策を継続していくことが必要。
3.環境省の今後の取組
今回の調査により、イリオモテヤマネコの生息個体数は100個体程度であること及び個体数は減少傾向にあることが推定された。環境省としては、今後、本種の保存のため、以下のとおり取組の拡充を図る。
- 生息状況のモニタリングや繁殖に関する情報収集等を行うとともに、観光の実態や影響について把握に努める。
- 生息環境の維持改善のため、国指定西表鳥獣保護区及び西表石垣国立公園の区域のあり方について検討する。
- 交通事故の防止のため、注意喚起標識の設置やキャンペーン等を推進する。
- 地元住民や関係機関、西表島を訪れる観光客等に、本調査の結果を広く周知し、イリオモテヤマネコの現状と課題について理解を求める。
- 傷病個体の早期収容や適切な治療に努める。
- イエネコの適正飼養の促進やオオヒキガエル等外来生物の侵入防止を徹底する。
添付資料
- 連絡先
- 環境省自然環境局野生生物課
課長 : 星野 一昭 (6460)
課長補佐 : 西山 理行 (6475)
係長 : 中島 治美 (6469)
直通 (03) 5521 - 8283