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研究課題別評価詳細表

II. 中間評価

中間評価  S. 戦略的研究開発領域<S-9>

研究課題名: 【S-9】アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究(第I期:H23〜H25  第II期:H26〜H27)
研究代表者氏名:矢原 徹一 (九州大学)

1.研究計画

研究のイメージ生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)での2020年目標(愛知目標)の国際的合意、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットホーム(IPBES)」の設立、などの国際的動向の下で、地球規模の生物多様性に関する科学的基盤の強化と政策への統合の促進が求められている。この要請に応えるために、陸上・陸水・海洋の生物多様性の観測・評価・予測に関する総合的研究をアジア規模で実施する。陸上・陸水・海洋の生物多様性評価方法の統合化・高度化のために、生物多様性総合評価手法・保護区選定手法の開発を進めるとともに、生物多様性フットプリント指標の開発・東南アジア熱帯林におけるシナリオ分析を進める(テーマ1)。
陸上に関しては、アジア規模での植物多様性評価を実施し、レッドリスト・ホットスポット地図などを作成する(テーマ2)。
また、森林の生態系機能地図を作成する方法を開発し、日本および東南アジアに適用する(テーマ3)。
陸水に関しては、国内の湖沼・ため池・河川・湿地の健全度評価を行うとともに、水生植物・魚類の現状に関するアジア諸国での科学的基盤の強化をはかる(テーマ4)。
海洋に関しては、サンゴ礁・藻場・干潟の健全度評価を行うとともに、海洋保護区拡大にむけての保護区候補海域選定法を開発・適用する(テーマ5)。


図 研究のイメージ        
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■S-9 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/S-9.pdfPDF [PDF244KB]

2.研究の進捗状況

(1)鳥類・水草・海草などさまざまな生態系における生物種の分布をモデル化・地図化し、種多様性のホットスポットや保護区候補地を特定するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムにもとづいて、国内での保護区候補地を特定するとともに、絶滅危惧種の絶滅を回避するという愛知目標12の達成のためには、保護区における保護管理の効率の向上が重要であることを指摘した。また、IPCCの土地利用変化シナリオのデータを整理し、東南アジアにおける植物種多様性が高い地域の中で、特に伐採圧が高いホットスポットを抽出した。木材輸出入量にもとづく生物多様性フットプリント指標を開発し、中国・日本のフットプリントが大きいことを示した。また、インドネシアなどで森林減少が進む一方で、ベトナムなどでは逆に森林回復が進みつつあることを指摘し、東南アジア諸国における将来的な森林回復の展望を示した。
(2)植物種(とくに樹木種)について、①標本情報の収集、②森林プロットの再調査、③共通のトランセクト法による新たな分布調査、によってアジア規模での種多様性評価を実施し、赤道直下の西スマトラ・西カリマンタン、およびボルネオ北部でとくに種多様性が高いことを明らかにした。また、これらの地域では固有種・狭分布種の多様性も高い一方で、森林減少が著しいことを確認した。また、全個体ジェノタイピング法、標本による遺伝子頻度変化評価法などによる遺伝子多様性評価を進め、本プロジェクトがアジアで進める遺伝子多様性評価をもとに、地球規模での「GEO BON遺伝子多様性報告」をまとめる計画を提唱した。
(3)樹木の機能形質データベース、森林動態データベース、送粉・天敵および分解サービスに関するデータベースを整備し、炭素固定能力・土壌侵食抑止力・分解速度などの森林生態系機能・サービスの国内地図を作成した。また、これらの生態系機能・サービスの地図化手法をアジアスケールで適用するために必要な、分光情報を用いた葉の形質値の推定法を検討した。さらに、複数の衛星センサーから得た分光反射情報の日変化の解析により、着葉期間やそれと相関する葉の機能形質を広域で観測できることを示し、東アジア全域を対象に可視化した。また、東南アジアにおいて衛星で測定した植生指数からアカシアプランテーションの分布を広域で検出できる可能性を示した。
(4)湖沼・河川・ため池・湿地を対象として、種数・残存性(過去に出現した種の維持の程度)・典型性(典型的な種の生育・生息状況)・希少性(絶滅危惧種の生育・生息状況)を指標とする健全度評価法を開発した。全国データが比較的整っている湖沼については、この評価法を適用することにより、保全優先度の高い湖沼を選定した。さらに、植物の再生可能性から自然再生事業の優先順位を選定する手法や、漁業対象魚類の資源量の長期トレンド評価手法を開発・適用した。東南アジアにおいては、魚類を対象として、各国機関と協働で現地調査や情報収集を行い、ウェブデータベース(http://ffish.asia)を構築した。
(5)EBSA(生態学的・生物学的に重要な海域)の選定基準とされている7項目(希少性、絶滅危惧種、生物生産、多様性など)を定量的に評価する方法を開発し、アジアにおける候補海域の選定を試行した。この結果と現状の保護区との比較を行ない、新たに保護すべき候補地を選定した。また、海藻藻場、アマモ場、サンゴ礁について、分布面積・生物多様性・現存量などの時空間変動を評価する方法を開発した。サンゴ礁については、気候変動シナリオによる分布域変動の将来予測をし、なりゆきシナリオでは日本近海からサンゴ礁が消失する可能性があること、低炭素シナリオによって保全が可能となることを示した。

■ 「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合研究(S-9)」 の公開サイト
s-9プロジェクトhttp://s9.conservationecology.asia/

3.環境政策への貢献

(1)生物多様性国家戦略の改訂に向けて、貿易を通じて海外(とくに熱帯)における森林や生物多様性の減少に日本が関与していることを指摘した。この指摘は、生物多様性国家戦略2012-20、95ページにおいて、以下の文章として採用されている。
「世界的に見ると農地の拡大や違法伐採などによる森林減少、砂漠化などが要因となり生物多様性の状況が悪化しています。わが国は、食料や木材などの資源の多くを海外から輸入しており、他国の生物多様性を利用しているという視点に立ち、地球規模での生物多様性保全に貢献する必要があります」
(2)アジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)におけるアジア諸国研究者間の連携・共同研究を推進し, CBD, IPBES, GEO BONなどに関連する環境省のアジア外交に貢献した。
(3)環境省の主催・委託する複数の検討委員会に本事業のメンバーが参加し、提案や情報提供を行った。特に、生物多様性評価の地図化検討会、生態系サービス価値の評価・可視化に関する検討会、重要海域抽出検討会では、さまざまな生物多様性指標の地図化や、保護区候補地選定に関する本事業の成果が検討会資料として活用された。

4.委員の指摘及び提言概要

全体としては順調に進展し、一部優れた研究成果を出ているが、生物多様性の哲学が未だ不十分。何故、あるいはどこまで生物多様性を保全すればよいのか、どう価値を定量的に指標化するのかが重要。プロジェクトのスキームとして、アウトカムとしての生物多様性の劣化もしくはその価値を推定するモデルを構築するという形に導いて欲しい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆  


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研究課題名:【S-9-1】生物多様性評価予測モデルの開発・適用と自然共生社会への政策提言(第I期:H23〜H25  第II期:H26〜H27)
研究代表者氏名:宮下 直 (東京大学)

1.研究計画

本研究では、3つの達成目標を掲げる。第一に、他の領域のアウトプットが全体として整合性を持ち、科学的に妥当なモデルに依拠するように支援する。特に、統計モデルの標準化や地図化を行い、保護区候補地の提案を行う。第二に、他領域間にまたがる課題について、定量評価のための新たな指標開発や、農業や貿易・開発援助のあり方についての政策提言を行う。第三に、東南アジア諸国において社会的要因と生態的要因を統合した要因分析、シナリオ分析を行い、生物多様性の保全と持続的利用の両立を目指した政策提言を導く。
(1)モザイク景観における生物多様性総合評価と保全への政策提言:①鳥類を指標とするモザイク景観の生物多様性の評価・予測モデル、②陸域生態系の変動が陸水域の生物多様性に与える影響の評価・予測モデル、③陸域生態系の変動が沿岸域の生物多様性に与える影響の評価・予測モデルを開発し、それに基づいた保護区設定などの政策提言を行う。
(2)農業環境における生物多様性評価のためのスケールアップ手法の開発・適用:人間活動が農業生態系の生物多様性に及ぼす影響を広域に評価する手法を開発して、日本における評価結果を地図化するとともに、アジア規模へのスケールアップ手法を開発して適用を図る。
(3)植物の広域データ解析によるホットスポット特定とその将来の定量的予測:アジアスケールでの植物の分布データにもとづいて、広域的な分布を高精度で推定する統計モデルを構築する。この分布推定モデルを用いて、土地利用の変化や温暖化などの環境の変化に関するシナリオの下で植物の分布変化を予測し、保全のホットスポットを特定する。
(4)アジア規模での生物多様性総合評価と自然共生社会への政策提言:各サブテーマから得られる成果、および公募領域2−5での研究から得られる成果をもとに、アジア規模での生物多様性総合評価を行い、アジア各国における生物多様性保全・持続的利用を推進するために必要な計画・目標・指針を提案する。
(5)東南アジア熱帯林における生物多様性損失の比較シナリオ分析:東南アジア諸国では、非常に速い速度で森林消失が進んでいる。しかし世界的に見れば、産業発展や人口変化にともなって森林が回復している地域もある。本サブテーマでは、このような産業・人口の推移と森林の消失や回復が東南アジア各地でどのように進行するかについて、過去の要因分析と比較シナリオ分析を行う。
(6)生物多様性フットプリントの評価指標の開発:森林伐採等の土地利用が絶滅危惧種に与える影響を評価する指標として、生物多様性への負荷(BF:Biodiversity Footprint)を定式化する。この指標を用いて、海外の森林を伐採し輸入する場合のBFから、輸入が国外の絶滅危惧種に与える影響を定量的に評価する。

2.研究の進捗状況  

(1)では、国内外における各種生物(鳥類、水草、海草など)の分布情報の収集を他の研究領域と共同して進めるとともに、広域の環境情報の収集・整備、さらに統計モデルや景観指標を構築した。また種多様性のホットスポットや保護区候補地の特定なども進んでいる。
(2)では、国内においては、基盤情報を整備し、限られた自然史資料を活用した生物多様性評価手法の確立および農業生態系の広域的な生物多様性評価を実施した。アジア地域においては、農業生態系における生物情報は極めて不足していることを明らかにした。
(3)では、アジア太平洋地域の環境基盤データを整備し、推定精度を可視化する統計モデルを開発して約570種の植物の分布を推定した。また、IPCCの土地利用変化シナリオを整理し、種多様性が高く、かつ伐採圧が特に高いと予想されるホットスポットを抽出した。
(4)では、COP11に向けたプレ会議で、生物多様性保全・持続的利用に必要な計画・目標・指針について検討した。カンボジアの種・系統・機能的多様性の評価を行い、違法伐採の効果を示すとともに、アジア諸国の森林面積の増減を決める要因を明らかにした。生物多様性保全の社会生態結合モデルでは、資源の過剰利用に対する累進的処罰の理論的基盤を解明した。
(5)では、森林減少が著しいインドネシアとカンボジア、逆に森林回復が進みつつあるベトナムにおいて、森林や土地利用、産業、人口、政策に関する統計資料を収集し、森林面積の変動と社会的要因との関係を明らかにした。インドネシアとカンボジアの森林調査区における森林減少・劣化の現状観察から、地域スケールでの森林変化と社会的要因との関係を推測した。
(6)では、生物多様性フットプリントの評価手法を考案し、国際共同研究によって入手した木材貿易解析データを元に、国境を越えた森林破壊とそれに伴う生物多様性損失を陸生脊椎動物について推定した。計画では、他領域で得られた生物データを使った解析を予定していたが、データの地理的偏りなどから、既存データのある森林伐採の影響評価を優先して解析した。

3.環境政策への貢献

CBD等の国際機関や環境省が推進するAP-BON(アジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク)、GEO BON、GEOSS、Future Earth、CBD-COP11に関連したシンポジウムやワークショップを通じ、各分野との国際ネットワークや環境省との連絡・調整体制を築いた。また、特にアジア各国の森林保全について、生物多様性フットプリント指標による木材輸入の評価、保全に貢献する森林管理への資金援助メカニズムを環境省へ提案する機会や、IPBESのワークショップ文書作成に参加する機会も得た。今後もこの協力体制と枠組みが活用され、情報交換や政策提言の議論を円滑に進めることが期待される。さらに今後はREDD+や森林認証制度の推進に生物多様性フットプリントの評価結果を情報提供するなど、個別の国際政策づくりへも成果が活用されることが期待される。
国内では、環境省の主催・委託する複数の検討委員会に本領域のメンバーが参加しており、提案や情報提供を行った。特に、生物多様性評価の地図化検討会、生態系サービス価値の評価・可視化に関する検討会では、種多様性の地図化が主要テーマであり、生物の分布推定手法や保護区設定の効率的算出法による重要地域マップなどの本事業の成果が検討会資料に活用された。今後は保護区の設定・見直しおよび保護区内での保全策の検討など、保全の実効性の向上にむけた施策の立案に寄与することが期待されるとともに、GBO-4作成のベースとなる国別報告書におけるケーススタディとして活用される方法を検討している。

4.委員の指摘及び提言概要

保護区での絶滅危惧植物の減少回避率の推定、相補性解析による保護区候補地等注目すべき成果はある。今後、保護区の提示を具体的にどの生物について、どのように表現するのか、絶滅に関する原因の整理など解析を進めて欲しい。また、生物多様性フットプリントは興味深い視点だ。それだけに絶滅危惧種を代用指標とする以外に、どのような評価を考えるか、まずフレームを示して欲しい。

5.評点

   総合評点:A   ★★★★☆  


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研究課題名:【S-9-2】アジアの森林における遺伝子・種多様性アセスメント(第I期:H23〜H25  第II期:H26〜H27)
研究代表者氏名:舘田 英典 (九州大学)

1.研究計画

この研究では、陸上植物を中心とする種・遺伝子レベルの多様性損失評価を日本およびアジアスケールで実施し、1)レッドデータブック(絶滅のおそれのある野生生物について記載したデータブック)と生物多様性ホットスポット地図の作成、2)森林プロット樹木図鑑の作成、3)遺伝子多様性評価法の確立、を行う。この研究で得られる遺伝子・種多様性の現状、損失速度、ホットスポットのデータをもとに、保全に必要な面積、保全の方法などについての政策提言を行う。11のサブテーマに分けて研究を進める。
(1)遺伝子・種多様性の指標開発とアジアの植物への適用
(2)アジアの森林プロットデータを統合した植物分布解析と絶滅リスク評価
(3)インドシナ・マレーシアの森林プロットにおける植物多様性変動の評価
(4)インドネシアの森林プロットにおける植物多様性変動の評価
(5)アジアの標本データと分子系統解析を統合した植物分布解析と絶滅リスク評価
(6)アジア産マメ科植物の種・系統多様性評価
(7)アジア産シダ植物の種・系統多様性評価
(8)日本およびアジア地域の送粉ハナバチ類の種多様性とその減少評価
(9)遺伝子データと個体の空間分布データを統合した多様性変動の解析
(10)アジア産絶滅危惧植物の全個体ジェノタイピング
(11)気候変動に対する植物の適応力評価

2.研究の進捗状況  

(1)サブテーマ2〜11の研究成果を統合し、レッドデータブック・ホットスポット地図、森林プロット樹木図鑑、遺伝子多様性アセスメントという3つの成果物をまとめるために、カンボジア、インドネシア、タイの森林プロットの樹木種の種同定、指標種の遺伝子多様性解析を進めた。マメ科植物二属について、アジアにおける多様性評価を行った。
(2)森林プロット樹木図鑑、代表樹木群のレッドデータブックを編集するために、森林プロット調査を行い、モデル種の生育環境、生活史特性、伐採リスクの諸情報を収集した。標本と文献調査によって不足情報を補完し、データベース化を進めた。
(3)インドシナ・マレーシアの森林プロット樹木図鑑・樹木レッドデータブックを編集するために、タイ北部及びカンボジアの森林プロットの植物種多様性を調査した。タイのインタノン・クラドン山における京大調査隊による植物標本調査を行い,標本データベースを作成した。
(4)森林プロット樹木図鑑の編集及び樹木レッドデータブック編集支援のために、スマトラ、ジャワ、カリマンタンで既設調査区の再測定を行い、周辺で樹木を中心として植物の再調査を行った。森林植物の種多様性の変化を把握し、その変化原因の解析を行った。
(5)レッドデータブックとホットスポット地図を作成し、マメ科・シダ植物・ハナバチのホットスポットを比較し統合するために、文献データや各研究機関が保有している標本データベースを用いて、希少種や絶滅危惧種の分布を調査した。特にシダ植物については、絶滅危惧種のリストアップを行い、ホットスポット候補地の特定を進める作業を行った。
(6)アジアのマメ科植物のレッドデータブックとホットスポット地図を作成するために、文献、標本、標本データベース及びプロット調査データから、分布情報を収集してデータベース化した。これらを用いて種ごとの分布モデルを作成し、複数の属で多様性ホットスポットマップと絶滅リスクマップを作成した。また、系統多様性評価のための遺伝情報も収集した。
(7)アジア産シダ植物の「狭分布種」仮目録を出版し、それらの標本産地情報の電子化状況のヒアリングを実施した。またアジア各国の協力者と検討会議を開催し、アジア産シダ植物レッドデータブック編集に向けて協力体制を確立し、ホットスポット候補地を検討した。
(8)日本およびアジア地域の送粉ハナバチ類のレッドデータブックとホットスポット地図を作成するために、アジア産クマバチ属の標本データベースおよび熱帯アジア産ハナバチ類の画像データベースを構築した。また、アジア産ハナバチ類DNAバーコードデータベースの構築を行い公開した。日本産ハナバチ類図鑑の原稿作成を進め、出版社への入稿が終わった。
(9)遺伝子データと個体分布データの両方に立脚した遺伝子多様性アセスメントを行うために、アジアに分布する絶滅危惧植物6種について、個体分布データを取得しサンプリングを行った。またそのうち2種について遺伝子データの解析を進めた。
(10)韓国産絶滅危惧植物4種を対象に全個体ジェノタイピングを行った結果、個体数モニタリングのみでは見いだし得ない、生物保全上、注目すべき分類群の特徴が明らかになり、遺伝子多様性アセスメント報告に貢献した。
(11)指標種としてアブラナ科シロイヌナズナ属植物野生種を対象に、野外集団から現生個体を、博物館から標本個体を収集した。二集団を対象に空間的な対立遺伝子頻度変化を、一集団を対象に時間的な対立遺伝子頻度変化を解析し、適応遺伝子の探索をおこなった。これにより気候変動に対する植物の適応力評価を行い、遺伝子多様性アセスメント報告に貢献した。

3.環境政策への貢献

統一された手法(トランセクト法)を使用することにより、初めて東南アジア広域にわたる各地点で一定面積内の出現植物種数を比較し、西スマトラ、西カリマンタンで種多様性がもっとも高いことを明らかにした。また種の分布と人為的インパクトを考慮した、科学的根拠に基づく絶滅危惧植物の選定手法を開発することができた。これらの結果から日本がアジアに対して植物種多様性保全に支援を行う場合に、優先順位決定のうえで根拠となる資料を提供できた。更に国際的協力の下での絶滅危惧植物の全個体ジェノタイピングが、遺伝子多様性アセスメントに不可欠であることを示した。

4.委員の指摘及び提言概要

レッドデータブックなどの作成など、今後も積極的に進められたい。クマバチデータベースの構築などの成果は評価に値する。ただし遺伝子レベルの解析が、生物多様性維持においてどのような政策上の情報をもたらすのか、どのように将来予測に貢献できるのか、明確にする必要がある。絶滅リスク、ホットスポットなどの定義を明確にするとともに、人間活動とのすり合わせで最適化をする手法、指標を示して欲しい。

5.評点

   総合評点:A   ★★★★☆  


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研究課題名:【S-9-3】アジア地域における生物多様性劣化が生態系の機能・サービスに及ぼす影響の定量的解明 (第I期:H23〜H25  第II期:H26〜H27)
研究代表者氏名:中静 透 (東北大学)

1.研究計画

この課題では、特に日本およびアジアスケールでの森林生態系の機能とサービスに注目して、生物多様性損失の影響を定量的に把握するとともに、生態系改変などによる変化について地理的広がりをもって予測する手法を開発する。具体的には以下の4つのサブテーマについて研究を行う。
(1)植物の機能形質データに基づく樹木多様性の損失が森林生態系の機能・サービスに与える影響の解明
日本を含むアジア全域で、葉のLMA(面積当たりの重量)や窒素濃度、材の比重など、生態系機能に関係する樹木の形質(機能形質)のデータベースを構築し、様々な森林タイプ(二次的森林も含む)において樹木群集構造・動態のデータとの統合を行い、生産・分解のポテンシャルに関する生態系機能の変動を広域に推定するための基礎的情報を提供する。
(2) 森林の動態データに基づく樹木多様性の損失が森林生態系の機能・サービスに与える影響の解明
アジア地域に存在する森林の樹木センサスデータを網羅し、樹木の組成と動態に関するデータベースを構築する。それをもとに、それぞれの森林タイプの炭素蓄積量・吸収量とそれらの空間分布に関するデータから、人為的影響を広域に把握・評価する手法を開発する。
(3) 森林減少・劣化による花粉媒介・生物制御サービスの広域変動予測手法の開発
森林の減少と劣化が昆虫を中心とした動物による花粉媒介と生物制御サービスにおよぼす影響を解明し、森林景観データを用いて、森林に由来する送粉者と天敵による生態系サービスの地理的・時間的変動をアジア全域について予測する手法を開発する。
(4)リモートセンシング技術を用いたアジアにおける生物多様性・生態系機能マッピングとその時空間変動の推定
上記の(1)(2)(3)のグループが提供する解析結果とデータベースを用い、衛星、航空機リモートセンシングなどのデータと地上データを結びつけるアルゴリズムを開発し、広域的な評価と変動予測を可能にする。

2.研究の進捗状況  

(1)植物の機能形質データに基づく樹木多様性の損失が森林生態系の機能・サービスに与える影響の解明
国内300種(主要樹種をほぼ網羅)、アジア地域900種の樹木のサンプルを収集し、機能形質データベースを構築した。このデータベースを用いて、炭素固定能力、土壌侵食抑止力、分解速度などの森林生態系機能・サービスの全国地図を作成した。また、有用樹木図鑑等を電子化し植生データと関連付けて、蜜源樹木の資源量や林産物の多様性などの生態系サービスも同様に地図化した。さらに、機能形質間の相関関係についても解析した。
(2) 森林の動態データに基づく樹木多様性の損失が森林生態系の機能・サービスに与える影響の解明
国内800地点、アジア地域150地点の森林動態データベースを構築した。130種2000個体の樹木のバイオマスデータを収集し、サブグループ(1)が計測した材密度と関連付けて、森林バイオマス推定式の精度を改善し、森林バイオマスの全国地図を作成した。また、樹木の葉の分光反射データベースの作成を開始し、アジア地域において、分光情報を用いた葉の形質値の推定の可能性を示した。
(3) 森林減少・劣化による花粉媒介・生物制御サービスの広域変動予測手法の開発
送粉、天敵および分解サービスに関する昆虫や植生、農作物のデータベースを整備し、送粉サービス利用状況の全国地図を作成した。ソバの結実を支えるニホンミツバチの個体数がソバ畑周辺の土地利用に依存することを示し、局所スケールの送粉サービス地図を作成した。東南アジアでは、送粉サービスや生物制御サービスを支えるハナバチ類やアリ類の多様性が、人為攪乱により低下することを示し、生態系サービスの地図化に必要な基礎情報を得た。
(4)リモートセンシング技術を用いたアジアにおける生物多様性・生態系機能マッピングとその時空間変動の推定
ヘリコプターに搭載したレーザースキャナデータの解析により、分解サービスの評価に重要な大型の倒木の位置を検出可能であることを示した。複数の衛星センサーから得た分光反射情報の日変化の解析により、着葉期間やそれと相関する葉の機能形質を広域で観測できることを示し、東アジア全域を対象に可視化した。また、東南アジアにおいて衛星で測定した植生指数からアカシアプランテーションの分布を広域で検出できる可能性を示した。

3.環境政策への貢献

国内の森林生態系については、樹木の現存量データベースや動態データベースを整備することによって、森林の現存量や炭素蓄積量の推定を、格段に精度よく推定すると同時に、その地理情報化が現実的になった。このことは、J-VERなどでの炭素クレジット量の推定や検証精度を上げることに貢献できる。さらに、衛星データとの併用手法が検討されており、それが実現できるとアジア地域全体でのREDDにおけるMRVなどに応用できる。
送粉サービスの定量化と地理情報化の手法が開発できたので、土地の利用・被覆情報をもとにその土地のポテンシャルを推定することが可能になりつつある。天敵などの生物制御に関してもその定量化と地理情報化を進めており、生物多様性が重要な役割を果たす調節的生態系サービスについての評価が大きく改善できる。アジア地域全体として考える場合には情報量が限られるが、その場合の対処方法を検討中である。これらのツールは、炭素蓄積量などと組み合わせることにより、REDD+などの精度設計やMRVに応用できる。さらに、他の生態系サービスの評価と統合することで、地域計画や生物多様性地域戦略などの策定などへの応用が可能となる。

4.委員の指摘及び提言概要

テーマ全体としてのシステムのフレームが明確にされ、サブテーマ間の連携もよくできており、順調に進捗しており研究の見通しは明るい。形質を明確にして生態系サービスを定量化しており、形質情報のデータベースの有効性が示された。生物多様性の重要性が示されるようなシミュレーションがあるとさらに理解が進む。また計算結果、予測結果の検証方法についても十分に検討して欲しい。

5.評点

   総合評点:S   ★★★★★  


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研究課題名:【S-9-4】陸水生態系における生物多様性損失の定量的評価に関する研究(第I期:H23〜H25  第II期:H26〜H27)
研究代表者氏名:高村 典子(独立行政法人国立環境研究所)

1.研究計画

湖沼・河川・湿地・ため池などを含む淡水域を対象とし、既存報告書や新たな現地調査により、生物情報をデータベース化するとともに、リモートセンシングと地上検証による生態系情報推定手法を開発し、多様性の評価と提示を行う。また、生物多様性と駆動因の関係解析を行い、駆動因軽減による多様性の回復予測を行う。さらに、これらの多様性評価、回復予測の結果に基づき、優先的に保全すべきホットスポットを提示し具体的な保全策を提案する。
本テーマでは、次の 7つのサブテーマを設けて、お互いに連携・協力しながら上記の課題を実施する。アジア諸国との国際観測ネットワークの構築も同時に進め、アジアの陸水域における生物多様性・生態系の情報整備ならびに現状評価を目指す。
(1) リモートセンシングを活用した湖沼の流域特性ならびに湖内生態系情報の推定手法の開発
(2) 湖沼における生物多様性損失・生態系劣化の評価
(3) ため池の生物多様性損失の評価とプロジェクト総括
(4) 湿地における生物多様性損失・生態系劣化の評価
(5) 河川における生物多様性損失・生態系劣化の評価
(6) 空間的異質性と長期変動からみた大規模湖沼・琵琶湖の生物多様性評価
(7) アジアの淡水域における環境劣化と生物多様性損失の評価

2.研究の進捗状況

生態系の劣化や生物多様性の損失が著しい湖沼・河川・ため池・湿地を対象として、多様性評価に必要な生物ならびに駆動因に関するデータの収集・整備は、ほぼ完了した。種数、残存性(過去に出現した種の維持の程度)、典型性(典型的な種の生育・生息状況)、希少性(絶滅危惧種の生育・生息状況)を指標とするスコア評価法を確立し、これらの共通した指標を適用することにより、生物多様性の時空間的な変化を評価するとともに、相補性解析により保全優先度の高い地域を選定した。アジアについては、サブ(7)で河川を対象に取り組みを拡充するとともに、サブ(1)(2)(3)(6)が連携し湖沼を対象にした取り組みも開始した。今後、駆動因解析を進め優先的な再生地域の選定に取り組む。以下に各テーマの進捗状況を記す。
(1) リモートセンシングにより、流域の不浸透面積率、ならびにアオコと「抽水+浮葉」植物の分布推定手法の開発が完了した。開発した手法は国内の数十湖沼流域および十数湖沼へ適用し、1980年代からの長期的変化傾向を明らかにした。現在はインドネシアを中心にアジア地域に対する適用を進めている。また、水生植物については抽水、浮葉、沈水の生活タイプに分けて分布を推定する手法の開発を進めている。
(2) 文献・標本調査や野外調査の結果に基づき、湖沼の水生植物相・淡水魚類相データを整理し、近年における顕著な生物多様性損失の実態を明らかにした。複数の生物多様性指標による評価と相補性解析から、全国規模で保全優先湖沼を選定した。さらに、植物の再生可能性から自然再生事業の優先順位を選定する手法や、漁業対象魚類の資源量の長期トレンド評価手法を開発した。現在、駆動因解析と中国の湖沼を対象とした生物多様性評価に取り組んでいる。
(3) 兵庫県ため池調査データベースに基づき生物多様性の統合指標を提案し、駆動因を特定した。本結果に基づき、広域評価(衛星画像によるクロロフィルa量推定と道路からの視認性による外来魚侵入推定)を検討し、保全優先地域(池)を選定した。現在、他地域への検討を進めている。
(4) 北海道における湿地目録、植物相と劣化駆動因に関するデータベースを完成させ、湿地の減少リスク評価、生物多様性評価、ならびに相補性解析による優先保全区を選定した。現在、北海道全体ならびに個別湿地を対象に駆動因の検討を進めている。
(5) 生物分布情報および物理環境情報についてのデータベース化、相補性解析、分布モデル等による評価を終え(全国・地域レベル)、現在、水生生物の分布に影響を及ぼす駆動要因について、各モデル地域に存在する流域で検討を進めている。
(6) 琵琶湖とその集水域の生物と環境情報の整備を進めており、整備が完了した沿岸域について、生物多様性評価と相補性解析による保全優先地域選定を完了した。現在、内湖集水域と沖合深底層の生物相・環境情報の収集・整理を進め、評価・解析の基本枠の構築に着手している。
(7) アジアの各サイトにおいて現地機関との連携や関係構築をはかり、陸水生態系インベントリーを作成した。アジアの各サイトにおいて現地機関と協働で現地調査や情報収集を行い、駆動因の特定やホットスポットの抽出を行った。現在、調査地域の拡大・拡充を進めている。

3.環境政策への貢献

(1) 保護区の設定に貢献する。優先的に保全すべき河川・湖沼を選定する方法を確立し、全国規模での選定を行った。湿地、ため池、琵琶湖については地域規模での選定を行った。さらに、植物の再生可能性から自然再生事業の優先順位を選定する手法を確立し選定した。これらは、効果的な保護区を提示することで、愛知目標11「陸水域の17%以上の保全」と愛知目標15「劣化した生態系の15%以上の回復」の達成度評価に貢献できる。
(2) アジア地域の能力開発に貢献する。メコン川流域の魚類を対象に、膨大な標本や調査データを一括して検索できる、誰でも利用可能なウェブデータベース(http://ffish.asia)を構築した。生物多様性の主流化は愛知目標の一つであり、東南アジアにおいても、生物多様性の保全と持続可能な利用を政策決定者から市民レベルまで様々な社会経済活動の中に組み込む必要がある。今後、図鑑としての活用や調査のスキルアップや人材育成、環境教育にも活かされることに加え、生物多様性の現状や保全の重要性の理解が一層進むことが期待できる。
(3) 環境省「モニタリングサイト1000」や地域の生物多様性評価に貢献する。種数、残存性(過去に出現した種の維持)、典型性(典型的な種の維持)、希少性(絶滅危惧種の生育・生息状況)をスコア評価する指標を確立した。これらの共通した指標を適用することにより、生物多様性の時空間的な変化の把握と保全優先度の高い地域の選択が可能になった。
(4) 成果が環境省「生物多様性評価の地図化に関する検討会」や国土交通省「河川水辺の国勢調査改善検討委員会」で活用された。

4.委員の指摘及び提言概要

主として既存データを用いたデータベース作成は進捗しており、種数、資源相補性(優占度)などをメインとする範囲は得られているが、駆動因の解析にはまだほとんど見通しが示されておらず、研究全体の成果の活用可能性が見えにくい。個別研究の領域にとどまっている感が強いので、今後、生態系全体の管理目標・指標や手法の開発に努力して欲しい。また、陸水域の管理の上で生物多様性の重要性はどこにあるのかを明確にするとよい。

5.評点

   総合評点:B   ★★★☆☆  


この記事について

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研究課題名:【S-9-5】海洋生態系における生物多様性損失の定量的評価と将来予測(第I期:H23〜H25  第II期:H26〜H27)
研究代表者氏名:白山 義久 (独立行政法人海洋研究開発機構)

1.研究計画

我が国周辺の重要な海洋生態系についてサブテーマ毎に(2)海藻藻場、(3)海草藻場、(4)サンゴ礁、(5)外洋表層生態系、(6)深海化学合成生態系を対象として、様々な手法を駆使して海域の生物多様性を予測する技術を開発し、さらにその情報の時空間的変動から生物多様性劣化の定量評価と将来予測を行う。その成果を統合してサブテーマ(1)がアジア海域での解析をし、EBSA(生態学的・生物学的に重要な海域)選定の条件を検討して候補海域を選定し、地域の海域環境に応じた保全と回復の方策を提案することで環境政策に貢献する。

2.研究の進捗状況 

(1) アジア海域での生物種の生息密度・生物量などの生態情報を、水温・塩分・人為影響などをもとに定量的に評価するモデルを構築した。フォーマット整形が終了したデータセットを用いて、EBSAを抽出する条件を検討し、加算法と相補性解析により候補海域の選定を試行した。ギャップ分析により現状との比較をした。
(2) GISベースのデータベースプラットフォームについて基本デザインを設定し、収納する既存情報の種類・関連付けをした。また、選定したサイトにおいて野外調査を行い、海藻藻場の生物多様性のモニタリングの方法を確立し、魚群探知機とROVを組み合わせた海藻藻場の分布・現存量広域評価調査を実施した。収集した生物多様性・現存量の時空間変動のデータ解析、サブサイトにおける生物多様性変動情報の収集・データベース化をした。また、海藻藻場の分布・現存量・生物多様性の広域評価調査をコアサイトで進め、環境要因と藻場変動の関連性を調べ、EBSA候補の選定を試行した。
(3) 日本周辺海域におけるアマモ類の多様性情報を過去の文献から抽出し、データベースを構築した。また選定したサイトにおいて野外調査を実施し、アマモ類の分布と生物多様性評価のための生物試料を収集した。調査により得られたデータを用いてリモートセンシングにより藻場の空間分布を抽出し、生物多様性情報を整理した。アマモ場生態系の新たな生物多様性評価として, 次世代シーケンサーを用いたメタゲノム的解析手法によるメイオベントス群集構造解析を試みた。収集したデータセットをもとにEBSA候補海域の選定を試行した。気候変動シナリオによる分布域変動の将来予測を試行した。なお、主要構成種のバイオマスおよび各分類群の種多様性のデータ入手が困難であるため、入手できたアマモ類の生息面積と種多様性データのみで検討した。
(4) 日本全国からアジア規模でのサンゴ被度及び種分布の時空間変化に関する既存のデータベースと、陸域と海域の環境要因の既存のデータベースを活用し、両者の関係を解析する準備をした。サンゴに関しては、陸域からの赤土等流入により、白化からの回復力が低下している可能性を示した。既存の文献や標本情報を収集して、既存のデータベースを拡張して過去から現在までの種レベルでのデータベースを構築し、過去数十年のサンゴ種多様性の変化を明らかにし、環境要因や生息地との関係を解析し、EBSA候補の選定をした。気候変動シナリオによる分布域変動の将来予測をし、低炭素シナリオでの保全策の可能性を示した。
(5) 季節・長期経年変動の調査が続けられている親潮、親潮・黒潮移行域の海洋観測で得られた動物プランクトン種組成と生物量のデータにより、種組成や多様性変動を解析した。黒潮域、東シナ海、日本海については既存標本を整理し、種組成解析を進めた。さらに人工衛星リモートセンシングのデータからChl-a濃度を解析し植物プランクトン群集の地理的な変動について解析した。EBSA候補の選定のデータセットを作成した。なお、データ解析をより進める必要があると判断し、モデルではなく実測データの解析を優先した。
(6) 潜水調査船などで得られた映像やサンプルを解析し、代表種の分布マップを作成し、サイト毎に分布面積、個体数を評価した。環境パラメータが代表種の分布を規定するドライバーになるかを解析した。日本周辺の化学合成生態系サイトの底生生物の種多様性をサイトごとに類似度を調べ、希少性と独自性を基準にした解析を行い、また相補性解析にもとづくEBSA候補の選定を試行した。データベースについては、OBIS 日本ノード(BISMaL)へのデータ集積環境を整え、定量的なデータをとりこめるように機能強化をした。なお、当初はシマイシロウリガイとヘイトウシンカイヒバリガイを指標とする多様性解析を計画したが、他の生物種も解析に足りるデータ数があると判断できたため対象種を広げた。
(全体) データの収集は順調に進捗したが、各サブテーマでのデータの質と量に違いがあるため、解析用データセットの作成に差が生じた。初歩段階であるが、EBSA候補の選定に必要な解析を多くの対象で試行できた。今後については、2013年4月22日のS-9-5会議にて、データセットの作成とデータベースへの登録およびデータ解析の促進を目標として確認した。また技術ワークショップ(7月26日開催)での研修とメールベースでの情報共有により解析技術(EBSA、分布推定、将来予測など)の向上と手法の統一を図る。

3.環境政策への貢献

日本周辺海域およびアジア海域の生物と環境のデータをもとにEBSA候補の選定を試行してその評価法について検討し、評価項目ごとでの判定基準の違い、収集データの質と量が判定に与える影響などを確認した。この事例研究の結果は、EBSA候補の抽出作業への専門家意見としてまた精度向上への知見となりうる。既に、収集したデータの一部(サンゴ類)は環境省重要海域抽出検討会に提供し、評価手法に関する知見も活用されている。
 気候変動シナリオに基づいてサンゴ礁に対する温暖化と酸性化の複合的な影響を解析した結果から、将来にわたり持続性がある保護区の設定や効果的な保全策を提言した。気候変動の影響は、サンゴ類に限らず、すべての生物が受けており、変動の長期予測を考量した保護区設定と保全策の設計に向けたデータ蓄積と手法の確立が達成すべき課題であることを示した。また2013年6月に開催された国連海洋法会議において、S-9-5による成果の一部を紹介した。

4.委員の指摘及び提言概要

種数と現存量の関係、温暖化に対するサンゴ分布の将来予測など、新しい知見が得られ、EBSA・相補性解析を介した部分は成果となっているが、海洋生態系の生物多様性損失の予測モデルは具体性が未だ見えない。成果目標を見据えたさらなる努力が望まれる。また、海草やサンゴ、プランクトンなどの多様性が、将来的な海洋資源の持続利用へどうつながっていくかのロジックを示して欲しい。

5.評点

   総合評点:A   ★★★★☆  


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