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研究課題別評価詳細表

II. 中間評価

中間評価   5.  安全が確保される社会部会(第5部会)

研究課題名:【5B-1201】1,4−ジオキサン汚染地下水の生物浄化可能性の評価診断ツールの開発と浄化戦略の実証 (H24〜H26)
研究代表者氏名:池 道彦(大阪大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本課題では、多様な分解菌を利用することにより、1,4-ジオキサン(1,4-DX)汚染地下水を低コストで環境基準値以下へ浄化するための一連の技術群を開発し、実証することを目的として、以下の一連の検討を行う。
(1)1,4-ジオキサン分解菌の分解活性化因子の特定と浄化戦略の策定: 申請者らが保有している分解菌の遺伝学的・生理学的特徴づけを実施するとともに、それらの1,4-DX分解の基本特性、活性化因子等を検討し、各種バイオレメディエーション技術への適用に有望な菌株を選定する。また、それらを用いて、ラボスケールでのバイオリアクター試験、バイオオーグメンテーション試験、バイオスティミュレーション試験を実施し、汚染サイトの特性に応じて浄化の戦略を提案する技術選択フローを作成する。
(2)1,4-ジオキサン汚染サイトの生物浄化可能性評価診断ツールの開発: 申請者らが保有している分解菌のゲノムデータに基づいてDNAマイクロアレイを設計し、発現解析を行うことによって、1,4-DX分解関与遺伝子群を特定する。また、それらの遺伝子群をマーカーとして分解菌を検出し、定量的にモニタリングするためのツールを開発する。


図 研究のイメージ        
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(3)1,4-ジオキサン汚染サイトにおける1,4-ジオキサン浄化実証試験: 国内外の1,4-DX汚染サイトの調査を行い、汚染サイト数や規模、汚染源等の周辺情報を整理するとともに、浄化実証サイトの候補地を選定する。選定したサイトにおいて浄化戦略を立案するうえで必要な基礎情報を取得する。また、得られた情報を基に、浄化試行プロジェクトを計画し、必要なプラントの設計を行う。さらに、汚染サイトでの浄化試行を行い、開発されたバイオレメディエーション技術による生物浄化の可能性を検証するとともに、分解菌のモニタリングツールについても有効性の評価を行う。

■5B-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/B-1201.pdfPDF [PDF372KB]

2.研究の進捗状況

(1)1,4-ジオキサン分解菌の分解活性化因子の特定と浄化戦略の策定 
保有分解菌6株について、pH、温度、塩濃度等が増殖や分解に及ぼす影響を明らかにし、生理学的特徴付けを行うとともに、そのドラフトゲノム解析を完了した。また、資化誘導型分解菌D6株及び資化構成型分解菌D17株について、特にカザミノ酸、コーンスティープリカー等の有機窒素源が、増殖及び1,4-DX分解を活性化することを見出し、浄化性能向上の可能性を示した。他方、D17株を用いたバイオリアクターの運転を行い、好適培地条件では水理学的滞留時間が3〜12時間の範囲で1,4-DXを安定して分解し得ること、低窒素・リン濃度条件下でも高い分解性能を維持することを明らかにした。さらに、実汚染地下水を処理に供し、1,4-DXを検出限界以下にまで分解できることを確認し、バイオリアクターによる地下水浄化技術の基盤を確立した。
(2)1,4-ジオキサン汚染サイトの生物浄化可能性評価診断ツールの開発 
既報の分解菌と近縁の細菌計25種について1,4-DX資化能力を調査したところ、その資化能は属に共通する特性ではなく、種・株特異的なものであることを明らかにした。さらに、ゲノム情報の詳細な探索に着手し、1,4-DX分解への関与が強く示唆されている遺伝子群thmをD17株及びT5株が共通して保持することを見出し、分解菌モニタリングのための標的遺伝子とし得ることを示した。また、D6株、D11株、及びT1株は既知の1,4-DX分解遺伝子を持たなかったため、新規の分解遺伝子を特定するためのDNAマイクロアレイをデザインし、発現解析の条件を確立した。また、土壌より新規1,4-DX分解菌を8菌株単離し、ライブラリを拡充した。
(3)1,4-ジオキサン汚染サイトにおける1,4-ジオキサン浄化実証試験: 
米国4ヵ所、日本4ヵ所の汚染サイトの詳細情報を収集し、1,4-DX汚染濃度は0.23〜221mg/Lで、重金属やVOCとの複合汚染が見られることを明らかにした。この結果を参考に模擬複合汚染地下水を作製し、D17株による浄化試験を行い、1,4-DXを阻害なく環境基準値以下まで分解できることを示した。また、浄化の実証サイトとして岩手・青森県境不法投棄現場を選定することができた。本現場の汚染地下水を採取して水質分析を行うとともに、D17株を用いてフラスコレベルの処理試験を行い、環境基準までの分解が可能であることを確認したのち、D17株を用いたバイオリアクターを設計し、据付・運転の工程表を作成した(今秋より実証試験に着手予定)。

3.環境政策への貢献

本研究により、国内外の1,4-DX汚染サイトの特徴(特に共存汚染物質)を明らかにすることができた。また、系統学的・分解様式的に多様な分解菌のライブラリを構築し、汚染環境の浄化に有望な数株を選定した。加えて、分解菌を活性化する因子や、共存汚染物質が1,4-DX分解に及ぼす影響も明らかにすることができた。特に、D17株は他の汚染物質が共存する場合でも分解活性を維持できることが確認され、多様なサイトにおける1,4-DX汚染の浄化に活用できるものと考えられた。これらの研究をさらに進めることによって、様々な特性をもつ汚染サイトに対応できる浄化技術のオプションを整備することができ、国内外で発生している1,4-DX汚染問題の解決と、汚染に伴う健康被害の未然防止につながることが期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

1,4-ジオキサン分解菌特性に関する研究は十分に行われており、バイオリアクターも実用化に近い段階まで進んでいると評価できる。また、分解菌モニタリングのための標的遺伝子の検索も十分な内容に達している。汚染現場での実証試験の結果が期待される一方、共存有機物や共存微生物、水温などの影響を長期にわたって検討する必要がある。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【5B-1202】PM2.5規制に影響する汚染混合型黄砂の組成的特徴と飛来量/降下量に関する研究 (H24〜H26)
研究代表者氏名:杉本 伸夫((独)国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ 微小黄砂(PM2.5黄砂と呼ぶ)は、大気汚染物質とよく混合することが定性的に判ってきた。そのような汚染混合型黄砂は黄砂そのものに比べ健康影響が大きいと指摘されている。黄砂発生源に近いアジア大陸の大都市(北京、ウランバートルなど)では汚染混合型黄砂が新たな都市大気環境問題となり、日本でもPM2.5規制値を超える汚染混合型黄砂の飛来が目立ってきた。PM2.5領域に存在する汚染混合型黄砂の日本への飛来・沈着に関する科学的知見は非常に少なく、対応する数値モデルの開発も遅れている。本プロジェクトは、以下の構成で、今まで未解明のPM2.5黄砂とその沈着量の実態解明および国際貢献的研究の両方を実行する。
(1)メガシティにおけるPM2.5黄砂の複合汚染に関する三次元的実態解明とその越境飛来観測
ライダーネットワーク(17局)による継続的観測データをサブテーマ(3)および環境行政に役立てる。発生源に近い北東アジア内陸部メガシティにおけるPM2.5黄砂と都市大気汚染物質の混合状態の解明をサブテーマ(2)と連携し達成する。ライダーの光学特性(消散係数、粒子偏光解消度、波長比)を用いたPM2.5黄砂の分離解析手法を確立しモデル融合を図る。


図 研究のイメージ        
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(2)メガシティにおけるPM2.5黄砂と人為汚染物質による複合汚染の化学的特徴の解明
北東アジアの都市大気粉塵の化学組成の分析結果をもとに、サブテーマ(1)と連携しPM2.5黄砂と人為汚染物質との複合汚染の実態解明を行う。
(3)汚染混合型の黄砂沈着フラックス量を推計する黄砂予報モデルの応用研究
黄砂予測モデル、データ同化、逆解析などを有機的に結合して大気汚染物質によって変質を受けた汚染混合型黄砂を数値モデル化し、汚染混合型黄砂の予報精度高度化のための沈着量推定手法を開発する。サブテーマ(1、4、5)の観測データも活用し、日本周辺域の黄砂の粒径毎の飛来量と沈着量分布を明らかにする。
(4)黄砂沈着のネットワーク観測と組成変化に関する研究−海洋に沈着する黄砂−
大気と降水中に浮遊する黄砂の観測を行い、海塩や大気汚染物質である硫酸塩などの粒子と黄砂の混合状態、濃度分布・性状などを評価する。また、サブテーマ(3)のモデル開発へ資するデータを提供する。
(5)黄砂沈着のネットワーク観測と組成変化に関する研究−陸地に沈着する黄砂−
黄砂沈着物のネットワーク観測により、陸上への黄砂沈着量をイベント・週・月レベルで明らかにする。また、黄砂の粒径分布や粒径別沈着量データをサブテーマ(3)に提供する。さらに、黄砂沈着物の地理的・時間的な組成変動の情報と合わせて黄砂沈着現象の全体像に迫る。

■5B-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/B-1202.pdfPDF [PDF195KB]

2.研究の進捗状況

サブテーマ(1)では、PM2.5とPM10の測定データからPM2.5に含まれる黄砂の重量濃度を推定する手法および、ライダーで得られる黄砂消散係数からPM2.5黄砂を推定する手法を検討して事例解析を行った。その結果、弱い黄砂でも環境基準を越えるPM2.5黄砂が観測される事例(2013年3月7-8日など)が明らかになった。一方、ローカルダスト(2013年3月の煙霧事例)では大粒子が殆どでPM2.5に含まれる粒子は比較的少なく、黄砂現象における輸送途上の沈着過程の重要性が示唆された。黄砂と大気汚染エアロゾルの混合状態(外部混合、内部混合)を明らかにするために、粒子毎に粒径と偏光特性が測定できる偏光パーティクルカウンターを整備し、ソウルにおいて連続観測を行った。黄砂と大気汚染粒子の光学的な特徴を明瞭に捉えるとともに、汚染された(内部混合した)黄砂の信号を捉えることに成功した。ライダーで測定される光学特性もこれとよく対応することが分った。この結果をもとに汚染された黄砂の光学モデルを検討した。
サブテーマ(2)では、大気粉じん試料捕集装置が限定されている地点でも捕集可能なPM2.5試料の捕集法を確立し、黄砂の発生源地に近くかつ激しい都市大気汚染が生じているウランバートルにおいて試料を捕集して化学分析を行った。分析結果は、硫酸イオン、硝酸イオン及びフッ化物イオンが土壌粒子と内部混合していることを示唆した。
サブテーマ(3)では,黄砂予測モデルを改良し、PM2.5黄砂とともに硫酸塩、有機物、ブラックカーボンを含むシミュレーションを毎日実施できる環境を構築して、サブテーマ(1、4、5)にPM2.5の予測情報を提供した。また、乾性・湿性沈着ネットワークのデータを用いて、湿性沈着パラメータおよび黄砂の粒径パラメータを調整するとともに、逆解析手法により黄砂発生地域における黄砂発生量を推定し、モデルの植生の取り扱い等の問題を明らかにした。さらに、PM2.5のデータ同化を可能とするために、データ同化に用いる観測演算子を改良した。
サブテーマ(4)では、大気および降水中の不溶性粒子の粒径分布を測定する手法を確立し、観測実験を行った。その結果、沈着した粒子の粒径分布は大気中のものとは異なること、降水中に大粒子が多く雨滴との衝突による雲下除去が重要であることなどが明らかになった。
サブテーマ(5)では、乾性・湿性沈着ネットワークによる観測を行い、黄砂事例を捉えた。湿性沈着で観測されたピークが同時期の乾性沈着にはみられないなど、輸送途上の粒径変化を示唆する事例が見られ、ライダーで捉えた黄砂層の鉛直構造とも整合した。

3.環境政策への貢献

三国環境大臣会合の黄砂に関するワーキンググループ(WG1)にライダーネットワークデータを提供し、WG1の活動に貢献した。また、環境省黄砂飛来情報ホームページにリアルタイムでライダーデータを提供した。
PM2.5に含まれる黄砂を定量的に推定することが可能となった。さらに、黄砂と大気汚染の共存状態および内部混合状態を指標化する手がかりが得られた。また、黄砂を含むPM2.5の組成毎の分布を予測するモデルを開発し、PM2.5黄砂の監視・予測情報の改良、発生源の評価などの環境施策への利用が可能となった。

4.委員の指摘及び提言概要

研究はほぼ計画通り進行している。汚染黄砂の観測や沈着量の評価に関して、新しい知見が得られていて、特に偏光を用いた解析は新しい展開が期待される。今後、越境汚染がPM2.5の濃度にどの程度の割合で寄与しているかも明らかにしてほしい。研究全体の中では、サブテーマ(4)、(5)の連携をより図る必要がある。さらにモデルの改良でどのようにして社会貢献を果たしていくかを明確にして研究全体を推進してほしい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【5C-1251】ダイオキシン類曝露による継世代健康影響と遺伝的感受性要因との関連に関する研究(H24〜H26)
研究代表者氏名:和氣 徳夫(国立大学法人 九州大学)

1.研究計画

ダイオキシン類曝露が次世代の健康にどのような影響をいかに及ぼすのかという継世代的な健康影響とその機序を明らかにすることを目的とする。九州大学病院油症ダイオキシン診療研究センターで管理・登録している油症曝露患者のなかで、油症発症後に児を得た油症曝露世代とその後世代を対象と知った健康実態調査の検討を行い、このうち同意が得られた患者より、ダイオキシン類血中濃度、ダイオキシンAhR関連遺伝子多型、細胞増殖・ホルモン受容体関連遺伝子などに関するエピジェネティックな変化を解析し、健康影響との関連について検討する。

研究のイメージ

図 研究のイメージ        
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■5C-1251 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/C-1251.pdfPDF [PDF214KB]

2.研究の進捗状況

(1)世代縦断的な健康影響の発生状況および血中ダイオキシン類濃度との関連を明らかにするため、健康影響の発生状況に関して、世代毎の比較検討を行う。
(2)前年度の計画を継続するとともに、油症によるダイオキシン類曝露量と食事や生活環境による継世代移行量との関連について検討する。
(3)本研究の同意が得られた油症患者の血液よりDNAを抽出する。標的領域の遺伝子増幅を行い、塩基配列の決定を行う。-130C/C,-130T/C,-130T/Tサブグループの健康影響、ダイオキシン類の血中濃度の比較分析を行いダイオキシン類の細胞内毒性シグナルのゲノム多様性が油症の健康被害に与える影響を明らかにする。

3.環境政策への貢献

本研究は化学物質による環境リスクの管理を世代縦断的に把握するもので、予防対応を念頭にリスク管理・評価手法の高度化を企てるという環境省が掲げる環境政策等に大きく貢献するものである。

4.委員の指摘及び提言概要

ダイオキシンの健康影響については、大変重要な知見と評価できるが、元々のデータ、情報量が限られている前提条件の下、そこから何が言えて、何がまだわからないのか、今後エコチル調査に何を生かしていくかを明確に示してほしい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【5C-1252】妊娠中及び胎児期における内分泌撹乱質が性分化および性腺機能に及ぼす影響について(H24〜H26)
研究代表者氏名:野々村 克也(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究では、北海道スタディ、エコチル調査において、環境化学物質濃度と出生時の外性器、精巣の異常と胎生期ホルモン環境の異常との関連について検討する。加えて、性ホルモン受容体や異物・ステロイド代謝酵素等に関連する遺伝子多型を調べ、化学物質の内分泌かく乱作用を検討し、これまで人ではほとんど科学的な知見がない性分化および性腺機能における胎児期の環境化学物質曝露のリスクについて明確にする。第1に環境化学物質が男児の陰茎長・精巣体積および男児・女児の肛門性器間距離、性ホルモンに関連した第2指/第4指比(2D/4D比)に与える影響を明らかにする。第2に北海道スタディにおける臍帯血で児の性腺機能に関連すると考えられるホルモン濃度を測定、8歳時点の性向行動調査を実施し、胎児期の環境化学物質曝露濃度とホルモン環境、性向行動との関係を解明する。第3に異物・ステロイド代謝酵素・受容体等に関連する遺伝子多型と環境化学物質の曝露濃度が胎内ホルモン環境に与える影響、母児の遺伝子型の組み合わせが性分化および性腺機能に及ぼす影響を検討し、同じ曝露濃度でも感受性の高いハイリスク群およびその機序を明らかにする。最終的には、本研究成果により、妊娠中および胎児期の環境化学物質への曝露が性分化および性腺機能におよぼす影響について明らかにすることができる。


図 研究のイメージ        
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(1)陰茎長・肛門性器間距離・精巣体積および2D/4D比と環境化学物質の関係
エコチル調査参加者の同意を得て、出生時の陰茎長・肛門性器間距離・精巣体積・2D/4D比を測定し、母体および胎内における環境化学物質の曝露が与える影響を解明する。また、北海道スタディ参加者についても胎生期の性ホルモンに関係した2D/4D比を測定し、母体および胎内における環境化学物質の曝露が2D/4D比に影響を与えるのかを明らかにする。
(2)環境化学物質が胎内ホルモン環境および性向行動に及ぼす影響
2001年に開始した出生コホート「北海道スタディ」を用いて、臍帯血中の児の性腺機能に関連すると考えられるテストステロン、エストラジオール、ゴナドトロピン、等の性ホルモン濃度を分析する。さらに、8歳時点の性向行動調査を実施する。胎児期の環境化学物質(PCB、ダイオキシン等)曝露と性ホルモン濃度の相関、性腺機能に関連したアウトカムへの影響を解析し、曝露が胎内ホルモン環境に与える影響について解明する。
(3)異物・ステロイド代謝酵素やホルモンレセプター等の遺伝子多型によるリスク発現の感受性の差とメチル化との交互作用
異物・ステロイド代謝酵素や性ホルモン受容体等の遺伝子多型と環境化学物質曝露濃度が胎内ホルモン環境に与える影響及びエピジェネティックな変化(DNAメチル化等)を分析する。母児の遺伝子型の組み合わせとDNAメチル化パターンが性腺機能に関連したアウトカムへの影響を解析し、同程度の曝露レベルでも感受性の高いハイリスク群を同定し、その機序を明らかにする。


図 研究のイメージ        
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■5C-1252 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/C-1252.pdfPDF [PDF247KB]

2.研究の進捗状況

(1)陰茎長・肛門性器間距離・精巣体積および2D/4D比と環境化学物質の関係
北海道スタディにおける190例(男児:88例、女児:102例)の両手のコピーから、胎生期の男性ホルモンの影響が関係している2D/4D比が、男児では女児に比べて小さいことが示された。臍帯血中の性ホルモン濃度の結果から、その機序として精巣のLeydig細胞の機能との関連が示唆されたが、胎児期における母体の環境化学物質曝露との関連は明らかではなかった。エコチル追加調査では平成24年9月よりリクルートを開始し、平成25年7月現在参加同意者603例、出産353例で、334例で出生児の身体測定(陰茎長、精巣体積、肛門性器間距離、第2指・第4指の長さ)、332例で母体血の採取が行われた。臍帯血は105例で採取できている。
(2)環境化学物質が胎内ホルモン環境および性向行動に及ぼす影響
すでに母体血中環境化学物質濃度の測定が終了している北海道スタディの小規模コホート514人のうち、臍帯血295検体の性ホルモン濃度の測定を行い、男女差、母の環境化学物質曝露との相関について検討を行った。テストステロン(T)、LH、FSH、T/エストラジオール、InhibinB、Insulin-likefactor3については、男女間に有意な差を認めた。一方、胎児期の環境化学物質曝露は、抗アンドロゲン作用を示す可能性が示唆された。特に男児において、DEHP、PCB・ダイオキシン類、有機フッ素化合物などの環境化学物質の胎児期曝露が高いと、精巣のLeydig細胞およびSertoli細胞の機能を表す性ホルモン濃度が低いことが示された。8歳児の性向行動調査結果は1,355人から回収した(2013年6月末現在)。
(3)異物・ステロイド代謝酵素やホルモンレセプター等の遺伝子多型によるリスク発現の感受性の差とメチル化との交互作用
北海道スタディで得られた臍帯血よりQIAampDNABloodMinikitを用いてゲノムDNAを抽出した。これらのゲノムDNA上の多型を解析するため、まず、異物・ステロイド代謝酵素遺伝子等の一塩基多型(SNP)に着目し、ジェノタイピングの結果と、子宮内胎児発育遅延(IUGR:出生時体重<10パーセンタイル)、低出生体重(<2,500g)および早産(在胎週数<37週)との関連を、母親の出産時年齢、出産歴、妊娠中の喫煙および飲酒歴、児の性別で調整した多重ロジスティック回帰分析により解析した。また、出生時体重、身長、頭囲、胸囲、在胎週数、肥満度との関連を直線回帰モデルにより解析した。血清中の性ホルモンに関連のある遺伝子多型が、出生時の体格指標と関連があることから胎児の発育に影響を及ぼすことが示唆された。今後、これらのSNPと臍帯血中の性ホルモン濃度との関連を解析し、胎内のホルモン環境、胎児の性腺機能との関連について検討する。

3.環境政策への貢献

本研究は、環境省が主導しているエコチル調査の基本課題“胎児から小児期にかけての化学物質曝露が、子どもの健康に大きな影響を与えているのではないか?”という中心仮説の解決に大きく貢献するものと考える。さらには、本研究は日本の妊婦や児のデータに基づく科学的な成果を提供できるものと考える。
また、第1回国際化学物質会議(ICCM,2006)では「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」が策定されたが、第2回ICCM(2009)に新規の課題として追加された「PFCの管理と安全な代替物質への移行」、第3回ICCM(2012)に追加された「内分泌かく乱物質の理解促進」への対策に直結する研究である。

4.委員の指摘及び提言概要

有意義なテーマであり、計画通り進捗していると評価できるが、継続性、データ・サンプル数の補強が重要である。北海道スタディの小規模コホートでの成果であるので、予定通り症例を増やして、分析を続けてほしい。今後、化学物質による形態変化やホルモン分泌の変化が、実際の性腺機能や健康にどのような影響を与える可能性があるかも明らかにしてほしい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【5RFb-1201】マグネシウム化合物を吸着剤として利用するほう素、ふっ素の処理技術の開発 (H24〜H26)
研究代表者氏名:亀田 知人(東北大学大学院工学研究科)

1.研究計画

研究のイメージ マグネシウム-アルミニウム系層状複水酸化物(Mg-AlLDH)、Mg-AlLDHを仮焼して得られるMg-Al酸化物、及び酸化マグネシウム(MgO)を吸着剤として利用して、水質汚濁防止法に基づく排水処理規制の対象となっているほう素、ふっ素について、排水基準を満たすための経済的な処理技術の開発を行う。現在までに、ほう素は各種凝集処理が検討されたが、アルミニウム塩(Al塩)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の併用法以外に効果がない。また、多量のAl塩とCa(OH)2を要するため、低濃度のほう素で汚染された極めて大量のスラッジが生成し、その処理の問題が常に伴っている。最近では、スラッジの堆積最終処分の場所の確保が困難になり、スラッジを大気中に長時間曝しておく間にほう素の浸出、濃縮が起こる可能性もあり、プロセスの見直しが迫られている。一方、ふっ素は含有排水にCa(OH)2等のCa化合物を添加してふっ化カルシウム(CaF2)として沈殿処理するが、残留濃度を下げるためにさらにAl塩を添加する水酸化物共沈法による高度処理を行う。しかし、この方法もやはり、低濃度のふっ素で汚染された極めて大量のスラッジの生成という問題を抱える。吸着法として、ほう素選択吸収樹脂やふっ素吸着樹脂が開発されているが、従来樹脂は高度処理のために使用されるものであるため高価であり、高濃度の排水処理には実用的ではない。


図 研究のイメージ        
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 そこで本研究では、アニオン吸着能を有するMg-AlLDH、Mg-Al酸化物、及びMgOによる水溶液中のほう素及びふっ素の捕捉を検討し、平衡論、速度論で整理する。また、ほう素及びふっ素捕捉後の吸着剤の最終処分を想定して、吸着剤からのほう素及びふっ素の脱着試験を行い、最終処分場での長期安定性の最適条件を探索する。一方、脱着試験後の吸着剤の吸着能を検討することで、吸着剤の循環利用も視野に入れた、ほう素及びふっ素の処理プロセスを構築する。

■5RFb-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFb-1201.pdfPDF [PDF136KB]

2.研究の進捗状況

Mg-AlLDHによる水溶液中のほう素及びふっ素の処理について検討した。以下、ほう素とふっ素に分けて記述する。
【ほう素の処理について】使用LDH及び初期pHの影響を検討した結果、NO3型LDH(Mg/Al=2)、初期pH10で最も高い除去率となった。Mg/Al=4よりもMg/Al=2で高い除去率を示したのは、Al3+の置換が多くホスト層の正電荷が大きいためであると考えた。またCl型よりもNO3型で高い除去率となったのは、NO3-は電荷密度が小さく、アニオン交換が起こりやすいためである。pH10で最大除去率となったのは、ほう素がpH9.2以上でアニオン態として安定であり、且つ高pHではOH-の存在量が増え、競合するためであると考えた。以下、実験は除去率の高いNO3型及びCl型LDH(Mg/Al=2)を用い、初期pHを10とした。ほう素除去に及ぼす化学量論量の影響を検討した結果、10minでNO3型は量論量3で96.6%、Cl型は量論量5で91.0%のほう素が除去された。これらの条件下で、残存ホウ素濃度はそれぞれ3.4mg-B/L、9.0mg-B/Lとなり、短時間でほう素排水基準を達成できた。ほう素の吸着は擬二次速度式に一致した。反応速度定数は温度とともに微増し、NO3型で大きくなった。またアレニウスの式から求めた活性化エネルギーはNO3型、Cl型でそれぞれ17.1、10.5kJ/molとなり、25kJ/mol以下より反応は物質移動律速であると分かった。共存アニオン存在下では、共存アニオンがほう素と競合するため、ほう素除去率が低下した。またSO42-は電荷密度が大きく、インターカレートされ易いため、除去率が大きく低下したと考えた。NaNO3、NaCl濃度のほう素脱着率に及ぼす影響を検討した結果、再生液濃度の上昇に伴い脱着率も上昇し、濃度3mol/LでNO3型では87.2%、Cl型では98.8%の脱着が可能であった。Cl-はNO3-よりも電荷密度が大きく、脱着が起こり易かったと考えた。
【ふっ素の処理について】ふっ素除去率の経時変化を検討した結果、化学量論量1倍ではCl型よりもNO3型の方が高い除去率を示し、また投入するLDH量の増大に伴い除去率は増加した。これはNO3-がCl-よりもLDH層間で不安定であり、容易にアニオン交換が起こるためである。NO3型、Cl型いずれも反応速度式は擬二次速度式に一致した。反応速度定数から算出した活性化エネルギーはNO3型で24.2、Cl型で11.8kJ/molとなり、物質移動律速反応であった。吸着等温線は、NO3、Cl型ともにLangmuir式に一致した。飽和吸着量qm[mmol/L]はNO3型で3.30、Cl型で3.22mmol/Lとなった。また、60minにおいてNO3型では化学量論量3で94.8%、Cl型では化学量論量5で96.1%除去できた。この時、残存ふっ素濃度は5.2、3.9mg/Lとなりいずれもふっ素排水基準を達成した。

3.環境政策への貢献

本研究成果は、水質汚濁防止法に基づく排水規制の対象となっている、ほう素及びふっ素について排水基準を満たすための経済的な処理技術の開発に貢献することができる。現在、ほう素の処理技術として、Al塩とCa(OH)2を併用する凝集沈殿法が行われているが、ほう素の排水基準を満たすためには多量の薬剤を要し、スラッジ発生量も大量となる側面がある。ほう素選択吸収樹脂を用いるイオン交換処理法、溶媒抽出法も検討されているが、高価であることや環境二次汚染の問題もあり実用的ではない。一方、ふっ素は含有排水にCa化合物を添加してCaF2として沈殿処理するが、残留濃度を下げるためにさらにAl塩を添加する水酸化物共沈法による高度処理を行う。しかし、この方法もやはり多量の薬剤を要し、低濃度のふっ素で汚染された極めて大量のスラッジの生成という問題を抱える。ふっ素吸着樹脂が開発されているが、従来樹脂は高度処理のために使用されるものであるため高価であり、また高濃度の排水処理には実用的ではない。本研究では、マグネシウム化合物を吸着剤として利用する吸着法を開発するため、凝集沈殿法と異なり多量の薬剤が必要とならず、吸着剤を循環利用できるメリットもある。ほう素やふっ素を吸着したマグネシウム化合物を最終処分する場合においても、凝集沈殿法に比べスラッジ発生量の低減が期待できる。ほう素処理のための凝集沈殿法、ふっ素処理のためのCaF2法&水酸化物共沈法は、まず排水基準を満たすことが容易ではないが、マグネシウム化合物による吸着法は排水基準を満たすことが容易である。また、多量の薬剤にかかるコストに比べ、マグネシウム化合物の吸着剤は安価である。当然、ほう素選択吸収樹脂やふっ素吸着樹脂よりも安価である。本研究成果は、容易にほう素及びふっ素の排水基準を満たすことができ、安価で、環境二次汚染を引き起こさないため非常に優位性がある。

4.委員の指摘及び提言概要

実験室レベルの基礎検討は概ね完了しているが、イオン交換樹脂などで用いられている解析方法を参照して、より一般化することが不可欠である。現時点では、共存イオンによる吸着能力の減少や、再生困難性が増加するような実用的な場でのプロセスの取り扱いは十分検討されておらず、ニーズの実態の捉え方も不十分であり、実用化への道筋ができていない。

5.評点

   総合評点:C  ★★☆☆☆


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研究課題名:【5RFb-1202】低分子ポリジメチルシロキサンの高精度分析法開発と環境汚染実態の解明 (H24〜H26)
研究代表者氏名:堀井 勇一(埼玉県環境科学国際センター)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究では、低分子シロキサンの中でも国際的に優先してリスク評価が取り組まれている環状及び鎖状の4〜6量体を中心に、まず、公定法提案を目指した高精度分析法開発を行う。次にこの確立した分析法をもとに発生源データの整備、環境中への排出実態把握、環境動態解析を行う。具体的には、生活排水に起因する低分子シロキサン濃度レベルを把握するため、主に埼玉県内の下水処理施設の流入・放流水等を調査する。また、下水処理施設周辺水域から東京湾にかけて環境水、底質、生物を採取・分析することで、国内初となる低分子シロキサンの水環境データを構築する。さらに、低分子シロキサンの水、底質、生物間の分配から環境残留特性や生物蓄積性を解析、これらに毒性情報を補完することで生態リスク評価を行う。


図 研究のイメージ        
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■5RFb-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFb-1202.pdfPDF [PDF235KB]

2.研究の進捗状況

平成24年度は、シロキサンの高精度分析法開発に取り組んだ。まず使用するすべての器具、設備についてブランクレベルを詳細に確認し、使用器具の選定を徹底することで、試料コンタミの防止及びブランクレベルの低減・管理を行った。水試料の抽出は、ガス洗浄ビンと固相カートリッジを応用したパージトラップ(PT)−溶媒溶出による抽出法を検討し、固相の種類、パージガス流量、温度、超音波アシスト等の条件を最適化した。これまで底質や生物など固体試料のクリーンアップ法は確立されていなかったが、本研究で検討したPT法を固体試料抽出液のクリーンアップ法として適用し、着色成分や脂質等の夾雑物の影響を極力抑えたシロキサン分析法を確立した。上記抽出法と併せて、ダイナミックヘッドスペース-GC/MS法を用いた簡便・迅速な水中シロキサン分析法を検討した。また、最適なサンプリング方法、及び試料保存方法確立のため、試料の運搬方法、試料容器種類、試料保存期間の違いによる対象成分の安定性試験を行った。上記の確立した分析法を用いて東京湾流入河川(9地点)から採取した河川水、底質、魚類をセットで分析し、国内初の水環境中シロキサン濃度分布を得た。
平成25年度は、シロキサン発生源データの整備及び環境中への排出実態把握に関する研究を遂行中である。生活排水に起因するシロキサンの排出実態把握のため、埼玉県内の下水処理施設等の流入水及び放流水の濃度を測定する。下水処理施設の調査について、すでに関係機関と調整済みであり、7月から10月にかけて9箇所の流域下水処理施設を調査する。各施設において下水流入水、処理水、放流水、脱水ケーキ、反応槽ガスを測定し、各工程におけるシロキサンの除去効率、水環境への負荷量、さらには大気への放出割合の情報を得る。さらにデポジットサンプラーを用いてシロキサンの日内・週間濃度変動調査を行い、生活サイクルとシロキサン排出量の関係を明らかにする。また、周辺水域において濃度の季節変動に関するデータを得るため、下水放流水、河川水(上流・下流)の調査を昨年12月より毎月継続的に実施している。
環境汚染実態調査として、今年7月に東京湾底質コア試料を採取した。この試料分析により、過去100年スケールのシロキサン濃度の変遷及び東京湾へのシロキサン負荷量推定が可能となる。また、東京湾及び集水域などの魚類について150検体以上採取済みであり、順次これら試料の前処理及び分析を進めている。さらに、シロキサン濃度レベルの国際比較として、香港市立大学及びManipal大学(インド)の協力を得て、アジア都市域における水環境試料の収集を進めている。
研究成果の一部は、国内外の学会で発表するとともに、研究代表者らが企画した環境科学会企画シンポジウム(平成24年9月)や化学物質セミナー(一般公開、平成25年2月)において広く公表した。また、今年8月に開催されるダイオキシン国際会議では、研究代表者がシロキサンの特別セッションを企画するなど、国際的にも研究成果の発表を積極的に行っている。

3.環境政策への貢献

シロキサンは新規PBT候補物質として欧米では優先的にリスク評価が進んでいる。国内においては、既存化学物質の安全性点検事業において、D4、D5、D6の3物質について分解度試験及び蓄積性試験が行われている。本研究で得られたシロキサン環境データは、これらラボ試験データの妥当性評価やシロキサン物性値から推測される環境中予測濃度との比較に利用でき、さらに国内におけるシロキサン環境影響評価の基礎データとしての活用が期待される。また、本研究では公定法提案を目指した分析法開発を行っており、日本で開発した水中シロキサン分析法を国際標準化する事で、シリコーン工業会他の産業界の自主管理が適切に行え、しかも国際規格を使う事で客観的な精度管理も同時に与える事ができる。また現時点では国内環境へのシロキサン放出量の測定例は乏しいが、本研究データを活用することで、近い将来予想される環境省化学物質環境実態調査等へも精度管理の取れた標準分析法の提供が可能となる。すでに国際標準化のため、国内外関連機関との調整を進めており、今年10月にベルリンで開催されるISO/TC147“Waterquality”総会のアドホック会議にて、本研究で開発した分析法を新規国際規格提案として紹介する予定である。

4.委員の指摘及び提言概要

揮発性メチルシロキサンの分析法に関して、ブランク問題、前処理、回収率などが詳細に検討され、信頼性の高い分析方法が確立され、その分析法を用いて、水環境におけるモニタリングおよび下水処理におけるプロセス収支の解析が始まっており、期待(計画)どおりの成果が得られている。なお、環境省環境保健部と情報・意見交換をし、行政に研究の成果がよくわかるように示す努力が必要である。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【5RFb-1203】河口域における残留性有機汚染物資の循環とそれが沿岸生態系に与える影響の定量的評価 (H24〜H26)
研究代表者氏名:小林 淳(熊本県立大学)

1.研究計画

研究のイメージ 有明海の沿岸河口域における残留性有機汚染物質(POPs;ポリ塩化ビフェニル、有機フッ素化合物、臭素化難燃剤を対象)の循環とそれが生物群集組成に与える影響を評価することを目的とし、野外観測、室内における毒性影響実験、統計モデリングを通して、POPsが水生生物に与える影響を遺伝子レベルで解明する。


図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

■5RFb-1203 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFb-1203.pdfPDF [PDF322KB]

2.研究の進捗状況

(1)残留性有機汚染物質の生物蓄積機構の解明と食物連鎖モデルの構築
野外調査では、生物、水質および底質の環境調査を行った。底生生物および魚類調査では対象生物の選定を行い、対象生物については、個体群動態の調査を行い、時空間分布、成長率、死亡率などの特徴を明らかにした。また、マハゼ、ボラ等の6種の生物(n=13)を測定した結果、PCB濃度(209異性体の合計値、以下同じ)は12〜230ng/g-wet、PBDE濃度(27異性体の合計値、以下同じ)は0.92〜2.5ng/g-wetであった。環境調査では水・底質中のPOPsの測定に加えて、生物の生息環境(水温、塩分、餌環境)の定量的評価を行った。水試料(溶存態と懸濁態の合計、n=10)中のPCB濃度は550〜57,000pg/l、PBDE濃度は15〜4,300pg/lであった。底質試料(n=4)中のPCB濃度は6.8〜78ng/g-dry、PBDE濃度は1.1〜6.3ng/g-dryであった。調査水域における水質の断面観測と定点における係留観測の結果によると、調査域は上流部における酸素消費が活発であり、夏季に貧酸素状態となり、生物の個体群動態および群集構造に対して影響する可能性が示唆された。底生生物が暴露される溶存酸素濃度と積算期間については検討の余地があり、堆積物表層に含まれる低濃度のPOPsと複合的に作用する可能性が示唆された。このように、実環境を反映した生態影響を明らかにするためには、貧酸素条件を考慮したPOPsの影響評価が必要である。また、生物試料および水・底質試料については、適切な前処理を施し、保存した。室内では、予備実験として対象生物の飼育を開始し、安定した暴露環境の構築を行った。
(2)沿岸海洋生物における残留性有機汚染物質の毒性影響の解明とリスク評価
サブテーマ(1)において生態影響が懸念され、これまで実験動物などで毒性学的知見が報告されているPOPsを対象として、メダカ(Oryziaslatipes)への短期暴露試験を行った。Kanechlor-500、BDE-47あるいはPFOSの暴露によって、行動異常や外観的奇形、死亡個体などは確認されず、今回設定した暴露濃度区において急性毒性影響はないことが示唆された。POPs暴露により影響を受ける遺伝子群を網羅的に探索するため、短期暴露試験で採取した肝臓試料を用いてDNAマイクロアレイ解析を行った。肝臓の炎症やアポトーシス、ガン化やエストロゲン様作用などに関与する遺伝子群の発現変動が確認され、各POPsの潜在的毒性影響を明らかにした。また、新たな毒性影響に関与する可能性の高い候補遺伝子群の同定にも成功した。遺伝子発現プロファイルの比較からは、各POPs暴露によって共通して発現変動を示す遺伝子群が見出され、これらはPOPs複合汚染における新規バイオマーカー候補遺伝子であることが示唆された。

3.環境政策への貢献

本研究の成果は、POPsを対象とした生態影響評価試験の標準化・高度化に大きく寄与し、環境汚染のリスク低減に貢献できる。また、貧酸素条件下でのPOPs暴露による生態影響に関する知見を提供できる。環境基準の設定や生態系保全および生物資源の利活用を促進する一助になりえる点からも環境政策に資する。世界をリードする学術情報を発信するだけでなく、POPsに関するストックホルム条約等に関連した国際社会のニーズや生態系保全を考慮した化学物質の安全性評価・利用指針の構築に資することが期待され、今後の環境政策に大きく貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

 基礎検討は概ね期待通り進められているが、研究全体の進展が絞り込まれていない。先行研究の情報も利用しつつ、サブテーマ(1)、(2)間の関係を強く持たせ、対象河口域の生物がPOPsから実際にどのような影響を受けているかを解明する方向へ研究を絞り込んでいく必要がある。

5.評点

   総合評点:C  ★★☆☆☆


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