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研究課題別評価詳細表

II. 中間評価

中間評価  2.  脱温暖化社会部会(第2部会)

研究課題名:【2A-1201】CMIP5マルチモデルデータを用いたアジア域気候の将来変化予測に関する研究  (H24〜H26)
研究代表者氏名:高藪 縁(東京大学)

1.研究計画

研究のイメージ 最新のCMIP5(第5次結合モデル相互比較計画)マルチモデルデータと最新の観測データとを利用し、地球温暖化に伴ってアジア域の様々な気象がいかに変化するかを調査研究し、成果を分かりやすく発表する。特に日本の社会生活に直接的な影響があるアジア域の雲・降水に関わる現象に焦点を当てる。各サブテーマは以下の研究を受け持つ。
(1)アジアの四季に強い降水をもたらす大規模気候場の解明とその将来変化についての研究
日本およびアジア域での各季節の雲・降水系の特徴がいかに変化するか、大規模場および大気擾乱活動や季節風、上空のジェット気流、海水温や海流などのいかなる変化に関係するか、またその数値的表現法の妥当性を評価する。課題全体をとりまとめる。
(2)アジア域気候とこれに関連する陸面・海面状態の将来変化の研究
日本の四季の季節進行を含むアジア域気候の再現性評価とその将来変化、およびこれに関連する太平洋などの海面状態やユーラシア大陸などの陸面状態の将来変化について研究する。
(3)ダウンスケーリング研究のためのCMIP5マルチモデルにおけるアジアモンスーン気候再現性と将来変化の研究
梅雨前線や日本の冬季の降雪量変動を力学的ダウンスケーリングによって予測するための領域気候モデルに与える大気大循環場について、現象毎に最適な気候モデルを選択できるよう、メトリックの作成を行い、気候モデルのバイアスがどのように個々の気象現象に影響するかについて調査する。


図 研究のイメージ        
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(4)熱帯域現象が東アジアの降水活動に与える影響の解明とその将来変化の研究
全球の気象に影響する顕著な現象である熱帯季節内振動について、気候モデル再現性を調べ、テレコネクションを通じてこのような熱帯域対流活動が東アジアに及ぼす影響とその将来変化を評価する。
(5)対流圏—成層圏循環場とアジア気候の将来変化に関する研究
CMIP5マルチモデルの中から成層圏を解像可能なモデルのデータを用い、対流圏中緯度ジェットから成層圏大規模循環場の再現性を評価し、それらと梅雨・太平洋高気圧等のアジア気候の再現性及び将来変化を調査する。

■2A-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/A-1201.pdfPDF [PDF290KB]

2.研究の進捗状況

初年度はまず課題全体で協力してCMIP5および観測データの収集・変換・蓄積を行った上で、各々のサブテーマにおいて下記の研究に取り組んだ。
(1)アジアの四季に強い降水をもたらす大規模気候場の解明とその将来変化についての研究
日本域の各季節を特徴付ける雲・降水システム(低気圧の雨、梅雨、台風、秋雨、降雪等)について評価方法を決め、CMIP5、CMIP3の現在気候実験での再現性評価を始めた。(H25)CMIP5データを用いた梅雨・秋雨降水帯の形成に関わる大気循環の特徴、降水特性との関係の再現性の評価と将来変化のばらつきについて解析を進めている。論文を投稿した。
(2)アジア域気候とこれに関連する陸面・海面状態の将来変化の研究
日本域の季節進行やアジア域の気候変動とこれに関連する海面状態や陸面状態についての評価法を決めて、CMIP5、CMIP3の現在気候実験での再現性評価を始めた。(H25)CMIP5モデルにおける過去再現実験や将来予測実験から夏季東アジアの循環場のトレンドを比較・解析している。また、地球温暖化に伴う対流圏上層の偏西風の流れの変化と日本への影響、そのメカニズムの解析を行った。
(3)ダウンスケーリング研究のためのCMIP5マルチモデルにおけるアジアモンスーン気候再現性と将来変化の研究
アジア域の偏西風の変動に関して評価方法を決め、CMIP5、CMIP3の現在気候実験での再現性評価を始めた。(H25)CMIP5の日データから総観規模擾乱を抽出するスキームを開発した。
(4)熱帯域現象が東アジアの降水活動に与える影響の解明とその将来変化の研究
熱帯域対流活動の再現性と東アジアへの影響の評価方法を決め、CMIP5、CMIP3の現在気候実験での再現性評価を始めた。(H25)CMIP5データを用いて各モデルにおける熱帯季節内変動の、中緯度移動性擾乱の活動度への影響の再現性、また温暖化時におけるその変化に関する解析を開始した。
(5)対流圏—成層圏循環場とアジア気候の将来変化に関する研究
対流圏−成層圏の温度場・循環場等の再現性およびアジア域の亜熱帯ジェットと成層圏東西風の再現性の評価方法を決め、CMIP5、CMIP3の現在気候実験での再現性評価を始めた。(H25)各種観測データ及びCMIP5モデルを解析し、赤道準2年振動の現在気候での再現性及び将来変化を評価し、Nature論文として発表した。

3.環境政策への貢献

①気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書(IPCC AR5)リードオーサーに対して、本推進費課題および先行する推進費研究S-5の本研究課題グループからの成果論文を、提供した。この活動を通じて世界的な地球温暖化関連政策策定に貢献する。
②地球温暖化がアジア域に局所的な影響をもたらす可能性を科学的に示し、災害を考慮した適切な温暖化適応策策定の際に考慮すべき点および国民の理解の促進のために利用できる情報について提言を行うための知見を得ることができた。
・日本域の雨の様相の急激な変化の可能性。
・日本域に強い雨をもたらす気象形成における東シナ海水温の重要性。
・温暖化に伴う日本域の海面水位上昇
・温暖化時の台風の発生と経路の変化
・温暖化に伴う熱帯気象と日本域気象との関係の強化
③温暖化に伴う成層圏の流れの強化を観測的に立証し、気候モデル予測による知見の正しさを示した。同時に、将来のオゾンホールの回復に関する検討に重要な示唆を与えた。
④アジアのモンスーン気候や日本列島の季節進行が温暖化に伴い今後どのように変化していくか、温暖化現象の影響を人々にとって身近で理解しやすい生活環境の変化として表現した。今後、温暖化について一般市民の理解を深めるための情報として発信し、貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

CMIP5の解析が精力的に、有効になされており、日本・アジア域における現象の解明の理解が進められ、効率よく進捗している。それぞれのサブテーマについても研究は十分な進展が認められ、すでに優れた科学的成果も挙げられている。最終的には日本における適応政策に大いに寄与することが期待される。さらに言えば、例えば、降水の地域性が大きいことに留意を払うなど、ダウンスケールの研究と連携し、アジアの都市化、産業化の影響も判断できるような配慮を願いたい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【2A-1202】GOSATデータ等を用いた全球メタン発生領域の特性抽出と定量化 (H24〜H26)
研究代表者氏名:林田 佐智子(奈良女子大学)

1.研究計画

本研究では、GOSATなどの衛星センサーで観測される大気中メタン濃度の情報を最大限活用し、これに大気の直接観測で得られたメタン濃度データの解析を加えることにより、全球的なメタン濃度分布を把握する。特にシベリア域およびアジア域から放出されるメタンの、大気中における輸送過程や化学反応過程などの動態を把握し、大気中メタン濃度の変動を検出する。その結果を元にインバースモデルによる解析を行い、メタンの放出分布とその変動を早期に検知するためのシステムを構築する。
(1) GOSATデータ利用手法の開発と人工衛星データの複合的解析による全球メタン濃度分布の特徴抽出
GOSAT、SCIAMACHY 他の衛星データを総合的に解析し、メタン濃度の長期トレンド、年々変動、季節変動などの特性を領域毎に解析し、気象や土地利用などとの関連を解析する。また、GOSATで得られるデータの時空間代表性を検討し、衛星データをインバースモデルに利用する手法を確立する。アジア域において新たに大気観測サイト(大気採集場所)の選定をサブ3と協力して行い、アジアのメタン発生の強い領域で1年間の大気採集を行い、データをサブ4のインバースモデルに投入する。
(2) GOSAT熱赤外センサーのメタン高度分布データを用いた対流圏メタンの動態把握
インバースモデル(サブ4)に高精度のメタンの鉛直分布データを投入するために、GOSATの熱赤外波長域から可能な限り高い高度分解能でメタン濃度を導出する。そのために、フォワードスペクトルの計算精度を上げる等のデータ導出手法の高度化を行う。また、GOSAT熱赤外メタン鉛直分布データから、シベリア湿地帯からのメタン放出量の変動およびアジア水田地帯から放出されるメタンの地域別の特徴が抽出できるか検討を行う。
(3) 主要メタン発生域におけるメタン放出量推定の高度化
アジア域においてメタン放出量の強い地域の特定を行い、サブ1と協力して大気採集地点の選定を行う。ボトムアップインベントリと土壌情報や土地利用変化データを比較し、シベリア・アジア域の主要メタン発生地域を精査するとともに、アジア水田地帯から放出されるメタンの地域別の現地環境因子についてインド、ベトナム、バングラデシュなどで現地調査を行う。湿地・水田からのメタン発生の推定精度を改良した結果をサブ4のインバースモデルに投入する。
(4) GOSAT短波長赤外データと現地観測による大気中メタン濃度解析と収支推定
国立環境研究所が展開しているシベリアでのタワー観測と航空機観測、ならびに西太平洋での船舶観測を継続して実施し、新規アジア大気サンプルのメタン濃度分析を行う。GOSATメタンデータと本研究で得られたメタン観測値を用いてインバースモデルによる解析を行い、シベリア・アジア域からのメタン放出量の分布とそれらの年々変動を検出する。また、算出したインバースフラックスをインベントリフラックスと比較し、本研究で構築したメタン放出量推定システムの評価を行う。

研究のイメージ

図 研究のイメージ        
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■2A-1202 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/A-1202.pdfPDF [PDF1,141KB]

2.研究の進捗状況

(1) GOSAT他の衛星データから、メタン濃度の長期トレンド、年々変動、季節変動などの特性を領域毎に解析し、気象や土地利用等との関連を解析した。アジアの観測空白域において新たに大気観測サイトの選定をサブテーマ3と協力して行った。
(2) GOSAT熱赤外波長域から可能な限り高い高度分解能でメタン濃度を導出するため、フォワードスペクトルの計算精度向上を目指した。また、気温の高度分布の誤差がメタン濃度の導出精度に与える影響について、サブテーマ4と連携して調査した。
(3)土地被覆情報とボトムアップインベントリ情報に基づき、アジア域においてメタン放出量の強い地域の特定を行い、サブ1と協力して大気採集地点の選定を行った。水田からのメタン放出インベントリを現地の土壌区分情報と比較した。水田管理の差異がメタン発生の推定精度に与える影響についてベトナムやインドで現地調査した。
(4)タワー観測用の新たなメタン濃度測定システムの開発を行った。航空機観測は月に1回の観測を実施し、シベリア上空でのメタン濃度の変動特性について解析を行った。地上・船舶・航空機の観測データをインバースモデルに導入するための3次元データセットを構築した。また、北方針葉樹林とツンドラにおけるメタンフラックス情報の収集を行った。GOSAT熱赤外センサーからのメタン高度分布導出の精度向上のための成層圏気温分布の整備を行った。

3.環境政策への貢献

本研究で期待される成果は直接的なメタン放出量だけではなく、これまで多くの謎が残されているメタン放出源の分布や放出プロセスの解明につながるものであり、将来の気候変動に対するフィードバックの定量化を通して、推進戦略の重点課題10「地球温暖化現象の解明と適応策」のサブテーマ「気候変動予測の高度化」に貢献することができる。
 本研究はこれまで利用が進んでいなかったGOSATのメタンデータを最大限利用する初めての本格的な研究である。GOSATは我が国が打ち上げた世界で唯一の温室効果ガス観測に特化した衛星であるので、本課題で率先して観測の有効性を示すことによりGOSATのデータ利用促進を通して、IPCCを初めとする世界の気候変動研究にとっての我が国の貢献を示すことができる。
 さらに推進戦略では「アジア地域を始めとした国際的課題への対応」も重点課題としている。アジア諸国の低炭素化社会移行を推進するにはそれぞれの国の国民や政府の環境意識の向上が不可欠であるが、本研究のように各国における温室効果ガスの濃度やその放出量を科学的な数字として示すことは明確な意識の向上に大きく貢献する。
 平成24年度においては、上記の貢献目標のうち、GOSATメタンデータの検証、GOSATの先例となるSCIAMACHYデータの解析から得られた知見のまとめ、アジア内陸部における新しいモニタリングステーションの設置の検討、インバースモデルの改良と定量的評価において研究成果を上げることができ、初年度の目標を達成した。さらに当初の計画より早く、GOSATデータならびにシベリア大気観測データを用いたインバージョン解析を行なった。全球の各領域でメタン排出量を推定し、GOSATデータを活用することで放出量推定の誤差が低減することなどが明らかになった。

4.委員の指摘及び提言概要

 新たな知見の獲得に向けて、各サブテーマの課題は順調に推進されており、当初計画以上に進展が見られるなど。さらに、サブテーマ間の連携を強化するとともに、熱赤外センサーデータ解析の今後のさらなる高度化によるインバージョンモデルへの反映などの展開を期待する。行政貢献を意識して、行政担当者とのコミュニケーションの機会を増やすことが望まれる。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【2A-1203】海洋生物が受ける温暖化と海洋酸性化の複合影響の実験的研究 (H24〜H26)
研究代表者氏名:野尻 幸宏((独)国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ 地球温暖化と海洋酸性化の近未来影響を評価するために、「気候変動による水温上昇」と「CO2濃度増加による酸性化」という複合ストレスが海洋生物に及ぼす影響を解明する実験的研究を行う。水温とCO2の正確な制御という物理化学面と、対象生物種の入手・維持という生物面の両技術・設備がない限り、環境制御飼育実験には新たに大きな投資や長い経験蓄積が必要となる。そこで、技術・設備的実現性と研究ニーズを考慮し研究対象を設定した。
(1)海洋生物飼育実験用CO2分圧制御と実験管理手法の提供
 海洋生物飼育実験のために、新たなCO2分圧制御手法による装置の開発と提供を行うとともに、海洋炭酸系と関連項目の計測から長期の実験管理を行う。水温上昇(温暖化)とCO2分圧上昇(酸性化)の双方のパラメータを変化させる実験で正確さを確保するために、飼育水槽の正確なCO2分圧を計測する手法を活用し、100L以下の小型水槽のスケールから1t以上の大型タンクのスケールまでのCO2制御実験を可能とし、その実験管理を行う。


図 研究のイメージ        
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(2)わが国周辺のサンゴ種の成長への水温と海洋酸性化の影響
 わが国沿岸で急速な分布域北上が確認されているサンゴに対し、海洋酸性化による炭酸カルシウム飽和度低下は石灰化を抑制するので分布域移動に制約がかかる可能性があるものの、北限域のサンゴ種や北上サンゴ種のCO2に対する応答性は知られていない。サンゴでは高水温・低水温とも生息域を決める要因となるので、北限域生息種や北上種を中心として、サンゴに水温とCO2が及ぼす複合影響を飼育実験から明らかにする。
(3)海洋生物の再生産過程における水温と海洋酸性化の影響
 一般に生物では再生産過程が環境因子の変化に対して脆弱であり、CO2に対する急性毒性レベルが高い魚種においても、今後予想される大気CO2増加レベルでの再生産過程に対する海洋酸性化影響を評価する必要がある。そこで大型水槽のCO2制御技術を活用し、これまでに例のない水産有用魚種を含む種を対象とする再生産過程への影響評価実験を実施する。
(4)植物プランクトンの増殖における水温と海洋酸性化の影響
 海洋表層の炭素循環の出発点である植物プランクトンのうち、珪藻と円石藻という石灰化をしない群とする群を対照して、これまでほとんど実験例のない昇温とCO2濃度増加の複合影響を、単離種による実験室レベル実験と自然プランクトン群集による現場型培養実験の両者から評価する。

■2A-1203 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/A-1203.pdfPDF [PDF869KB]

2.研究の進捗状況

(1)海洋生物飼育実験用CO2分圧制御と実験管理手法の提供
CO2分圧と水温の両方を変化させて生物の応答を見る実験および魚類の再生産実験を行うために、海水中CO2分圧の新制御法として、海水に純CO2ガスを溶解して高CO2分圧の海水を作り、それと原海水を定量的に混合する方法を開発し、大容量水槽のCO2制御飼育実験が可能となった。既存設備等の活用によって初年度の夏季のCO2分圧制御下の海洋生物飼育実験を実施するとともに、海水のCO2分圧を制御しながら水槽6基のCO2分圧を同時計測するシステムを導入し、その基本性能を確認した。
(2)わが国周辺のサンゴ種の成長への水温と海洋酸性化の影響
 静岡県西伊豆町と和歌山県串本町で温帯性サンゴを採取し、臨海実験施設で長期飼育を行った。水温およびCO2分圧を調整する装置での実験から、北上種と北限種には、成長速度の水温依存性と炭酸カルシウム飽和度依存性に違いが認められた。エンタクミドリイシなどの北上種は、水温上昇が冬季も夏季も大きな成長促進の効果を与えるので、冬季の水温上昇で低水温による斃死を免れれば、夏季の高温期には炭酸カルシウム飽和度が高まると石灰化で群体を成長させ、北方への分布域拡大を進めてきた可能性がある。ただし、今後の海洋酸性化の進行は、炭酸カルシウム飽和度の低下を引き起こし、分布拡大を抑制する可能性も示唆された。一方、北限種であるヒメエダミドリイシは、もともと低温耐性が高いので最低水温の上昇は分布域の拡大に寄与せず、むしろ夏季の高水温が成長に対して負の効果を与えている可能性がある。
(3)海洋生物の再生産過程における水温と海洋酸性化の影響
シロギスの再生産過程に及ぼすCO2分圧の影響を評価する実験を、520(対照)、860、1400、2500および4100 atmの5段階のCO2分圧に調整した海水水槽で3回繰り返し実施した。シロギスはいずれのCO2分圧下でも産卵し、浮上卵の正常発生率は90%以上と高かった。濃度区間の有意差を検定したところ、産卵回数、産卵数、浮上卵率および浮上卵の正常発生率のいずれについても有意差が確認されなかった。また、各濃度で産出された受精卵は対照区と同等に正常孵化し、それら孵化仔魚の耳石の大きさにも対照区との有意差が認められなかった。シロギスは、卵期から仔魚期までの初期生活段階のCO2に対する耐性が非常に高く、産卵・放精から受精に至るその生殖過程も、高CO2分圧に対して適応性があることが明らかになった。
(4)植物プランクトンの増殖における水温と海洋酸性化の影響
 沿岸から外洋に分布する珪藻種からモデル珪藻を選定し、株を入手して継代培養した。水温および光量に関する増殖特性、および、水温およびCO2分圧の上昇に対する応答に関する実験を実験室で行った。結果から、珪藻の比増殖速度および有機炭素生産量は水温上昇に対して直線的に応答することが明らかとなり、珪藻の増殖にかかわるパラメータが温暖化に対して比較的モデル化しやすいことが示唆された。一方、CO2分圧の上昇に対する応答は種特異的かつ水温特異的であり、応答の一般化が難しいことが示唆された。特に溶存有機炭素の生産量に対するCO2増加の影響は水温上昇の影響よりも大きかった。

3.環境政策への貢献

わが国沿岸の生態系に大きな影響を与える可能性があるサンゴの北上現象について、温暖化と海洋酸性化の両方が進行する将来においては、温暖化による北上を海洋酸性化が抑制するかどうかが問題である。本研究では北上サンゴの一種で、海洋酸性化が北上を制約する可能性が示唆された。これまで困難であった大型水槽でのCO2制御実験技術を確立させ、水産有用魚種としてシロギスを対象に高いCO2レベルまでその産卵・発生過程の海洋酸性化影響実験を行った。結果から、魚類の再生産過程が海洋酸性化に対して高い耐性を持つ可能性が示唆され、水産への影響評価に有用な知見を得た。

4.委員の指摘及び提言概要

 大型の実験水槽を用いた二酸化炭素(CO2)濃度コントロールが精度よくできるようになったのは大きな成果であり、CO2濃度の海洋生物への定量的評価に関し、新しい切り口からの成果が出ていると評価される。政策に貢献可能な知見も得られている。一方で、個々の生物群で酸性化の影響を見る場合、やみくもに進めるのではなく、何らかの仮説(代謝メカニズムのモデル等)に基づいた方針・方法(研究ロードマップ)が必要ではなかろうか。なお、一般向けの外部発信にも努力されたい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【2E-1201】気候変動問題に関する合意可能かつ実効性をもつ国際的枠組みに関する研究 (H24〜H26)
研究代表者氏名:亀山 康子((独)国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ 次期国際枠組みに必要な条件について、本研究チームと国内外ステークホールダーとの間での双方向の情報交換を複数回実施する。(a)交渉に直接・間接にかかわる国内外のステークホールダーを対象としたウェブ上でのアンケート調査を実施し、回答者の認識に関する定量的なデータを収集、(b)アンケート調査結果を骨子として、補足的なインタビュー調査を行い、複数の国際制度オプション案を作成、(c)オプション案を合意可能性や実効性の観点から評価し、合意に至るための前提条件等を提示する。
(1)気候変動問題における国際的合意可能性および実効性に関する調査研究
 本研究課題代表機関として、全体のとりまとめを担当する。交渉に直接・間接に関係する国内外のステークホールダーの意識調査のためのウェブアンケート調査および補足的インタビュー調査の計画および実施、調査の結果にもとづく複数の国際制度オプション案の作成、及び実効性の検討を行う。
(2)気候変動に関する国際枠組みオプションの国際法的研究
 本研究で提示されることになる複数の国際制度オプション案の中で、法的実効性の観点からの評価を行う。また、同制度の法形式の違い(議定書か、COP決定か、等)による制度の実効性の違いを、国際法学的観点から研究する。


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(3)炭素市場メカニズムの枠組みオプションに関する経済学的研究
 本研究で提示されることになる複数のオプション案の中で、各国の実質的な排出削減努力量に影響を及ぼす各種炭素市場メカニズム(排出量取引制度や各種クレジット制度、オフセット等)が、国際制度の合意可能性および実効性に及ぼす影響について研究する。
(4) 気候変動に関する国際交渉過程を踏まえた枠組みオプションに関する研究
 COP17以降の国際交渉過程における交渉テキストや主要国の発言、ポジションペーパーを中心に情報を収集し、整理し、サブ1とともにアンケート調査票の設計を行い、作成した複数案のオプション案について合意可能性や実効性の観点からの評価を行う。

■2E-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/E-1201.pdfPDF [PDF169KB]

2.研究の進捗状況

(1)次期国際枠組みに関するウェブアンケート調査票の作成および実施を担当した。各国に受け入れ可能な制度となる条件に関するアンケート調査票を、他サブテーマ参画者の意見を取り込みながら作成し、実施し、その結果をまとめ、分析した。
(2)アンケート調査票への国際法的観点からのインプットを行った。次期国際枠組みにおける法形式に関して、京都議定書の継続、新議定書の設立、気候変動枠組条約のCOP決定といった手続きの違いや、条項の記載方法に関して、法的観点から検討した。
(3)アンケート調査票への炭素市場メカニズムの観点からのインプットを行った。国外の排出枠利用を認める多様な炭素市場メカニズム(排出量取引、各種クレジット・オフセット制度等)の有無が、各国の排出削減目標に及ぼす影響について検討した。
(4)アンケート調査票への、各国の緩和策における差異化のあり方と、資金メカニズムの観点からのインプットを行った。COP等会議における各国のポジション等に関する情報を収集し、合意可能な差異化策および資金メカニズムについて検討した。

3.環境政策への貢献

平成24年度は中央環境審議会地球環境部会、国土交通省交通政策審議会(国土交通省)、食料・農業・農村政策審議会専門委員会(農林水産省)、科学技術・学術審議会、環境省「気候変動「2020年以降の国際枠組み」に関する検討会」等、政府内の各種審議会、委員会等の委員として議論に参画し、気候変動政策の立案に貢献した。また、気候変動枠組条約に関連する交渉会議において政府代表団の一員として交渉に携わった。さらに、外務省「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)」やJICAトレーニングワークショップにおいて、本研究成果に基づくプレゼンを行う等、途上国の政策担当者の能力構築に貢献した。
本課題は合意が目指される2015年に終了することから、最終年度には、国際合意に至る蓋然性が高い具体的な制度案を提示することで、日本政府の交渉支援を目指す。

4.委員の指摘及び提言概要

 気候変動対策に関する次期国際枠組みについて、政策として提言していくための第一歩として、その基本的な骨子部分についてアンケート調査・解析、関連する基礎的な研究がなされており、20年以降の枠組みに向けての政策判断に資する有用な知見が出つつある。今後、国レベルの分析だけでなく専門的な国際組織と連携を取ることや、ヒアリングに社会科学的要素を入れること、各国のディシジョン・メーカーから直接的に情報を取ること等についても検討されたい。また、適応と緩和の関係、REDD+の交渉での位置づけなどにも注力を期待したい。なお、研究としての側面からの評価に耐える成果の取りまとめが必要となろう。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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研究課題名:【2E-1203】モンゴルの永久凍土地帯における脆弱性評価及び適応策の提言に関する研究 (H24〜H26)
研究代表者氏名:王 勤学((独)国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ モンゴルでは、年平均気温(1940年から2℃)の上昇、乾燥化・砂漠化の進行、夏季の干ばつと冬期のゾド発生による牧畜被害増大、等気候変動の影響が顕在化している。本研究では、気候変動による陸域生態系の脆弱性評価に基づき、地域の環境容量と牧畜経済の持続性を維持できる適応政策の提言を、以下の2つのサブテーマの連携により実施する。
(1)早期観測ネットワークによる永久凍土融解の検出及び脆弱性評価:
広域な衛星高次処理データを用いて、永久凍土の分布状況を把握する。また、気象要因、植生被覆及び蒸発散量などのデータを用いて、草地生産量の地域分布を推定する。さらに、草原地域の現状生産量と環境容量をオーバーレイすることによって、永久凍土の融解に伴う水資源の枯渇、草原の乾燥化および生産量の低下等の陸域生態系の脆弱性を明らかにする。
(2)気候変動に対する環境容量・適応策評価システムの開発と適応策の提言:
実証サイトにおいて気候変動および社会・経済要因が草原地域の環境容量に与える影響評価を行う。また、地域別(郡)の環境容量に基づく適正放牧頭数の推定を行うとともに、適正放牧頭数へ誘導するための適応政策・技術オプション(放牧地の水資源利用・整備計画等)の効果を評価し、気候変動に頑強な適応策の提言を行う。


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■2E-1203 研究概要
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2.研究の進捗状況

(1)早期観測ネットワークにより収集された地上観測データを解析した結果、ここ40年間で温暖化に伴い永久凍土の温度上昇と活動層の深さ増大が判明。地表面温度や植生指数等のMODIS衛星高次処理データを用いた永久凍土分布図(1㎞解像度)の作成と、凍土分布変化の解析により、ここ10数年間の永久凍土分布の変動幅は小さいものの、既存の1980年代の凍土分布図と比べると連続的・不連続的な永久凍土面積の明らかな減少が判明した。生態系モデルの適用により、連続的・不連続的な永久凍土地帯では森林やツンドラ・湿草原などが分布し、バイオマス量が安定的で高いが、一方、点状的・季節的な凍土地帯では荒漠草原や砂漠などが広がり、バイオマス量が低く経年変化が激しいことが判明した。
(2)凍土融解モデルを観測サイト(Nalaikh steppe, Davaat steppe, Davaat forest)に適用し、実測データによる検証を完了した。このモデルによる水収支結果からトール河流量が2000年以前まで増加傾向、以降は急激に減少しており、近年の水資源供給量の枯渇原因が凍土融解の飽和によることを明らかにした。特にUBにおける水資源供給リスクが非常に高いことから、この知見をモンゴル環境・グリーン開発省との会合において説明し、モンゴルグリーン開発案に反映した。草原のグリーンアップ時期が凍土融解に伴う流出時期・量によって規定されることを明らかにし、春期の家畜の摂餌と成長に大きな影響を与えゾドに至る可能性を示唆した。SimSAGSモデルの適用により、Tov県bayan郡のヤギ・羊の環境容量は1991年頃の放牧頭数に相当することを明らかにした。社会主義経済では環境容量に基づいた経済活動が行われていたが、市場経済移行後に急増した放牧頭数は明らかに環境容量をオーバーしていたことを明らかにした。
適正放牧頭数への誘導策としてモンゴル政府のNational Emergency Management Agencyと共同し、Mobicom(携帯電話会社)を通して携帯電話による早期警報(ゾド発生、家畜市場価格、気象・積雪状況等)を配信し、牧童に対する意思決定調査(Gobi-Altai県Biger郡)を今年度予定している。適応技術として新たな井戸設置(Bayankhongor県Buutsagaan、Dzag、Khureemaral郡にADBが設置)を行い、利用可能草原面積増加による環境容量改善効果の評価を今年度予定している。適正放牧頭数への誘導策として再生可能エネルギーによる食肉冷凍庫の導入による環境容量改善と経済効果の検討を今年度予定している。

3.環境政策への貢献

本研究成果は、日本環境省とモンゴル環境・グリーン開発省との間の「日本・モンゴル環境政策対話」にて合意された気候変動適応策等を対象とする環境協力に学術的貢献を行い、日本・モンゴルの二ヶ国間の環境協力関係の強化に寄与した。本研究成果はモンゴル環境・グリーン開発省がモンゴル国会に提出したグリーン開発案に反映され、モンゴル環境政策に貢献した。国連のアジア太平洋地域適応ネットワーク(APAN)が開催したアジア太平洋気候変動適応フォーラム(2012、2013)において、モンゴルでの研究成果及びそのモンゴル政府のグリーン開発政策への反映について発表し、適応策の開発計画への主流化における成功例として各国の政府関係者や政策決定者、研究者に向けて発信した。また、本研究成果は、2012年8月にモンゴルで共催した「第8回モンゴル高原及び周辺地域の自然資源と持続的な発展に関する国際会議」の特別セッションで発表され、気候変動に脆弱なモンゴルにおける環境政策の取り組みについての知見を蓄積することができた。

4.委員の指摘及び提言概要

 モンゴルの永久凍土の動態および永久凍土を介した牧畜への気候変動影響の評価、適応策について新たな知見が得られており、モンゴルの環境政策への貢献は成果とみなし得るので、緩和策に関する具体的な提言を含め、今後の進展を期待したい。しかしながら、国際的な観点からの政策的必要性は認められるものの、予算規模を考えたとき、研究としての充実度の点で不満が残る。また、国内への研究成果の発信がなされておらず、今後のアウトリーチへの取り組みを検討されたい。

5.評点

   総合評点:B  ★★★☆☆


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研究課題名:【2RFa-1201】衛星データを複合利用したモデルデータ融合による陸域炭素循環モデルの高精度化 (H24〜H26)
研究代表者氏名:市井 和仁(福島大学)

1.研究計画

研究のイメージ 様々な衛星観測をベースとした陸域水循環や炭素循環に関連したプロダクトの効率的利用を通して、陸域炭素循環モデルを高精度化する。特に、現存する複数の陸域炭素循環モデルと衛星観測可能なパラメータのレビューを通して、モデルとデータの融合手法を考案し、新たな陸域モデルを構築する。さらに、これらモデルやデータを利用して、環境変動が大きいと予想されるアジア・北極域に着目し、過去〜現在〜将来の炭素収支のシミュレーションを行い、炭素収支・水収支を再評価する。
(1) 衛星観測・地上観測データと陸域炭素循環モデルの統合手法の構築
様々な衛星観測ベースの地表面プロダクトを利用して、陸域モデルの効率的な改善手法を開発する。現存または近い将来に入手可能な衛星観測ベースのプロダクトを複数利用し、陸域モデルのサブモデル単位にパラメータ最適化手法を可能な限り適用した「データ・モデル融合型の次世代陸域炭素循環モデル」を構築する。
(2) 衛星データを複合利用した陸域プロダクトの構築
本課題で利用する地球観測衛星に基づく陸域データセットを開発する。特にシベリア・アラスカ域では、地球観測衛星データを利用した葉面積指数(LAI)と展葉時期のデータセットを新たに構築する。さらに、全球スケールの様々な衛星ベースの陸域プロダクトの収集・整備を行う。


図 研究のイメージ        
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(3) アジア地域における衛星データ利用型陸域モデルの改良と陸域生態系変動の把握
潜在的に将来の環境変動が大きいと予測される地域に着目し、アジア域の炭素収支解析を行う。衛星データ利用型の陸域生物圏モデルに地域固有の素過程を導入する。衛星観測データを複合利用した診断的な広域解析によって、過去から現在までの炭素収支の現状把握を目指す。
(4) 北極域における陸域生態系変動の把握
将来の環境変動が大きいと予想されるアラスカなどの北極域において、本研究にて構築された陸域炭素循環モデルと複数の衛星データを利用して、陸域炭素循環・水循環の評価を行う。凍土などの寒冷域に特徴的な事象に着目し、課題1で構築するモデルのサブモデルを提供する。

■2RFa-1201 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/15438/pdf/RFa-1201.pdfPDF [PDF444KB]

2.研究の進捗状況

(1) 衛星観測・地上観測データと陸域炭素循環モデルの統合手法の構築
データ・モデル融合型陸域炭素循環モデルの開発に向け、水循環サブモデルの開発と炭素循環サブモデル開発のための重要な観測項目の抽出を行った。本モデルは、複数の衛星プロダクト(雪・蒸発散・LAI・フェノロジー等)を入力してパラメータの最適化を実行することで再現性を高める。水循環サブモデルの構築については、雪・蒸発散等の広域データを制約に用いたモデル開発を行い、アジア広域でのモデルランを行った。炭素循環サブモデルについては、観測サイトスケールにおけるプロトタイプを構築し、モデルを効率的に制約するために重要なデータの抽出、フラックスとプール量の両データの重要性や光合成による炭素取り込み量の葉・根・茎への配分を決定するパラメータ等が炭素収支の再現に重要であることを示した。
(2) 衛星データを複合利用した陸域プロダクトの構築
シベリア・アラスカ域などを含む北方域において、地球観測衛星データを利用したNDWI法を用いて1998年〜2011年の期間について1km解像度で展葉日の推定を行った。また、東シベリアに広く分布するカラマツ林のLAIをKobayashi et al. (2010)の手法をもとに1998年〜2011年について推定した。アラスカ地域では植生放射伝達モデルFLiESを用いて,アラスカ内陸部に広く分布するトウヒ林の樹冠部のみのLAIを推定する手法を新たに開発し,アラスカ全域に適用した。また,展葉日推定値の検証を目的としてアジア域・北米・ヨーロッパなどにおけるフェノロジーカメラデータを11観測サイト分収集し、これらカメラ画像を自動解析することにより展葉日の検証用データセットを構築した。
(3) アジア地域における衛星データ利用型陸域モデルの改良と陸域生態系変動の把握
環境変動のホットスポットとして、永久凍土地域のシベリア域や森林火災の多い東南アジアに着目し、陸域生物圏モデルBEAMSを用いて炭素収支解析を行った。シベリア解析では、MODISプロダクトを複合利用して永久凍土地帯の炭素収支解析を行った。また、サブ課題2から提供されたLAIプロダクトとMODIS/LAIプロダクトとの違いが炭素収支推定に与える影響を解析し、サブ課題2にデータ修正に関する指針をフィードバックした。東南アジア解析では、BEAMSに火災プロセスを導入し、衛星観測された火災消失面積プロダクトを用いて森林火災による炭素放出量の現実的な推定を行った。
(4) 北極域における陸域生態系変動の把握
アラスカを対象にフラックスサイトの観測データを整備して、陸域炭素・水循環モデルBiome-BGCの評価、および炭素・水サブモデルの課題創出を行った。21地点の炭素・水・エネルギーフラックス観測データを整備して、複数の衛星プロダクトによる観測値の広域化を行った。次に、Biome-BGCを各フラックスサイトやアラスカ全域を対象として実行し、整備した観測データセットによりモデルを評価した。その結果、既存モデルではツンドラのフェノロジーや永久凍土に起因した炭素フラックスの変動を十分に再現できない問題点を見つけ出したため、それらをサブ課題1へフィードバックした。

3.環境政策への貢献

・既存の様々な観測データを制約に用いた陸域モデルの改善手法を示すことで、将来どのような観測を実施することにより陸域炭素収支の推定を効果的に制約できるのかを抽出する試みである。従って、これらは、環境政策の一つである将来の観測計画(現地観測や衛星観測など)を立案する上での基礎資料となる。
・炭素循環のホットスポットにおけるモニタリング・モデリングは、現在や将来の環境変動に対する温室効果ガス収支を把握する上で重要である。本研究では、炭素循環のホットスポットと考えられる高緯度植生域、熱帯雨林などに関する炭素循環の定量化に着手しており、平成25年度以降の研究成果は温室効果ガス排出量のより正確な見積もりに貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

 本研究は、不確実性の大きい陸域炭素循環過程の理解を深めるものであり、気候安定化の定量的議論にもつながることから、政策的意義は高い。全体としては順調に進展しており、統合的成果を挙げるための努力がなされていると認められる。ホットスポットでの検証の進展にも期待したい。

5.評点

   総合評点:A  ★★★★☆


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