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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価  S.  戦略的研究開発領域<S-5>

研究課題名: 【S-5】地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究(H19〜H23)
研究代表者氏名: 住 明正(東京大学)

1.研究計画

研究のイメージ

気候変動予測の信頼性(テーマ2)および予測の意味する社会への影響(テーマ1)を明らかにするとともに、予測の空間的な詳細性の改善(テーマ3)や社会経済情報との統合(テーマ4)をすすめ、そうして得られた総合的な「気候変動シナリオ」を社会に効率的に伝達する方法を確立する(テーマ1)。


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■ S-5  研究概要
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2.研究の実施結果

(1)総合的気候変動シナリオの構築と伝達に関する研究
 気候変動予測計算の結果を用いて不確実性を定量化する手法を開発するとともに、それを用いた水文・水資源、海洋環境・水産業、雪氷圏・海面水準、農業・食料および生態系等各分野の影響評価を行うことにより、気候変動予測の信頼性および予測の意味する社会への影響を明らかにした。また、そうして得られた総合的な「気候変動シナリオ」を社会に効率的に伝達する方法を確立するための研究を行った。
(2)マルチ気候モデルにおける諸現象の再現性比較とその将来変化に関する研究
 不確実性を内在するモデル予測結果から国民生活にとって最適な情報を抽出して利用するため、第一に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(AR4)で提出された気候モデルについて個別の現象に対する再現性の検証を行い、モデル結果の信頼性に関する情報「スキルスコア」を抽出した。次にこの情報を踏まえて複数の現象間の相互関係を明らかにした。これらの結果を元に、温暖化時に発現する現象変化の振幅について情報を得た。
(3)温暖化影響評価のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究
 地域気候モデルのマルチモデルアンサンブル手法を開発し、ばらつきの大きい現在の地域気候シナリオを1つにまとめた。さらに、影響評価研究のニーズをにらみつつダウンスケーリングに関する統合的手法を開発した。それらを全球予測モデルの結果に適用することによって、不確実性の情報も含んだ詳細かつ信頼性の高い予測情報を影響評価研究グループ(テーマ1、S-4等)に提供した。
(4)統合システム解析による空間詳細な排出・土地利用変化シナリオの開発
空間的な社会経済発展パターンをモデル化してグローバルシナリオを空間詳細化(ダウンスケール)する手法と、農林地間の転換をモデル化して空間詳細な土地利用変化シナリオを開発し、このシナリオを用いて、気候モデルに入力する温室効果ガス(GHG)・エアロゾル等の排出シナリオを開発した。また、シナリオの妥当性について国内外のテストサイトにおいて検証するとともに、気候変動予測計算を実施し、気候変動影響との整合性について検討した。 成果イメージ図

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http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/S-5.html

3.環境政策への貢献

テーマ1では、温暖化影響評価の不確実性を定量化することにより、適応策策定の基礎となる情報を提示できた。また、温暖化影響評価の包括的なまとめを一般向けに出版することにより、社会が温暖化の深刻度について検討する材料を提示できた。コミュニケーションに関しては、メディア関係者と研究者の相互対話により、より適切なメディア報道への貢献が期待されるほか、温暖化についての今後の普及啓発活動を行う上で有用な知見を提示した。
 テーマ2では、マルチ気候モデル比較によって得られた成果論文は、IPCC第5次評価報告書(AR5)WG1の引用論文となる予定であり、国際的な環境政策に貢献している。また、一般向けパンフレット「暑いだけじゃない地球温暖化−世界の気候モデルに読む日本の将来−」は、地球温暖化問題とそれへの取り組みを一般市民に知ってもらうために貢献している。
 テーマ3では、ダウンスケーリング技術の統合的手法開発により、不確実性の情報も含んだ詳細かつ信頼性の高い地域気候シナリオ提供のシステム構築が進み、確度の高い地域ごとの影響評価や適応策検討に利用可能なデータの提供が可能となった。データは環境省および文部科学省の影響評価研究課題を通じて政策決定への利用がなされると期待される。
 テーマ4では、IPCCAR5に向けたベンチマークシナリオの空間詳細化と温暖化影響の評価を行ったことにより、IPCCへの重要な貢献をした。また、土地利用について空間詳細化をさらに進めた都市シナリオの開発により、テーマ3の都市気候モデルとの結果と併せて、世界各地の都市における温暖化影響を評価する際に有用な情報となることが期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究期間を通じて、適時に、国際交渉支援のための有用な情報の提供が行われた研究であったといえる。多国間協議のもとでの国際交渉がとん挫する現実のもとで、短期的に各国が自主的に気候変動対策を実施していくための条件は何か等々に修正を余議されたが、うまく対処され分析結果をわかりやすく整理されているのは評価できる。気候変動条約という複雑・難解な国際レジームの各国の立場を、多様な文献ソース(一次資料も含めた)の調査や各国の関係者とのコンタクトを駆使して、合意内容を整理できたこと、また、交渉において、「首脳レベルが気候変動問題を正確に理解し判断する能力を持つこと」が重要であった等が明らかにできたことなど評価出来る。各サブテーマがすべて同程度の水準の研究成果をあげているとは評価しがたく、EUの域内政治とのタイトルにもかかわらず域内各国ごとの動向にはあまり触れられていない報告となっている点などに不満が残る。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【S-5-1】総合的気候変動シナリオの構築と伝達に関する研究(H19〜H23)
研究代表者氏名: 江守 正多(独立行政法人国立環境研究所)

1.研究計画

気候変動予測計算の結果を用いて不確実性を定量化する手法を開発するとともに、それを用いた水文・水資源、海洋環境・水産業、雪氷圏・海面水準、農業・食料および生態系等各分野の影響評価を行うことにより、気候変動予測の信頼性および予測の意味する社会への影響を明らかにする。また、そうして得られた総合的な「気候変動シナリオ」を社会に効率的に伝達する方法を確立するための研究を行う。


2.研究の実施結果

(1)総合的な確率的気候変動シナリオおよび影響シナリオの構築
気候変動予測の排出シナリオ依存性の検討、気候モデル不確実性を考慮した影響評価、ならびに温暖化リスクに関する社会との双方向的コミュニケーションの検討を行った。
(2)マルチ気候モデル解析による近未来気候変動の確率的予測
過去の気候予測が正しかったのかを、Hansenによる研究(1984)を取り挙げて調べた。また、マルチ気候モデルの利用のための理論的考察を行った。
(3)気候変動シナリオに基づく水文・水資源の未来像の描出
マルチ気候モデルを用いた水資源ストレス算定と各水利用セクターへの影響評価を行い水資源逼迫地域や変化成分の大きな地域を抽出した。
(4)気候変動シナリオに基づく海洋環境・水産業の未来像の描出
 全球的なサンゴ礁の白化、及び、日本近海の魚種の分布等に関する将来予測を行った。また、海洋生態系モデルの国際相互比較による将来予測を行った。
(5)気候変動シナリオに基づく雪氷圏・海面水準の未来像の描出
 海面変動や雪氷変動のデータや研究情報を活用し、モデル相互比較の解釈と評価を行った。また、新しい気候予測実験の出力を用いて雪氷圏・海面水準の予測の不確実性を議論した。
(6)気候変動シナリオに基づく農業・食料の未来像の描出
 マルチ気候モデルを用いた作物収量予測を実施し、気候シナリオの特性が作物収量の予測に及ぼす影響を評価した。また、水・窒素利用に及ぼす気候変動の影響を評価した。
(7)気候変動シナリオの一般社会への情報伝達に関する研究
 気候変動シナリオに関する一般社会の反応を、シンポジウム、インターネットアンケート等の手段で調査した。また、メディア関係者と研究者の対話フォーラムを定期的に実施した。
(8)気候変動シナリオの企業ニーズおよび民間市場へのインパクトに関する研究
 産業界の温暖化研究に対するニーズについて、研究者と企業の間の議論を通じて検討を行った。また、損害保険業界を対象に気候変動の民間市場へのインパクト等を調査した。
(9)温暖化理解における「実感」に関する概念整理と評価手法の開発に関する研究
 市民・大学生へのアンケート調査などをもとに、温暖化理解を阻害する要因とそれを克服するためのコミュニケーション手法について整理した。
(10)意欲を高めることを重視した参加・体験型コミュニケーションに関する実証的研究
環境教育型及びWebサイト型のコミュニケーション手法を事例として、温暖化のリスク情報の提供が温暖化の理解と対策への意欲に与える影響について分析を行った。
(11)共感を得ることを重視したロールプレイング型コミュニケーションに関する実証的研究
ロールプレイング型のワークショップ、気候変動シナリオに関する映像制作等の社会実験や調査を通じ、効果的な参加型ワークショップの方法論を検討した。
(12)分かりやすさを重視したマスメディア利用型コミュニケーションに関する実証的研究
気候予測情報を用いたレクチャーを行い、コミュニケーション手法の課題を明らかにした。また、一般市民の気候変動問題の関心と理解についてのメディア報道との関連分析を行った。 成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

温暖化影響評価の不確実性を定量化することにより、適応策策定の基礎となる情報を提示できた。また、温暖化影響評価の包括的なまとめを一般向けに出版することにより、社会が温暖化の深刻度について検討する材料を提示できた。コミュニケーションに関しては、メディア関係者と研究者の相互対話により、より適切なメディア報道への貢献が期待されるほか、温暖化についての今後の普及啓発活動を行う上で有用な知見を提示した。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は、温室効果ガスの排出シナリオ依存も含めた気候予測モデルの不確実性とその確率的な評価、これらの不確実性を考慮した各人間活動分野への影響評価、および気候変動シナリオが研究者から社会へどのよう伝達されていくかに関する研究を進めている。学術的な意義とともに、国際交渉や、途上国での適応や緩和に向けた活動に対して、目標設定や対応の判断材料としてのニーズに対応するという政策的意義も高い。気候変動予測モデルに関しては、今後のより不確実性の小さいモデル作成に寄与出来る成果があり、適応と未来像に関しても新規性のある結論に見るべきものがあった。一方、社会への伝達に関しては断片的な知見は得られたが、影響評価やその不確実性に関する知見との連携や、先へのアプローチの観点が不明確であり、課題内容(研究組織、方法論を含め)に工夫が必要であった。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):a
  サブテーマ(5):b
  サブテーマ(6):b
  サブテーマ(7):b
  サブテーマ(8):b
  サブテーマ(9):b
  サブテーマ(10):b
  サブテーマ(11):b
  サブテーマ(12):b


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研究課題名: 【S-5-2】マルチ気候モデルにおける諸現象の再現性比較とその将来変化に関する研究(H19〜H23)
研究代表者氏名: 高薮 縁(東京大学大気海洋研究所)

1.研究計画

世界の気候モデル予測結果から、地球温暖化に伴う環境変化がいかなる現象や振幅として現れるかについてのより信頼性できる情報を抽出することを目的とする。そのために、まず大気海洋の様々な現象に対する再現性の指標「メトリック」を作成する。これを用いて気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(AR4)のために集約された気候モデル実験結果(CMIP3)の現在再現実験を評価解析し、さらに将来変化を議論する。これらの情報を踏まえて複数の現象間の相互関係を明らかにする。


2.研究の実施結果

(1)熱帯亜熱帯域における雲降水現象の再現性比較とその将来変化に関する研究
台風の発生と経路、熱帯降水分布について、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。サブグループが担当する様々な大気海洋現象についての再現性評価指標を関連づけ、東アジア域の気候をまとめて評価する指標「東アジアメトリック」を作成した。テーマ全体の成果を一般市民にわかりやすく伝えるためのパンフレットをまとめた。
(2)中緯度・亜熱帯循環系の季節・経年変動の再現性とその将来変化に関する研究
東アジア域の持続的な夏季の循環偏差パターン、冬季のストームトラック活動とそれに関連した春一番、および海洋前線帯近傍の水温長期変化について、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。
(3)季節予測に係わる短期気候変動の再現性とその将来変化
地上気温変動および季節予測に係わる夏冬モンスーンやエルニーニョ南方振動(ENSO)について、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。
(4)中緯度大気海洋系10年スケール変動の再現性とその将来変化に関する研究
北太平洋における中緯度大気海洋系10年規模変動について、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。
(5)アジアモンスーンのモデル再現性と温暖化時の変化予測に関する研究
北太平洋におけるモンスーン季節進行について、現在気候再現評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。
(6)熱帯大気海洋相互作用現象の再現性とその将来変化に関する研究
赤道域の西風バーストや熱帯季節内振動について、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。
(7)季節性気象現象とその放射フィードバックの再現性とその将来変化に関する研究
梅雨前線・太平洋高気圧、雲・放射フィードバック、対流圏‐成層圏大規模循環について、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。気候モデルを利用した追加実験も行った。
(8)衛星等による全球雲放射と降水観測に基づく気候モデル再現性とその将来変化
熱帯・亜熱帯域の雲・降水・放射フラックスについて、現在気候再現性評価、ばらつきの原因の解析、将来変化の議論を行った。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。
(9)CMIP3マルチモデルを用いた将来気候における季節進行の変化予測 (H22〜23に参加)
夏の季節進行に係るジェット気流の季節変化について現在気候再現性評価、将来変化の議論を行った。冬の日本付近の気温の将来変化について、線形大気モデルを利用し、熱帯の成層安定化による寄与を調べた。アジアメトリックとパンフレット作成に協力した。
(10)河川流域の水文循環の再現性とその将来変化に関する研究 (H22〜23に参加)
マルチ気候モデル実験結果を日本国内の約80km格子毎に整理し、観測値や再解析値なども統合した汎用的気候変動情報データベースを構築した。これを用いて複数の気候モデルの将来の気温と降水量を推定し、分布型流出モデルや地表面熱収支モデルにより代表的な9流域での河川流出量の将来変化について解析した。アジアメトリックおよびパンフレット作成に協力した。 成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

温暖化影響評価の不確実性を定量化することにより、適応策策定の基礎となる情報を提示できた。また、温暖化影響評価の包括的なまとめを一般向けに出版することにより、社会が温暖化の深刻度について検討する材料を提示できた。コミュニケーションに関しては、メディア関係者と研究者の相互対話により、より適切なメディア報道への貢献が期待されるほか、温暖化についての今後の普及啓発活動を行う上で有用な知見を提示した。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は、温室効果ガスの排出シナリオ依存も含めた気候予測モデルの不確実性とその確率的な評価、これらの不確実性を考慮した各人間活動分野への影響評価、および気候変動シナリオが研究者から社会へどのよう伝達されていくかに関する研究を進めている。学術的な意義とともに、国際交渉や、途上国での適応や緩和に向けた活動に対して、目標設定や対応の判断材料としてのニーズに対応するという政策的意義も高い。気候変動予測モデルに関しては、今後のより不確実性の小さいモデル作成に寄与出来る成果があり、適応と未来像に関しても新規性のある結論に見るべきものがあった。一方、社会への伝達に関しては断片的な知見は得られたが、影響評価やその不確実性に関する知見との連携や、先へのアプローチの観点が不明確であり、課題内容(研究組織、方法論を含め)に工夫が必要であった。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):a
  サブテーマ(5):b
  サブテーマ(6):b
  サブテーマ(7):b
  サブテーマ(8):b
  サブテーマ(9):b
  サブテーマ(10):b
  サブテーマ(11):b
  サブテーマ(12):b


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研究課題名: 【S-5-3】温暖化影響評価のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究(H19〜H23)
研究代表者氏名: 高薮 出(気象庁気象研究所)

1.研究計画

地球温暖化の影響評価・適応策の検討のため、地域的に詳細かつ信頼性の高い気候変化予測が強く求められるようになってきている。本課題では、まず、地域気候モデルのマルチモデルアンサンブル手法を開発し、ばらつきの大きい現在の地域気候シナリオを1つにまとめる。さらに、影響評価研究のニーズをにらみつつダウンスケーリングに関する統合的手法を開発する。それらを全球予測モデルの結果に適用することによって、不確実性の情報も含んだ詳細かつ信頼性の高い予測情報を影響評価研究グループ(テーマ1、S-4等)に提供する。


2.研究の実施結果

(1)複数の20kmモデルからのマルチモデルアンサンブル手法による20kmスケール気候シナリオの作成
複数のモデルの計算結果を(2)から取り込んでマルチモデルアンサンブルを行い一つの地域気候シナリオを作成した。ダウンスケーリング手法の統合など課題取りまとめを行った。本課題については、アジア開発銀行主催の会合で報告を行い、同機関によるアジア域のダウンスケーリング研究のレビューに貢献した。
(2)複数の20km地域気候モデルの実行による力学的ダウンスケーリングの研究
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(AR4)、第5次評価報告書(AR5)の排出シナリオで計算された全球大気・海洋結合モデルの結果を境界条件として、20km地域気候モデルを気象研・筑波大の相互協力の下に現在・将来について計算した。計算結果を用いて予測の不確実性の巾を明らかにするとともに、計算結果は(1)に提供した。
(3)空間詳細な地域気候変動シナリオ作成のための都市効果の評価
気象研・京大防災研の協力のもとに、複数の都市キャノピーモデルによる2次的ダウンスケーリング実験を行い、将来の日本都市域の気候の変動を評価した。テーマ4で作成された将来の都市改変シナリオを使用したモデル実験を行い将来の都市化の効果を評価した。
(4)20km地域気候モデルのバイアス特定と水資源評価のための統計的ダウンスケーリング
(2)において現在気候再現・将来予測計算に使う気象研・防災科研・筑波大の各モデルに適用可能なバイアス検出システムを開発・適用することにより参画各モデルの精度向上に寄与した。さらに、水資源影響評価研究に特化したモデルバイアス補正システムを構築した。本手法は、中近東アラル海流域の水資源の保全における共同研究計画に適用されて、詳細かつ高精度な水・エネルギー収支解析を実施するなど、開発技術のアジア域への移転を積極的に進めた。
(5)力学的手法と統計的手法を併用した農作物影響評価のためのダウンスケーリングの研究
統計的ダウンスケーリング手法を開発し、これと(2)の力学的ダウンスケーリング手法との比較を行い、農業影響評価に最適な手法を構築した。本課題で作成した統計的ダウンスケーリングデータ(ELPIS-JP)は、アジア域の影響評価研究を行う世界の研究機関により活用されるなど、成果のアジア域への適用を積極的に進めた。
(6)水災害影響評価モデルのための統計的ダウンスケーリング手法の開発
水災害評価に適したダウンスケーリング手法を開発し、(2)で得られた力学的ダウンスケーリングの結果に適用した。本手法の開発は、タイをフィールドとして行うことで、アジア域への汎用性を確保している。
(7)双方向ネストモデルを用いた力学的ダウンスケーリングの研究
地球温暖化研究への双方向ネストモデルの有用性を検討し、マルチモデルアンサンブルに貢献した。日本付近の中緯度で、局地的な山岳が全球モデルに影響を及ぼしていることが明らかになった。 成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

ダウンスケーリング技術の統合的手法開発により、不確実性の情報も含んだ詳細かつ信頼性の高い地域気候シナリオ提供のシステム構築が進んだ。このうち20km格子のモデルのデータは、データ統合・解析システム(DIAS)上に提供され、また都市域・農業・水資源に特化したデータも作成された。これらのデータの利用により、政策策定に関わる詳細な影響評価研究が今後飛躍的に進む可能性がある。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は、全球気候モデルの予測結果を既存の複数の地域気候モデルで力学的にダウンスケールを行うマルチモデルアンサンブルという新たな手法を導入し、不確実性の多い従来の日本・アジア域の地域気候シナリオにつながる結果を出した。また、再現性の実験から、不確実性の幅など、ダウンスケーリングの不確実性を定量化している。特に力学的ダウンスケールの妥当性の評価がなされた。気候変動モデルの20kmメッシュへのダウンスケーリングは地形の複雑なわが国ではニーズが高い課題であったが、7つのサブテーマを効果的に連携させ、ダウンスケールのための種々の検討を行い、実用化への見通しを得たことは評価できる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a
  サブテーマ(5):a
  サブテーマ(6):b
  サブテーマ(7):a


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研究課題名: 【S-5-4】統合システム解析による空間詳細な排出・土地利用変化シナリオの開発(H19〜H23)
研究代表者氏名: 山形 与志樹(独立行政法人国立環境研究所)

1.研究計画

気候変動予測シナリオは、国際的な温暖化対策を検討する上での科学的基盤である。これまでの気候変動予測では、世界をたかだか十数地域に分割した排出シナリオが用いられてきたが、最近の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における次世代の気候変動シナリオに関する検討では、空間詳細シナリオ構築の必要性に対する認識が高まりつつある。このため、本研究では、次世代の気候変動シナリオの構築にむけて、空間詳細な排出・土地利用シナリオの開発を実施した。


2.研究の実施結果

(1)社会経済シナリオのダウンスケール手法と土地利用変化シナリオの開発に関する研究
自然・社会システムを統合した解析により、IPCC第5次評価報告書(AR5)に向けて作成されている、代表的濃度シナリオ(RCP)に対応した、空間詳細な人口・GDPおよび土地利用シナリオの作成を行った。具体的には、国別の社会経済モデルから出力される人口、GDP等の情報や、牧草地、農地、都市などの土地利用変化を空間詳細化(ダウンスケール)する手法を新たに開発した。まず、社会経済情報を0.5度メッシュ(50-100km程度の空間格子情報)へとダウンスケールし、土地利用シナリオは、都市、農地、牧草地、草原、森林、その他の区分であり、土地利用に付随する木材伐採量のシナリオと、温暖化対策として予想されるバイオマスクロップのシナリオの作成も併せて行った。これらの結果は、次期のIPCCシナリオの一つとして、世界中の気候変動予測で利用されている。また、地域を限定した空間詳細な土地利用変化のシナリオの開発も行った。東京都市圏を対象に、新たに開発した都市経済モデルを用いて土地・建物市場を考慮したシナリオを構築した。ここでは、今後の社会経済変化を、人口の集約と分散の2つのタイプのシナリオとして描いた。この結果を用いて、人工排熱や、緑地率、建物密度を推定し、本課題テーマ3の都市気候モデル研究に最終データを提供し、将来の土地利用変化によるヒートアイランド効果が分析された。
(2)温室効果ガスとエアロゾル等の排出の空間分布の推定に関する研究
過去から将来まで整合的な空間詳細排出量シナリオの構築手法を確立し、RCP6.0シナリオ(産業革命以降の放射強制力が6W/m2で安定化するシナリオ)に対応する格子点化された排出量データを作成した。格子点化に際しては、サブテーマ(1)で構築した人口、GDP、農地面積などの空間分布の経年変化データの中から、排出源ごとに適切な指標を採用している。将来の気候変化予測における不確実性の低減に資するためにも、現行の排出量推計手法に存在するこれらの不確実性要因について理解を深めることが重要である。このように、空間詳細な排出量分布の推計に社会経済情報の空間詳細シナリオを利用する新たな手法を開発した。
(3)空間詳細シナリオの検証と国際研究ネットワークの構築に関する研究
国際研究ネットワークを通じて、アジアのメガシティにおける社会経済データの収集を行い、温室効果ガス(GHG)排出量のボトムアップ分析を実施した。具体的には、エネルギー需給、人口、経済および公共インフラに関する社会経済および社会活動のデータの収集や、大都市におけるCO2排出量の分析、リモートセンシング画像を利用した都市の人口密度の推定方法を開発し、都市形態とCO2排出量の分析を行い、都市形態とCO2排出量に相関関係があることを示した。
(4)気候変動シナリオの解析による空間詳細シナリオの整合性評価に関する研究
土地利用変化によるCO2排出量は、化石燃料の使用による排出に次ぐ人為的な排出源となっている。また、自然植生を農耕地や牧草地に転換することにより、地表面の物理的な環境が変化し、気候に影響を与えることもわかりつつある。本サブテーマでは、既存の気候変動予測シミュレーション結果等と空間詳細な陸域生態系モデルを用い、RCP6.0シナリオにおける土地利用変化による炭素排出を評価した。この陸域モデルを用いて、IPCC/AR5に向けて作成されている、RCP6.0での森林火災によるブラックカーボン(すす)の排出量のシナリオ作成も行った。 成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

IPCC/AR5に向けたRCP空間詳細シナリオをグローバルおよびリージョナルスケールで構築した本研究の成果は、気候変動影響評価の高精度化や適応策の検討に貢献した。また、土地利用について空間詳細化をさらに進めた都市シナリオの開発により、テーマ3の都市気候モデルとの結果と併せて世界各地の都市における温暖化影響を評価する際に有用な情報となることが期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

本課題は、IPCC/AR5に向けた代表的濃度経路(RCP)空間詳細シナリオを、グローバルおよびリージョナルスケールで構築すること等を目指し、必要十分なサブテーマで構成された連携のよい効率的な研究を行った。モデル出力、統計、観測などの既存データから出発し、地理的分布を持った解像度を上げたデータに変換して、気候変動影響評価の高精度化や適応策の検討に貢献する成果を上げた。成果の1つは、すでに、標準的シナリオの1つ、RCP6.0として、新しい気候変動予測実験に用いられており、評価できる。なお、土地利用変化起源のCO2排出量の見積もりについては、従来の値と、本課題の詳細な生態系モデルでの値の間で大きな差があるなど、今後の対応に期待すべき結果も得られた。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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