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研究課題別評価詳細表

I. 中間評価

中間評価  6.  第6研究分科会<領域横断>

研究課題名: 【F-1101】気候変動対策と生物多様性保全の連携を目指した生態系サービス評価手法の開発(H23〜H25)
研究代表者氏名: 伊藤 昭彦(独立行政法人 国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ  生態系サービスの実用的な指標の評価システムを開発するため、主にアジア太平洋地域について①生態系の基盤・供給・調整サービスに関与する植生及び土壌の機能を広域的にマッピングし、それを踏まえて②生態系サービスの統合的な評価手法及びシステムを開発する。その評価手法をテストサイトに適用して有効性を検証するとともに、気候変動対策と生物多様性保全策のトレードオフ解消を目指した生態系管理に適用する方策を検討する。
(1) 生態系機能を定量化するためのデータ解析とモデル開発に関する研究
(2) 生態系機能の広域把握のための観測ネットワークとデータベースに関する研究
(3) 生態系機能の広域評価のための衛星リモートセンシングに関する研究
(4) 生態系サービス統合評価手法の研究
(5) 生態系サービス統合評価システムの開発と事例検証


図 研究のイメージ        
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■ F-1101  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/F-1101.pdfPDF [PDF 777 KB]

2.研究の進捗状況

(1) 生態系機能を定量化するためのデータ解析とモデル開発に関する研究
生態系サービスに関与する項目に関して、生態系モデル(VISIT)による推定法の高度化を図り、一次生産・土壌生成保全・温室効果ガス交換などの生態系サービス関連機能量の計算を実施できる体制を整えた。広域マッピングに基づく生態系サービス評価に必要な空間分解能として1kmメッシュを設定し、入力データを整備するとともにモデルのコードを対応させた。テストサイト(釧路、横浜、マレーシア・ランビル)での推定を実施し観測データに基づく精度検証を始めた。また、最小限の情報から生態系機能・サービスの概算値を得るための簡便手法を他サブテーマとの連携のもとで試作した。
(2) 生態系機能の広域把握のための観測ネットワークとデータベースに関する研究
生態系機能・サービスを広域把握するために重要な観測ネットワークとデータベースの現状を調査し、アジア太平洋地域の既存データを収集すると同時に、分野横断的なデータベースの構築指針を定めた。基盤データ、森林バイオマス計測用データ、フラックスデータの3つのディレクトリに分けて整理し、本研究の共同実施者の間で共有した。基盤データはGISデータ、森林バイオマス計測用データはリモートセンシングデータや地上計測されたバイオマス量計測に関するデータ、フラックスデータは渦相関法により計測された熱・水・CO2に関する大気と地表面との間の輸送量のデータである。
(3) 生態系機能の広域評価のための衛星リモートセンシングに関する研究
衛星観測に基づく生態系機能・サービスのマッピング方法・指標について、他サブとの間で情報交換と議論を行い、選定されたテストサイトにおいて衛星データを収集するとともに地上検証のための実地調査を行った。釧路川流域圏ではTerra/ASTERデータおよび環境省自然局のGISデータを利用して土地被覆分類マップを試作し、実測データと比較照合した。また、ランビルでは、衛星データの検証値となる蓄積量などの地上データをサブ2と連携して収集した。横浜市では都市緑地において約50か所の森林の樹高や太さ、立木間隔の測定を行った。
(4) 生態系サービス統合評価手法の研究
生態系サービスの変動把握を目的として、長期的な時系列リモートセンシング画像やデジタル化した地図情報および社会経済データを収集し、土地被覆変化などの地理情報の構築と生態系サービス変化の要因解析を行なった。さらに、国内テストサイト(釧路・横浜)における生態系サービスの変動把握を目的として、非市場材である環境価値評価を目的として生態系サービスの経済評価手法の検討を行った。横浜サイトでは顕示選好法であるヘドニック・アプローチ(地価をもとに地域アメニティ等の価値を評価する手法)を用いて都市緑地の価値評価を行った。釧路サイトでは表明選好法であるコンジョイント分析(選択肢に対する選好を尋ねて評価する手法)によって森林・湿原生態系の価値評価を行った。
(5) 生態系サービス統合評価システムの開発と事例検証
統合評価システムの基盤を作成たるため、既存評価ツールの整理と適用方法の検討、自治体関係者や地域振興に関する有識者とのディスカッションを通じたシナリオ検討を行なった。既存の生態系サービス評価ツールとしてInVEST、国立環境研究所で開発された木質バイオマス評価ツールを採用した。それらをテストサイトに適用するためのデータ整備や、施業シナリオ等の検討を行った。特に、釧路川流域圏では2050年を想定して、①成り行き(現状進行)、②生物多様性保全・再生(自然再生・保全政策推進と自然共生型ライフスタイルの重視)、③農林業振興(農林業振興と生産効率向上及び実用性の重視)、④低炭素社会(再生可能エネルギー生産・利用等の最先端の環境技術導入を積極的に推進)の4つのシナリオを設定し、それぞれの土地利用変化シナリオの詳細を検討した。

3.環境政策への貢献

生態系サービスを指標化する評価システムに向けて、科学的側面と社会経済的側面の両面から研究を行い、それらが融合する方向性について検討を進めることができた。多様な生態系を含む釧路流域圏、横浜市、マレーシア・ランビルで平行して研究を進めることにより、一般性の高い評価手法の構築を進めることが可能となった。地球環境変動が進行するにつれ、温暖化対策や生物多様性保全に向けた生態系管理の重要性が今後ますます高まると予想される。本課題で行っている生態系サービス評価に関する研究は、国内外のニーズに応えるものであり、一般向けの講演や著作物を通じて成果の普及啓発を図り(2012年8月に北海道鶴居村にて一般市民を交えたワークショップ開催予定)、各種環境保全事業や環境 NGO/NPO 活動への評価システム提供のニーズに応えられるよう努める。

4.委員の指摘及び提言概要

研究サブテーマは当初計画に従って進行していると言えるが、各サブテーマの役割は何かをよく整理し、全体の方向性を明確にする必要がある。また、成果として求められる生態系サービスの指標や評価システムは、一般国民が見てもわかるように取りまとめ、広く情報発信を進めて欲しい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a
  サブテーマ(5):a


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研究課題名: 【F-1102】製鋼スラグと浚渫土により造成した干潟・藻場生態系内の物質フローと生態系の評価(H23〜H25)
研究代表者氏名: 西嶋 渉(広島大学)

1.研究計画

研究のイメージ 干潟・藻場(アマモ場)生態系の再生・創出のために必要とされる造成土壌を製鋼スラグと浚渫土の混合土壌で代替した場合の物質フローを含む生態系の特徴及び優位性を科学的な根拠のもとに明らかにし、生態系の再生・創出が環境劣化を引き起こす自然砂の採取に依存することなく、環境再生と資源再生が Win-Win の関係で成り立つことを示す。加えて、ここで得られた成果に基づき、様々な立場で干潟・藻場の再生・創出に関与するステークホルダー間の相互理解に貢献する。
製鋼スラグは、天然砂と異なり、アルカリ、酸化物質の溶出等を通じて土壌環境に変化を及ぼす。一方、浚渫土からも栄養塩、還元物質の溶出等が起こることから生態系の基盤となる土壌環境は天然砂を用いる場合とは異なる。そこで、混合土壌内で起こる反応を含む物質フローについて時間軸を含め正確に把握する。そして製鋼スラグと浚渫土の混合土壌に特異的な物質フローが生態系に及ぼす影響を、基礎生産を担う付着藻類及びアマモの光合成及び成長・増殖・ライフサイクル評価からベントスも含む生態系評価まで総合的に評価する。


図 研究のイメージ        
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■ F-1102  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/F-1102.pdfPDF [PDF 391 KB]

2.研究の進捗状況

(1)干潟・藻場生態系における物質フローの解明
 脱炭スラグと脱リンスラグの2種類の製鋼スラグを対象に、サブテーマ1ではスラグと浚渫土の化学的相互作用によって駆動される栄養塩,酸化還元物質,アルカリ成分および二酸化炭素などの物質フローを明らかにし,藻場・干潟基盤材としての特性・有効性を評価する。
これまで報告例がほとんどなかった微量成分を含めて製鋼スラグの成分分析方法を開発し、スラグ中の29元素を定量した。次に、高pH及びスラグの水硬反応に関与する溶出可能Ca量を定量化する手法を開発した。その結果、従来法による定量は過小評価であり、実際には従来法の2.5倍程度溶出することを明らかにし、2種のスラグで溶出可能量が10倍以上異なることを示した。 さらにpH変化の主要因である全炭酸とCa等溶出に伴うアルカリ度の時間的な挙動が2種のスラグで大きく異なることを見いだした。浚渫土との混合によるpH上昇の緩衝作用にはある程度の時間を要することもわかった。
 スラグの水硬性に伴う固化反応の制御は極めて重要である。両スラグ単独及び浚渫土との混合土壌において冠水状態では間隙水中のpHとCa濃度の上昇が顕著であったが、固化はほとんど進行しなかった。一方で、土壌内に海水を流通させると脱炭スラグで急激に固化が進行し、スラグの固化反応は海水によってもたらされる成分が大きく関与していることが示唆された。Ca等アルカリ成分の溶出が少ない脱リンスラグでは海水流通による希釈作用によってpH上昇が抑制されたため固化は進行せず、干潟造成材料として有益であることが見いだされた。
 栄養塩については、リンについて詳細な化学形態分析を行なったところ、まず2種類のスラグとも300μmol/g以上という天然砂の1000倍以上のリンを含有していることがわかった。そのうち海水中に溶出可能な形態である可動態リンは脱炭スラグで89%、脱リンスラグで30%と大きく異なっていることもわかったが、いずれにしても栄養塩ソースとして極めて大きな値であり、付着藻類やアマモ生育にはプラスに働く可能性が示された。
(2)干潟・藻場生態系における基礎生産と構造の解明
 サブテーマ2では、製鋼スラグと浚渫土の混合土壌の干潟・藻場生態系の造成土壌としての特性を基礎生産機能に及ぼす影響と生態系全体の構造に及ぼす影響の両面から評価する。
リン脂質脂肪酸(PLFA)分析による微生物叢、クロロフィル蛍光測定器(PAM)による付着藻類の光合成活性、実験施設周辺干潟におけるベントス解析、アマモ種子の発芽性を評価する実験系など製鋼スラグと浚渫土の混合土壌における基礎生産能等生態系機能を解析する手法の確認・開発を行ない、生態系解析の準備がほぼ整った。
生物にとって厳しい環境である高pHと固化が回避できることがサブテーマ1の結果によって示された脱リンスラグについて、単独及び種々の混合比で浚渫土と混合した土壌を小型容器に入れて臨海実験施設の生海水かけ流し水槽に約6ヶ月浸漬した。土壌間隙水のpH変化と固化の状態を観察しながら、土壌表面の付着藻類の光合成活性、大型付着藻類、ベントスの移入、増殖を評価したが、スラグ単独及び混合土壌において2ヶ月後には大型藻類が付着・増殖し、3ヶ月後にはベントスの移入も見られた。
また、脱リンスラグと浚渫土を混合した土壌にアマモを植えた臨海施設での実験では、アマモが生育・成長していることを確認でき、浚渫土の混合は成長を高めることが確認できた。
今後は干潟及び藻場マイクロコズム内で物理化学及び生態学的な検討を両サブテーマで共同で進めると同時にラボ試験による解析を補完的に実施する。

3.環境政策への貢献

干潟・藻場といった沿岸生態系を再生する材料を産業副生成物である製鋼スラグ及び浚渫土でまかなうための基礎的な化学・物理・生物的情報が蓄積されつつある。高pHや固化といったスラグ特有の反応を制御する基礎知見に加えて製鋼スラグの内脱リンスラグと浚渫土の組み合わせで良好なアマモの生育・成長を確認するなど実用的な知見も得られている。ここまで得られた基礎的な知見をさらに発展させると同時に、本年6月に始まった干潟マイクロコズム実験及び11月に開始する藻場マイクロコズム実験において物質フローを中心とした物理化学的解析と生態系評価を総合的かつ科学的に行なうことで、「天然材料ではない」という漠然とした不安を払拭すると同時にスラグと浚渫土の混合材料を最適に活用する手法を提示する。この成果は,干潟・藻場といった沿岸生態系の再生と資源再生をWin-Winで実施するための適切な手法を科学的な根拠のもとに提示し、干潟・藻場の再生・創出に関与するステークホルダー間の相互理解に貢献する。また、自然砂の採取を前提としない干潟・藻場造成材料を提案できることから、環境省が基本政策として掲げる「干潟・藻場等の重要な生態系の保全と再生(I-8)」や国土交通省と水産庁が協働して進める「今後20 年間で昭和50 年代以降に失われた干潟・アマモ場等の約6 割の面積を修復する(瀬戸内海環境修復計画)」等の政策推進に大きく寄与する。

4.委員の指摘及び提言概要

現時点では、着実にデータ収集・研究が進んでおり、有用な成果が得られると期待できる。情報発信のため、一般市民へのワークショップなど成果の公表がより一層望まれる。一方、発生量から見て重要な課題である脱炭スラグのデメリットを解消する技術についても取り組みを期待したい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a


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