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研究課題別評価詳細表

I. 中間評価

中間評価  4. 第4研究分科会<生態系の保全と再生>

研究課題名: 【D-1101】外来動物の根絶を目指した総合的防除手法の開発(H23〜H25)
研究代表者氏名: 五箇 公一(独立行政法人 国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ  生態学的にも環境政策的にも問題性が大きく、早急な防除が認められる外来生物のうちの動物分類群について、国内外における防除実態(失敗や成功事例)の情報収集を行い、防除に関する情報の整備と分析を行うとともに、必要とされる外来生物の生態学的情報の収集と防除手法の開発を行う。


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■ D-1101  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/D-1101.pdfPDF [PDF 259 KB]

2.研究の進捗状況

(1) 外来昆虫類の防除手法開発および外来生物防除ネットワークの構築
 セイヨウオオマルハナバチ・アルゼンチンアリの詳細な分布情報を収集・整理してデータベース化した。メタ個体群構造を明らかにした。繁殖虫およびワーカーの発生消長や個体群動態を明らかにした。防除薬剤および剤型の選定を行った。薬剤の有効処理法を検討した。各外来種の防除活動事例を全国より収集し、データベース化して国立環境研究所侵入生物データベースでの公開を開始した。
(2) 外来魚類の防除手法開発および防除体制強化
 試験モデル水域を選定して、地元の協力体制を確立した。新たな生息密度抑制技術として、オオクチバスおよびブルーギルの行動特性を活かして、つり下げ式人口産卵床および遮光筏を開発し、効果の検証を行った。
(3) グリーンアノールの生物学的特性に基づく防除戦略開発
 他の爬虫類の防除事例をレビューするとともに、主として室内において、薬剤のグリーンアノールに対する効果を検証して、有効薬剤を選定した。外来爬虫類の防除手法に関する事例情報を収集・整備した。
(4) マングース超低密度個体群の根絶技術開発
 避妊ワクチン作成のための抗原開発において抗血清の作製を行った。侵入阻止技術の開発として、最低高の構造物を試作し、単独あるいは忌避物質と併用したマングースの移動を制限できる構造物を考案した。
(5) アライグマの効率的防除戦略開発
 アライグマ探索犬の嗅覚訓練強化および北海道でのハビタット選好性データを収集した。和歌山におけるウミガメ被害状況を把握した。ニホンザリガニ・モニタリング体制を確立した。防除事業団体へのアンケート調査を行い、事例データを収集・整備した。
(6) 防除実践のためのモデル解析
 モデルのフレームワークを構築し、これまでの防除事業によって精度を検証した。各サブテーマ担当者から防除上の問題点に関する情報収集を行った。個別モデルの目標を定めた。各外来種防除の現場に赴き、利害関係者に対するアンケートを行い、防除事業の今後の課題について、数理生態学的にとりまとめた。

3.環境政策への貢献

これまでの貢献として、環境省の外来種防除検討会における外来生物法の見直しにおいて、本課題で実施されている各種特定外来生物の防除手法の開発に関する最新情報を提供し、防除に関する課題と今後の方針についてのとりまとめに貢献した。また各務原市および京都市におけるアルゼンチンアリ防除活動において、本課題のサブテーマ(1)で得られた成果を提示して、薬剤防除の有効性に関する情報を提供した。北海道外来種対策検討委員会においては、アライグマに関する防除技術開発情報を提供し、将来の試験的導入と実用化を提言した。
 今後は、他の外来種についても防除手法および効果に関するデータを随時、国立環境研究所・侵入生物データベースに掲載して、各地域における防除活動への活用を図る。最終的には、防除に関するパラメータ(対象エリア、予算額、動員数、など)を入力することで、最適な防除戦略および駆除成功確率を試算可能なシステム構築をはかり、日本全国における外来種防除事業の支援を行う。

4.委員の指摘及び提言概要

問題の多い外来動物の根絶を目指して精力的に研究に取り組んでおり、十分な成果を挙げつつある。成果の政策へのフィードバックも見込まれる。提案されている各外来種毎の防除技術の実用化に向けてはコストの視点は重要であり、コスト計算を示すべきである。また、いつまでに絶滅できるかという見通しも示すべきである。なお、防除に使用する薬剤の生態系に対する影響については慎重な検討が必要である。

4.評点

   総合評点: S    ★★★★★  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a
  サブテーマ(5):a
  サブテーマ(6):a


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研究課題名: 【D-1102】生物多様性の機能評価のための安定同位体指標に関する研究(H22〜H24)
研究代表者氏名: 陀安 一郎(京都大学)

1.研究計画

研究のイメージ  琵琶湖および琵琶湖集水域河川、そして京都大学和歌山研究林およびその周辺の集水域を研究の場とし、それぞれの生態系における食物網構造と栄養塩循環の関係を研究する。また、長期にわたり保存されている標本資料を用いて、時系列に沿った食物網解析を行う。これらの同位体データおよびその他の文献データの再解析をもとに、安定同位体比を用いた食物網解析の意義を理論的に解明する。これらを元にして、生物多様性調査において安定同位体比を元にした食物網解析を行う意義を明確化し、今後の生物多様性観測に安定同位体指標を導入する意義についての提言を行う。

■ D-1102  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/D-1102.pdfPDF [PDF 411 KB]


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2.研究の進捗状況

(1)森林生態系管理が河川生態系に及ぼす影響の研究
京都大学フィールド科学教育研究センター和歌山研究林およびその周辺の集水域に、森林伐採からの時系列あるいは撹乱の程度の異なる森林集水域を設定した。そして、森林生態系内部の状態ならびに河川生態系の水質・食物網構造の調査を行った。その結果、森林伐採後の時系列にともなう生物群集および食物網構造について種多様性の低下に撹乱が関与している可能性があること、また群集全体の生産依存性が森林の成熟に伴って内部生産から外部生産へシフトしていることが明らかとなった。
(2)集水域の栄養塩供給機構評価のための安定同位体指標の開発
琵琶湖集水域、有田川集水域河川における水質の流程調査を行い、各種窒素化合物、特に硝酸の窒素・酸素同位体比、溶存有機物の炭素同位体比を測定した。また、各集水域の土地利用等、地理的情報の収集を行った。有田川の流程調査においては、中下流部の果樹園を主とする農業地帯からの流入硝酸態窒素に河川の生物群集が依存しており、生物群集の窒素安定同位体比におけるベースラインの上昇が顕著であることがわかった。
(3)安定同位体解析による食物網構造解析技術の開発
アミノ酸窒素同位体比分析手法を確立し、琵琶湖集水域河川である野洲川と安曇川の流程に沿った河川食物網に適用した。その結果、陸上由来資源と河川内部生産資源が混在する河川生態系においては、アミノ酸窒素同位体比を用いた栄養段階推定に関して適切な混合モデルを開発する必要性が明らかになった。今後、これらの解析手法の一般化について検討する。一方、組織全体(バルク)の安定同位体比を用いた解析では、同位体比の空間変異が魚類の行動圏に関連することを示し、液浸標本を用いた同位体情報解析の根拠を明確化した。今後は、バルクの窒素同位体比分析法およびアミノ酸の窒素同位体比分析法を比較し、生物多様性観測に安定同位体指標をどのように入れるべきか検討する。
(4)安定同位体食物網情報を用いた生態系評価
食物網における物質流ネットワークに、ネットワークアンフォールディングの手法を適用することで、①食物網での結合の複雑性を捉える指標を開発し、②アンフォールドされた食物網の動態を記述するための数理モデルを提案した。これらの結果、これまで食物連鎖長などの極めて限られた指標でしか評価されてこなかった生態系構造を総合的に評価するための新しい構造指標を開発した。
 これらのサブテーマの結果を統合して、アミノ酸窒素同位体比を中心とする精密同位体分析を用いることによって生物多様性観測データの収集手法に新たな道筋をつけ、かつ得られたデータの新たな解析手法を提示するという目標に向けて、残りの期間の研究を進めていく。

3.環境政策への貢献

 本研究は、生態系情報としての生物試料の安定同位体比、および、環境情報としての栄養塩の安定同位体比が、生物多様性の構造・機能評価のための重要な指標となりうることを示した。生物多様性国家戦略の実行に向けては、地域の生物多様性や生態系機能をモニタリングする実施主体である地方行政・研究機関の観測体制を強化することが必須である。しかしながら、現状では、幅広い生物分類群や物理・化学的項目を対象とした調査を実施する体制が十分に整備されているとは言い難い。本手法を流域生態系管理に適用することによって、土地利用改変などの人為攪乱要因に対する生物多様性および生態系の応答を簡便かつ統一的な尺度で評価する観測体制を導入することが期待できる。今後、本手法の導入・普及を促進するためには、安定同位体指標が生物多様性情報および生態系機能情報の信頼性の高いプロキシとなりうることを実証し、その理論的根拠を提示し、より適切な指標を選定することが必要である。それらについて、残りの期間内に実施する予定である。さらに、液浸標本のアミノ酸窒素同位体比分析の実現可能性が示されたことにより、全国の大学・研究所・博物館などに収蔵されている生物標本・環境試料などを利用して過去の流域生態系を復元することが可能となるだろう。過去から現在に至る生態系の時系列情報を得ることで、生態系の構造的変化をもたらす人為駆動要因を特定し、修復・再生すべき生態系の目標像を具体的な数値目標に基づいて設定することにも応用可能である。これらを統合した成果として、本研究課題が完了した暁には具体的な安定同位体指標の収集方法および解析手段を提供することにより、今後の生物多様性国家戦略の改訂に向けての情報を提供することができる。

4.委員の指摘及び提言概要

各サブテーマとも順調に進捗している。特に、アミノ酸窒素安定同位対比を用いた新しい食物網に関係する生態系指標を提案しており、科学的に高く評価できる。さらにデータと事例を増やして、その指標の有効性が確認できることを期待する。しかし、安定同位対食物網情報から生態系の多様性とその機能の評価への道筋をわかりやすく説明する努力が必要である。さらに、環境政策への貢献という視点を重視して研究を進めてほしい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【D-1103】支笏洞爺国立公園をモデルとした生態系保全のためのニホンジカ捕獲の技術開発(H23〜H25)
研究代表者氏名: 吉田 剛司(酪農学園大学

1.研究計画

研究のイメージ シカによる生態系被害は深刻であり、その対応策としてのculling(カリング:効果的な駆除)による個体数管理が注目されている。本研究では、条件抽出、体制整備、捕獲効率、行動と動物福祉、個体数管理と季節移動に関してニホンジカ(エゾシカ)の研究の実践により、支笏洞爺国立公園をモデルとしてニホンジカの捕獲技術の開発を試みる。

■ D-1103  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/D-1103.pdfPDF [PDF 579 KB]


図 研究のイメージ        
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2.研究の進捗状況

(1)環境条件にあった管理手法の選定(条件抽出)
ライトセンサスにより支笏湖周辺でのシカの生息状況を把握し、捕獲適地を抽出する際の基礎情報を整理した。支笏湖周辺で多数が越冬していることを解明し、さらに洞爺湖中島の環境条件に捕獲に適した罠を比較的に低コストで多様なニーズに応用できる獲罠の設計が完成した。初年度のモデル研究として弁天観音島(洞爺湖中島は大島が476.7ha、弁天観音島が17.5ha、饅頭島が2.6hで成立)での追い込み式の補殺にて10個体の試験捕獲に成功した。
(2)シャープシューティング(SS)を円滑に実施するための体制整備に関する検討(体制整備)
SSの実施にともなう給餌方法の検討ならびに人的・経費的コストの計算を行った。支笏地域でのSSを想定し、生体捕獲作業との連携のもとで実施場所の選定ならびに課題の抽出を行った。またSS用の銃器の条件を具体的に示すため、使用を想定しているライフル銃の精度ならびに弾道に関わる測定を実施して、国立公園内でのSSによる効率的捕獲に必要な基盤情報を整備した。
(3)島嶼生態系における推定母集団を利用した捕獲効率に関する研究(捕獲効率)
推定母集団300頭に対する捕獲効率を各種捕獲方法で検討し、目標個体数(50頭)へ誘導するための複数の捕獲方法を組み合わせるシナリオを検討した。その結果として、洞爺湖中島(大島)での捕獲効率を向上させる手法として、大島の中央部に位置する草地に初夏(6月)に罠を設置して植生保護柵として転用しながら自然草地を繁茂させシカを誘引して捕獲する手法に着手した。
(4)大量捕獲におけるニホンジカの行動学的研究(行動と動物福祉)
シカを効果的に誘引できる飼料についてカフェテリア方式(放牧草、各種濃厚飼料、各種貯蔵粗飼料)で各種飼料による採餌の頻繁を観察した。また積雪後ではロールグラスサイレージの嗜好性も良好であり降雪に対する影響も少ないことが示され、地域の在来植物種のサイレージ採餌の可能性が示唆された。またオスを排除しメスのみに給餌できる施設設備として連動スタンチョンの間隔を適切に設定して捕獲する手法開発の開発に着手した。
(5)季節移動の追跡と生物多様性保全のための個体数管理(個体数管理)
支笏湖畔を中心に計25頭の生体捕獲を冬季に試み、当地域における行動追跡を開始した。既に支笏湖畔にて越冬するシカには、季節移動しない定着型個体群、短距離移動で国立公園外に移動する個体群、さらに札幌市内まで夏季に移動するアーバンディア個体群があることが解明できた。さらに樽前山でのシカの進出状況を把握して影響把握も試みた。洞爺湖中島においては、エゾシカによる生物多様性への影響として鳥類、昆虫類などの現状を把握しつつ、シカ個体数管理に対する地元での合意形成に達した。
 

3.環境政策への貢献

 本研究プロジェクトが中心となって、平成24年2月に「洞爺湖中島エゾシカ対策協議会」が設立された。協議会メンバーは、環境省のみならず洞爺湖町、壮瞥町、森林管理局、さらに地域の観光関連機関、NPOが参画し、30年以上こう着状態であった洞爺湖中島のシカ管理の実現に向けた政策展開が実現した。本研究が中心となり継続的に国立公園である洞爺湖中島でのシカ管理を実践できるシステム運営を協議している。また森林管理局、北海道石狩振興局などとエゾシカの先進研究事例として連携して調査研究を進めてきた。支笏湖自然保護事務所で実施された業務とも連携したことにより、本研究は地域のシカ管理にむけた大きな前進となり、石狩平野部の環境行政が抱えるシカ問題の解決に向けての貴重な情報を提供している。

4.委員の指摘及び提言概要

行政ニーズに応えようとした研究であり、シカ捕獲技術の開発という当初の目的に沿って順調に進捗している。しかし、提案されている捕獲システムはいずれも多額なコストを要しており、地元地域の合意形成と普及啓発を図り、コストパフォーマンスを考慮しつつその有効性を検証すべきである。動物行動学的な基礎的理論の裏付けなど科学的な根拠をもった管理計画の作成など実効性のある成果につなげて、法制定にまで踏み込めることを期待する。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a
  サブテーマ(5):a


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研究課題名: 【D-1104】天草・島原沿岸の地域連携型保全に向けた干潟ベントス群集とその生態系機能に関する研究(H23〜H25)
研究代表者氏名: 玉置 昭夫(長崎大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究は、西九州の沿岸域における干潟ベントス群集の構造と生態系機能が近年の海水温上昇に伴ってどのようにいかなる仕組みで変わるのかを予測し、特に個体数が減少すると考えられる生態系サービス提供種を保全対象とする場合、守るべき干潟を選定することを目標とする。
保全の対象候補地として、有明海の湾口部から橘湾を経て天草灘に至る東西50 kmの海域を選ぶ。海岸線には中小規模の砂質干潟が散在している。生態系改変種として、地下深い巣穴を高密度で造る大型十脚甲殻類のスナモグリを取り上げる。本種は大きな基質攪拌作用によって砂泥の流動性を高め、定住性の小型種を排除するので、ベントス群集の種多様度を低くする。一方、巣穴に引き込む上水の灌流作用によって巣穴壁の好気性・嫌気性微生物の活性を促進することで、干潟に排出される下水処理水などに含まれる有機物の分解無機化に関わる生態系サービス機能を発揮する。近年、スナモグリを摂食する底生魚のアカエイが増加しており、これによる干潟の攪乱がベントス群集と生態系機能に及ぼす影響も大きいと想定される。海水温の上昇はスナモグリ幼生の発育期間と大潮間隔の同調性を崩し、干潟への回帰率の低下を引き起こすと予測される。また,水温上昇はスナモグリ幼生の食物となるプランクトン群集の変化も引き起こし、幼生の生残率を低下させうる。逆に小型ベントスの幼生は短期浮遊・直達発生型であるため、水塊の環境変化の影響を受けにくく、個体群サイズを増大させるかもしれない。


図 研究のイメージ        
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その結果、ベントス群集の種多様度は高まるが、干潟が有する浄化機能は低下する可能性もある。以上の背景のもとで、ベントス・プランクトン・微生物生態学と生物地球化学分野の共同研究を学内同一組織に所属する5名により実施する。また、特に地域住民への研究成果の浸透を図る。これにより、対象海域に関係する地方公共団体、住民、漁業者等が連携して干潟を含む沿岸域の保全策を立案していくための科学的基盤が提供されることが期待される。

■ D-1104  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/D-1104.pdfPDF [PDF 231 KB]

2.研究の進捗状況

研究は計画通りに遂行され、遅れは生じていない。以下、担当者5名の実施状況を要約する。
(1)干潟ベントス局所個体群間の連結性の推定と干潟群集の変化の追跡(玉置)
水温上昇がスナモグリ幼生の発育期間を短縮させることにより、回帰率を下げうることを室内飼育実験により実証した。干潟では、無人機による空撮を行うことで、スナモグリの斑状分布とアカエイ摂餌痕の高密度域が一致していることを明らかにした。スナモグリ個体群組成とベントス群集構成種の密度組成を明らかにした。有明海〜天草灘における海水流動モデルが動くようになり、幼生輸送の数値シミュレーションを開始した。
(2)ベントス浮遊幼生の食物環境変化仮説の検証(鈴木)
天草灘と橘湾でベントス幼生の餌候補となる微細プランクトンの現存量を推定した。スナモグリのゾエア幼生の消化管内容物と口部構造を観察し、珪藻を摂餌していること、棒状珪藻を摂餌するのに適した口部形態をもっていることを明らかにした。
(3)気候変動に伴う栄養塩供給メカニズム変動の解析と食物網の把握(梅澤)
スナモグリ幼生の飼育により炭素・窒素同位体比の濃縮係数を求め、現場の食物連鎖に適用して餌候補を絞り込んだ。脱窒菌・硝酸同位体比解析法により、海域に供給される栄養塩に対する陸水・外海底層水・大気降下物・再生栄養塩の寄与を明らかにした。
(4)ベントス浮遊幼生の墓場仮説の検証(武田)
橘湾奥部の海底湧水(噴気)の分布状況と、それに含まれる還元性化学物質と栄養塩濃度を把握し、ベントス幼生の生残に及ぼす影響を精査するための基盤情報を得た。
(5)干潟ベントス巣穴壁に存在する微生物群集の構造解明と物質循環機能の動態評価(和田)
干潟におけるスナモグリ巣穴壁にはそれ以外の場所と異なる細菌群集が存在すること、スナモグリ密度が高くなると周囲の堆積物全体が攪拌作用によって均一化され、群集構造の違いが小さくなること、アカエイ摂餌痕の群集構造が特異であることを明らかにした。

3.環境政策への貢献

 本研究で保全を目指している干潟は雲仙天草国立公園の中にあるが、保護規制の緩やかな「普通地域」となっている。これらの干潟と沖合海域を含めた沿岸全体を保全していくため、町・市・県との連携を図る。特に地域住民の理解を得るため、以下の事柄に取り組む。①住民との対話集会を開催する(まず2013年1月12日に天草郡苓北町で行う。隣の天草市、諫早市森山町でも実施予定)。町民とは、干潟に放出されている下水処理水の浄化に果たすベントスの生態系サービスについて、漁業者とは、沿岸でのアジ・サバ漁を支えている栄養塩と食物連鎖の動態について話し合う。②エコ・ジオ(geo)ツーリズムを利用し、国と市町が出資した施設を活用して国民の認知度を高める。上述漁場はハンドウイルカの摂餌場でもあり、その群れを確実に見学できる至近海域として全国的に知られている。観光客の一部は苓北町に最近復元された富岡城も訪れる。町役場担当者と相談し、城内のビジターセンターにある自然環境展示コーナーに出展することになった。また、本研究で明らかになった橘湾海底からの温泉水湧出現象については、当湾に面した森山町の海岸にあるネイチャーセンターおよび雲仙岳災害記念館(島原市)に出展することになった。後者は、島原半島ジオパーク推進連絡協議会(世界ジオパークに認定)と連携し、火山活動の実態を海まで広げて紹介するものである。これらの施設は生徒への環境教育の場としても活用されているので、常駐の解説員とよく協力していく。

4.委員の指摘及び提言概要

干潟におけるスナモグリの生態学という部分では地道なしっかりした研究であり、当初計画通りに進捗している。しかし、スナモグリの生態解明が干潟の保全戦略にどうつながっているのかという課題の全体像がわかりにくいので、そこを再構築すべきである。地域連携研究として地域への貢献を期待する。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【D-1105】北東アジアの乾燥地生態系における生物多様性と遊牧の持続性についての研究(H23〜H25)
研究代表者氏名: 吉川 賢(岡山大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究は、草原生態系の時空間的異質性に基づく生物多様性が遊牧生産にとって重要である点に着目し、平衡非平衡システムとして遊牧生産システムの持続性を解明するものである。そのために、寒冷多雨なステップから高温乾燥なゴビステップの間に調査地を設定し、自然科学と社会科学を含む4つのサブテーマが連携をとりながら分析を進めていく。
(1)乾燥地生態系における植物の生理生態的特性と相互作用、および立地特性の解明
キーリソース(KR)群落を含む草原植物の生理生態的特性と立地特性を解明し、植物間の水や資源をめぐる競争・共存に関する生態学的特性を解明する。
(2)乾燥地生態系の水・物質循環とシステムの安定性の解析
乾燥地を景観レベルでとらえ、遊牧とそれを支える生態系の時空間動態を明らかにし、気象災害時に家畜の生存の鍵とされるKR群落の成立要因と乾燥地生態系の時空間異質性、および遊牧生活との相互作用を明らかにする。
(3)乾燥地生態系の構造と機能および空間分布についての解析
景観レベルでの生物多様性の把握と、草原生態系の時空間的変動とその気象要因との関係を解明する。


図 研究のイメージ        
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(4)遊牧社会の構造と持続性についての社会・経済・人文学的解析
伝統的遊牧社会の変容過程がKR群落の利用・保全に与えた影響を社会・経済・人文学的に解析し、草原生態系での持続的生産システム構築のための制度・政策の評価を行う。

■ D-1105  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/D-1105.pdfPDF [PDF 336 KB]

2.研究の進捗状況

(1)乾燥地生態系における植物の生理生態的特性と相互作用、および立地特性の解明
放牧圧が植生に与える影響をみるため、三県の21箇所の冬営地で植生調査を行った。湿潤な北部は乾燥した南部より種数が多く、家畜嗜好性の種の被度が高いが、乾燥した南部は植物資源量が少なかった。南部のマンダルゴビでKR群落と対照群落で調査し,KR群落の代表種Achnatherum splendensはシルト分が多く、降水浸透能が高い土壌で優占した。また、嗜好性は低いが、A. splendensは干ばつやゾドの際に資源として重要であることが示唆された。なお、昨年予定の現地での生理測定は本年実施する予定である。
(2)乾燥地生態系の水・物質循環とシステムの安定性の解析
非平衡草原のマンダルゴビ周辺の77の遊牧民へのヒアリング調査で、長距離移動する遊牧民は気候災害の影響範囲から抜け出し、降雨依存性の草本を利用する傾向が高く、移動性の低い遊牧民は被災地でKR群落に依存するといった、遊牧民間での自然資源利用の不均質性が明らかとなった。このことから、自然資源利用と生存戦略の違いを考慮したマルチスケールでの対処の必要性が示唆された。マンダルゴビでKR群落と対照群落の水利用特性を調査し、A. splendensは根系は比較的深く、密な土壌面被覆により、安定した水源を確保していた。リモートセンシング解析で、マンダルゴビ周辺は1990年代後半から降雨量の減少と気温の上昇で、植生の活性度が低下したことが示唆された。
(3)乾燥地生態系の構造と機能および空間分布についての解析
マンダルゴビの放牧草地で低地から斜面上部まで植物群落の構造を調査し、A. splendensは強い塩類集積土壌では生育できないことが分かった。モンゴル草原での降水・土壌水分・植生に関する文献調査から、春季〜夏季は、草原は降水イベントに対して比較的迅速な応答を示す可能性が示唆された。なお、ゴビステップ以外の景観タイプでの植生調査と分光反射特性の広域測定は今年実施する予定である。
(4)遊牧社会の構造と持続性についての社会・経済・人文学的解析
マンダルゴビを中心に聞き取り調査した結果、ネグデル(集団農場)設立以降は非常時利用牧草地が県内と県外にあり、さらに県外には国営の非常時利用牧草地もあったことが分かった。ネグデル時代はネグデル主導で雪害対策が取られたが、1990年の社会主義崩壊以降、多種類の家畜を複合的に飼育するようになるとともに、放牧形態も定住的、県内移動、遠距離移動と複雑化した。現在の移動期間は数カ月から数年に及ぶことも分かった。

3.環境政策への貢献

現地での砂漠化対処の推進および開発援助政策への貢献:非平衡モデルに基づき、マルチスケールでの景観多様性を考慮した土地利用システム・社会制度設計が提案できるとともに、これまでの平衡モデルに基づく技術支援にかわる新たな支援の枠組みを提示することができる。
①砂漠化対処条約への貢献:現地の社会-生態システムを明示的に取り込んだことで、景観多様性をベースとした新たな乾燥地持続性と砂漠化の評価・対処法が得られつつあり、砂漠化対処条約の科学技術委員会に対し、インパクト指標の開発と評価等、学術的貢献が期待される。
②関連国際条約間の連携強化への貢献:景観多様性をベースとした砂漠化評価・対処は、乾燥地の生態系サービスと生物多様性保全にむけた社会制度設計を支援し、砂漠化対処条約と生物多様性条約の連携を強化する。さらに、これまで個別に議論されてきた干ばつと砂漠化を統合的に評価することで、本研究成果を気候変動に伴う干ばつ頻度の増加への適応策として位置づけることができ、砂漠化対処条約と気候変動枠組条約の連携強化の先駆事例となる。

4.委員の指摘及び提言概要

当初研究計画に沿って着実に進捗しており、モンゴルにおける災害時の非常用牧草地の現状、利用方法等が明らかになってきた。しかし現状ではまだ家畜の種類・密度と草資源量に関して定量的データが少なく、遊牧の持続性を決定する条件についてはまだ明らかにはなっていない。サブテーマ(4)「社会・経済・人文学的解析」にもさらに力を入れるとともに、環境政策研究であることを強く認識して、文化人類学の研究で終わってしまわないように注意すべきである。また、気象災害時の家畜のセーフティネットとしての key-resource群落を持続するための手法を開発して欲しい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
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研究課題名: 【D-1106】三宅島2000年噴火後の生態系回復過程の解明と管理再生に関する研究(H23〜H25)
研究代表者氏名: 加藤 和弘(東京大学)

1.研究計画

研究のイメージ 植生調査、鳥類調査、その他の動物調査、衛星画像の解析などを通じて、島の生態系の現状を把握する。被害度および回復過程に基づきゾーニングを設定し、各ゾーンについて、生態系を保全し生物多様性を維持するためにどのような管理が必要であるか提案する。自然の回復力を最大限生かしつつ、余分な人為的干渉を排除することを第一に考慮し、次いで、火山ガスの影響下での生態系回復をどのようにサポートすべきか、植生や枯死木の管理、昆虫の発生への対処、動物の保全などの観点から提案する。
(1) 三宅島生態系基盤の調査研究
 動物の生息の基盤である植生やそれを支える土壌、一部動物の生息基盤となっている枯死木がどう変化しつつあるかを、現地固定サイトでの調査分析を通じて明らかにする。特に、火山ガスの影響下における土壌と植生、枯死木の相互関係を明らかにし、火山ガス下の植生遷移における土壌と枯死木の役割を定量的に評価する。加えて、島内の植生の空間的変動と、絶滅危惧植物の分布の現状を、現地での広域的な調査により把握する。
(2) 鳥類の個体群変動に関する調査研究
 鳥類の生息状況を植生調査と共通の固定サイトにて調査し、その結果を枯死木を含む植生の状況と対比させて、植生の組成や構造、枯死木の状態が鳥類の生息状況に対してどのように関係するのかを明らかにする。同時に広域的な鳥類個体数調査も実施し、研究代表者らがこれまでに蓄積した噴火後の島内の鳥類の分布状況の変遷も踏まえ、噴火後の島内の鳥類分布図を時系列的に作成する。以上に基づき、鳥類各種の個体群の今後の変化と保全のための方策について検討する。


図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

(3) 三宅島内動物群集生息状況の調査研究
 昆虫やは虫類の生息状況を調査し、植生の組成や構造、枯死木の状態が昆虫やは虫類の生息状況に対してどのように関係するのかを明らかにする。上記鳥類の調査結果とも対応させ、昆虫やは虫類の生息状況と鳥類の生息状況の間の関連性について把握するとともに、これらの保全のための方策について検討する。

■ D-1106  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/D-1106.pdfPDF [PDF 482 KB]

2.研究の進捗状況

(1)三宅島生態系基盤の調査研究 

 11の共通固定サイトで火山ガス濃度と気象条件を記録するとともに、植生調査、毎木調査、枯死木の量と腐朽段階の調査、土壌サンプリングと理化学性分析、土壌呼吸量測定、土壌微生物相分析のための試料採取を行っている。リターバックの設置と回収、リター量の測定、植物の着葉状況と開花結実状況の測定を進めている。

 島内広範囲で一時調査区を設定し、植物群落調査と枯死木のカウントを行っている。

(2)鳥類の個体群変動に関する調査研究

 衛星画像(IKONOS/GeoEYE, Quickbird)と空中写真を時系列的に解析し、三宅島における植生の変化の経過と現状を推定する作業を進めている。

 共通固定サイトを含む23の固定調査区において鳥類の定点センサスを行うとともに、各観察個体が利用していた植生の部位も記録している。島内広範囲に鳥類の調査ルートを設定してラインセンサス法による調査を行っている。

(3)三宅島内動物群集生息状況の調査研究

 は虫類(特に伊豆諸島特産種であるオカダトカゲ)、昆虫、土壌動物の調査を行っている。

 

3.環境政策への貢献

 第一に、三宅島の生態系保全についての各種計画策定に対する貢献が挙げられる。2000年の噴火とその後の火山活動によって大きく損なわれた三宅島の生態系の保全や再生に向けて何がなされるべきか、具体的に検討を加えるために必要な情報を提供する。島内各所における植生の保全や再生を適切な方向に導くための指針や基準を示す。島の全域にわたって鳥類や絶滅危惧植物種の分布図を作成し、保全の必要性が高い場所を地図上で示す。

 第二に、島で進められている各種の緑化事業に対し、本研究で明らかにされる植生や土壌、動物群集の変化のプロセスから、より適切な緑化の進め方を提示する。枯死木の除去や土壌の扱いについても、同様に具体的な提言を行うことを通じて、島の状況をより改善していく効果が期待できる。

 第三に、研究成果を現場に還元し、三宅島における様々な環境保全活動の活性化に資する道がある。特に、同島で環境教育活動を展開している日本野鳥の会や地元有志の方々を通じて、同島をフィールドとした環境教育活動に本研究の成果を生かしていただくことについて、検討と協議を進めている。

 

4.委員の指摘及び提言概要

目的に沿った各種調査が行われており、ほぼ当初計画通りに進捗し成果が得られつつある。本課題は火山噴火後の生態系回復過程を時系列的に解析するものであり、調査そのものにも価値がある。鳥類・植生・昆虫・は虫類・土壌理化学性・土壌呼吸量・土壌微生物など様々な調査が実施されているので、調査結果の解析についてはより深い要因解明を期待したい。科学的根拠を説得的に提示して、将来に向けた火山ガス影響下での生態系回復を提言してほしい。なお、三宅島の噴火に係わる他の調査結果についてもレビューすべきである。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b
 


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