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研究課題別評価詳細表

I. 中間評価

中間評価  3.  第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>

研究課題名: 【C-1101】解体現場のアスベストリスクに対応する特異的バイオプローブの創成と迅速検出への応用(H23〜H25)
研究代表者氏名: 黒田 章夫(広島大学)

1.研究計画

研究のイメージ  研究代表者はアスベストに特異的に結合するタンパク質を発見している。このタンパク質を蛍光物質で修飾することにより、フィルター上のアスベストを蛍光顕微鏡でとらえる方法(バイオ蛍光法)を開発した。バイオ蛍光法は、位相差顕微鏡レベルの操作性で、ある程度の確度でアスベストと判定できるので、現場での迅速計測法として有望視されている。本研究では、結合タンパク質のアスベストへの特異性と結合性を極限まで高めることにより、電子顕微鏡に依存せず、解体現場でアスベストの同定まで可能な迅速計測法を完成させる。


図 研究のイメージ        
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■ C-1101  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1101.pdfPDF [PDF 178 KB]

2.研究の進捗状況

 アスベスト結合タンパク質であるHNSは137個のアミノ酸からなる。解析の結果、HNSタンパク質の1-57番目のアミノ酸領域はケイ酸アルミや微細ガラス繊維との結合に関与し、60-137番目の領域は角閃石アスベストとワラストナイトとの結合に関与することが分かった。さらに、60-137番目の領域を限定して、ワラストナイトと角閃石アスベストに結合する領域の分離を試みた。具体的には、60-137番目アミノ酸の領域を、60-90番目までと、91-137番目の領域に分けた。それぞれをコードする遺伝子のプライマーを設計して遺伝子増幅によって目的の遺伝子を作り出した。それらを、大腸菌を宿主とする発現ベクターに組み入れ、遺伝子の発現誘導を行い、目的タンパク質の精製を行った。得られたタンパク質を蛍光で標識し、その特異性を検討した結果、60-90番目の領域が角閃石アスベストに対して十分な特異性を示すことが分かった。
アスベスト結合タンパク質の結合力を強化させることによって、より明瞭なアスベスト蛍光画像が期待できる。アスベスト結合タンパク質とストレプトアビジン複合体を作ることにより、1分子上に4カ所のアスベスト結合部位を提示させることに成功した。その結果、単体では蛍光がほとんど見えない濃度条件でも、ストレプトアビジン複合体を用いればアスベストへの結合力が向上し、非常に明瞭な蛍光画像が得られるようになった。
 作成した蛍光タンパク質が現場のサンプルで使用できるかどうかを検証するため、蛍光を放つ繊維を走査型電子顕微鏡で観察し、さらにエネルギー分散型X線分析装置で元素分析できる光・電子相関顕微鏡による評価システムを作り上げた。作成した蛍光タンパク質の性能を評価した結果、解体現場の実サンプルでもアスベストが検出できることが分かった。今後サンプルの前処理等を工夫し、さらにバイオ蛍光法の性能を向上させると共に、その普及活動を行う。

3.環境政策への貢献

 日本にはアスベストを含む建材が約4000万トンあるとされ、今後これらが使われた古い建物の解体のピークを迎える。その際、アスベストの飛散を現場で調べなければ、再び大きなアスベスト問題を引き起こす可能性があるとされている。位相差顕微鏡と電子顕微鏡を併用する現在の公定法は非常に時間がかかり、迅速性が要求される解体現場でのアスベストリスクに対応するのは難しいとされている。解体現場等が我が国におけるアスベスト繊維の主要な発生源であることに鑑み、公定法とは別に新たな迅速計測法が求められている。バイオ蛍光法は、アスベスト繊維の形態と物性の両方を蛍光顕微鏡だけで瞬時にとらえることができるため、現場での迅速計測法として有望である(環境省アスベストモニタリングマニュアル第4版に記載)。平成24年3月12日に行われた環境省主催技術検討会において、実際の現場でのデータを示し、迅速計測法として認められつつある。本研究開発は、解体現場でのアスベストリスクや震災後の瓦礫からのアスベスト飛散に対し、リスク管理・評価手法の高度化に貢献する。

4.委員の指摘及び提言概要

アスベストの新たな迅速検出法の独創的な基盤を明らかにし、実用化、環境行政への貢献ができる応用研究として価値が高く、順調な成果が上がっている。さらに実用化を目指し、解体現場などで実際に使い、簡便性、迅速性、経済性を評価されたい。モニタリングマニュアルへの採用まで進むことを期待する。

4.評点

   総合評点: S    ★★★★★  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【C-1102】適切なリスク管理対策の選択を可能にする農薬の定量的リスク評価法の開発(H23〜H25)
研究代表者氏名: 稲生 圭哉(独立行政法人 農業環境技術研究所)

1.研究計画

研究のイメージ 河川における生物多様性を保全する観点にたち、農薬使用に伴うリスクを定量的に評価する手法の開発を目的とし、以下のサブテーマに分けて研究を実施する。
(1)GISを活用した地域レベルでの曝露評価法の開発
空間的・時間的に変動する河川(小水域を含む)における農薬の動態を予測するため、地理情報システム(GIS)を活用した汎用性の高い農薬濃度予測モデルを開発する。また、水稲用農薬の河川におけるモニタリングを実施し、開発したモデルの妥当性を検証する。
(2)河川生態系の在来種を用いた新たな毒性試験法の開発
河川在来の付着性藻類や水生昆虫を対象とした新たな毒性試験法の開発を行う。また、付着性藻類について一過性の曝露からの回復性試験法を、水生昆虫について個体群レベルでの毒性評価法を開発する。さらに、農薬の複合毒性を予測する手法を開発する。
(3)確率論を導入した農薬の生物多様性影響評価法の開発
農薬の生物多様性に対する影響を、種の感受性分布(SSD)を用いて定量的に評価する確率論的手法について、毒性データが少ない場合の推定法や推定誤差の定量的な評価法を開発するとともに、(2)で得られる複合影響などを考慮した新たな解析手法を開発する。
(4)生物多様性を対象とした地域レベルでの農薬のリスク指標の開発
(1)および(3)での成果を組合せ、生物多様性の減少度合いを指標とした定量的リスク評価法を開発する。また、開発した評価法を用いたケーススタディとして、特定の地域において様々なリスク管理対策を導入した場合を想定し、これらのリスク低減効果について比較を行う。


図 研究のイメージ        
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■ C-1102  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1102.pdfPDF [PDF 340 KB]

2.研究の進捗状況

(1)GISを活用した地域レベルでの曝露評価法の開発
茨城県南部の桜川流域を対象とし、農薬濃度予測モデルの開発に必要なGIS情報(流域界、水田面積、河川流路・流路延長、土壌特性等)をデータベース化するとともに、個々の水田からの排水が河川に流入する地点を特定する汎用性の高い空間解析手法を開発した。また、同流域を対象とした水稲用農薬濃度のモニタリングを実施し、各農薬の使用時期を反映した検出ピークが確認されるとともに、検出濃度は流域特性や農薬の普及割合により変動することが示唆された。以上により、GISを活用した精度の高い効率的な曝露評価手法の開発に道筋がついた。
(2)河川生態系の在来種を用いた新たな毒性試験法の開発
水生昆虫コガタシマトビケラについて、初期成長段階別(卵期〜若齢幼虫期)の感受性差を評価するための毒性試験法を開発した。数種類の殺虫剤について本試験を実施した結果、成長段階や殺虫剤の作用機作の違いによって感受性が大きく変動することが明らかになり、個体群レベルでの影響評価の必要性が示唆された。また、河川在来の付着性藻類について、96穴マイクロプレートと蛍光プレートリーダーを用いた毒性試験法に適応しうる5種を選定するとともに、これらの至適培養条件等を確立した。これにより、簡便で効率的な付着性藻類の毒性試験法の開発に道筋がついた。
(3)確率論を導入した農薬の生物多様性影響評価法の開発
95種の除草剤を対象としたSSD解析により、除草剤の作用機作別にSSDを決定するパラメータ(藻類などの一次生産者について、属ごとの半数生長阻害濃度の対数平均値と対数標準偏差)を明らかにした。これにより、除草剤の毒性データがSSD解析に必要な数(5属以上)に満たない場合でもSSDの推定が可能となり、汎用性の高い影響評価法の開発が可能となった。
(4)生物多様性を対象とした地域レベルでの農薬のリスク指標の開発(平成24年度より開始)
桜川流域を対象として、(1)で開発する暴露評価手法により河川水中農薬濃度の地域内変動性を解析するとともに、(3)で得られる影響評価手法と組み合わせた、地域レベルでの定量的なリスク評価手法の開発を進めている。

3.環境政策への貢献

環境省が設定している水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準について、将来的に制度の改定が必要とされた場合、農薬の生態リスクをより高次の視点で評価する実用的手法として、本研究の成果を活用できる。また、環境省が主体となり、様々な農薬の流出防止技術が確立されているが、本研究成果によりこれらのリスク低減効果を定量的に評価することが可能となり、効果的なリスク管理対策を選定できる。さらに、生産現場での農薬節減の取り組みに対するリスク低減効果を定量的に評価できるとともに、地域性を考慮し、生物多様性に配慮した適切な農薬使用方法の選択が可能となり、科学的根拠に基づく環境保全型農業の推進に役立つものと思われる。

4.委員の指摘及び提言概要

 着眼点のよいテーマ・プロジェクトであり、生態系への影響という点も考慮し非常によく計画されており、順調に進捗しているといえる。農薬散布の時期や農薬選択等、生物多様性保全に向けた具体的行動に結びつけられるとよい。政策への活用も見込まれ、成果が期待される。

4.評点

   総合評点: S    ★★★★★  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【S2-12】環境化学物質による発達期の神経系ならびに免疫系への影響におけるメカニズムの解明に関する研究(H22〜H25)
研究代表者氏名: 伏木 信次(京都府立医科大学)

1.研究計画

研究のイメージ (1)環境化学物質への曝露による脳形成・発達への影響とそのメカニズムの解明に関する研究
妊娠全期間と授乳期間を通じて低用量ビスフェノールA(BPA)に曝露した仔マウスを作製し、生後に脳を採取し、免疫組織化学により脳構築の微細変化を明らかにするとともに、各脳領域において神経伝達物質や合成律速酵素を測定する。各種行動試験を行い、情動性機能や学習・記憶への影響を評価する。上記BPA曝露ののち成熟したマウス脳を対象に遺伝子発現変動とDNAメチル化変動を網羅的に調べ、BPAがメチル化変動を誘導する遺伝子群候補を明らかにする。in silico解析により、BPA曝露により影響を受ける分子間相互作用ネットワークを解析する。脳組織と末梢リンパ球との間で相関してエピゲノム異常を呈するゲノム領域の探索や継世代影響解析も行う。


図 研究のイメージ        
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(2)環境化学物質によるアレルギー疾患増悪メカニズムの解明とスクリーニング手法の開発
アレルギー性喘息モデル、アトピー性皮膚炎モデル、アレルギー性鼻炎モデルを用い、環境化学物質を曝露し、病理組織学的手法等により増悪影響を評価し、分子生物学的手法等を用いて増悪メカニズムの解明を図る。また、一部、継世代影響も検討する。加えて、脾細胞や骨髄由来抗原提示細胞に環境化学物質を曝露し、活性化マーカーやシグナル伝達経路等を解析することにより、増悪メカニズムを明らかにする。さらに、アレルギー増悪影響を簡易・迅速・高感度にスクリーニングできる評価系を確立する。

■ S2-12  研究概要
./pdf/s2-12punch.pdfPDF [PDF 139 KB]

2.研究の進捗状況

(1)環境化学物質への曝露による脳形成・発達への影響とそのメカニズムの解明に関する研究
 胎生期から新生仔期にかけての低用量BPAへの胎盤経由ならびに母乳を介しての経口曝露が、生後マウス大脳皮質の組織構築に影響を及ぼすことを世界で初めて明らかにした。またBPA曝露は青斑核の成熟過程に影響を及ぼすことも見出した。また、BPAの曝露影響には、脳の各領域によって差異があることがわかった。一方、遺伝子発現変動とDNAメチル化変動に関する網羅的解析により、成マウス脳における一群の遺伝子にエピゲノム変化が引き起こされていることを明らかにした。さらにその中の遺伝子に関して、成マウス末梢リンパ球におけるエピゲノム変化を解析し、それらを胎生期・授乳期BPA曝露のバイオマーカーとして活用し得る可能性を示すことができた。
(2)環境化学物質によるアレルギー疾患増悪メカニズムの解明とスクリーニング手法の開発
BaPの低用量経気道曝露がアレルギー性喘息を、DEHP、DINPの低用量経口曝露がアトピー性皮膚炎を、DEHPの低用量経鼻曝露がアレルギー性鼻炎を増悪させることを、世界で初めて示した。環境化学物質は、その曝露経路やアレルギー性炎症の主座の相違により影響が異なること、経口的、病変局所的な低用量曝露の影響評価が重要であることも示した。環境化学物質のアレルギー増悪影響評価には、スクリーニングした対象物質について、複数のアレルギー疾患モデルにおいて、曝露経路と低用量曝露を念頭に置いた検討・解析を行うことが重要であることを科学的に提言するに至った。

3.環境政策への貢献

(1)環境化学物質への曝露による脳形成・発達への影響とそのメカニズムの解明に関する研究
 胎生期から新生仔期にかけての低用量BPAへの胎盤経由ならびに母乳を介した経口曝露が、大脳皮質や青斑核の組織構築に影響を及ぼすことを明らかにしたことは、環境化学物質規制対策への今後の提言に貢献できる。生後の行動解析により低用量BPA経口曝露の表現型を解析することによって、エコチル調査を補完し、疫学的観察事項に対し生物学的妥当性を付与すること、さらには環境化学物質対策への提言に貢献できる。またBPAへの胎盤経由ならびに母乳を介した経口低用量曝露が、成マウス脳における一群の遺伝子にエピゲノム変化を残すとともに、成マウス末梢リンパ球のエピゲノム変化を惹起していたことから、胎生期・授乳期BPA曝露のバイオマーカーとしてこれらの情報を活用し得る可能性が示された。すなわち、これらの成果は、エコチル調査において活用し得る指標の提案、環境化学物質規制対策への提言に貢献できる。
(2)環境化学物質によるアレルギー疾患増悪メカニズムの解明とスクリーニング手法の開発
アレルギーの増悪要因に関する情報を広く提供することにより、国民の安全・安心の確保と経済的損失の縮小に役立つ。また、アレルギー増悪影響のスクリーニング手法を開発することにより、アレルギー疾患を増悪しうる環境化学物質の探索が容易となり、複数のアレルギー疾患モデルを用いた検討・解析の結果もあわせ、アレルギー疾患患者に対する新たな対策の提案や化学物質規制対策への提言、影響の未然防止に貢献できる。さらに、エコチル調査を補完し、疫学的観察事項に対し生物学的妥当性を付与すること、エコチル調査において小児アレルギー増加との関連を優先的に調査すべき対象物質を提案することにも貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

個々の研究対象についての科学的知見がそれなりに得られている点は評価できる。環境政策への貢献がどのようになされる可能性があるのかが不明であることから、成果の行政的活用方法とその道筋を意識した研究計画をたて研究を進める必要がある。少しテーマを絞り、影響のメカニズムとリスクとの関係をはっきりさせるとよい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a


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研究課題名: 【C-1151】可塑剤・難燃剤の曝露評価手法の開発と小児アレルギー・リスク評価への応用(H23〜H25)
研究代表者氏名: 岸 玲子(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ  近年アレルギー疾患の増加が問題になっており、その要因の一つとして合成化学物質の増加が懸念されている。本研究では、プラスチックに流動性をもたせる可塑剤や、燃焼から守る難燃剤として汎用されているフタル酸エステル類やリン酸トリエステル類に着目し、これらの化学物質曝露によるアレルギー症状への影響について明らかにすることを目的とする。具体的には①これら化学物質への人々の実際の曝露量を評価するため、環境中のダストのサンプリング手法および個人曝露量を評価するための尿中代謝物の分析手法を確立する。また②疫学研究により、フタル酸エステル類やリン酸トリエステル類曝露による子どものアレルギーのリスクの増加への影響を評価する。疫学研究は、2つの研究デザインで行う。すなわち、1つは学童を対象とした横断研究の形で曝露とアレルギー・リスクに関する研究を行い、もう1つは、出生コーホートを用いた前向き研究で、胎児期曝露によるアレルギー発症への影響を乳幼児期から学童期にかけて追跡的に明らかにする。本研究成果により日本における曝露実態に関する基礎データを提供し、フタル酸エステル類・リン酸トリエステル類の人へのリスク評価を行い、最終的には、環境基準の設定やリスク管理の科学的根拠を示すことが可能になる


図 研究のイメージ        
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■ C-1151  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1151.pdfPDF [PDF 339 KB]

2.研究の進捗状況

(1)可塑剤・難燃剤の環境曝露評価および尿中代謝物測定による生体曝露評価手法の開発
尿中のフタル酸エステル類代謝物(フタル酸モノエステル類)について、過去の文献検索から妥当な分析機器と検出器、カラムの選定、試料の前処理方法・分析条件等を検討し8化合物(MiBP、MEHP, 2cx-MMHP, MBzP, 5oxo-MEHP, MCPP, 2cx-MMHP, MnBP)を、0.025ng/mlまで分析できる手法を確立した。我々の分析技術開発においては、2つの特徴がある。①尿に標準溶液濃度を添加する簡易標準添加法を用いた検量線からの濃度計算の方法を報告した(過去の多くの論文報告は標準溶液による検量線から濃度を求めている)。②代謝物の抱合を切る技術として24時間かけて酵素反応を用いた方法を用いた。また低濃度レベルの測定を保障するための定量評価下限値の考え方を提案した。すなわち従来の算定法による定量下限値0.05 µg/mLを評価値とし、クロマトグラムのノイズ比から求めた0.005 µg/mLを評価可能値として採用した。サブテーマ(2)で収集したダスト128軒体についてフタル酸エステル類7化合物、リン酸トリエステル類11化合物の分析を実施した。平成23年度に確立した分析法を用いて、サブテーマ(2)で収集した尿450検体の分析を実施した。
(2)学童を対象とした可塑剤・難燃剤曝露による小児アレルギーのリスク評価
市立小学校に通う児童の自宅ダスト128検体、および児童とその家族全員の尿450検体を収集、ダスト中のフタル酸エステル類およびリン酸トリエステル類濃度、尿中フタル酸代謝物濃度を測定し、アレルギーとの関連を解析した。その結果、DEHPは各国より本研究の方が高い濃度、BBzPがドイツ、アメリカと同程度だった。鼻結膜炎は、床ダスト中のDnBP, DEHP濃度が高いとオッズ比が高く、調整後も有意な関連を示した。有機リン酸トリエステル類濃度は分析した11化合物中のうちTBEPは最も高頻度、かつ高濃度検出された。TBEP濃度の高値が喘息のオッズ比を有意に低下させた。喘息児の家は板の床材がそれ以外の床材よりも有意に多く、TBEPは板の床材の家でそれ以外の床材よりも濃度が高く、その結果、見かけ上TBEPがリスクを下げるような結果になったといえる。尿中フタル酸代謝物はいずれも年齢が小さいグループで濃度が高く、環境や食事も含めた個人曝露量は子どもの方が多かった。一方、小学生のアレルギーとクレアチニン補正尿中代謝物との間には調整後も有意な関連はなく、フタル酸エステル類曝露は経口曝露よりもむしろ局所での炎症への影響の方が大きい可能性があるが、今後より詳細な解析を行う。この集団では、アレルギーへの影響が懸念される室内環境要因(ホルムアルデヒド、VOC、微生物由来VOC(MVOC)、ダニアレルゲン、エンドトキシン、βグルカン)も検討し、このうちMVOCとされる2-methylfuran、3-methylfuran、3-octanolの濃度は喘息児の家で有意に高かったが(p<0.05)、性、学年、両親のアレルギー既往で調整すると有意な差はなかった。さらに、北海道で実施している2万人の大規模出生コーホート登録者のうち、7歳になる児童についてISAAC調査票を用いたアレルギー調査と、自宅ダストサンプルおよび尿サンプル収集の実施計画を立案し、1902人に調査協力を依頼した。今後、コーホート研究の中でnested症例対照研究の形で環境分析を実施することで、検出率が低い化合物についても、アレルギー症状へのリスクについての検討が可能となる。
(3)胎児期立ち上げコーホートを用いた可塑剤・難燃剤曝露によるアレルギー発現リスク評価
小規模出生コーホートの母児514組に対し、フタル酸エステル類のうち最も汎用性が高いDEHPの胎児期曝露評価として、妊娠23-35週の母の血中MEHP濃度を測定した。血中MEHP濃度は0.03556 nmol/mL(中央値)、0.01153-0.36529 nmol/mL(最小値-最大値)であった。母体血中MEHP濃度と臍帯血中IgE濃度、18カ月時の食物アレルギー、喘息、アトピー性皮膚炎、中耳炎発症との間には母の年齢、母父のアレルギー既往、採血時期、児の性別、在胎週数の調整後も有意な関連は認めなかった。今後は子どもの42ヵ月時のアレルギー・感染症へのリスク解析を実施し、ヒトでの次世代影響を明らかにする。

3.環境政策への貢献

 ①ヒト尿の代謝物を測定することにより低濃度のフタル酸エステル類曝露のヒト曝露レベルを総合的に評価することが可能になる。②フタル酸エステル類の環境汚染(体内吸収量)とヒトへの生体影響の解明に貢献することができる。③本研究では日本人を対象に初めてフタル酸エステル類とアレルギー性鼻結膜炎との関連を示した。④これまでにDEHPは海外で喘息などの健康影響が指摘されてきたが、本研究結果でダスト中DEHPおよび児童におけるその代謝物MEHP濃度は日本が欧米に比べむしろ高いことが示された。今後より詳細な解析を行うことで、曝露とアレルギー疾患の発症リスクとの関係を明らかにでき、その結果、我が国で、DEHPの種々の製品や建材への使用を規制する必要性があるかどうかについても、曝露レベルを踏まえて科学的なデータをもって政策への貢献が期待できる。
有機リン酸トリエステル類については、国際的にも我が国でもほとんどこれまで疫学的な検討がなされていないので、今後の研究、調査によって、環境曝露評価、尿中代謝物測定、アウトカムとの関連で十分なデータが得られれば、世界的にも環境政策上意義のある結果が得られるであろう。

4.委員の指摘及び提言概要

対象物質の曝露把握はかなり有意義なデータが出てきており、順調に進捗している。さらに例数を増やす等により明確な結果が出ることを期待する。影響があまりないという結果も大切であり、無理に影響があるような評価をしない注意が必要。社会的に関心が高い問題を含んでおり、社会に向けた成果の公表や国民との対話を積極的に行うとよい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a


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研究課題名: 【C-1152】戸外活動時間を考慮に入れた、土壌性ダスト(黄砂)による呼吸器/アレルギー疾患リスクの定量的評価(H23〜H25)
研究代表者氏名: 中山 健夫(京都大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究については、①目的:妊娠期・生後初期の黄砂曝露のアレルギー病態への短期的・長期的影響を明らかにする。さらに黄砂の影響の地域差や黄砂への感受性を決める因子を検索する。②研究対象:エコチル京都ユニット・富山ユニット・鳥取ユニットに参加する母児のうち、同意がとれたもの、③手法:子育て中の母親世代に広く普及しているケータイ端末のメール機能を使い、曝露時間等についてタイムリーな情報収集を行った上で黄砂の喘息「発症」や呼吸器・アレルギー症状への影響を評価する。


図 研究のイメージ        
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■ C-1152  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1152.pdfPDF [PDF 236 KB]

2.研究の進捗状況

①システムの構築
環境測定機器と連動させてタイムリーに曝露に影響する情報等を得るシステムを構築した。さらに、ソフト面の構築として、参加者のアンケート回答への意欲を高めるため、健康情報をメールに提供する試みを行った。この情報提供を通じて、「疫学調査」というものがどのように健康情報になり実際に人の役に立っていくのかを、実感できるように配慮した。結果、多くの参加者から「調査に積極的に参加したいと思った」等の感想を得、実際に、アンケートへの回答率は約90%と、非常に高い数字が得られた。
②リクルート
2012年6月28日までに3地域であわせて2205名をエントリー。現在、3地域でひと月あたり150〜200名程度をエントリーできる体制となっている。受託研究終了時には、約6200名のエントリーが達成できる。今後、さらにエントリー率を上昇させ、2014年3月末に9000例のエントリーが達成されるよう、進めていく。
③曝露情報取得開始
上記①のごとく、曝露に関連する予防行動要因をタイムリーに取得するシステムを構築し、実際に、黄砂飛来日及び対照日にアンケート回答依頼を延べ11446回発信。そのうち、9588回(約84%)にて回答が得られた。さらに、将来、黄砂を構成する各成分の健康への影響を検討できるように、粒子状物質のサンプリングを3地域で開始し、順調にサンプルを蓄積している。
次に、サブテーマ毎の検討課題について記載する。調査開始後1年の現時点では、黄砂観測日数が限られており、最終目標である黄砂の影響を評価することは難しいが、参加者の背景情報や生後初期の喘鳴の発現状況など重要な疫学データが得られている。今後、このままデータを蓄積していけば、期間内に計画通りの解析を行える予定である。
(1)小児における、土壌性ダスト(黄砂)による喘息「発症」及び喘鳴に対する影響
2012年4月30日までに213例が生後6ヶ月に達し、そのうちの199例から回答を得た。生後6ヶ月までの喘鳴の発現率は14%、そのうちの33%が3回以上繰り返す喘鳴であった。また全体の2%が既に医師から「喘息」あるいは「喘息性気管支炎」と診断されており、推進費期間終了時には解析に足る発症者数が得られることが予想された。
(2)妊婦における、土壌性ダスト(黄砂)の呼吸器アレルギー症状発現への影響
2012年4月30日までに、妊娠期の調査にも協力可能と回答した妊婦を、3地域で合計1041例登録し、延べ11446回、曝露要因及び呼吸器/アレルギー症状について問うアンケートを送付、9588回で回答を得た。黄砂日には、外にいた時間があった人の割合、窓を開けた時間があった人の割合、洗濯物の外干しや布団の外干しを行った割合は少なくなる傾向がみられた。
(3)妊婦における、土壌性ダスト(黄砂)の高感受性群の検索
2012年4月30日現在では、黄砂飛来日数が十分ではなかったため、黄砂の影響の解析を行うことは不可能であったが、妊婦の既往歴には喘息が10%近く、花粉症が40%程度、アトピー性皮膚炎が20%程度あり、これらの要因が感受性に及ぼす影響は、今後黄砂飛来日数が蓄積された際に解析可能となることが予想された。また、予防行動についても、空気清浄機使用例が20%前後あり、この影響についても解析可能となると予想される。
(4)土壌性ダスト(黄砂)の影響の地域差
学校保健調査では、鳥取は喘息有病割合が全国でもトップレベルであると報告されその真偽が議論されていたが、本調査においても、妊婦の既往歴の割合は、京都8.3%(N=445)、富山8.1%(N=714)、鳥取10.8%(N=471)と、鳥取で高かった。また、喘息のみならず、アトピー性皮膚炎やじんましんなどの他のアレルギー疾患や耳鼻科感染性疾患においても鳥取で既往割合が高いことが判明した。

3.環境政策への貢献

黄砂曝露が小児やアレルギー疾患に与えている短期的/長期的リスクを評価し、感受性を決める因子を検索するためのデータ構築システムはほぼ完成した。今後、リスクの大きさのみならず、感受性群の存在割合や、予防行動の効果、黄砂粒子の中でリスク上昇に寄与する成分の検討など、対策立案に役立つ情報を提供していきたい。
また、我々の調査では、調査の趣旨を参加候補者に理解していただく過程で、日本の一般的な子育て世代にとって「遠いよその国の問題」として捉えられがちな「砂漠化」の問題を、より身近な実際に自身の家族に直接的な影響を及ぼす可能性のある問題として考えていただくことができたと感じている。また、疫学調査に実際に参加する過程で、未来の環境のために自分たちにできることがあるということも実感していただけたと感じている。「子どもの健やかな成長」という共通した価値観・願いのもとに、広く国民レベル特に若い世代で環境保全への関心が得られたことは貴重であると考える。

4.委員の指摘及び提言概要

対象者とのシステム構築やシステムを用いた興味深いデータが得られつつあることなど、充分良いものが出来上がっていると評価される。エコチルの対象者が対象であるのでデータを統合することにより、成果を深められる可能性が期待できる。本研究が終了した後にも継続、発展できる方法(エコチル調査に組み込むなど)を議論し提言するとよい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【C-1153】母親と新生児を対象とする化学物質曝露のリスクと魚介類摂取のベネフィットの比較研究(H23〜H25)
研究代表者氏名: 八重樫 伸生(東北大学)

1.研究計画

研究のイメージ 「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の追加調査として、不飽和脂肪酸(PUFA)に関する栄養疫学を実施する。魚介類摂取を介した残留性有機汚染物質(POPs)やメチル水銀といった化学物質曝露が懸念されるが、魚介類にEPAやDHAなどのn-3PUFAといった栄養素も含まれている。妊娠女性の魚摂取のリスクとベネフィットの比較を目指す。
(1)疫学調査の実施とリスク・ベネフィット比較
エコチル調査の追加調査として疫学調査に取り組み、魚摂取のリスク・ベネフィット比較に取り組む。また、サブテーマ(1)〜(3)の調和と統括を担当し、研究計画の具体化、質問票作成、生体試料採取のプロトコル確立を行う。
(2)妊婦の脂肪酸摂取および児への移行
妊娠女性の脂肪酸摂取および児への移行の把握を目的とし、妊娠女性の末梢血および臍帯血の赤血球膜および母乳中脂肪酸の分析を実施し、母親の脂肪酸摂取と母児間移行について定量的な解析を実施する。
(3)妊婦期における脂肪酸代謝の解析
妊婦期における脂肪酸生合成ならびにその阻害要因に関する分子生物学的な解析を実施する。特に、リノレン酸からEPAおよびDHAへの生合成経路について、遺伝子多型を含む交絡要因を解析する。


図 研究のイメージ        
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■ C-1153  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1153.pdfPDF [PDF 330 KB]

2.研究の進捗状況

(1)疫学調査の実施とリスク・ベネフィット比較
エコチル調査全体調査の登録は順調であり、追加調査についても東日本大震災の影響で開始が遅れたが、順調に進行している。平成24年7月より新生児行動評価を開始した。質問票調査に加え、母体血、臍帯血および母乳を収集しサブテーマ(2)と(3)に試料提供を行っている。ゲノム疫学の倫理申請についても承認を得て進めている。
(2)妊婦の脂肪酸摂取および児への移行
多検体の赤血球膜PUFAを迅速に分析する方法を確立し、赤血球膜PUFA分析を開始した。母乳中脂肪酸分析についても方法を確立した。
(3)妊婦期における脂肪酸代謝の解析
脂肪酸生合成の阻害要因であるトランス脂肪酸の分析法を確立し予備検討を行うとともに、遺伝子多型の解析方法を確立した。

3.環境政策への貢献

ダイオキシン、PCBやメチル水銀といった環境中で蓄積しやすい化学物質について、近年は排出源対策が進み、公害型の汚染はすでにない。POPsについて、現在の主要な課題は、過去に排出され環境中に蓄積した化学物質のヒトへの取り込みが問題となっている。従って、環境行政として求められるものは、食の安全と安心の観点からのリスクコミュニケーションに活用可能な情報の構築にあると考えられる。POPsの主要な摂取経路は魚介類の摂取と考えられていることから、本研究では、これらの化学物質に対して脆弱と考えられる胎児と新生児に着目し、母親(妊娠女性)の魚介類の摂取のリスクとベネフィットに関する科学的なエビデンスの収集を目指す。
仮に、エコチル調査などからPOPsによる健康影響が観察された場合、ばく露の回避として魚介類摂取を抑制することが連想される。ただし、魚介類にはn-3PUFAなど児の成長と発達に有用と考えられる栄養素も含まれており、魚介類摂取の機械的な抑制は、児の成長と発達に必須な栄養素の欠乏という新たなリスクが生じることが懸念される(リスクのトレードオフ)。魚介類摂取のリスク(=化学物質ばく露)とベネフィット(=栄養素摂取)の両面性を明らかにすることが、リスクコミュニケーションに活用可能な情報の構築においても重要と考えられる。
最後に、エコチル調査では出生〜生後1年までの間に神経行動学的な評価は採用されていない。一方、海外における先行研究では、PCBばく露などにより新生児や乳児の神経行動学的なスコアの低下が報告されている。本調査では、サンプル数は限られるものの、エコチル調査に対しても神経行動学的な指標を提供可能である

4.委員の指摘及び提言概要

魚介類摂取による化学物質曝露のリスクとPUFAなどの栄養素のベネフィットを比較することは食の安全安心の視点から評価できる。一方、リスクとベネフィットをどのような指標で定量化するのか、具体的目標への最終的な解析方法の見通しが見えない。具体的な分析方法や結果の提示方法を考えることやエコチル調査への反映と継続をしっかり行うことが必要。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):b
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b


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研究課題名: 【C-1154】黄砂のヒト健康への影響に対する臨床および基礎研究の融合アプローチ(H23〜H25)
研究代表者氏名: 渡部 仁成(鳥取大学)

1.研究計画

研究のイメージ 黄砂が喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者、健常者に与える影響について、疫学調査、黄砂が喘息患者の気道の炎症に与える影響評価および基礎実験による検証、黄砂の成分解析を行い、総合的に黄砂がヒトに与える影響について検討する。
(1)黄砂飛散が気道炎症に与える影響についてBiomarkerによる評価
黄砂が喘息患者の気道炎症に与える影響について、アレルギー性気道炎症の指標である呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を測定すること、あるいは血液中、尿中の炎症性物質を測定することで評価する。
(2)黄砂飛散が喘息およびCOPD患者の症状および活動性に与える影響調査
黄砂飛散が喘息患者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者、健常者の眼、鼻、呼吸器症状に与える影響について疫学的な調査を行う.調査は鳥取県、兵庫県、福岡県、島根県で実施する。
(3)黄砂が気道炎症細胞および気道構成細胞に与える影響についての基礎的検討
白血球のうち喘息患者の気道炎症を司る好中球が黄砂によって活動性に変化を受けるか評価する。同様に気管支を構成する気道上皮細胞が黄砂粒子によって受ける影響について評価する。
(4)大気粉塵の量及び化学成分の季節的変動の解析
黄砂を含む大気粉塵の成分解析により黄砂の飛来並びに黄砂等粉塵に付着する金属成分、イオン、有機成分を明らかにする。


図 研究のイメージ        
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■ C-1154  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1154.pdfPDF [PDF 289 KB]

2.研究の進捗状況

(1)黄砂飛散が気道炎症に与える影響についてBiomarkerによる評価
 対象となった喘息患者のFeNOの測定を継続している.黄砂が飛散していない時期および2012年4月24日より黄砂飛散があり、黄砂飛散時のFeNOの測定を行った。今後、結果を集計し、黄砂が喘息患者の好酸球性気道炎症に与える影響について評価を行う予定にしている。血液中、尿中の炎症性物質は2012年3月末日までに黄砂飛散がなく測定できなかった.今後の黄砂飛散時に測定する予定である。
 対象となった喘息患者の非特異的IgE抗体、33種の特異的IgE抗体を測定した.黄砂の感受性因子についてatopy statusの関与を検討していく。松江市の小学校児童399名のピークフロー測定を2012年4月から5月(3月は練習期間)まで行い、結果を集計し、黄砂が児童の呼吸機能に与える影響について解析予定である。
(2)黄砂飛散が喘息およびCOPD患者の症状および活動性に与える影響調査
鳥取県、島根県、兵庫県豊岡市、福岡県苅田町に通院している喘息患者412例が2012年2月1日から順次所定の喘息日誌に毎朝のPEF値、4つの項目からなる呼吸器症状の記載および屋外での活動時間を記載している。喘息日誌は5月31日まで記載し、今後回収し結果を解析する。
 調査開始後、2012年4月23日から25日まで黄砂の飛散が観測された。412例のうち242例について黄砂飛散時の症状増悪について電話調査が実施した。242例の喘息患者のうち17.4%が黄砂飛散前に比較して喘息症状が増悪し、2例の患者では喘息発作のために救急受診が行われていた。
(3)黄砂が気道炎症細胞および気道構成細胞に与える影響についての基礎的検討
 アレルギー毒性評価が確立されている、ヒトT細胞由来のTHP細胞、Jurkat細胞およびヒト気道上皮細胞を標準黄砂および採取黄砂粉塵で刺激し、IL-2、、INF-γ、IL-8、TSP1などの分泌・産生を評価し、黄砂の毒性評価を行っている。また、好中球については評価をするための実験系を確立した。
(4)大気粉塵の量及び化学成分の季節的変動の解析
 福岡県、鳥取県、富山県において大気粉塵を捕集し、大気粉塵量、粉塵中の金属成分、イオン成分、有機成分の解析を開始している。地域毎に大気粉塵中の濃度は異なっていた。後方流跡線解析の結果からは、黄砂が飛来していないときにも大気由来の粉塵が本邦へ流入しており、その粉塵には様々な金属成分、イオン成分が付着していた

3.環境政策への貢献

黄砂が単なる気象現象ではなく、ヒトの健康、特に喘息の増悪因子であることを示した。さらに、黄砂以外でも大陸から産業活動が原因と考えられる様々な大気汚染物質が本邦へ流入していることを明らかにした。アレルギー疾患の増加は大きな社会問題であるが、その原因の一つに黄砂があることを示したことは、今後のアレルギー疾患対策に貢献できる。また、環境問題は国際的にも大きな問題であるが、複数の国が関わる大気汚染およびそれによる健康被害を示すことは、本邦が進める環境政策に貢献できるものと考える。
小学校児童の呼吸機能に黄砂が与える影響に関する調査ついては松江市教育委員会と共同で研究を推進しており、松江市の学校保健事業に貢献している。近年、保護者あるいはマスメディアから黄砂飛散時の園児、児童の屋外活動に対する安全性について我々の施設への問い合わせが増えている。結果が明らかになれば、教育関係者、保護者に適切な情報を提供できる。

4.委員の指摘及び提言概要

黄砂の呼吸器系への影響について、臨床的にもしっかりとした成果が出され順調に進捗している点や影響のメカニズムの解明につながる可能性があることは評価される。従来行われてきた研究が主であり関連研究や先行研究との関係を明らかにしたうえで最終目標や目標に至る手法を明確にすることが必要。他の関連する研究課題との情報交換も密接に行っていくとよい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):b


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研究課題名: 【C-1155】黄砂エアロゾル及び付着微生物・化学物質の生体影響とそのメカニズム解明に関する研究(H23〜H25)
研究代表者氏名: 市瀬 孝道(大分県立看護科学大学)

1.研究計画

研究のイメージ 本研究では、黄砂エアロゾル及び分離微生物や化学物質を用い、細胞毒性、呼吸器系、免疫・アレルギー、雄性生殖器系等への影響を評価し、黄砂エアロゾルによる種々の生体影響を生物学的・化学的・物理的側面から多角的に解析して、その発生メカニズムを解明する。
(1)黄砂エアロゾル及び付着微生物・化学物質による呼吸器系・生殖器系・免疫系への影響とそのメカニズム解明
①黄砂粒子、分離微生物、化学物質を用いたマクロファージによる炎症増悪因子のスクリーニング実験、喘息・花粉症モデルを用いたアレルギー増悪実験、遺伝子改変マウスを用いた黄砂のアレルギー増悪メカニズム解明実験を行う。
②精巣・精巣上体で発現変動する遺伝子・タンパク質を解析し、雄性生殖機能の悪化とそのメカニズムを解明し、影響指標を確立する。

図 研究のイメージ        
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③気道上皮細胞、脾臓細胞、抗原提示細胞に黄砂やその含有成分を曝露し、健康影響を実験的に評価するとともに、生物・化学・物理的要因による健康影響の相違を検討し、健康影響を規定する要因の絞り込みと増悪メカニズムを解析する。
(2)黄砂付着微生物の解析とその毒性物質の検出に関する研究
石川県珠洲市上空のバイオエアロゾルを係留気球や航空機を用いて黄砂を直接採取し、生物分析結果から人に影響を及ぼす微生物の検索を行う。この黄砂サンプルを用いてアレルギーに関係のある微生物由来物質の定量および毒素遺伝子の検出を行う。また黄砂から分離した付着微生物をサブテーマ1に提供し生体影響とメカニズム解明をサポートする。
(3)黄砂エアロゾルに含まれる化学物質の計測とその細胞毒性に関する研究
黄砂エアロゾルの生物・化学・物理学的性状の究明、細胞培養試験などによるそれらの毒性評価を行う。化学物質の分析は多環芳香族炭化水素、ニトロ多環芳香族炭化水素等に焦点をあて、形態観察を行うと共に黄砂エアロゾル及び抽出化学成分の免疫担当細胞に対する毒性試験を行う

■ C-1155  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/C-1155.pdfPDF [PDF 359 KB]

2.研究の進捗状況

(1)黄砂エアロゾル及び付着微生物・化学物質による呼吸器系・生殖器系・免疫系への影響とそのメカニズム解明
炎症増悪因子のスクリーニング実験において黄砂から検出されたノカルジア菌(アルカリ放線菌)が黄砂による炎症惹起と関連していることを突き止めた。気管支喘息・花粉症モデル実験ではビルカンデラ菌(キノコ菌)がアレルギー炎症を増悪し、この菌自身がアレルゲンとなることを突き止めた。またその量-反応試験では、菌体成分が黄砂中に0.2%含まれていればアレルギー反応が増悪され、2%以上になれば気道のリモデリング(不可逆的気道障害)へと進行することが分かった。更に黄砂粒子自身にもビルカンデラ菌や卵白アルブミン(OVA)によって誘導されるアレルギー反応を高める作用があることを明らかにした。各黄砂イベントにより黄砂付着成分や含有量が異なっており、この違いによってアレルギーへの影響や雄性生殖機能に生じる影響が異なること、さらに、妊娠マウスに黄砂を曝露すると、雄性出生仔数が低下し、雄性生殖機能も低下することを初めて見いだした。気道上皮細胞を用いた実験でも各黄砂イベントによる付着成分の違いによって影響が異なり、加熱処理により不活化しうる付着微生物や化学物質が健康影響の相違や変動に寄与する可能性を明らかにした。
(2)黄砂付着微生物の解析とその毒性物質の検出に関する研究
これまでに健康影響評価が難しかった黄砂バイオエアロゾルに関して、係留気球や航空機を用いた直接採集と多角的な生物分析(①分離培養・同定、②メタゲノム解析、③耐塩性細菌分析)、更に定点観測による大気中のDNA濃度測定、DNAをテンプレートとしたリアルタイムPCRを用いた毒素遺伝子検出法の開発によって、これまでなかった微生物に対する健康影響評価が可能になった。現在迄に人の健康に影響する微生物は検出されていない。
(3)黄砂エアロゾルに含まれる化学物質の計測とその細胞毒性に関する研究
黄砂エアロゾルの分析から各黄砂イベントによって黄砂の生物・化学・物理的性状に違いがあることが明らかとなり、これらがヒトの健康影響の違いに寄与する可能性を示唆した。また、毒性試験では黄砂が免疫担当細胞の脾細胞にオートファジーやアポトーシス等の細胞死に影響を及ぼすことを初めて明らかにした。更に黄砂や黄砂付着微生物(ビルカンデラ菌)がマクロファージ上の病原体分子パターン認識受容体を刺激・活性化することを初めて明らかにし、自然免疫や後の獲得免疫の活性化に繋がる可能性を示した。

3.環境政策への貢献

(1)黄砂エアロゾル及び付着微生物・化学物質による呼吸器系・生殖器系・免疫系への影響とそのメカニズム解明
黄砂のアレルギー増悪要因が黄砂に付着した微生物であることや黄砂から有害成分を取り除いたミネラル粒子自身にもアレルギー反応を高める作用があること、黄砂付着真菌がアレルギー抗原となりうることが明らかになったエビデンスは、黄砂現象時にアレルギー疾患が悪化するという疫学調査の結果に生物学的妥当性を付与するものである。また、各黄砂イベントによる成分の相違がアレルギー反応、雄性生殖機能や気道上皮等への影響の相違に寄与する結果は、行政による黄砂の健康影響や健康被害を見極めるための知見となる。
(2)黄砂付着微生物の解析とその毒性物質の検出に関する研究
係留気球や航空機を用いた黄砂バイオエアロゾルの直接採取と三種の生物分析、定点観測による大気中のDNA濃度測定やダイレクトな毒素遺伝子検出法の開発により、人に影響を及ぼす微生物の探索が容易となり、バイオエアロゾルに対する健康影響評価が可能となった。今後、大陸から運ばれて来る種々多様な微生物や人畜の健康に影響をおよぼす微生物を解析・毒素遺伝子を検出することが出来れば、健康被害の予測・防止に貢献できる。
(3)黄砂エアロゾルに含まれる化学物質の計測とその細胞毒性に関する研究
各黄砂イベントによって黄砂の生物・化学・物理的性状に違いがあり、これらの性状が黄砂の健康影響因子となりうることから、行政による健康影響の見極めとその予防対策に役立てられることができる。また、黄砂の性状を情報提供することで国民の安全・安心に寄与することがきる。
 全体としては研究成果を国民に情報提供することによって黄砂の危険性を警鐘・周知することができる共に黄砂飛来時の自己防衛、予測システムや予防対策の政策に繋げることができる。また本研究成果は日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)、三カ国黄砂局長会合や三カ国黄砂共同研究等における国際的な黄砂問題を解決するための基礎資料となり、政策の立案に貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

時期の異なる2種の黄砂の比較、加熱による効果など一定の成果を出していることから順調に進捗していると考えられる。また、黄砂の中の何が影響に関係しているか明確になる可能性を持つことも評価される。一方、微生物や化学物質の計測を行っているが、定量的な影響評価と結び付く解析が必要。また、他の黄砂研究との連携を行うことが重要

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a 
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b


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