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3.信頼性確保の手法・仕組みに関する検討

 2章で見たように環境報告は急速に普及しつつある。これを一層発展させていくためには、有効な媒体としての環境報告の位置づけを高め、定着化を図っていく必要があり、そのためには、環境報告の信頼性を高めていくことも重要である。

3.1 信頼性確保のための様々な方策

 環境報告の信頼性を確保していくためには、以下のように様々な手法や仕組みが考えられ、先駆的な企業によって、既にこれらの取組が始められつつある。
 これらの手法や仕組みのどれに、どのように取り組んでいくかは、作成者の業種、特性及び報告内容等に応じ、作成者が判断していくべきものと言える。

3.1.1 双方向のコミュニケーション手段の確保

 環境報告書に関する各種のガイドラインの影響もあり、既にほとんどの環境報告書において、発行年月日、次回発行予定、問い合わせ先等が明記されている。さらに最近発行された報告書では、意見送付用等のアンケート用紙やはがきを添付し、読者からの意見や要望を積極的に聴取するという姿勢を明確に表しているものが増えつつある。また、インターネット等を利用し、双方向のコミュニケーション手段を確保している事業者も多い。
 このように発行された環境報告書の双方向のコミュニケーション手段を確保し、利害関係者の意見や質問等に積極的に対応していくことは、信頼性確保に当たっての最も基本的な手法であると言える。
 また、環境報告書に掲載される最終的な情報のみならず、その元となる種々のデータにもアクセスすることが可能であれば、情報全体の信頼性が大いに高まることになる。こうした手法も今後の検討課題の一つと考えられる。

3.1.2 中立的に定められた基準に則った作成

 環境報告は、個々の作成者が、自らの業種、特性及び対象者等に応じて工夫しながら作成することが重要であるが、一方である程度の共通性、比較可能性も必要であると考えられる。また、報告内容について、ある程度の網羅性が、社会的に求められている。
 従って共通的なガイドラインに則って環境報告書を作成し、その旨を明記することにより、報告書の比較可能性や網羅性が高まり、信頼性を高めていくことに資すると考えられる。既に、PERI等のガイドラインに則って作成し、これを明記している例が見られ、また、GRIのガイドライン案を活用する動きも出てきている。
 さらに、今後、業種や規模等の特性に応じた環境パフォーマンス評価の指標が整備されれば、これに則り情報を掲載していくことも有効と考えられる。

3.1.3 厳格な内部管理の実施とその公表

 環境マネジメントシステムや環境情報の収集・管理のシステム、さらには、環境パフォーマンスについて、その内部管理の基準及び内部監査の基準等を厳しく設定して、これに基づいて、内部管理・監査を厳格に実施することが、環境報告の信頼性の基盤である。
 さらに、こうした内部管理・監査の基準や監査結果等を環境報告書において公表すれば、環境報告書の信頼性を一層高めることに資すると考えられる。先駆的な事業者においては、このような取組が始められている。

3.1.4 第三者レビュー

 環境報告書について、その正確性、網羅性等に関し中立的・独立的な第三者による検証や第三者意見表明等の第三者レビューを受けることにより、信頼性を高めることができる。欧米及び我が国の事業者において、様々な取組の事例も増えつつある。
 こうした取組は積極的な試みとして評価されるが、一方、検証等は社会に対して信頼性を「保証」するという側面を有しており、もし安易かつ無秩序に広がれば混乱を生じるおそれもある。また、その費用と労力が多大であればかえって環境報告書そのものの普及を妨げることになるおそれも否定できない。
 従って、この取組については、実態を把握し、望ましいあり方を慎重に検討することが必要と考えられる。このため次に3.2.2として検討を行う。

* 第三者レビューに関する用語について
 第三者による審査等の取組については、検証、監査、第三者意見表明等と様々な用語が用いられているが、これらの用語の定義は明確にはなされていない。また、「第三者」という用語そのものの定義も明確ではない。便宜上、ここでは、このような取組全体を「第三者レビュー」、その過程を「審査」、環境報告書に書かれた文面を「第三者意見」と呼ぶこととする。今後、関連する用語の整理、定義を行っていくことが必要である。

3.2 第三者レビューの実態と課題

3.2.1 第三者レビューの現状

3.2.1.1 国際的な状況

 EUでは、1993年にEU規則により整備された「環境マネジメント・監査制度(EMAS)」により、公認の環境検証人による環境報告書の検証の制度が施行されている。EMASへの参加事業所は、既に3,000を超えている(参考2参照)。
 UNEP等では、1994年、96年及び97年に環境報告書に関し調査を行っている。93~94年に調査した100社の中で検証を受けているのは4社だったが、97年には100社中28社となっており、7倍の増加を示している。 本検討会では、第三者レビューの国際的な実施状況を把握するため、英国のSustainAbility社及び環境監査研究会の協力を得て、様々な事例を収集し、整理を行った。合計で50件の第三者意見の事例を入手し、そのうち特徴的なものを分類・整理したのが参考3である。第三者レビューの方法には多種多様なものがあり、分類には様々な座標軸が有り得るが、特徴的なケースとしては、以下のようなものを挙げることができる。

  • 環境報告書に掲載された情報の正確性等を確認したもの。主に会計監査法人等がデータの検証、または環境監査プロセスのチェックを実施している。
  • 情報の正確性に加え、網羅性(重要な側面をカバーしているか)、EMS や環境対策の状況を審査し、第三者意見において具体的な改善の余地についても記述している。主に環境関係のコンサルタント会社が実施している。
3.2.1.2 我が国における状況

 我が国でも、1995年頃から様々な取組事例が出てきている。主な例としては以下のようなものがある(参考4参照)。

  • (1)生活協同組合における環境監査委員会監査

     1993年頃より、生活協同組合において、外部の学識経験者及び組合員代表からなる「環境監査委員会」が監査を行うという独自の制度が実施されている。監査に当たって、環境への取組の状況、目標の達成状況、次年度の目標等の環境パフォーマンスを審査している。委員会での質疑を通して環境報告書の改善が図られているが、データの正確性の監査は行われていない。
     環境報告書には、監査結果をまとめた詳細な「環境監査所見」とこれを受けた経営層の「改善の方向性についてのコミットメント」が記載されている。

  • (2)学識経験者等からなる委員会における全般的な意見聴取

     1993年より、電力会社において、外部の学識経験者等からなる委員会(「顧問会」や「懇話会」と呼ばれている。)において、環境保全の取組全般及び環境報告書全般について意見を得て、その結果(委員会において出された意見を会社側が集約したもの)を環境報告書に掲載するという取組が行われている

  • (3)学識経験者等による環境パフォーマンスに関する第三者意見

     1996年より、流通業の企業において、学識経験者及び環境問題の専門家等が個人として環境パフォーマンスについて評価するという取組が始められている。評価の視点は、目標の達成状況、取組の実施状況、次年度の目標といった環境パフォーマンスであり、環境報告書そのものを直接監査するものではないが、環境報告書には監査結果を取りまとめた詳細な「環境監査所見」が掲載されている。

  • (4)会計監査法人等による第三者意見

     1998年秋から、会計監査法人又はその子会社が環境報告書に記載された情報の正確性等を検証する取組が、複数の企業において実施されている。審査は、公認会計士、ISO環境審査員、環境計量士等がチームを組んで実施している場合が多く、報告されている情報の収集過程と集計方法、及びその内容についてチェックしている。
     環境報告書に掲載する第三者意見では、情報の集計等については「適切に集計」、「合理的に把握、集計」等の評価をし、掲載情報そのものについては「根拠資料と矛盾していない」、「関連資料と整合」等の評価をし、これを「意見」としているのが一般的である。

  • (5)複合的な取組

     1999年秋には、食品メーカーにおいて、上記③(環境問題の専門家による環境パフォーマンスに関する第三者意見)と④(会計監査法人等による第三者意見)とを同時に実施する取組が始められた。なお、このうち③と併せて、GRIガイドラインに照らした環境報告書の網羅性に関する評価が行われている。

3.2.2 第三者レビューの基本的な類型

 以上のように、国内外において第三者レビューの事例が増加してきており、その目的や手法は多様なものとなっている。ここで、これらの事例を踏まえて、様々な第三者レビューに含まれる主要な要素に着目して、4つの基本的な類型に分類を試み、その主な特徴を整理してみる。実際には、これらが別々に実施されるとは限らず、複数が複合した形で実施される場合も多い。(類型ごとの手法等については参考5参照)。

  • (1)環境報告書に記載された「情報の正確性」の審査

     環境報告書に記載された環境情報等について、その正確性を審査し、保証するものである。
     記載された情報の正確性の確認なので、ある程度客観的な審査が可能と考えられる。一方、記載された情報の正確性の保証だけでは、費用対効果等の観点で意義が小さいという意見もある。また、用語や基準が整理されていないため、保証の程度等について誤解を与えるおそれがある(3.2.3①参照)。

  • (2)環境報告書の「報告内容の網羅性」の審査

     環境報告書の報告内容について、環境保全上重要な事項が適切に盛り込まれているか等について審査し、保証するものである。
     こうした観点からの保証ができれば、環境報告書の信頼性を確保する上での意義は大きいと考えられる。一方、共通的な事項については共通的なガイドラインに照らした審査が可能だが、業種や事業者毎の特性を反映した審査をするには、拠り所となる基準がなく、「保証」を行うような客観的な審査は難しい面がある。

  • (3)実際に行われている「対策内容の適切性」の審査

     実際に行われている環境対策の内容(環境パフォーマンス)について、その妥当適切性を審査し、見解を第三者意見として表明するものである。
     環境パフォーマンスの水準について保証することは困難なので、第三者としての見解の表明にとどまると考えられる。一方、このような審査により、取組のあり方についての意見を得ることの意義は大きいという意見もある。

  • (4)規制等の「要求事項の遵守状況」の審査

     実際に行われている環境対策について、環境規制又はその他の要求事項(産業界の自主的行動計画等)の遵守状況を審査し、保証確認するものである。
     規制については、本来、地方自治体等により監視が行われており、不必要であるとの意見がある。一方、利害関係者は規制等の遵守状況に関心があり、意義があるとの意見もある。

* (3)及び(4)は環境報告書そのものの審査ではないが、(1)や(2)と組み合わせてこれらの要素を含んだ審査が同時に行われ、その結果が合わせて第三者意見として環境報告書に掲載されることが多いこと等から、同種の取組として整理した。

 以上、環境報告書の第三者レビューの分類・整理を行った。これらのうちどれを重視するかは、環境報告に取組者が自ら判断するものである。また、今後、これらの具体的な内容について、さらに検討を行っていくことが必要である。

3.2.3 今後の課題

 第三者レビューには上記のようにいくつかの基本的な要素があると考えられるが、全体を通じて、次のような様々な課題が残されている。第三者レビューについて健全な発展を図っていくには、こうした課題について、今後、様々な取組と経験や試行を積み重ねながら、検討を進めていくことが重要である。

  • (1)審査の意義・内容や保証の程度についての期待の差異

     第三者レビューに関する用語は定義がなされていないのが現状であり、第三者意見における用語も定まっておらず、その受け取り方も人により様々である。
     また、第三者レビューの手法や範囲については、会計監査のような明確な基準は確立されておらず、報告書作成者と審査を行う機関等との間の契約によって決まることとなる。このため、これらの者の方針や意向により、手法や範囲が異なることとなる。
     このため、第三者レビューの意義・内容や保証の程度については、様々な場合があるにも関わらず、その違いが環境報告書の読者には分からず、誤解を与えるおそれがある。特に、これらの問題に十分な知識のない一般消費者等は、審査の内容に関わらず、環境報告書の審査を受けた企業が「環境先進企業」であると安易に認識してしまうことが懸念される。
     こうした問題を避けるため、現時点ではまず、第三者レビューの目的や手法について第三者意見表明の中で明示的に説明することが必要と考えられる。また、審査を行う機関において、それぞれが審査を実施する際の基準を公開することも期待される。そして、今後、審査の手法(複数のオプションが有り得る)について共通的な考え方を形成していくとともに、関連する用語について整理、定義を行っていくことが必要と考えられる。

  • (2)コストとベネフィット

     第三者レビューには、環境報告書等の信頼性を向上させるというベネフィットがある一方、作成者には追加的なコストがかかる。これらのコストとベネフィットがバランスのとれたものとならなければ、取組が広がることは期待できず、また、作成者に不適切な負担を強いるおそれもある。
     第三者レビューを適切に実施していくには、目的から見て必要十分で、不要なコストのかからない、合理的な手法と実施体制のあり方を検討していくことが重要であると言える。

  • (3)審査実施者の資質

     環境報告書の第三者レビューを実施するには、審査(特に情報に係る審査)の実務、環境問題(特に環境パフォーマンス)に関する知識、対象業種の環境対策に関する十分な知識等が必要と考えられるが、我が国ではこうした資質を保証する資格はなく、現状では、環境問題の有識者が個人として、又は公認会計士、ISO環境審査員、環境計量士が便宜的に審査を行う例が多い。
     こうした中で、審査を行った者がどこまでの責任を負うのかについても、考え方が明確化されていない。
     信頼性の高い第三者レビューを実現していくに当たっては、第三者レビューを実施する者の一定の資質を確保するための何らかの仕組みが検討される必要があると考えられる。

  • (4)審査の対象

     環境報告書に環境会計を含めるケースが増えつつあり、今後は環境会計の審査も、環境報告書等の審査に含まれてくることが考えられる。また、環境報告が企業全体の年次報告の中で行われる事例も出てくると想定される。このような幅広い環境報告の審査についても、今後、検討していくことが必要であると考えられる。
     さらには第三者レビューも含めた環境報告書の促進方策と、その前段階における環境マネジメントシステムの構築や実際の環境への取組等との、有機的な結合・連携の確保を考えていくことも重要である。


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