1.5℃目標の達成を目指し、炭素中立型経済社会への移行を加速することは重要といえます。我が国は、1.5℃目標と整合的な形で、「2050年カーボンニュートラル」「2030年度46%削減、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」という目標を掲げており、2022年度時点で2013年度比22.9%削減と着実に実績を積み重ねてきています。目標達成に向けて、2035年までの電力部門の完全又は大宗の脱炭素化というG7の合意も踏まえつつ、地球温暖化対策計画、さらにはGX推進戦略等に基づき、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限導入など脱炭素電源への転換を進めるとともに、脱炭素成長型経済構造移行債(以下「GX経済移行債」という。)を活用した20兆円規模の先行投資支援をはじめとする成長志向型カーボンプライシング構想の速やかな実現・実行等、引き続きあらゆる施策を総動員していきます。
一方、2050年ネット・ゼロ実現に向け、気候変動対策が世界全体として着実に実施され、世界の気温上昇が1.5℃程度に抑えられたとしても、熱波のような極端現象や大雨等の変化は避けられないことから、現在生じている、又は将来予測される被害を回避・軽減するため、気候変動への適応や気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(ロス&ダメージ)への対応についても、緩和策と同様に喫緊の課題として取り組むことが必要です。このため、多様な関係者の連携・協働の下、気候変動適応法及び気候変動適応計画を礎として気候変動適応策を着実に推進していきます。
我が国が有する技術・ノウハウを活用し、官民で連携しながら、世界規模でのネット・ゼロの実現に貢献するとともに、新たな市場・需要を創出し、我が国の産業競争力を強化することを通じて、経済を再び成長軌道に乗せ、将来の経済成長や雇用・所得の拡大につなげることが求められています。
UNEP(国連環境計画)が公表する「Emissions Gap Report 2023」によれば、2022年の世界の温室効果ガス総排出量は、前年から1.2%増加し、全体でおよそ574億トンCO2となり、過去最高に達しました(図2-3-1)。この増加率は、2000年代の年平均増加率であった2.2%に比べると鈍化傾向ですが、COVID-19パンデミック前の10年間(2010~2019年)の年平均増加率0.9%をわずかに上回っています。大気中の温室効果ガス濃度は上昇が続いており、1.5℃目標達成のためには、速やかで持続的な排出削減が必要であり、特に今後10年間の対策が重要であると述べています。
我が国の2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(温室効果ガス排出量から吸収量を引いた値)は、10億8,500万トンCO2換算であり、2021年度から2.3%(2,510万トンCO2換算)減少しています(図2-3-2)。その要因としては、産業部門、業務その他部門、家庭部門における節電や省エネ努力等の効果が大きく、全体では、エネルギー消費量が減少したこと等が挙げられます。また、2013年度からは22.9%(3億2,210万トンCO2換算)減少し、オントラック(2050年ネット・ゼロに向けた順調な減少傾向)を継続しています。
[Excel]
2022年度の森林等からの吸収量は、5,020万トンCO2換算で、2021年度比6.4%の減少となりました。これは、人工林の高齢化による成長の鈍化等が主な要因と考えられます。
なお、2022年度の温室効果ガス排出・吸収量の国連への報告においては、世界で初めて、ブルーカーボン生態系の一つである海草藻場及び海藻藻場の吸収量を合わせて算定し、約35万トンCO2の値を報告したほか、環境配慮型コンクリートについても、同じく世界で初めて吸収量(CO2固定量)を算定し、約17トンCO2の値を報告しました。
コラム:多様な価値を持つブルーカーボン生態系
海草や海藻といった沿岸及び海洋の生態系は、光合成を行う際に二酸化炭素を吸収・固定することができるため、「ブルーカーボン生態系」という名称で、地球温暖化対策の新たな切り札の一つとして注目されています。
ブルーカーボン生態系の生育は、海水を通じた二酸化炭素の吸収・固定につながるだけでなく、水質の改善、生態系の保全、地域ぐるみの環境教育の場としての活用、漁場環境の維持・改善等、多面的な価値を有しています。
我が国は、2050年ネット・ゼロ(温室効果ガス排出の実質ゼロ)、循環経済(サーキュラーエコノミー)、自然再興(ネイチャーポジティブ)という3つの統合的推進を目指しており、ブルーカーボンに関する取組は、まさにこの統合的推進に向けた非常に重要な取組として、政府を挙げて推進していくこととしています。
GXの実現を通して、2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年ネット・ゼロの国際公約の達成を目指すとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換の実現、さらには、我が国の産業構造・社会構造を変革し、将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現すべく、官民の持てる力を総動員し、GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していきます。
将来にわたってエネルギー安定供給を確保するためには、エネルギー危機に耐え得る強靱(じん)なエネルギー需給構造への転換が必要です。そのため、化石エネルギーへの過度な依存からの脱却を目指し、エネルギーの安定供給の確保を大前提として、徹底した省エネの推進、再エネの主力電源化、原子力の活用等に取り組んでいきます。
また、国際公約達成と、我が国の産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けては、様々な分野で投資が必要となります。その規模は、一つの試算では今後10年間で150兆円を超えるとされ、この巨額のGX投資を官民協調で実現するため「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現・実行していく必要があります。具体的には、「成長志向型カーボンプライシング構想」の下、「GX経済移行債」等を活用した20兆円規模の大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策等)を行っていくとともに、カーボンプライシング(排出量取引制度・炭素に対する賦課金)によるGX投資先行インセンティブ及び新たな金融手法の活用の3つの措置を講ずることとされています。
これらの早期具体化及び実行に向けて、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(GX推進法案)」、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(GX脱炭素電源法)」が2023年5月に成立し、同年7月には、GX推進法に基づいて「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)を閣議決定しました。また、同年10月には、東京証券取引所において、カーボン・クレジット市場が開設され、J-クレジットを対象とした売買が開始されました。さらに、同年12月、「GX経済移行債」を活用した「投資促進策」の具体化に向けて、重点分野ごとのGXの方向性や投資促進策等を示した、分野別投資戦略を取りまとめました。2024年2月には、GX経済移行債の個別銘柄であるクライメート・トランジション利付国債の初回入札が行われました。調達された約1.6兆円は、令和4年度補正予算及び令和5年度当初予算の該当事業に充当される予定です。今後も、これらの「成長志向型カーボンプライシング構想」の実行により、官民協調でのGX投資を促進するなど、我が国のGXへの取組を加速していきます。
2050年ネット・ゼロの実現に向けて、特に地域の取組と密接に関わる「暮らし」や「社会」分野での施策を中心に取りまとめた「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月国・地方脱炭素実現会議決定)に基づき、脱炭素先行地域の実現を進めています。脱炭素先行地域とは、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてそのほかの温室効果ガス排出削減についても、我が国全体の2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現する地域であり、全国で脱炭素の取組を展開していくためのモデルとなる地域です。2025年度までに少なくとも100か所選定し、脱炭素に向かう地域特性等に応じた先行的な取組実施の道筋をつけ、2030年度までに取組を実行します。これにより、農村・漁村・山村、離島、都市部の街区など多様な地域において、地域課題を同時解決し、地方創生に貢献します。2023年度までに4回の募集により73の脱炭素先行地域を選定しています(写真2-3-1、写真2-3-2、写真2-3-3、図2-3-3)。
「地域脱炭素ロードマップ」に基づくもう一つの施策の柱が、脱炭素の基盤となる重点対策の全国展開です。2030年度目標及び2050年ネット・ゼロの実現に向けては、脱炭素先行地域だけでなく、全国各地で、地方公共団体・企業・住民が主体となって、排出削減の取組を進めることが必要です。あらゆる対策・施策を脱炭素の視点をもって取り組むことが肝要ですが、特に、屋根置きなど自家消費型の太陽光発電の導入、住宅・建築物の省エネルギー性能の向上、ゼロカーボン・ドライブの普及等の脱炭素の基盤となる重点対策の複合実施について、国も複数年度にわたって包括的に支援しながら各地の創意工夫を凝らした取組を横展開し、全国津々浦々で実施していくことにしています。2023年度までに、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」にて、110の地方公共団体における脱炭素の基盤となる重点対策の加速化を支援しました。
地域の脱炭素化に向けて、国は、人材、情報・技術、資金の面から積極的に支援していく方針です。
人材面では、環境省において、地域の脱炭素を進める人材育成のための研修を行っているほか、地方公共団体と企業のネットワークを構築するためのマッチングイベントの開催、地方公共団体への「脱炭素まちづくりアドバイザー」の派遣を行っています。また、内閣府において、地方創生人材支援制度によりグリーン専門人材の派遣を行うほか、総務省と環境省において、自治大学校の協力を得て地方公共団体職員向けの地域脱炭素に係る研修を行うなど、関係省庁と連携して、人的な支援を行っています。
情報・技術面では、再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)により、地域再生可能エネルギーの案件形成の基盤として、自治体支援に向けたサイト改修を行うとともに、地域経済循環分析ツールを提供し、再生可能エネルギーなど地域資源を活用し、地域のお金がどうしたら地域で循環するかという地域経済循環の考え方を普及させ、地方公共団体による地域に貢献する脱炭素事業の計画を促進しています。
資金面では、2022年度当初予算に創設した脱炭素先行地域づくりや脱炭素の基盤となる重点対策を支援する「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を増額するとともに、脱炭素先行地域において民間裨(ひ)益型自営線マイクログリッドを構築する地域における排出削減効果の高い主要な脱炭素製品・技術の導入を支援するために2023年度に創設された「特定地域脱炭素移行加速化交付金」も増額を行い、それらを合わせ「地域脱炭素推進交付金」として2024年度当初予算に計上しており、民間と共同して意欲的に脱炭素に取り組む地方公共団体を支援していきます。また、総務省において2023年度に創設した脱炭素化推進事業債について、再生可能エネルギーの地産地消を一層推進するため、2024年度から地域内消費を主たる目的とする場合、第三セクター等に対する補助金を対象に追加することとしました。加えて、地域における再エネの最大限の導入を促進するため、地方公共団体による脱炭素社会を見据えた計画の策定等を補助する「地域脱炭素実現に向けた再エネの最大限導入のための計画づくり支援事業」を実施しています。
国の積極支援に当たっては、地域の実施体制に近い立場にある国の地方支分部局(地方農政局、森林管理局、経済産業局、地方整備局、地方運輸局、地方環境事務所等)が水平連携し、各地域の強み・課題・ニーズを丁寧に吸い上げて機動的に支援を実施します。具体的には、各府省庁が持つ支援ツールと支援実績・実例等の情報を共有し、協同で情報発信や地方公共団体等への働きかけを行います。また、複数の主体・分野が関わる複合的な取組に対しては各府省庁の支援ツールを組み合わせて支援等に取り組みます。さらに、2022年度から、地方環境事務所に地域脱炭素創生室を創設することで、こうした関係府省庁との連携も通じた脱炭素先行地域づくりについて、地方公共団体が身近に相談できる窓口体制を確保し、相談対応や案件の進捗状況を地方支分部局間で共有しながら連携して対応しています。
地域の脱炭素化を進めていく上では、再生可能エネルギーの利用の促進が重要ですが、一部の再エネ事業では環境への適正な配慮がなされず、また、地域との合意形成が十分に図られていないことなどに起因した地域トラブルが発生し、地域社会との共生が課題となっています。脱炭素社会に必要な水準の再エネ導入を確保するためには、再エネ事業について適正に環境に配慮し地域における合意形成を促進することが必要です。
このため、地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第54号)により、再エネの利用と地域の脱炭素化の取組を一体的に行うプロジェクトである地域脱炭素化促進事業が円滑に推進されるよう、市町村が再エネ促進区域の設定や、再エネ事業に求める環境保全・地域貢献の取組を自らの地方公共団体実行計画に位置付け、適合する事業計画を認定する仕組みが2022年4月に施行されました。2023年10月1日時点で全国16か所の市町村で促進区域が設定されるとともに、環境保全と地域経済への発展等を考慮した地域脱炭素化促進事業計画の認定も始まるなど、広がりを見せつつあります。
さらに、2023年4月から「地域脱炭素を推進するための地方公共団体実行計画制度等に関する検討会」を開催し、地域脱炭素化促進事業制度の施行状況等を踏まえ、地域共生型再エネの推進(5.(2)地域共生型再エネの導入 参照)を中心に、地域脱炭素施策を加速させる地方公共団体実行計画制度等の在り方について議論を行い、2023年8月にとりまとめを公表しています。
このとりまとめ等も踏まえて、地域共生型再エネの導入促進に向けて、都道府県の関与強化による地域脱炭素化促進事業制度の拡充を含む「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を2024年3月に閣議決定し、第213回国会に提出しました。国は今後も、地方公共団体における再生可能エネルギーの導入計画の策定や、再エネ促進区域の設定等に向けたゾーニング等を行う取組への支援等とともに促進事業に向けた事業者の支援を行い、地域共生型再エネ導入を促進していきます。
ネット・ゼロ実現のためには、国の支援と合わせて、民間金融機関や機関投資家等による積極的なファイナンスが必要です。2022年10月に、脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者等を集中的、重点的に支援するため、財政投融資を活用した株式会社脱炭素化支援機構が設立されました。地域共生・地域貢献型の再エネ事業、食品・廃材等バイオマス利用など様々な脱炭素事業やスタートアップに、株式会社脱炭素化支援機構が資金供給を行うことで、民間資金の「呼び水」につなげることが可能となります。脱炭素に必要な資金の流れを太く、速くし、経済社会の発展や地方創生への貢献、知見の集積や人材育成等、新たな価値の創造に貢献します。2024年3月末までに株式会社脱炭素化支援機構より、15件の支援決定の公表を行っています(図2-3-4)。さらに、株式会社脱炭素化支援機構の出資者である地域の金融機関を核とし、株式会社脱炭素化支援機構と連携した地域コンソーシアム形成等を通じた脱炭素事業の組成を支援する取組を進めます。
地域経済を資金面から支える地域金融機関は、地域の持続可能性が自らの経営に直結する存在でもあり、経済社会構造がネット・ゼロに向かっていく中で、取引先の企業と共に具体的な対応を考えていくことが期待されています。そのため、地域の脱炭素化にとって、地域の主体、とりわけ地域金融機関との連携は極めて重要です。地域金融機関が地域内企業のハブとなって脱炭素社会への移行を推進していくことで、投融資先を皮切りに企業行動を変革していくことが可能となります。実際、これまでに選定された脱炭素先行地域の共同提案者として地域金融機関が加わっている事例が複数あります。
環境省では、「地域におけるESG金融促進事業」において、先進的な地域金融機関による取組を伴走支援することで、地域課題の解決や、地域資源を活用したビジネス構築のモデルづくりを推進しています。また、気候変動対応に関する情報開示の枠組みであるTCFD提言に基づく情報開示に関して、専門的知見の提供等を通じて地域金融機関による課題解決の取組を支援しています。さらに、地域脱炭素に資する設備投資向け貸出の利子や、脱炭素機器のリース導入にかかる総リース料について、それらの一部を環境省が負担する補助金制度を通じて企業の資金調達コスト・投資コストを低減し、地域金融機関による企業の脱炭素化の後押しを図っています。
加えて、企業の脱炭素に向けた取組に関して専門的なアドバイスを行う人材に対するニーズの高まりを踏まえ、人材の育成に資する民間資格制度について認定を行う枠組みを設けています。2023年3月末には温室効果ガスの排出量計測や削減対策支援、情報開示に関する知識やノウハウ等に関して、資格制度が提供すべき学習プログラムの要件をまとめた「脱炭素アドバイザー資格制度認定ガイドライン」を公表しました。本ガイドラインに基づき、2023年10月には「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー ベーシック」の類型について、5社の認定付与を行っています(図2-3-5)。
我が国の企業数の圧倒的多数を占め、従業員数でも全国の7割を占める中小企業の脱炭素化も、地域の脱炭素化を進めていく上で重要です。
2050年ネット・ゼロ社会実現に向けた取組は、自社の温室効果ガス(GHG)排出量削減に留まらず、サプライチェーン全体へと広がっています。この広がりは、中小企業にも及んでおり、サプライチェーン内の中小企業に対するGHG排出量の開示や削減を促す動きが広がっています。先行して脱炭素の視点を織り込んだ企業経営(脱炭素経営)に取り組む中小企業では、優位性の構築、光熱費・燃料費の低減、知名度・認知度向上、社員のモチベーションアップ、好条件での資金調達といったメリットを獲得しています。
環境省では、2020年度から3か年、中小規模事業者に対し、GHG排出量削減目標設定支援モデル事業(計22事業者)の実施及び「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」等の公表を進めてきました。引き続き地域ごとに多様性のある事業者ニーズを踏まえて、[1]地域ぐるみでの支援体制の構築、[2]算定ツールの提供等による見える化支援、[3]削減目標・計画の策定、脱炭素設備投資に取り組んでいきます。
具体的には、普段から中小企業との接点を持っている地域金融機関・商工会議所等の経済団体等と地方公共団体が連携し、地域内の中小企業の脱炭素経営普及を目指す、地域ぐるみでの支援体制構築に向けたモデル事業において、2023年度は全国16件のモデル地域を採択し、各地域特性を活かして支援体制構築に向けた取組を推進しています。また、事業者に対するGHG排出量の算定ツールの提供ならびに算定したGHG排出量を公表するプラットフォームのリリース、削減計画策定支援(モデル事業やガイドブック等)、脱炭素化に向けた設備更新への補助、ESG金融の拡大等による支援を実施していきます。
事例:地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制構築モデル事業
神奈川県川崎市は、脱炭素社会の実現と産業競争力の維持・強化の両立を図る施策の一つとして、中小企業の脱炭素化を推進しており、2023年9月には川崎市、川崎商工会議所、川崎市産業振興財団、金融機関等が連携し、「川崎市脱炭素経営支援コンソーシアム」を創設しました。本コンソーシアムでは、参画団体の人材育成と事業者支援に取り組むこととしており、2023年度に開催した2回の全体会では、中小企業の脱炭素経営を支援する人材の育成やGHG排出量削減計画の策定を支援する事業等の展開について議論しました。
兵庫県尼崎市は、地域資源や人のつながりを活かした環境のまちづくり活動を、尼崎市、尼崎信用金庫、尼崎商工会議所、尼崎経営者協会、(協)尼崎工業会、(公財)尼崎地域産業活性化機構による通称「AG6」という連携体で実施しています。2023年12月、脱炭素経営をテーマとする地域一体型オープンファクトリー「あまがさきエリア モノづくりパビリオン」を開催し、中小企業が実践する具体的な方法を学ぶきっかけとして、2日間で641人が脱炭素経営に取り組む地元企業を訪問しました。脱炭素経営にチャレンジする市内企業の魅力発信と地域産業の活性化を通じて、その輪を広げています。
事例:脱炭素都市づくり大賞
環境省及び国土交通省は、優れた脱炭素型の都市の開発事業を表彰し、都市部における脱炭素型の都市づくりを促進することを目的として、2023年度「脱炭素都市づくり大賞」を創設しました。
環境大臣賞を受賞した「イオンモール豊川」は、延べ床面積10万m2以上の施設として初めてZEB Ready認証を受けており、商業施設の脱炭素のモデルといえる高い省エネ性能を有しています。また、資源循環の観点で、オンサイト型バイオガス発生設備及びコージェネレーション設備を設置し、施設内で出る食品残渣を電力・温水として活用し、廃棄物を大幅に抑制しています。さらに、自宅の再エネで充電したEVから建屋内へ放電を行うことを目的としたV2B設備を導入し、対価としてショッピングに利用できるポイントを付与することにより、EVを媒体とした地域内再エネ融通を促進しており、EV保有者の行動変容に大きく寄与しています。
これらの観点から、総合的に特に優れた取組であるとして高く評価されました。
地球温暖化対策計画の中では、2030年度において、家庭部門は2013年度比で66%、業務部門では2013年度比で51%のエネルギー起源CO2を削減する野心的な目標が設定されています。住宅・建築物は一度建築されるとストックとして長期にわたりCO2排出に影響することから、2050年ネット・ゼロに向けて、今から住宅・建築物の脱炭素化に取り組むことが不可欠です。
新築の住宅及び建築物に関しては、建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(平成27年法律第53号。)を改正し、省エネルギー基準適合義務の対象外である住宅及び小規模建築物の省エネルギー基準への適合を2025年度までに義務化するとともに、2030年度以降新築される住宅及び建築物についてZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ゼブ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指し、整合的な誘導基準の引上げや、省エネルギー基準の段階的な水準の引上げを遅くとも2030年度までに実施することとしています。これらの制度的措置に加え、新築される住宅及び建築物のZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)化に対する補助事業を実施しています。
また、全国に既に存在する住宅の約8割、ビルや学校等の建築物の約6割が現行の省エネルギー基準を満たしていません。これら膨大な数の住宅・建築物ストックの脱炭素化改修への投資は、新たな市場を創出し、経済成長にも資するものです。このため、経済産業省、国土交通省及び環境省では、GX予算も一部活用しつつ、既存の住宅及び建築物の省エネ性能向上のための補助事業を実施しています。特に既存住宅に関しては、経済産業省、国土交通省及び環境省の住宅の省エネリフォームのための補助事業をワンストップで利用可能(併用可)とし、利便性の向上に努めることで、より一層の省エネリフォームの促進を図っています。
事例:リニューアルZEB(ゼブ)
環境省では、脱炭素社会実現に向けて、窓・壁等と一体になった太陽光発電システムの実用化や性能向上、既存建築物の省エネ改修等の技術開発・実証を実施しています。2022年度に採択された大成建設の事業では、カラーガラスを使用した高意匠・高性能な建材一体型太陽光発電システム、業務用マルチエアコンを用いた省エネ制御システム、人検知センサによる空調照明制御システムリニューアル工事用及び再エネ活用マネジメントシステム(EMS)の開発を行っています。また、既存建築物のZEB(ゼブ)化モデルについて、リニューアルZEB(ゼブ)化工事を実施した大成建設横浜支店ビルを活用して実証し、普及拡大を目指します。
内航海運からの二酸化炭素排出量は、運輸部門の5.3%、日本全体の0.98%を占めています。また、国際海運からの二酸化炭素排出量は、世界全体の二酸化炭素排出量のうち1.9%を占めており、造船国である我が国は、国際海運の二酸化炭素排出量の削減への貢献が期待されています。ネット・ゼロの実現には、水素・アンモニア燃料等を使用するゼロエミッション船等の普及促進が必要であることから、エンジン等の生産基盤の構築・増強及びそれらの設備を搭載(艤(ぎ)装)する設備整備のための投資等を支援し、ゼロエミッション船等の供給体制の整備を図ります。
運輸部門は日本全体の二酸化炭素排出量の約2割を占め、そのうちトラック等の商用車の排出量は約4割を占めていることから、商用車の脱炭素移行は不可欠です。GX実現に向けた基本方針では、商用車について、8トン以下の車両は2030年までに新車販売に占める電動車(EV、PHEV、FCV等)の割合を20~30%とする、8トン超の車両は2030年までに電動車を5,000台先行導入するという目標を設定しています。2050年ネット・ゼロに向けて、当面はこの目標の達成を目指して商用車の電動化を進め、運輸部門の二酸化炭素排出量削減に取り組みます。
コラム:公共交通の活用と「持続可能な都市モビリティ計画(Sustainable Urban Mobility Plans(SUMP))」について
鉄道は、輸送量当たりの二酸化炭素の排出量が自家用自動車の約2割程度と他の交通機関より少なく、列車の運転事故に係る死者数は2022年で道路交通事故の死者数の約7.6%(乗客の死亡数はゼロ)と、安全性が高い特長を有しています。
我が国の三大都市圏と地方都市圏の平日における交通手段構成比を比較すると、鉄道利用者の割合は、三大都市圏で14.2%に対し、地方都市圏で3.7%しかありません。地方都市圏においては、人口減少とモータリゼーションの進展(都市のスプロール化に伴い日常生活において自動車の利用が前提となる地域に住む人が増加したことも一つの原因と考えられます。)によって、地域公共交通の利用者が減少することにより、交通事業者の経営状況が圧迫され、路線を廃止せざるを得ないなど、維持が困難な状況にあります。その結果、さらに自家用車依存を高め、高齢者が自ら自家用自動車を運転せざるを得ないなど、地方における生活の質の低下をもたらし、過疎化を進行させるなどの悪循環を招く可能性があります。
一方、欧州委員会においては、交通及びモビリティに関する持続可能で統合的な計画である「持続可能な都市モビリティ計画(SUMP)」の策定を推奨し、そのガイドラインを公表しています。本計画では、地球温暖化問題や社会的公平性を考慮しながら、「どのような都市にしたいのか」というビジョンを定め、そこからバックキャストする形で施策を講じることで、アクセシビリティと人々の生活の質(QOL)を向上させることを目指しています。その際には、公共交通と自転車、徒歩の交通手段分担率を高めることが一つの主要な目標となります。各地域の実情に合わせて、目標達成のための具体的な施策が、例えば以下のように計画されます。
・公共交通、徒歩、自転車、シェアモビリティを統合することによる移動の利便性向上
・徒歩、自転車の移動の推奨による利用者の健康等の改善
・バスやタクシーの電動化による大気環境の改善、温室効果ガス排出削減
・公共交通の利用料の無料化・低廉化による利用促進
・交通手段の統合、土地利用計画や他のセクターの各種計画(環境、健康、経済対策)との統合
2050年ネット・ゼロや2030年度温室効果ガス削減目標の達成に向けては、公共部門の率先した取組が重要です。特に太陽光発電については、2021年10月に改定した「政府実行計画」において、2030年度までに設置可能な政府保有の建築物の約50%以上に設置することを目指しており、各府省庁において導入に向けた取組を進めています。地球温暖化対策計画において、地方公共団体についても、地球温暖化対策推進法に基づく「地方公共団体実行計画」を策定し、政府実行計画に準じた取組を進めることとされており、こうした取組を促進するために、レジリエンス強化型のZEBの普及促進に向けた支援や公共施設への太陽光発電設備・蓄電池等の導入支援等を行っています。また、自治体職員向けに、初期費用及びメンテナンスが不要であり、設備設計も民間提案とすることが可能である「第三者所有モデル」による導入についての手引きや事例集、公募要領のひな型等を公表しています。
公共部門の太陽光発電導入等に関する必要な検討や取組の円滑な実施を図るため、「公共部門等の脱炭素化に関する関係府省庁連絡会議」を2023年9月に設置し、各府省庁が連携して取組を進めることとしています。
また、次世代型太陽電池(ペロブスカイト)については、需要創出の観点も含め、公共施設における導入に向けた取組を進めます。
再生可能エネルギーの最大限導入に当たっては、環境に適正に配慮し、地域に貢献する、地域共生型の再エネ事業を進めることが重要です。そのため、脱炭素と地方創生の同時実現を目指す脱炭素先行地域、地域共生・地域裨(ひ)益型再エネの立地等の重点対策を始めとした地域主導の脱炭素の取組を、財政・人材・情報等の面から支援します。また、地域脱炭素化促進事業制度も活用しながら、再生可能エネルギー促進に向けたゾーニングを推進し、地域企業の脱炭素化支援を含めて地域共生型再エネの利活用を促進します(「3.地域の脱炭素移行」参照)。さらに、環境影響評価法に基づく環境影響評価制度により、地域の声を踏まえた適正な環境配慮が確保されるよう取り組んでまいります。
初期費用ゼロでの自家消費型の太陽光発電設備・蓄電池の導入支援等を通じて、太陽光発電設備・蓄電池の価格低減を促進しながら、ストレージパリティ(太陽光発電設備の導入に際して、蓄電池を導入しないよりも蓄電池を導入したほうが経済的メリットがある状態)の達成を目指します。また、窓・壁や営農地等これまで活用が進まなかった場所に対して太陽光発電等の新たな設置手法の活用を促進していきます。
遠浅の海域の少ない我が国では、水深の深い海域に適した浮体式洋上風力の導入拡大が重要です。長崎県五島市の実証事業において風水害にも耐え得る浮体式洋上風力が実用化されたことを活かし、確立した係留技術・施工方法等を基に普及啓発を進めています。浮体式洋上風力の導入に当たっては、環境保全・社会受容性の確保や、維持管理や使用後の破棄など多様な観点からの検討が不可欠です。今後も、脱炭素化と共に自立的なビジネス形成が効果的に推進されるよう、エネルギーの地産地消を目指す地域における浮体式洋上風力発電の導入計画策定の支援や漁業関係者等の理解醸成に資する海洋生態系観測システムの実証に取り組みます。
再生可能エネルギーの最大限の導入に向けて、地域における合意形成を図り環境への適正な配慮を確保することが重要であり、環境影響評価制度の重要性はますます高まっています。再生可能エネルギーの中でも今後の導入拡大が期待される風力発電のうち、とりわけ洋上風力発電については、再生可能エネルギーの主力電源化の切り札として推進していくことが期待され、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。以下「再エネ海域利用法」という。)により洋上風力発電の導入促進が図られています。他方、再エネ海域利用法と環境影響評価法(平成9年法律第81号)の両方の法律が並行して適用されることにより、複数の課題が指摘されています。
こうした状況を踏まえ、2023年9月、環境大臣から中央環境審議会に対し、風力発電に係る環境影響評価の在り方について諮問がなされ、当該諮問に対する一次答申として、まずは、再エネ海域利用法に基づき実施される洋上風力発電(排他的経済水域で実施されるものも含む。)に係る適正な環境配慮を確保するための新たな制度の在り方として、両法律が適切に接続できる仕組みが示されました。
具体的には、
・環境大臣が実施する調査の結果に基づき事業実施区域が選定されることによって、より適正な環境配慮の確保が可能になること
・事業者が実施する環境影響評価手続については、一部の手続を適用除外とした上で、環境大臣の調査結果等を考慮し、残りの手続を実施すること
などが示されました。
この結論を踏まえ、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を2024年3月に閣議決定し、第213回国会に提出しました。
また、陸上風力発電についても、2022年度に取りまとめた新制度の大きな枠組みを基礎とし、適正な環境配慮を確保しつつ、地域共生型の事業を推進する観点から、地域の環境特性を踏まえた効率的・効果的な環境影響評価が可能となるよう、環境影響の程度に応じて必要な環境影響評価手続を振り分けることなどを可能とする新たな制度の検討を進めてまいります。
コラム:洋上風力発電による鳥類への影響をモニタリングするための新たな技術開発
環境省では、レーダー等を用いて鳥類の飛翔軌跡をモニタリングする技術の実証事業を、千葉県いすみ市で実施しています。陸域において風力発電による鳥類への影響を評価する場合は、目視による定点観察等により、生息状況や生息範囲の把握が可能であり、鳥類の衝突(バードストライク)のリスクを評価するための情報を取得することが可能です。一方、海域の場合には、調査範囲が広いため、船舶や航空機による調査が一般的ですが、これらの調査手法は調査頻度や調査範囲に限界があるため、バードストライクのリスクを評価するための情報の取得が課題となっています。今回用いるレーダーは、昼夜を問わずに通年で広範囲の鳥類を同時に追尾することができるため、観測が難しかった洋上での鳥類の飛行軌跡、飛行状況を把握する手法として期待されています。
地熱発電は、発電量が天候等に左右されないベースロード電源となり得る再生可能エネルギーであり、我が国は世界第3位の地熱資源量を有すると言われていることなどから、積極的な導入拡大が期待されています。しかし、地下資源の開発はリスクやコストが高いこと、地熱資源が火山地帯に偏在しており適地が限定的であること、自然環境や温泉資源等への影響懸念等の課題もあります。このような状況を踏まえて、守るべき自然は守りつつ、地域での合意形成を図りながら、自然環境と調和した地域共生型の地熱利活用を促進する観点から、2021年4月に「地熱開発加速化プラン」を発表し、9月に自然公園法及び温泉法の運用見直しを行いました。引き続き同プランに基づき、地球温暖化対策推進法に基づく促進区域の設定の促進、温泉モニタリング等の科学的データの収集・調査を行うことによって、地域調整を円滑化し、全国の地熱発電施設数の2030年までの倍増と最大2年程度のリードタイムの短縮を目指しています。
太陽光パネル等の廃棄・リサイクルについては、経済産業省及び環境省は、2023年4月に、「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会」を立ち上げて、太陽光発電設備や風力発電設備等の再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに関する対応の強化に向けた具体的な方策について検討を行い、2024年1月には、「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会中間取りまとめ」を公表しました。これを踏まえ、使用済太陽光発電設備のリサイクル等を促進するための新たな仕組みの構築に向けて、引き続き検討を進めていきます。
2020年1月に策定された「革新的環境イノベーション戦略」を受け、環境・エネルギー分野の研究開発を進める司令塔として、2020年7月から「グリーンイノベーション戦略推進会議」が開催され、関係省庁横断の体制の下、戦略に基づく取組のフォローアップを行ってきました。
また、第203回国会での2050年カーボンニュートラル宣言を受け、2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下「グリーン成長戦略」という。)が報告され、2021年6月には、更なる具体化が行われました。
グリーン成長戦略においては、技術開発から実証・社会実装までを支援するための2兆円のグリーンイノベーション基金やネット・ゼロに向けた投資促進税制等の措置のほか、重要分野における実行計画が盛り込まれています。
具体的には、洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)、水素・燃料アンモニア産業等のエネルギー関連産業に加え、自動車・蓄電池産業、半導体・情報通信産業等の輸送・製造関連産業の他に、資源循環関連産業やライフスタイル関連産業等の家庭・オフィス関連産業に係る現状と課題、今後の取組方針等が位置付けられました。
また、環境省において、高品質GaN(窒化ガリウム)基板の製造からGaNパワーデバイスを活用した超省エネ製品の商用化に向けた要素技術の開発及び実証、低コスト化を達成するための技術開発等、先端技術の早期実装・社会実装に向けた取組を推進しているほか、次世代エネルギーの社会実装に向け、地域資源を活用して製造した水素を地域で使う地産地消型のサプライチェーンを構築する実証を実施しています。
また、環境省、国立環境研究所、JAXAの共同ミッションとして実施している温室効果ガス観測技術衛星GOSATは、2009年の打上げ以降、二酸化炭素やメタンの濃度を全球にわたり継続的に観測してきました。2018年には、観測精度向上のための機能を強化した後継機GOSAT-2が打ち上げられ、現在、これらのミッションを発展的に継承したGOSAT-GWの開発を進めています。GOSATシリーズから得られるデータを利用して、大規模排出源の特定やパリ協定に基づく各国の排出量報告の透明性の確保を推進し、脱炭素社会への移行を目指しています。
また、資源循環関連産業に係る取組として、バイオプラスチックの利用拡大に向け、2021年1月に「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、バイオプラスチックの現状と課題を整理するとともに、ライフサイクル全体における環境・社会的側面の持続可能性、リサイクルを始めとするプラスチック資源循環システムとの調和等を考慮した導入の方向性を示しました。バイオプラスチックの導入促進に向け、技術開発・実証や設備導入の支援を実施し、社会実装を推進しています。
また、二酸化炭素の貯留事業に関する法整備を進めるとともに、CCUS/カーボンリサイクルの早期社会実装に向け、CO2の分離・回収から輸送、貯留までの一貫した技術の確立や、廃棄物処理施設から出る排ガスのCO2を利用して化学原料を生成する実証事業等に取り組みます。
また、持続可能な社会の実現に向けては、自然再興・炭素中立・循環経済の各分野及びこれらの統合的推進のための様々な技術的課題等を解決するイノベーションの創出と社会実装を行うスタートアップ(以下「環境スタートアップ」という。)に対する支援が重要です。環境省では、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成20年法律第63号)に基づくSBIR(Small/Startup Business Innovation Research)制度等を踏まえ、環境スタートアップの成長ステージに応じた、研究開発・事業化支援、表彰、信用付与や株式会社脱炭素化支援機構による投融資等のシームレスな環境スタートアップ事業支援を行っています。
コラム:モンゴルにおけるGOSATを活用したCO2排出量の推計
モンゴル政府は、我が国の支援によりGOSATの観測データを活用して推計したCO2排出量と、モンゴル政府が2023年11月に国連に提出した第二回隔年更新報告書(BUR2)における報告値とが、高い精度で一致することを確認しました。この結果は、同国が国連気候変動枠組条約へ提出する排出量報告書へ世界で初めて掲載されることとなりました。環境省は、他の途上国における本推計手法の活用を支援することで、排出量報告の透明性の向上に一層貢献するとともに、この排出量推計技術の国際標準化を目指します。
電力部門におけるCO2排出係数が大きくなることは、産業部門や業務その他部門、家庭部門における省エネの取組(電力消費量の削減)による削減効果に大きく影響を与えます。このため、電力部門の取組は、脱炭素化に向けて非常に重要です。
2050年ネット・ゼロ実現に向けて、火力発電から大気中に排出されるCO2を実質ゼロにしていくことが必要です。特に、石炭火力発電は安定供給性と経済性に優れていますが、CO2排出係数は最新鋭のものでも天然ガス火力発電の約2倍となっています。一方で、火力発電は、東日本大震災以降の電力の安定供給や電力レジリエンスを支えてきた重要な供給力であるとともに、現時点の技術を前提とすれば、再生可能エネルギーを最大限導入する中で、再生可能エネルギーの変動性を補う調整力としての機能も期待されることを踏まえ、安定供給を確保しつつ、その機能をいかにして脱炭素電源に置き換えていくかが鍵となります。
このため、2030年度の温室効果ガス削減目標の達成に向けては、安定供給の確保を大前提に、石炭火力発電の発電比率を可能な限り引き下げることが重要です。G7による、国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウト加速の合意を受け、COP28では、我が国のネット・ゼロへの道筋に沿って、エネルギーの安定供給を確保しつつ、排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していく旨を表明しました。また、COP28においてはエネルギーシステムにおける化石燃料からの移行も決定されました。
電力部門の脱炭素化に向けた取組として、具体的には、非効率な石炭火力発電について、省エネ法の規制強化により最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標として新たに設定するとともに、バイオマス等について、発電効率の算定時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進につなげていくほか、容量市場においては、2025年度オークションから、一定の稼働率を超える非効率な石炭火力発電に対して、容量市場からの受取額を減額する措置を導入するなど、規制と誘導の両面から措置を講じることにより非効率の石炭火力発電のフェードアウトを着実に推進していきます。また、発電事業者はフェードアウト計画を毎年度作成し経済産業大臣に届出するとともに、経済産業省は全事業者を統合した形で2030年に向けたフェードアウトの絵姿を公表することとしています。
さらに、2050年ネット・ゼロに向けては、グリーンイノベーション基金等も活用して、水素・アンモニアの混焼・専焼化やCO2回収・有効利用・貯留(CCUS/カーボンリサイクル)の技術開発・実装を加速化し、脱炭素型の火力発電に置き換える取組を推進していくこととしています。
なかでも、我が国では、2023年3月に取りまとめられた「CCS長期ロードマップ」において、2030年までに事業開始に向けた事業環境を整備し、2030年以降に本格的にCCS事業を展開することを目標としています。環境省では商用規模の火力発電所におけるCO2分離回収設備の建設・実証により、CO2を分離回収する場合のコストや課題の整理、環境影響の評価等を行うとともに、経済産業省と連携し、CCS導入に必要なCO2の貯留可能な地点の選定のため、大きな貯留ポテンシャルを有すると期待される地点を対象に、地質調査や貯留層総合評価等を実施しています。さらに、化石燃料等の燃焼に伴う排ガス中のCO2を原料とした化学物質を社会で活用するモデル構築等を通じ、CCUS/カーボンリサイクルの早期社会実装のため、商用化規模の早期の技術確立を目指し、普及に向けた取組を加速化していきます。
持続可能な社会の実現に向けて産業・社会構造の転換を促すには、巨額の資金が必要であり、民間資金の導入が不可欠です。また、持続可能な社会の構築は、金融資本市場や金融主体自身にとっても便益をもたらすものであり、ESG金融(環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった非財務情報を考慮する投融資)に係る取組が自らの保有する投融資ポートフォリオ全体のリスク・リターンの改善につながる効果があるとも期待されます。さらに、ESG要素を投融資の判断に組み込むことは、ESGに係る投融資先のリスクの低減や、新しい投資機会の発見にもつながります。こうした背景から、脱炭素社会への移行や持続可能な経済社会づくりに向けたESG金融を始めとしたサステナブルファイナンスの推進は、SDGsを達成し持続可能な社会を構築する上で鍵となり、世界各国でも政策的に推進され、欧米から先行して普及・拡大してきました。このような持続可能な社会を実現するための資金の流れは、我が国においても近年急速に拡大しています。
環境省では、金融・投資分野の各業界トップと国が連携して、ESG金融に関する意識と取組を高めていくための議論を行い、行動する場として2019年2月より「ESG金融ハイレベル・パネル」を開催しています。2024年3月に開催された第7回では、我が国のESG金融の進展状況及びESG金融の深化に向けた展望をテーマに議論が行われました。前半では、グリーン関係の投融資の動向や金融市場をめぐる気候変動対応の現状について、各種調査結果等を基にしたファクトや金融機関における具体的な取組事例の紹介等を踏まえ、金融機関の取組の更なる普及・進展やレベルの引き上げを図る上での課題等について議論が交わされました。また、後半では、グリーン関係の投融資のアウトカム評価や投融資先へのエンゲージメントに関する先進的な取組、グローバルなイニシアチブによる関連取組等を踏まえ、こうした取組を幅広い業態で推進していく上での課題や気づき等、ESG金融の深化に向けた展望について議論が交わされました。
さらに、再生可能エネルギー、グリーンビルディング、資源循環、生物多様性・自然資本等、グリーンプロジェクトに対する投資を資金使途としたグリーンボンドについて、環境省では2017年より国際資本市場協会(ICMA)が作成している国際原則に基づき国内向けのガイドラインの策定等により国内への普及に向けた取組を進めています。また、世界の市場では、特に気候変動分野を中心に、いわゆる「グリーンウォッシュ」への対応など品質確保の観点が課題となっており、EUにおけるタクソノミー規制の策定を始めとして、各国による政策的な対応も進んでいます。このような国内外の動静や国際原則の改定を踏まえ、我が国のサステナブルファイナンス市場を更に健全かつ適切に拡大していく観点から、環境省では「グリーンファイナンスに関する検討会」を設置し、2022年7月に「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」、「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」を策定しました。これらのガイドラインにおいては、今後大きな拡大が期待されるサステナビリティ・リンク・ボンドのガイドラインを新規策定したほか、グリーン性の判断基準の明確化や、資金調達者による市場・投資家向け説明の強化等を行い、利便性向上とグリーンウォッシュ防止の双方に対応しています。加えて、2023年8月には、「グリーンファイナンスに関する検討会」の下に「グリーンリストに関するワーキンググループ」を設置し、グリーンな資金使途等を例示したガイドラインの付属書1別表について、内容の拡充に係る検討を進めています。また、炭素中立型の経済社会実現のためには巨額の投資が必要とされており、我が国においては、クリーンエネルギー戦略中間整理において、今後10年間に官民で150兆円超の投資が必要と試算されています。企業の気候変動対策投資とそれへの資金供給を更に強化するためには、[1]企業や金融機関がグリーン、トランジション、イノベーションへの投資を行う際の環境整備を図ること、[2]金融資本市場等において、排出量の多寡のみならず、GXへの挑戦・実践を行う企業への新たな評価軸を構築することや、[3]マクロでの気候変動分野への資金誘導策を検討することが必要です。金融庁、経済産業省、環境省では、2022年8月に「産業のGXに向けた資金供給の在り方に関する研究会(GXファイナンス研究会)」を設置し、GX分野における民間資金を引き出していくための第一歩として、同年12月に施策パッケージを取りまとめました。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、各国の財務省、金融監督当局、中央銀行からなる金融安定理事会(FSB)の下に設置された作業部会です。投資家等に適切な投資判断を促すため、気候関連財務情報の開示を企業等に求めることを目的としています。2017年6月に、自主的な情報開示のあり方に関する提言(TCFD報告書)を公表し、2023年9月末時点で、世界で4,831の機関(金融機関、企業、政府等)、うち我が国では世界第1位の1,454の機関がTCFDへの賛同を表明しています(図2-3-6)。環境省、金融庁及び経済産業省も、報告書を踏まえた企業の取組をサポートしていく姿勢を明らかにするため、TCFDへの賛同を表明しています。
パリ協定の採択を契機に、協定に整合した科学的根拠に基づく中長期の温室効果ガス削減目標(SBT)を企業が設定し、それを認定するという国際的なイニシアティブが大きな注目を集めています。2024年3月末時点で、認定を受けた企業は世界で5,100社、我が国でも既に1,001社が認定を受けています(図2-3-7)。
サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出は、燃料の燃焼や工業プロセス等による事業者自らの直接排出(Scope1)、他者から購入した電気・熱の使用に伴う間接排出(Scope2)、事業の活動に関連する他社の排出等その他の間接排出(Scope3)で構成されます。取引先がサプライチェーン排出量の目標を設定すると、自社も取引先から排出量の開示・削減が求められます。SBT認定を取得している日本企業の中でも、主要サプライヤーにSBTと整合した削減目標を設定させるなど、サプライヤーに排出量削減を求める企業が増加しており、大企業だけでなく、サプライチェーン全体での脱炭素化の動きが加速しています。また、金融庁では、まずは東京証券取引所プライム上場企業ないしはその一部を対象に、温室効果ガス排出量(Scope3を含む)について、国際基準と同等の国内基準に基づいた開示を義務付ける方向で、有識者会議を設置し、検討を行っています。
環境省は、SBT目標等の設定支援やその達成に向けた削減行動計画の策定支援、さらには、脱炭素経営に取り組む企業のネットワークの運営等を行いました。
RE100とは、企業が自らの事業活動における使用電力を100%再生可能エネルギー電力で賄うことを目指す国際的なイニシアティブであり、各国の企業が参加しています。
2024年3月末時点で、RE100への参加企業数は世界で426社、うち我が国の企業は87社にのぼります(図2-3-8)。日本企業では、建設業、小売業、金融業、不動産業など様々な業界の企業において、再生可能エネルギー100%に向けた取組が進んでいます。RE100に参加することにより、脱炭素化に取り組んでいることを対外的にアピールできるだけではなく、RE100参加企業同士の情報交換や新たな企業とのビジネスチャンスにもつながります。
なお、中小企業・自治体等向けの我が国独自の枠組みである「再エネ100宣言RE Action」は、2024年3月末時点での参加団体数は360にのぼります。各団体は遅くとも2050年までの再生可能エネルギー100%化達成を目指しています。
環境省では、2018年6月に、公的機関としては世界で初めてのアンバサダーとしてRE100に参画し、環境省自らも使用する電力を2030年までに100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す取組を実施しています。
カーボンフットプリントとは、製品・サービスのライフサイクル(原材料調達、生産、流通・販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクル)における温室効果ガス排出量を算定し、表示するものです。
温室効果ガス排出量を「見える化」することにより、企業は、自社のサプライチェーンにおける排出量削減に向けた施策検討及び製品のブランディングに活用することができ、さらに消費者に対して、脱炭素の実現に貢献する製品やサービスを選択するために必要な情報を提供することができます。
環境省では、カーボンフットプリントの普及に向けて、経済産業省と共に算定の方針をガイドラインとして示すとともに、算定・表示・削減に取り組む企業を支援するモデル事業を実施しています。
事例:モデル事業等を通じたカーボンフットプリントの算定・表示
環境省では、国民が脱炭素に貢献する製品・サービスを選択できる社会の実現に向けて、カーボンフットプリントの算定・表示を通じ、排出削減の取組とビジネス成長を両立させる先進的なロールモデルとなる企業の創出を目指すモデル事業を2022年度より実施しています。モデル事業では、カーボンフットプリント算定における基礎的な要件1を満たしつつ、他の製品・サービスとの比較を目的としない、自社ルールによる算定に取り組んでいただきました。モデル事業を通じて得られた知見を踏まえ、「CFP実践ガイド」において、カーボンフットプリントについての具体的な取組方法を整理しています。
1:ISO 14067:2018等の国際的な基準を参照。
我が国は、途上国等に対して優れた脱炭素技術やインフラ等を導入することにより排出削減に貢献する「二国間クレジット制度(JCM)」を展開しています。2023年度には、JCMパートナー国として新たに4か国が加わり29か国まで拡大するとともに、これまで250件以上の再エネや省エネの技術導入等の脱炭素プロジェクトを実施してきています。2021年10月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」においては、JCMについて、「官民連携で2030年度までの累積で、1億トン-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量の確保」を目標として掲げています。2023年12月に東京で開催されたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合において採択された共同声明には、JCMを含むクレジット制度の推進及び実施の重要性が盛り込まれました(写真2-3-4)。また、我が国のNDCに活用するJCMクレジットの発行手続き等を円滑かつ確実に実施するための体制強化等に向け、「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を2024年3月に閣議決定し、第213回国会に提出しました。引き続きJCMの拡大を進めることで、世界の脱炭素化に貢献するとともに、脱炭素市場の創出を通じ日本企業が関与する優れた脱炭素技術の海外展開を促進していきます。
また、パリ協定第6条に沿ったJCMを含む市場メカニズム、いわゆる「質の高い炭素市場」の構築のため、COP27において我が国が主導して立ち上げた「パリ協定6条実施パートナーシップ」(2024年3月31日現在、76か国、125機関が参加)においては、COP28にて、各国の実施体制の構築等に向けた「6条実施支援パッケージ」を公表しました(写真2-3-5)。これにより、世界各国でJCMを含む市場メカニズムの活用の機会が広がり、脱炭素市場がますます拡大していくことが期待されています。今後も国際的な連携を更に強化しながら、各国の6条実施に対する支援を拡大していきます。
また、官民連携の枠組みとして、2020年9月に設立した環境インフラ海外展開プラットフォーム(JPRSI)を活用し、環境インフラの海外展開に積極的に取り組む民間企業の活動を後押ししていきます。具体的な活動として、現地情報へのアクセス支援、日本企業が有する環境技術等の海外発信、タスクフォース・相談窓口の運営等を通じた個別案件形成・受注獲得支援を行っています。
さらに、2021年度から、再生可能エネルギー由来水素の国際的なサプライチェーン構築を促進するため、再生可能エネルギーが豊富な第三国と協力し、再生可能エネルギー由来水素の製造、島嶼(しょ)国等への輸送・利活用の実証事業を実施しています。また、2023年度には、これまでJCMを通じた事業化の実績のない先進的な技術導入を目的とした実証事業を新たに開始しました。
これらの取組を通じて、世界の脱炭素化、特に、アジアの有志国からなるプラットフォームを構築し、地域の特性を踏まえながら、脱炭素化と経済成長を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体」構想の実現にも貢献し、気温上昇を1.5℃に抑制するために、できるだけ早く、できるだけ大きな削減を実現できるよう支援していきます。