2023年の世界の年平均気温は、観測史上最高となり、世界規模で異常気象が発生し、大規模な自然災害が増加するなど、気候変動問題への対応は今や人類共通の課題となっています。我が国においても、2023年は史上最高の年平均気温を観測したことに加え、農産物の品質の低下、熱中症のリスク増加など、気候変動の影響が全国各地で現れており、気候変動問題は、人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われる状況です。現下の危機を克服し、循環共生型社会、「新たな成長」を実現していくためには、利用可能な最良の科学的知見に基づき、「勝負の2030年」にも対応するためには、取組の十全性(スピードとスケール)の確保を図り、複合する危機に対応し、諸課題をカップリングして解決するための諸政策の統合・シナジー(相乗効果)を推進することが不可欠です。
2023年のG7広島首脳コミュニケ、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケにおいて、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機に対し、ネット・ゼロ(脱炭素)で、循環型で、ネイチャーポジティブな経済システムへ転換する旨、また、課題の相互依存性を認識してシナジーを活用する旨が盛り込まれています。さらに、第6回国連環境総会(UNEA6)においても我が国より提案したシナジー推進決議が採択されました。我が国でも3つの世界的危機を克服するため、相互に関連するこれら問題の相乗効果(シナジー)を拡大し、トレードオフを最小化する取組を我が国が主導して進めることにより、ネット・ゼロで、循環型で、ネイチャーポジティブな経済の実現を目指す必要があります。経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な社会変革は、生物多様性損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるネイチャーポジティブに必要であり、資源循環を促進することで、資源の採掘、運搬、加工から製品の製造、廃棄、リサイクルに至るライフサイクル全体における温室効果ガスの低減につながりネット・ゼロに資するなど、相互の連携が大変有効であるといえます。第2章では、国際的な動向を踏まえ、ネイチャーポジティブ、ネット・ゼロ、循環経済の同時達成に向けたそれぞれの取組を見ていきます。
エネルギー危機、食料危機も相まって、世界は未曾有の複合的な危機に直面しています。国境のない地球規模の環境問題においては、国際社会が誓約した2030年までの目標達成に向け、先進国・途上国の区分を超えて、分断ではなく、共に取り組む「協働」の重要性がかつてなく高まっています。また、経済安全保障の観点からも、厳しい国際情勢を踏まえ、熾(し)烈化する国際競争に対し、環境を軸として十全に対処する必要があります。天然資源の争奪を巡っては、世界全体の持続可能性の向上に向けた取組の強化が喫緊の課題です。
我が国としては、ポストSDGsの議論をにらみつつ、シナジーを最大化しながら、これらを実現するための具体的な好事例を示すなどして国際議論を主導していく必要があります。我が国のこれまでの公害問題への対策や、伝統的な自然共生やものを大切にする価値観は、持続可能な経済社会システムの構築に当たって有用で、地域循環共生圏の創造を始めとした環境課題と社会・経済的課題との同時解決を目指し、誰一人取り残さない、「ウェルビーイング/高い生活の質」の向上とパッケージとなった取組を実施するとともに、G7、G20等を通じてこれを国際的に発信・展開していくことが重要です。
2024年4月のG7トリノ気候・エネルギー・環境大臣会合では、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的な危機に対処するために、必要な取組間のシナジーの推進が重要であることを確認しました。また、削減対策の進捗を確認し、1.5℃に整合した、全経済分野・すべての温室効果ガス(GHG)を対象とした総量削減目標を含むNDCを期限内に提出することを誓約するとともに、主要経済国を含む全ての国に同様のNDCを提出することを要請しました。さらに、昨年のG7広島サミットの成果に盛り込まれた循環経済原則、重要鉱物の国際リサイクル、ネイチャーポジティブ経済、侵略的外来種対策、プラスチック汚染対策等を更に推進することを確認しました。
新興国を含むG20でも、2023年9月のG20ニューデリー・サミットにおいて、環境・気候問題への統合的な対処へのコミットや、パリ協定及びその気温目標の完全かつ効果的な実施の強化等を確認しました。
COP28では、パリ協定下の世界全体の気候変動対策の進捗状況を評価するグローバル・ストックテイクが初めて実施されました。2030年までの野心に係る年次ハイレベル閣僚級ラウンドテーブルや様々な二国間会談等で日本が主張してきた、1.5℃目標達成のための全ての国による緊急的な行動の必要性が強調されたほか、2025年までの世界全体の排出量ピークアウト、全ての温室効果ガスを対象とした排出削減目標策定、世界全体での再エネ3倍・エネルギー効率改善率2倍、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行、持続可能なライフスタイルへの移行等が決定されました(写真2-1-1)。これらの成果を踏まえつつ、2025年までに次期NDCを策定することを予定しています。