環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和6年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第4節 循環経済(サーキュラーエコノミー)

第4節 循環経済(サーキュラーエコノミー)

循環型社会の形成に向けて資源生産性・循環利用率を高める取組を一段と強化するためには、従来の延長線上の取組を強化するのではなく、経済社会システムそのものを循環型に変えていくことが必要です。具体的には、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済・社会様式につながる一方通行型の線形経済から、持続可能な形で資源を効率的・循環的に有効利用する循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行を推進することが鍵となります。

国際的な議論では、循環経済は、資源(再生可能な資源を含む。)や製品の価値を維持、回復又は付加することで、それらを循環的に利用する経済システムであるとされています。この経済システムでは、例えば、環境配慮設計や修理等により製品等の長寿命化、再利用、リサイクル等が促進され、資源が可能な限り効率的かつ循環的に利用され、天然資源利用や廃棄物が減少します。その結果として、資源の採掘、運搬、加工から製品の製造、廃棄、リサイクルに至るライフサイクル全体での環境負荷低減や、世界的な資源需要の増加への対策にもつながります。資源循環を促進することで、ライフサイクル全体での温室効果ガスの低減につながり、ネット・ゼロに資するだけでなく、生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の実現に資するなど、経済・社会・政治・技術の全てにおける横断的な社会変革を実現する上ではネット・ゼロ・循環経済・ネイチャーポジティブ相互の連携が重要となります。

気候変動・生物多様性損失・汚染という主要な環境問題に加え、欧州等での製品への再生材使用の義務化の動き、少子高齢化に伴う地域経済の縮小は、我が国にとって大きな課題です。これに対し、循環経済への移行を進めることで、輸入した鉱物・食料等の資源の循環利用等を通じた資源確保による経済安全保障の強化、循環配慮設計を含む環境配慮設計の推進並びに再生材の質と量の確保及び利用拡大等による企業の国際的な産業競争力の強化や、循環資源等を活用した製品等の製造と廃棄物等の再資源化を通じた地場産業の振興等による地方創生に貢献できます。

そのため、循環経済への移行等に向けて関係者が一丸となって取組を進めるべく、循環型社会の形成に向けた政府全体の施策を取りまとめた国家戦略として第五次循環型社会形成推進基本計画を2024年夏頃に策定する予定です。また、「成長志向型の資源自律経済戦略」(2023年3月経済産業省策定)を踏まえた取組も進めます。

1 第五次循環型社会形成推進基本計画の策定のポイント

(1)資源循環のための事業者間連携によるライフサイクル全体での徹底的な資源循環

製造業・小売業等を担う動脈産業と廃棄物処理・リサイクル業等を担う静脈産業との連携を通じてこれまで培われてきた高い技術力を一層効果的に活用することで市場に新たな価値を生み出す動静脈連携は、我が国の新たな成長の鍵です。

製造業・小売業等の企業と廃棄物処理・リサイクル業等の企業が連携し、求められる品質・量の再生材を確実に供給できるよう、環境配慮設計や再生材利用率の向上、使用済製品等の解体・破砕・選別等のリサイクルの高度化等を推進するとともに、各種リサイクル法に基づく取組を着実に進めることで、循環経済工程表で示した素材・製品ごとの今後の方向性等に基づき、ライフサイクル全体での徹底的な資源循環を推進します。

(2)多種多様な地域の循環システムと地方創生の実現

地方公共団体がコーディネーター役として地域の市民、企業、NPO・NGO等の主体間の連携・協働を促進し、リデュースの意識を高め取組を促進するとともに、各資源に応じた最適な規模で地域の資源を効率的に循環させるシステムを構築してリユース・リサイクル・リペア・メンテナンス・シェアリング・サブスクリプション等を推進します。これにより、地域の循環資源や再生可能資源を活用し、再生材として新たな製品等の原料としたり、肥飼料の原料としたりすることで地域に新たな付加価値や雇用を創出して地域経済を活性化させるとともに、廃棄物として処理する量を減らすことで歳出削減にも貢献します。

また、地域において、リユース品や修理サービス、各地域での資源循環の取組により生産された循環資源や再生可能資源を用いた製品等、環境価値に関する表示等を伴った多様な選択肢の提供を推進することで、消費者がその意識を高め実際の行動に移していけるようライフスタイルの転換を促進し、質の高い暮らしを実現していきます。

(3)適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進

我が国が3Rを含む循環経済・資源効率性の施策や資源循環に関する国際合意、再資源化可能な廃棄物等の適正な輸出入、プラスチック汚染対策に関する議論及び国際的な資源循環に関する議論をリードするとともに、国際機関や民間企業等と連携して国際的なルール形成をリードすることで、国内外一体的な資源循環施策を促進します。また、日ASEANのパートナーシップやG7で合意された重要鉱物等の国内及び国際的な回収・リサイクルの強化等に基づき、国際的な資源循環体制を構築します。さらに、資源循環に関する我が国の優れた制度・人材育成・システム・技術等をパッケージとしてASEANを始めとする途上国等へ海外展開することで、適正な廃棄物管理及び資源循環の強化を図り、環境汚染等の低減に貢献し、世界の資源制約を緩和します。

2 廃棄物・資源循環分野の脱炭素化

(1)静脈産業の脱炭素型資源循環システムの構築

循環経済への移行は、ネット・ゼロのみならず、経済安全保障や地方創生など社会的課題の解決に貢献でき、あらゆる分野で実現する必要があります。また、欧州を中心に世界では、再生材の利用を求める動きが拡大しており、対応が遅れれば成長機会を逸失する可能性が高く、我が国としても、再生材の質と量の確保を通じて資源循環の産業競争力を強化することが重要です。

このような状況を踏まえ、2023年7月から中央環境審議会循環型社会部会静脈産業の脱炭素型資源循環システム構築に係る小委員会において、脱炭素化と資源循環の高度化に向けた取組を一体的に促進するための制度的対応について議論し、2024年2月に中央環境審議会から「脱炭素型資源循環システム構築に向けた具体的な施策のあり方について」が意見具申されました。

この意見具申も踏まえ、脱炭素化と再生材の質と量の確保等の資源循環の取組の一体的な促進を目指し、再資源化の取組の高度化を促進する「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」を2024年3月に閣議決定し、第213回国会に提出しました。同法律案においては、基本方針の策定、廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項の策定、再資源化事業等の高度化に係る認定制度の創設等の措置を講ずる内容としています。

3 プラスチック資源循環の促進

(1)プラスチック資源循環促進法の施行状況について

2022年4月に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和3年法律第60号)」は、プラスチック使用製品の設計から廃棄物処理に至るまでのライフサイクル全般にわたって、3R+Renewableの原則にのっとり、あらゆる主体におけるプラスチック資源循環の取組を促進するための措置を講じています。2024年3月時点までに、市区町村による再商品化計画は14件の認定を行ったほか、製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業計画について3件、及び排出事業者による再資源化事業計画について計3件の認定を行いました。

(2)海洋環境等におけるプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定について

2022年2月から3月にかけて開催された国連環境総会において、海洋環境等におけるプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会(INC:Intergovernmental Negotiating Committee)を立ち上げる決議が採択されました。同決議は2024年末までに作業を完了する野心を持って2022年後半からINCを開始することを求め、2022年5月から6月にかけてセネガルにおいて開催された公開作業部会を経て、2022年11月から12月にかけてウルグアイにおいて第1回政府間交渉委員会が開催され、正式に条約交渉が開始されました。その後、条約の要素等について議論を行った2023年5月から6月のフランスにおける第2回会合、条約の素案(ゼロドラフト)等について議論を行った2023年11月のケニアにおける第3回会合、条文案の改定版を基に交渉等を行った2024年4月のカナダにおける第4回会合が開催されています。第5回会合は2024年11月から12月にかけて韓国において開催される予定です。我が国は2019年のG20大阪サミットにおいて「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提唱し、2023年のG7広島サミットにおいてプラスチック汚染に関する野心への合意を主導するなどプラスチック汚染対策に積極的に取り組んできており、プラスチックの大量消費国・排出国を含む多くの国が参画する実効的かつ進歩的な国際枠組みの構築に向けて、引き続き積極的に議論に貢献していきます。

4 成長志向型の資源自律経済戦略の具体化

「成長志向型の資源自律経済戦略」(2023年3月経済産業省策定)に基づき、[1]規制・ルールの整備、[2]政策支援の拡充、[3]産官学連携の取組強化を進めています。

規制・ルールの整備については、「資源循環経済小委員会」において動静脈連携の加速に向けた制度整備に関する議論を実施しています。今後、循環資源の質と量の確保、循環の可視化による価値創出、製品の効率的利用やCEコマースの促進等についての議論を深め、3R関連法制の拡充・強化についての検討を進めます。

また、政策支援の拡充については、資源循環市場の確立を通じた循環経済の実現に向けて、研究開発から実証・実装までを面的に支援していきます。具体的には、2023年12月に公表した「分野別投資戦略」において、資源循環分野で今後10年で官民合わせて2兆円超の規模の投資の実現を目指すこととし、令和6年度以降の3年間では300億円の支援を実施します。

さらに、産官学連携の取組強化については、2023年9月に立ち上げた「サーキュラーパートナーズ」(サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ。以下、「CPs」という。)」の枠組みを活用し、循環経済に野心的・先駆的に取り組む、国、自治体、大学、企業・業界団体、関係機関・関係団体等の関係主体における市場のライフサイクル全体での有機的な連携を促進し、循環経済の実現に必要となる施策についての検討を実施します。CPsには、2024年3月末時点で400者が参画しています。