環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート3第5章>第3節 水俣条約を受けた国内での取組

第3節 水俣条約を受けた国内での取組

 水俣条約の採択を受け、我が国において同条約を的確かつ円滑に実施するため、産業構造審議会及び中央環境審議会の合同会合等における議論を経て、平成27年6月に水銀による環境の汚染の防止に関する法律(平成27年法律第42号。以下「水銀汚染防止法」という。)及び大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)の一部を改正する法律が成立しました。あわせて、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)施行令の一部改正等を行うことにより、その他の関係法令とあいまって、水銀の輸出入、製品への使用、環境への排出・放出、廃棄等のライフサイクル全体を管理する包括的な対策に向けた仕組みが構築され、国内の担保措置の整備が完了しました。我が国は、水俣病の教訓を踏まえて世界の水銀対策をリードするため、これらの対策において、以下のとおり、水俣条約で求められている水準以上の措置も講じることとしています。

1 水銀の輸出入

 水銀の輸入については、水俣条約の規定どおりの措置を外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号。以下「外為法」という。)により講じることとしています。

 また、我が国から輸出される水銀及び水銀化合物が輸出先で不適切に使用されることにより、健康被害や環境汚染を引き起こさないことを一層確実にするため、外為法に基づき、水俣条約の発効日から、同条約の規制以上の規制を行います。具体的には、同条約で求められている水銀の輸出規制に加え、塩化第一水銀等6種の水銀化合物の輸出を原則禁止し、さらに、周辺環境の汚染や健康被害のおそれのある零細及び小規模金採掘並びに暫定的保管を目的とする水銀及び水銀化合物の輸出を禁止することとしています。あわせて、輸出管理の実効性を確保するため、外為法に基づく事前の輸出審査においては、輸出先における水銀及び水銀化合物の最終用途及び最終需要者等について厳格に確認し、事後的にも、当面の間、輸出者に対して報告を求めることにより、最終用途及び最終需要者等について、輸出承認時の内容と齟齬(そご)がないことを確認することとしています。

2 水銀の製品への使用

 水銀汚染防止法では、水俣条約上認められた用途を除き、一定量以上の水銀を含有する蛍光灯やボタン電池等の製品の製造及びこれらの製品の部品としての使用を原則禁止することとしています。その上で、水銀の使用を可能な限り代替・削減することを目指すため、一部の製品については、我が国での実態等も踏まえ、水俣条約の規定より厳しい水銀含有量基準を設定し、また製造禁止となる時期(廃止期限)も前倒しすることとしています(表5-3-1)。また、外為法では、水俣条約上認められた用途を除き、これらの製造が禁止される製品の輸出入についても、同様の時期から原則禁止することとしています。


表5-3-1 品目別の水銀含有量基準・廃止期限の一例

 また、水銀汚染防止法では、新しい用途の水銀使用製品を製造又は販売を業として行おうとする者には、あらかじめその製品の利用が人の健康の保護又は環境の保全に寄与するかどうか自己評価し、その結果等を届け出る義務を課すこととしています。

 さらに、水俣条約以上の措置として、一般家庭で広く使われている蛍光灯、ボタン電池、水銀体温計等の水銀使用製品が適正に排出・回収されるよう、国や市町村による回収のための措置の実施や、水銀使用製品の製造又は輸入事業者による表示等の分別排出に資する情報提供の責務についても規定しています。このほか、特定の水銀及び水銀化合物の貯蔵者に対して、環境上適正な貯蔵のための国の指針に従う義務及び貯蔵の状況について、定期的に国に報告する義務を課すこととしています。

3 水銀の環境への排出・放出

 平成27年に改正された大気汚染防止法では、水俣条約の規定に基づき規制が必要な施設を「水銀排出施設」とし、設置しようとする際の都道府県知事等への届出を義務付けるとともに、当該施設の水銀濃度の排出基準を設定し、事業者にその遵守義務を課すこととしています。この排出基準については、排出の削減に関する技術水準及び経済性を勘案し、その排出が可能な限り削減されるよう検討を進めています。

 また、水銀排出施設以外の施設であっても、水銀及び水銀化合物の大気中への排出量が相当程度多い施設を「要排出抑制施設」として指定し、その設置者に対し、排出を抑制するために必要な措置等を責務として求めています。

 さらに、水質汚濁防止法では、水銀を始めとする有害物質を含む汚水若しくは廃液を排出する施設又は有害物質を使用・貯蔵する施設を設置しようとする場合には、都道府県知事等への届出を義務付けています。また、同法では、届出対象となっている施設を設置する工場又は事業場からの有害物質の濃度が基準値を超える水の公共用水域への排出や地下への浸透を規制しているほか、有害物質を使用又は貯蔵している施設には構造等の基準の遵守義務を課すことで、有害物質の非意図的な地下への浸透を防止しています。

4 水銀の廃棄

 金属水銀はこれまで有価物として取り扱われており、廃棄物処理法では金属水銀が廃棄物となった場合を想定した特別な処理基準は規定されていませんでしたが、今後は水俣条約の発効等により金属水銀の使用用途が制限されることになるため、中長期的には廃棄物として取り扱う必要が生じることが想定されます。このため、廃棄物処理法において、廃棄物となった水銀及び水銀化合物を「特別管理産業廃棄物」、「特別管理一般廃棄物」と規定し、特に厳しく管理する義務を課すこととしています。その上で、常温で液体であり、揮発するという金属水銀の特性から、収集運搬の際には、密閉できる運搬容器の使用等を義務付けることとしています。さらに今後、水銀及び水銀化合物を処分する際には、硫化水銀という非常に安定した化合物にし、更に固型化した上で処分することを義務付けることとしています。

 なお、家庭や医療機関等で使用されなくなった水銀血圧計及び水銀体温計については、短期間に集中的に回収・処分することが望ましいことから、市町村及び事業者団体等と連携し効率的に回収するため、平成27年度に回収事業の枠組みを提案するガイドライン等を作成して、その内容を紹介するセミナーを全国で開催しました。今後は、使用されなくなった水銀血圧計及び水銀体温計の回収促進事業の全国展開を進めていく予定です。

 また、水銀及び水銀化合物を含有する物のうち、有価金属を資源回収することを前提とした非鉄金属製錬から生じる水銀含有スラッジ等、廃棄物処理法における「廃棄物」の定義に該当せず、再生利用が行われる「水銀含有再生資源」については、水銀汚染防止法により、その管理者に対して、環境上適正な管理のための国の指針に従う義務及び管理の状況について定期的に国に報告する義務を課すこととしています。