環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部パート3第5章>第2節 水銀に関する水俣条約締結までの道のり

第2節 水銀に関する水俣条約締結までの道のり

 前節で見たとおり、世界規模で見ると、今でも水銀の排出は続いています。また、UNEPによれば、大気中の水銀濃度が現状のレベルを維持できたとしても、今後数十年以上にわたって海洋における水銀濃度が増加し続けると予測されています。

 国際的には、UNEPの主導の下で水銀による地球規模の環境汚染と健康被害を防止するための取組を強化することが検討され、2009年(平成21年)に、「水銀によるリスク削減のための法的拘束力のある文書(条約)を2013年(平成25年)までに取りまとめることを目指す」という決議が、第25回UNEP管理理事会において採択されました。本決議を受け、新たな条約の制定に向けた政府間交渉委員会(INC)が2010年(平成22年)6月から開始されました。

 政府間交渉において我が国は、アジア太平洋地域のコーディネーターを務め、地域での議論の活性化や意見を取りまとめるとともに、2011年(平成23年)1月にホスト国として第2回政府間交渉委員会(INC2)を千葉県千葉市で開催するなど、交渉に積極的に貢献しました。また2013年(平成25年)1月にスイス・ジュネーブで開催された第5回政府間交渉委員会(INC5)において、我が国は外交会議及び関連会合を熊本県熊本市及び水俣市で開催することを提案し、これを受けてINC議長から条約名称を「水銀に関する水俣条約」とすることが提案され、全会一致で決定されました。

 2013年(平成25年)10月に熊本市及び水俣市で水俣条約の外交会議及び関連会合が開催され、外交会議には139の国・地域の政府関係者を含む1,000人以上が出席し、水俣条約の採択と92の国・地域(欧州連合(EU)含む)による同条約への署名がなされました(写真5-2-1)。我が国は、「マーキュリー・ミニマム」、「MOYAIイニシアティブ」等を掲げ、水俣条約の早期発効に向けた開発途上国支援及び水俣から世界に向けた情報発信を行っていくことなどを会議の場で表明しました。また、会議の開会に際して水俣市で記念式典が行われ、会議出席者による水俣病資料館の見学、水俣病慰霊の碑への献花や植樹が実施されたほか、市民や水俣病患者との交流の場も設けられました。


写真5-2-1 水俣条約の外交会議の様子

 外交会議で採択された水俣条約は、水銀の人為的な排出及び放出から人の健康及び環境を保護することを目的とし、水銀の採掘、輸出入、使用、環境への排出・放出、廃棄等、そのライフサイクル全般にわたる包括的な管理を求めるものです(図5-2-1)。例えば、乾電池等、水俣条約で指定された製品について、2020年(平成32年)までに製造・輸出入を禁止することや、石炭火力発電所等からの排出の規制等について規定しています。水俣条約は、50か国目の締結後90日目に発効することとされています。


図5-2-1 水俣条約の主な内容

 なお、我が国は、後述する国内の担保措置を整備し、それを受けて平成28年2月2日に水俣条約を締結しました。