野生生物の保全のためには、絶滅のおそれのある種を的確に把握し、一般への理解を広める必要があることから、環境省では、レッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)を作成・公表するとともに、これを基にしたレッドデータブック(レッドリスト掲載種の生息・生育状況等を解説した資料)を刊行しています。
レッドリストについては、平成25年2月までに、第3次見直しが終了し、絶滅のおそれのある種は3,597種となっています。
絶滅のおそれのある野生生物の保全に関するこれまでの施策の実施状況について、有識者による会議を開催し、点検を行いました。また、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種は、哺乳類5種、鳥類38種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類15種、植物26種の90種を指定し、捕獲や譲渡し等を規制するとともに、そのうち、平成24年に新たに策定したライチョウの保護増殖事業計画を含む、49種について保護増殖事業計画を策定し、生息地の整備や個体の繁殖等の保護増殖事業を行っています(図2-3-1)。また、同法に基づき指定している全国9か所の生息地等保護区において、保護区内の国内希少野生動植物種の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)及び二国間渡り鳥条約等により、国際的に協力して種の保存を図るべき698種類を、国際希少野生動植物種として指定しています。
絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターを、平成24年3月末現在、8か所で設置しています。
トキについては、平成24年の繁殖期に前年の2倍以上の18ペアが営巣し、その中の3ペアからヒナ8羽が誕生し、8羽すべてが無事巣立ちました。野生下でヒナが誕生したのは昭和51年以来36年ぶり、巣立ったのは昭和49年以来38年ぶりのことです。放鳥については、平成24年6月に第6回目、9月に第7回目の放鳥を実施しました。平成23年12月25日に行われた日中首脳会談の結果、温家宝首相の「トキについて、日本側への提供に向け積極的に検討したい。」との表明を受けて中国側との調整を行ってきましたが、未だ覚書の署名には至っていません。
絶滅のおそれのある猛禽類については、良好な生息環境の保全のため、イヌワシ、クマタカ、オオタカの保護指針である「猛禽類保護の進め方」(改訂版)を平成24年12月に取りまとめました。さらに、猛禽類の採餌環境の創出のための間伐の実施等、効果的な森林の整備・保全を実施しました。
沖縄本島周辺海域に生息するジュゴンについては、生息状況調査や地域住民への普及啓発を進めるとともに、全般的な保護方策を検討するため、地元関係者等との情報交換等を実施しました。
トキ、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナなど、絶滅の危険性が極めて高く、本来の生息域内における保全施策のみで種を存続させることが難しい種について、飼育下繁殖を実施するなど生息域外保全の取組を進めています。また、ヒメバラモミのクローン苗を植栽し、遺伝資源林2か所を造成するとともに、適切な保全・管理を行っています。さらに、新宿御苑においては、絶滅危惧植物の種子保存を実施し、平成25年4月現在で285種の自生地情報のある種子が保存されています。
平成19年度から体系的な生息域外保全のあり方についての検討を行い、20年度には「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」を、22年度には「絶滅のおそれのある野生動植物種の野生復帰に関する基本的な考え方」を取りまとめました。23年度はそれらを分かりやすく解説したパンフレットとホームページ(http://www.env.go.jp/nature/yasei/ex-situ/(別ウィンドウ))を作成し、普及啓発を行いました。また、平成20年度から生息域外保全からの野生復帰技術の確立などを目的としたモデル事業(動物3事業、植物2事業)を実施し、その成果を取りまとめるとともに、「絶滅のおそれのある野生動植物の生息域外保全実施計画作成マニュアル」を作成し、ホームページに公表しました。
ライチョウの保護増殖事業計画の策定
ライチョウは本州中部の限られた高山帯にのみ生息する鳥ですが、1980年代に3,000羽と推定された生息数は、現在では2,000羽以下に減少していると推定されています。その要因として、キツネ・カラスなどの捕食者の分布拡大、登山者によるごみの放置や不適切なし尿処理等の山岳環境汚染や、最近では従来生息していなかったニホンジカ等の野生動物の分布が拡大し、高山植生が採食されることによる生息環境の劣化等のさまざまな要因が影響を及ぼしていると言われています。
このような状況から、ライチョウの保全を推進するため、平成24年10月に種の保存法に基づく保護増殖事業計画を策定しました。今後は、減少要因の特定や生息地のモニタリング、動物園等での飼育下繁殖技術の確立などに積極的に取り組み、ライチョウの保全を行っていきます。
長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容を記した、「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
狩猟者人口は、約53万人(昭和45年度)から約19万人(平成22年度)まで減少し、高齢化も進んでおり、被害防止のための捕獲などを行う鳥獣保護管理の担い手の育成が求められています。このため、狩猟免許の取得促進へ向けたフォーラムの開催、狩猟者等への研修事業、鳥獣保護管理に係る人材登録事業を実施したほか、地域ぐるみでの捕獲を進めるモデル地域を設定し、先進地づくりを進めました。
クマ類の出没・目撃情報が各地で多数相次いだことから、関係省庁が連携して都道府県に対する情報提供や注意喚起等を実施しました。
都道府県における特定鳥獣保護管理計画作成や保護管理のより効果的な実施のため、特定鳥獣5種(イノシシ、クマ、サル、シカ、カワウ)の保護管理検討会を設置するとともに、技術研修会を開催しました。
関東地域、中部近畿地域におけるカワウ、関東山地のニホンジカについて、広域協議会を開催し、関係者間の情報の共有等を行いました。また、関東カワウ広域協議会においては、一斉追い払い等の事業を実施するとともに、関東山地ニホンジカ広域協議会においては、実施計画(中期・年次)を作成し、関係機関の連携のもと、各種対策を推進しました。
希少鳥獣であるゼニガタアザラシによる漁業被害が深刻化しているため、種の保全に十分配慮しながら総合的な保護管理手法を検討しました。
適切な狩猟が鳥獣の個体数管理に果たす効果等にかんがみ、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言を行いました。
渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーションにおける鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査等を実施しました。また、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅル等の保護対策として、生息環境の保全、整備を実施するとともに、越冬地の分散を図るための事業を実施しました。
鳥獣の生息環境が悪化した鳥獣保護区の生息地の保護及び整備を図るため、浜頓別クッチャロ湖(北海道)、宮島沼(北海道)、谷津(千葉県)、鳥島(東京都)、浜甲子園(兵庫県)、漫湖(沖縄県)、大東諸島(沖縄県)において保全事業を実施しました。
野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として新潟県長岡市において第66回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、小中学校及び高等学校等を対象として野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。
野生鳥獣の生態及び行動特性を踏まえた効果的な追い払い技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備、捕獲獣肉利活用マニュアルの作成等の対策を推進するとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を実施しました。
農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な状況にあることを背景として、その防止のための施策を総合的かつ効果的に推進することにより、農林水産業の発展及び農山漁村地域の振興に寄与することを目的とする鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成19年法律第134号)が成立し、平成20年2月から施行されました。この法律に基づき、市町村における被害防止計画の作成を推進し、鳥獣被害対策の体制整備等を推進しました。
近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、効果的な追い払い手法の実証試験及び被害を受ける刺し網等の改良等を促進しました。
平成16年以降、野鳥及び家きんにおいて、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)が確認されていることから、「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」に基づき、渡り鳥等を対象として、ウイルス保有状況調査を全国で実施し、その結果を公表しました。また、人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査や国指定鳥獣保護区等への渡り鳥の飛来状況についてホームページ等を通じた情報提供を行うなど、効率的かつ効果的に対策を実施しました。さらに、その他の野生鳥獣がかかわる感染症について情報収集、発生時の対応の検討等を行いました。
シカが日本の自然を食べつくす!?
ニホンジカ(以下「シカ」という。)は植物を食べる日本の在来種で、全国で分布を拡大し個体数が増加しています。シカが増えるのは良いことと思うかもしれませんが、全国で生態系や農林業に及ぼす被害が深刻な状況となっています。
樹皮を食べられた木々が枯れ、森林が衰退することで、そこをすみかとする多くの動植物に影響を与える例も見られます。森林をはじめとする植生への影響が深刻な地域は、尾瀬や南アルプスなど日本の生物多様性の屋台骨である国立公園にもおよんでいます。
【シカによる生物多様性への影響の例】
【なぜシカが増えたのか】
国や地方公共団体等ではさまざまな対策を行っていますが、依然として被害の拡大が続いています。
一度失われた自然は簡単には元に戻りません。シカによる深刻な影響を改善していくためには、シカが入れない柵等を作るだけでなく、シカの数を適正にコントロールしていくことが不可欠です。美しく豊かな自然を維持・回復し、多くの生物が住める環境を取り戻すことは喫緊の課題であり、今後、シカの対策は、より一層強化していく必要があります。
【対策の例】
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)に基づき、105種類の特定外来生物(平成25年4月現在)の輸入、飼養等を規制しています。また、奄美大島や沖縄本島北部(やんばる地域)の希少動物を捕食するマングースの防除事業、小笠原諸島内の国有林野におけるアカギ等の外来種の駆除等のほか、アライグマについての防除モデル事業等、具体的な対策を進めました。さらに、外来種の適正な飼育に係る呼びかけ、ホームページ(http://www.env.go.jp/nature/intro/(別ウィンドウ))等での普及啓発を実施しました。
また、外来生物法施行後5年以上が経過したことを受けて、中央環境審議会野生生物部会において施行状況の検討が行われた結果、平成24年12月に中央環境審議会から主務大臣に対して外来生物法の施行状況等を踏まえた今後講ずべき必要な措置についての意見具申がなされました。この内容も踏まえ、外来生物が交雑することにより生じた生物も規制対象とできるようにする等の外来生物法の一部を改正する法律案を第183回国会に提出しました。また、外来種全般に関する中期的な総合戦略である外来種被害防止行動計画(仮称)や、我が国の生態系等に係る被害を及ぼす、又は及ぼすおそれのある外来種のリストである侵略的外来種リスト(仮称)の作成に向けた会議を開催し、検討を進めました。
バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下「カルタヘナ議定書」という。)を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号。以下「カルタヘナ法」という。)に基づき、平成25年4月現在、241件の遺伝子組換え生物の環境中での使用について承認されています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウス(日本版バイオセーフティクリアリングハウス(J-BCH)(別ウィンドウ))を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行ったほか、主要な3つの輸入港周辺の河川敷において遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査等を行いました。
動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)は、第180回通常国会において議員立法により3度目の改正が行われました。改正法には、人と動物の共生する社会の実現や、動物の所有者の責務としての終生飼養が明確にされるとともに、動物取扱業者に対する規制強化、愛護動物を殺傷・遺棄した場合の罰則の強化等、より適正な動物の飼養管理の実現に向けた内容が盛り込まれました。
動物の愛護及び管理に関する法律の適切かつ着実な運用を図るために策定された動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針に基づき、各種施策を総合的に推進しました。これらの施策の進捗については毎年点検を行っており、このうち、平成23年度に飼養放棄等によって都道府県等に引取られた犬猫の数は平成16年度に比べ約47%減少し、返還・譲渡数は約60%増加しました。殺処分数は毎年減少傾向にあり、約17万頭(調査を始めた昭和49年度の約7分の1)まで減少しました(図2-3-2)。また、マイクロチップの登録数は、年々増加しており、平成25年3月末現在累計約74万件ですが、犬猫等の飼養数全体の3.5%程度と推測されています。
こうした収容動物の譲渡及び返還を促進するため、都道府県等の収容・譲渡施設の整備に係る費用の補助を行いました。また、適正な譲渡及び効果的な飼い主教育に関する自治体の取組を推進することを目的に、自治体向けの適正譲渡講習会及び適正飼養講習会を実施したほか、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成20年法律第83号)について普及啓発を行いました。
広く国民が動物の虐待の防止や適正な取扱いなどに関して正しい知識と理解を持つため、関係行政機関、団体との協力の下、"見つめ直して!人と動物との絆"をテーマとして、隅田公園等で動物愛護週間中央行事を開催したほか、106の関係自治体等においてさまざまな行事が実施されました。
医薬品の開発や農作物の品種改良など、生物資源がもつ有用性の価値は拡大する一方、世界的に見れば森林の減少や砂漠化の進行などにより、多様な遺伝資源が減少・消失の危機に瀕しており、貴重な遺伝資源を収集・保存し、次世代に引き継ぐとともに、これを積極的に活用していくことが重要となっています。
農林水産分野では、関係機関が連携して、動植物、微生物、DNA、林木、水産生物などの国内外の遺伝資源の収集、保存などを行っており、植物遺伝資源22万点をはじめ、世界有数のジーンバンクとして利用者への配布・情報提供を行っています。また、海外から研究者を受け入れ、遺伝資源の保護と利用のための研修を行いました。
さらに、国内の遺伝資源利用者が海外の遺伝資源を円滑に取得し利用を促進するために必要な情報の収集・提供や、相手国等との意見調整の支援等を行いました。
ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等の生物遺伝資源のうち、マウス、シロイヌナズナ等の29のリソースについて、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」により、大学・研究機関等において、生物遺伝資源の戦略的・体系的な収集・保存・提供を行いました。また、本事業及び「大学連携バイオバックアッププロジェクト」により、一度途絶えると二度と復元できない貴重な生物遺伝資源について、広域災害等から保護するための体制を整備しました。
独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源保有国との生物多様性条約の精神に則った国際的取組の実施などにより、資源保有国への技術移転、我が国の企業への海外の微生物資源の利用機会の提供などを行いました。
我が国の微生物などに関する中核的な生物遺伝資源機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源センターにおいて、生物遺伝資源の収集、保存などを行うとともに、これらの資源に関する情報(分類、塩基配列、遺伝子機能などに関する情報)を整備し、生物遺伝資源とあわせて提供しました。
第5節(1)イ参照。
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