私たち日本人は、四季の移ろいとともに美しく変化する風景、多種多様な鳥獣や草花、山や海の幸などをもたらす自然とともに生きることで、独特の自然観をはぐくみ、さまざまな知識、技術、豊かな感性を培ってきました。また、豊かな恵みだけでなく、時として地震や台風などの脅威をもたらす自然に対し、畏敬の念や謙虚さを抱き、人間もその一部であるとの認識の下に暮らしてきました。
明治期に入ると、西洋諸国に倣って近代文明を目指し、経済成長、科学技術の発展を重視した道を歩み始め、昭和期には高度経済成長を経て、経済的・物質的な豊かさを手に入れました。
しかし、急激な近代化や経済成長の陰で自然や生活環境は荒廃し、公害の原点と言われる足尾鉱毒事件や、水俣病などの四大公害病が生じました。近年では、地球温暖化や生物多様性の損失などの環境問題も生じています。
さらに、平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、日本観測史上最大の地震と津波により、広範囲で尊い命や生活基盤を奪いました。また、深刻な原子力災害によって環境中に放出された放射性物質による汚染の影響は甚大であり、私たちは、除染や放射性廃棄物の処理などの長期的課題を背負うとともに、これからのエネルギー供給や自然との関係について、改めて考え直す必要に迫られています。
こうした環境やエネルギーの問題のほか、長引く経済の低迷等の問題を抱えるなか、これまでの経済社会のあり方や豊かさ、環境に対する考え方が変わろうとしています。平成24年度に実施した震災後の価値観の変化に関する調査では、震災前より節電や省エネルギーを多少なりとも重視するようになった、と回答した人が、全体の約70%を占めました。また、これまでの日本における大量生産・大量消費型の経済を多少なりとも変えていく必要がある、と回答した人が、全体の80%近くを占めました。
人々の意識の変化からも見られるように、私たちは今、これまでのようなライフスタイルや社会経済の構造を見直し、地球環境に負荷をかけない持続可能で真に豊かな社会を築いていけるような新たな生き方を選択すべき時を迎えているのではないでしょうか。
私たちは、先祖から脈々と受け継がれてきた自然環境を基盤にして現在の社会を築き上げてきました。現代を生きる世代として、未来を生きる子供達に負の遺産を残すことがないよう、環境汚染などの問題をできる限り解決するとともに、経済的な豊かさに加えて、自然環境や生活環境の豊かさをも包含する持続可能で真に豊かな社会を築き上げ、未来の子供達に繋いでいかなければなりません。
私たちは今、当面の最重要課題である東日本大震災からの復旧・復興に国を挙げて取り組んでいます。この取組を進める上では、地域の人たちの安全安心を確保し、地域の人たちとともに未来を見据え、自然と共存した持続可能な地域をともに考えて創っていくという視点が重要です。このような視点から、この白書では、原子力災害の影響を受けた地域で安心して生活できる環境を取り戻すための放射性物質の除染等や、震災により発生した膨大な災害廃棄物の迅速な処理に加えて、三陸復興国立公園の創設や地域の再生可能エネルギー資源の活用など、地域の人たちをはじめとした多様な主体の方々とともに持続可能な社会の再構築を目指したグリーン復興の取組を取り上げました。また、本文に関連する特徴的な事例も多数コラムで取り上げています。
さらに、持続可能で真に豊かな社会を築き上げるために、地球温暖化対策、生物多様性の保全、資源の循環利用などの取組や環境共生型の地域づくりが重要なことはいうまでもありませんが、未来を担う子供達を育てる環境教育も重要です。政府としては、関係省庁間のみならず、地方公共団体や民間事業者、NGO・NPOなど多様な関係者と連携してこれらの取組を推進しています。
これらを踏まえ、平成25年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書では、第1部の第1章において、地域とともに進める東日本大震災からの復旧・復興の取組を記述し、第2章において、持続可能で真に豊かな社会の構築に向けた取組を記述しています。
前ページ | 目次 | 次ページ |